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最強将棋21 矢倉の急所(2) |
[総合評価] S 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段者向き |
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【著 者】 森内俊之 | ||||
【出版社】 浅川書房 | ||||
発行:2009年6月 | ISBN:978-4-86137-024-3 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
矢倉▲加藤流の定跡書。 「加藤流」とは、通常右図を基本とする矢倉の代表的な戦型のひとつ。加藤一二三九段がよく指していることから名前がついた。前著『矢倉の急所 【4六銀・3七桂型】』(2008.12)における「矢倉▲3七銀戦法」の基本図から▲6八角△4三金▲7九玉△3一玉▲8八玉△2二玉▲1六歩△8五歩▲2六歩と進んだのが【加藤流基本図】。▲1六歩と▲2六歩はどちらが先でも良い。また、本書のテーマ10〜13のように、△8五歩の代わりに△9四歩と突くパターンもある。なお、「▲3七銀戦法=加藤流」と書かれている棋書もあるが、少なくとも森内は「基本図が加藤流」という定義をしている。 加藤流の基本的な狙いは、「▲1五歩突き越し型で4六銀・3七桂型を構築する」こと。そうなれば、プロなら先手の完勝だ。かといって【基本図】のあたりで(▲4六銀の前に)△1四歩と受けると、スズメ刺し+棒銀を喰らってツブれるので、△1四歩と受けることはできない。とすれば、後手の基本的な作戦は (1)△5三銀から専守防衛〔▲4六銀には△4五歩と反発〕 (2)△7三銀からの棒銀(速攻1)〔後手が攻めきれるかどうか〕 (3)7筋歩交換(速攻2)〔どちらがいい形を取れるか。理想形を阻止して大決戦になったり、ゆったりした流れになることも〕 の3種類に分かれる。先手の方は、相手の動きに対応して作戦を立て、組み替えていく、という戦いになる。4六銀戦法が「先手の攻めvs後手の反撃」という構図だったのとは対照的だ。 逆に言うと、加藤流は基本図の段階で「後手の対応にはAがある、Bもある、Cもある」という状態になっているので、本書の解説は分岐型の傾向がある。前著は「攻防の歴史を追っていき、ぐるっと一巡した後、最新形の解説」となっており、シリーズで少し異なる構成になっている。 分岐型ということで、チャートを自作したので載せておこう。 なお、加藤一二三九段は飛先不突き矢倉をほとんど指さないので、基本図にいたるまでの手順が異なる。以下の手順は一例。(2006/10/13:順位戦:▲加藤一二三△中田宏樹) 初手から▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀 △6二銀 ▲2六歩 △4二銀 ▲4八銀 △5四歩 ▲7八金 △3二金 ▲5六歩 △4一玉 ▲6九玉 △5二金 ▲3六歩 △3三銀 ▲5八金 △3一角 ▲7九角 △4四歩 ▲6六歩 △7四歩 ▲6七金右 △4三金右 ▲3七銀 △6四角 ▲6八角 △3一玉 ▲7九玉 △2二玉 ▲8八玉 △8五歩 ▲1六歩 で【加藤流基本図】。 丁寧で明快で詳しい解説で、局面の考え方も随所に出てくるし、知りたい変化もいい具合の分量で解説されているのは秀逸。ただ、同じようで微妙に違う形が何度も出てくるため(矢倉の本はそういうものではあるが)、特に前半は読みこなすのに多少苦労した。この辺りが「矢倉は難しい」といわれるゆえんか。 しかし読んでいて非常に充実感があったし、ボリュームも満足。また、最近のプロ公式戦やタイトル戦などで見た形も多く出ており、「ああ、こういう理由でこの指し手になっていたのか」と何度も納得できた。 矢倉党には必携本であるのはもちろんのこと、あまり矢倉を指さないという人でも、「プロ矢倉の観戦ガイド」として読んでおくと世界が広がって良いかと思う。(2009Jul21) ※初版でおそらく唯一の脱字:p242 ×「攻め合いになたとき」→○「なったとき」 |
【レビュー内コラム】「△8六歩問題」−有名定跡の異なる評価 定跡は進化する。これまでの知見に基づいて新しい研究が上乗せされるからである。だから、基本的に定跡書は新しい方がより詳しい変化が載っていることが多い。半面、新しい本では、以前に研究された変化が一言で片付けられていることもある。そういう変化が載っている古い本にはそれなりの価値があると思う。 さて、本書p149〜159(テーマ22)には「この戦型における最も有名な定跡」(p165)が解説されている。手順は【加藤流基本図】より△7三銀▲4六銀△7五歩▲同歩△同角▲5五歩△同歩▲5八飛△6四銀▲5五銀△同銀▲同飛△6四角▲5一飛成△6二銀▲6一龍△9四角▲7二歩△8六歩で【p152・第3図】となる。長い手順だが、矢倉マニアなら「ああ、あれか」という定跡だろう。 さて、この定跡が詳しく載っている棋書は、わたしが知る限り以下の4つ。 『羽生の頭脳 5 最新矢倉・後手急戦と▲3七銀戦法』(以下「羽生本」),羽生善治,日本将棋連盟,1993.01 『現代矢倉の思想』(以下「森下本」),森下卓,河出書房新社,1999.05 『矢倉道場 第三巻 3七銀』(以下「所司本」,所司和晴,MYCOM,2002.01 『矢倉の急所(2)』(以下「森内本」),森内俊之,浅川書房,2009.06 【p152・第3図】では、先手は(1)▲8六同歩 (2)▲8六同銀 (3)▲4一銀の3つの選択肢がある。 この評価について、森下本では「8六の歩は取る一手。(中略)▲8六同歩はこの一手。」(森下本p81)とあり、結論は「(先手が)ぎりぎり残している。」(森下本p82)▲4一銀については記載がない。所司本では、「▲4一銀は〜先手の負け。(中略)▲8六同歩は〜際どく先手が残している。」(所司本p88〜89)となっている。 しかし森内本では所司本の先の好手▲8五歩まで示した上で「▲4一銀は先手十分」の結論。また▲8六同歩も所司本の先まで示した上で「先手難局」の結論であり、森下本・所司本と異なる判断を下している。 これだけなら「新しい本のほうが研究が進んでいる」で説明できるのだが。現在をさかのぼること17年半前、羽生本ではあっさり「▲4一銀。一発この詰めろを利かすのが好手なのだ。」(羽生本p203)と▲4一銀に高評価を与えている。ただその後の手順が微妙に違うため、やはり新しい本の研究の方が詳しいのかと思えるが、森内本には▲4一銀が苦難の末に発見された手であることが示唆されている。 「第3図の△8六歩に、▲同歩も▲同銀も先手が簡単には勝てない。そんなとき▲4一銀が発見された。この▲4一銀は本当に気づきにくい妙手である。△8六歩があまりにも厳しいので、これを手抜いて攻め合うという発想がなかなか出てこないからである。」(森内本p153) 実際どういうことなのだろう。わたしは▲4一銀がいつ発見されたのか知らないが、森下本(1999)ではまだ見つかっていないように思える。所司本(2002)では発見されているものの、否定的。森内本(2009)ではさらに先が研究されて判断が変わった感じ。ところが羽生本(1992)にはすでにこの手が載っている。 不可思議である。 〔2009Jul24追記〕afloblue2001さんから情報提供いただきました。▲4一銀が最初に指されたのは1985年だそうです。 1985年11月11日 ▲桐山清澄vs△谷川浩司(A級順位戦)(将棋の棋譜でーたべーす) その後評価が変わっていったというのは分かりますが、森下本に載っていないのは不思議ですね。 さらに、森内本では、【p152・第3図】へ至る途中の▲5一飛成に△1九角成ではなく△8六歩(【p157・第6図】)の評価にも疑問を投げかけている。森下本と所司本では「△8六歩には▲4六歩で受け切れる」という評価。これは棋界で発見された手というより、森内独自の見解のようであり、森下本・所司本への挑戦とも取れる。 ・「ついで△8七歩成は▲同金で何事もない。形は崩されても龍の存在は大きい。」(森下本p83) ・「△8六歩は取ってくれれば大きな利かしだが、▲4六歩△8七歩成▲同金は先手陣を乱したが、龍の存在が大きすぎる。」(所司本p86) ・羽生本では記載なし。 森内本では「(▲4六歩で受け切れるという評価は)私はかなり怪しいと思っている。具体的に示そう。▲4六歩以下、△8七歩成▲同金△7六歩という攻めがある。(中略)(以下)これは非常に(先手が)危険な変化ではないか。(中略)△8六歩には素直に▲同歩と取っておいた方がいいだろう。」(p157〜158) ずいぶん前からある同じ局面について、著者によってこれほどまでに見解が違うというのも面白いものである。 |
【他の方のレビュー】(外部リンク) ・適当将棋ノート ・トマト王国 ・Amazon.co.jp: カスタマーレビュー |