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マイコミ将棋BOOKS 乱戦!相横歩取り |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4〜6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 北島忠雄 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2011年2月 | ISBN:978-4-8399-3741-6 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)親子将棋教室
(2)習慣 (3)上達法 |
【レビュー】 |
相横歩取りの定跡書。 相横歩取りの専門書としては、過去には『横歩取り道場 第二巻 相横歩取り』(所司和晴,MYCOM,2002.09)がある。その後、『将棋定跡最先端 居飛車編』(所司和晴,MYCOM,2005.12)や『最新戦法必勝ガイド』(村山慈明,MYCOM,2006.11)など、いくつかの定跡書の一部に新手がポツポツ書かれた。そして満を持して(?)再び相横歩取り専門書の登場である。 正直言って、「相横歩取りって、そんなに需要があるのかな?」という気がするのだが、やる人はやるんでしょうね。 さて、『横歩取り道場〜』との違いを中心に、チャートを交えながら内容を紹介していこう。 第1章は、先手が横歩を取らない変化について。『羽生の頭脳 9 激戦!横歩取り』(羽生善治,日本将棋連盟,1994.08)では、プロが横歩を取る理由について「どうせ相掛かりにするのなら、最初から▲2六歩と突いた方が作戦的に手広い意味はある。」(p13)と書かれてはいるが、横歩を取らなくても一局の将棋になる。この場合に、後手としてはどういう構想で戦っていくかを解説。基本的には、 (1)▲2六飛と引いた場合は、後手はヒネリ飛車を狙う。 (2)▲2八飛と引いた場合は、後手が横歩を取る。 先手が浮き飛車で戦うためには1手かける必要があり、後手としては不満なし。 この辺を具体的に解説した本は少なかったため、相横歩を指さない横歩取り党の人にも参考になる。 第2章は、相横歩取りのエースともいえる▲7七銀型。「壁銀を立て直す本筋の一手」(p22)とされる。2005年名人戦第5局(▲羽生vs△森内)(※2)の改良案や、2006年王将戦第3局(▲羽生vs△佐藤康)の佐藤新手△3三桂(※2)とその改良案、アマ強豪との共同研究、将棋教室の子どもたちとの共同研究など、新しい変化が盛りだくさんだ。もちろん北浜新手(※2)とその周辺もがっちりフォロー。 △7四飛に▲3六飛の飛交換回避の変化についても、手将棋ながら駒組みの方針をしっかり解説。△4一玉型自体は『羽生の頭脳 9』からあったが、△4一玉型が「中座流の応用」(p140)、「通常の中座流に比べ歩が一歩多いので、手を作るのがかなり楽な感じがする」(p141)というのは、以前はなかった考え方だ。 「プロの公式戦では▲7四同飛から飛角総交換の変化ではなく、▲3六飛のほうが実戦例が多い」(p131)というのはかなり意外だ。アマも自信を持って(?)、飛交換を回避してもいいのではないだろうか。 第3章は▲7七桂型。最近見直されつつある手で、本書でも結構多くのページを割かれている。「好機の▲6五桂が狙え、機動性が高い指し方だが、反面▲8八銀が使いにくいという欠点もある」(p148)というのが特徴だ。▲7七桂型で飛角総交換になった場合、△2七角が効果的でないことは、先後どちらも知っておきたい。 ▲7七桂に△3三金▲8四飛△8二歩が定跡手で、その後の二択▲5八玉も▲6六角も『横歩取り道場 第二巻』に載っているが、さらに奥の新しい変化が解説されている。 第4章は▲7七歩型。知っておくべき変化ではあるが、左辺が壁になるのが嫌われているのか、実戦例は少なく、本章も『横歩取り道場』から追加されている部分は少ない。飛交換を避けた変化で、▲8六飛に△8四歩(従来は△8二歩)が唯一の改良点。 第5章の「その他の横歩取り」は、タイトルだけではどんな内容か分からないが、意外にも「△3八歩戦法」だった。載っている棋書は、わたしが知る限りでは以下の通り。 ・『B級戦法の達人』,週刊将棋編,MYCOM,1997/2002 ─第4章に「横歩取り素抜きトリック」として掲載。 ・『郷田真隆の指して楽しい横歩取り』,郷田真隆,フローラル出版,2002 ─『B級戦法の達人』とほぼ同じ内容。 ・『定跡外伝2』,週刊将棋編,MYCOM,2002 ─p218〜219 ・『仕掛け大全 居飛車編』,所司和晴,MYCOM,2007 ─p216〜219 本章は、それらのどの本よりもずっと詳しく△3八歩戦法を解説している。(※5)特に、『定跡外伝2』の結論である「▲7七桂が先手の対策で、この戦法が通用しなくなった」を覆しているのは大きい。 また、△3八歩に▲同金の変化は、他書では簡単に後手良しとしているのだが、本章ではかなり奥の方まで解説してる。△4五角戦法とかなり似た変化になるが、微妙な違いがあるので比較検討すべし。 以上のように、これまでの相横歩取りの本になかった変化も多数掲載されているので、横歩取りファンにとっては間違いなく「買い」の一手である。 最後に一つだけ。本書の内容については、個人的には申し分ないと思うが、構成が最近の「マイコミ将棋BOOKS」の定跡書とは一部異なっているため、少しだけだが分岐を探しにくくなっている。 ・従来の分岐の書き方は「第○図以下の指し手A」という形式が定番だったが、本書では「第○図以下の指し手」だけになり、マル囲み数字(A、Bなど)がない。 ・よく使われる「再掲第○図」という表記もなくなっているので、図面を探すときにオリジナル図面と再掲図の区別がつかない。 ・「○○の変化は後述する。」とある場合に、何ページから(または第○図から)後述されているかが分からない。 過去のシリーズで、○囲み数字の誤植が多かったからだろうか?だとすれば、今後もこの傾向は続くかもしれない。相横歩取りのような分岐の複雑な戦型では、分岐先や分岐元の探しやすさは重要なので、このようなわずかな省略が結構痛い。見たい変化を探すときに、少しストレスを感じるかもしれない。(2011Mar06) ※2 ^ 棋譜のリンク先は「将棋の棋譜でーたべーす」より。 ※5 ^ ただし、「素抜き」の本線である▲7七歩△7四飛…の変化については、あっさり後手良しとしている。『B級戦法の達人』や『郷田真隆の指して楽しい横歩取り』では、「(△7四飛以下)▲2四飛!△7七角成▲同銀△2四飛▲1五角△2三歩▲2五歩△1四歩▲2四歩△1五歩▲2三歩成△同金▲4五角△4一角…」で難解だったが、その変化はスルーされている。『仕掛け大全 居飛車編』では、この変化がかなり先まで詳しく載っていて、結論が「先手良し」なので、ここをどう見るか? ※なお、本書では『初級者 将棋上達の方程式 手筋の公式[基礎編]』(北島忠雄,日本将棋連盟,2008)で名を馳せた「北島画伯」のイラストはありません。残念。 ※【参考】 〔相横歩取りの単行本での流れ(主なもの、2011年まで)〕 1988-07 横歩取りガイド,週刊将棋編,所司和晴協力,MYCOM 1988-10 続 横歩取りは生きている 上巻,沢田多喜男,将棋天国社 1990-09 横歩取りガイドII,所司和晴,週刊将棋編,MYCOM 1994-09 羽生の頭脳 9 激戦!横歩取り,羽生善治,日本将棋連盟 1994-10 北浜新手 1999-04 これが最前線だ!最新定跡完全ガイド,深浦康市,河出書房新社 2002-07 定跡外伝2,週刊将棋編,MYCOM 2002-08 郷田真隆の指して楽しい横歩取り,郷田真隆,日本棋道協会編,フローラル出版 2002-09 横歩取り道場 第ニ巻 相横歩取り,所司和晴,MYCOM 2005-12 将棋定跡最先端 居飛車編,所司和晴,MYCOM 2006-11 最新戦法必勝ガイド これが若手プロの常識だ,村山慈明,MYCOM 2011-02 乱戦!相横歩取り,北島忠雄,MYCOM(本書) |