相矢倉▲3七銀戦法の定跡書。
矢倉の▲3七銀戦法は、数ある矢倉の戦型の中でも主流のど真ん中、いわゆる本格派である。最近はいろいろな戦型が出てきたり、角換わり腰掛け銀で後手苦戦のために2手目△8四歩が減少したりで、矢倉の出現率は以前よりも低くはなっているが、それでも将棋の主要戦法であることは間違いない。
本書は、相矢倉▲3七銀戦法について、加藤流と宮田新手▲6五歩の周辺、そして見直された△8五歩型vs▲4六銀+居飛穴の攻防について書かれた本である。
「最新の矢倉3七銀戦法」というタイトルどおり、ここ2〜3年の矢倉の主流変化を中心に解説。また、最新変化だけでなく、24手組の基本的な知識や、▲4六銀と上がれるかどうかの攻防についても触れられている。徹底的に網羅しているという感じではなく、「現時点での主要変化・重要変化を、なるべくシンプルに、三段前後の人に分かりやすく解説する」というのを心がけて書かれたように感じた。
本書は、プロの最前線シリーズの既刊2冊と違って、比較的「分岐型」になっているので、定跡編の第1章〜第4章についてはチャートを作成してみた。なお、矢倉▲3七銀戦法の本は、最近では森内本2冊が秀逸(※1)なので、まず森内本に載っていた変化は黒字にした。また、他にも▲3七銀戦法が詳解されている本はたくさんあるが(※2)、このうち「矢倉道場」の3冊と「羽生の頭脳」の2冊に載っている変化も黒字にした。下に比較した順に記しておく。
残った青字が、本書で新しく解説されている(と思われる)変化である。
また、第5章は実戦編で、屋敷の実戦から21局を解説。これまでのシリーズと同様、1局につき2pでまとめられていて、定跡編の何ページに該当するかも書かれている。巻末に総譜が簡単に解説付きで収録されているので、棋譜を先に並べておくと理解しやすい。
「後手を持って指した経験がある。」(p156)とあるように、屋敷は矢倉の後手番も指すが、本書の実戦編ではすべて屋敷が先手となっている。なお、21局中18局が勝局、残りの3局が敗戦譜。
個人的には、後手が△3七銀や△3五桂でもたれようとする変化に注目していたし、大いに参考になった。
最近の矢倉本には良質なものがいくつか出ているが、かなり難易度が高いものも多かった。本書は比較的スッキリとまとまっているので、「『矢倉の急所
【4六銀・3七桂型】』は、内容は濃ゆかったけど難しすぎた!」という人にはオススメ。もちろん、新しい変化をキャッチしておきたい人も必読である。
※1 ^ ▲4六銀系は『矢倉の急所
【4六銀・3七桂型】』(森内俊之,浅川書房,2008.12)、加藤流は『矢倉の急所(2)』(森内俊之,浅川書房,2009.06)
※2 ^ 〔矢倉3七銀戦法が詳しく書かれている棋書〕:
(2011年3月現在、抜粋)
1989-03 矢倉ガイド,週刊将棋編,中村修協力,MYCOM
1993-01 羽生の頭脳 5 最強矢倉・後手急戦と3七銀戦法,羽生善治,日本将棋連盟
1993-04 羽生の頭脳 6 最強矢倉・森下システム,羽生善治,日本将棋連盟
1994-03 現代矢倉の基礎知識(上),中村修,週刊将棋編,MYCOM
1997-04 康光流現代矢倉I 先手3七銀戦法,佐藤康光,日本将棋連盟
1999-04 矢倉3七銀分析【上】,森内俊之,MYCOM
1999-05 現代矢倉の思想,森下卓,河出書房新社
1999-08 現代矢倉の闘い,森下卓,河出書房新社
2001-09 矢倉道場
第一巻 4六銀,所司和晴,MYCOM
2001-11 矢倉道場
第二巻 続・4六銀,所司和晴,MYCOM
2002-01 矢倉道場
第三巻 3七銀,所司和晴,MYCOM
2005-12 将棋定跡最先端
居飛車編,所司和晴,MYCOM
2007-08 最新矢倉戦法─徹底研究▲3七銀戦法,高橋道雄,創元社
2008-12 矢倉の急所 【4六銀・3七桂型】,森内俊之,浅川書房
2009-06 矢倉の急所(2),森内俊之,浅川書房
2010-05 羽生の頭脳(3) 最強矢倉(将棋連盟文庫),羽生善治,日本将棋連盟発行,MYCOM販売
2010-12 最新の矢倉3七銀戦法,屋敷伸之,日本将棋連盟発行,MYCOM販売
(本書)
※誤植・誤字(初版第1刷で確認)
p7 「5手目は▲6六歩の方がいい」という旨が書かれているのに、実戦編では5手目▲7七銀の採用がかなり多い。(間違いというわけではない)
p179 △「高野五段の趣向が面白く、…」→他の箇所は「野」(はしごだか)で統一されている。
p208 棋譜の冒頭3手が抜けている。→棋譜の先頭に「▲7六歩△8四歩▲6八銀」を追加
p211 上記と同じ。
p222棋譜中段(B)のあと ×「▲1九飛△5三銀▲1五歩△同歩▲1六歩△同歩A▲1五歩」 ○「▲1九飛△5三銀A▲1五歩△同歩▲1六歩△同歩▲1五歩」(p201第2図に合わせると“A”の場所が違う)(名無しさんご指摘thx!)
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