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扶桑社新書 将棋「初段になれるかな」会議 |
[総合評価] A 難易度:★★☆ 図面:見開き2枚くらい 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級向き |
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【著 者】 高野秀行 岡部敬史 さくらはな。 | ||||
【出版社】 扶桑社 | ||||
発行:2018年12月 | ISBN:978-4-594-08126-3 | |||
定価:994円(8%税込) | 175ページ/18cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
級位者が初段を目指すための本。 本書での「級位者」は、以下のような人が該当する。 −ルールはOK。(駒の動かし方など) −囲いも少し知っている。(美濃囲い、穴熊、矢倉など) −戦型分類もなんとなく分かる。(振り飛車/居飛車、角換わりなど) −ネット対戦もかなりやっている。(将棋ウォーズ、将棋クエストなど) −棋譜の符号は理解できるが(▲7六歩など)、頭の中で局面を動かすのは無理 −新聞の観戦記や「将棋世界」は難しいと思う。 つまり、入門者や初学者ではなく、「少なくとも数ヶ月〜数年くらい将棋をやっているが、なかなか初段に到達しない」という人が対象だ。こういった人の場合、何かあと一押しがあったり、勉強法を正しい方向に向けてやったりすることで、案外短期間で初段になれる可能性が高い。 本書は、そのような「初段へのあとワンステップ」を解決しようとする本である。級位者には、級位者向けの格言・常識や、真似やすい棋士・戦型など、また級位者に向いた考え方、上達法があることを明らかにし、級位者がなるべく楽に強くなる方法を伝えようとしている。 〔本書の進行〕 基本的に「高野×岡部×さくら」の鼎談形式で話を進めていく。(テーマによっては高野×岡部の対談方式) ・高野=指南役で、プロ六段。将棋教室も主宰している。『これにて良し? 四間飛車VS急戦定跡再点検』『四間飛車がわかる本』などの好著がある。 −棋士データベース-高野秀行 −高野秀行六段のコラム一覧(日本将棋連盟-将棋コラム) ・岡部=級位者。ライター。将棋歴は実質2年、将棋ウォーズ3級、将棋クエスト4級。「将棋好きであるものの、決して強くない」。 −ブログ「おかべたかしの編集記」 −Twitter@okataco −Facebook 岡部敬史 ・さくら=級位者。漫画家。5年半前にTV番組『アメトーーク!!』の特集「将棋楽しい芸人」を見て、突然将棋をやり始めた。将棋ウォーズ1級、将棋クエスト1級。ゴキゲン中飛車党。 −ブログ「将棋好きに成りまして」 −Twitter@kusattamarimo −pixiv「さくらはな。」 ときどき、さくらの「級位者あるあるマンガ」が挿入されている。(オビの「馬とは」もその一つ) なお、あとがきマンガによれば、この「初段になれるかな 〔各章の内容(抜粋)〕 第1章 常に「と金」を考えよ 〜級位者が覚えるべき10の格言〜 ・級位者がちゃんと見れるのは3x3マスくらい。 →「盤面が広く見られる」と強くなる。 ・振り飛車は守りやすい。(序盤でミスしにくい) ・居飛車は攻めやすい。 ⇒戦型は好みで一つ決める。 ・鈴木大介、戸辺誠、村山慈明、飯塚祐紀は、級位者が参考にしやすい。 ・格言は級位者に向いているものだけを覚えよう。 ⇒オススメ格言10を解説。 ・級位者は… −桂跳ねの失敗が多い。 −馬が敵陣で立ち往生している。 −龍が敵陣でウロウロする。 −飛の価値が高い。(高すぎる、大事にしすぎる) −歩、と金の意識が低い。 ⇒「桂は使いこなすのが難しいので、無理に使おうとしなくてよい」「桂を使うなら、ポンポン跳ねずに最後に使う」と明言しているのは、級位者向けの本では珍しい。 第2章 自信のない「詰み」より「詰めろ」 〜覚えておきたい詰みの形〜 ・詰将棋は毎日ちょっとずつやる。 ・分からなければ解答を見ても良い。 ⇒「リンゴの絵は描けても、ドラゴンフルーツの絵はちゃんと見たことがなければ描けない」というのはナルホドですね、刺さりますね… ・詰将棋の「○分で△級」はアテにならない ・基本的な詰みの形を知る ・超初心の頃は、詰みから玉を取るところまでやるべし。 →特に一間龍は、超初心者には分かりづらい。 ・詰みがあれば龍も飛も捨ててよい。 ・難解用語(または級位者が誤解しやすい用語)は、別の言葉に置き換えてみる。 −「退路封鎖」 → 「捨て駒ブロック」 −「邪魔駒消去」 → 「自駒消去」 ・偶然の詰みより、意図して詰めろを掛ける。 →「長い詰みより短い必至」は他書でもときどき書かれている格言であるが、「意図して詰めろを掛ける」は初めて見たように思う。こちらの方が後ろめたさ(詰みがあるのに必至を掛けるのか、的な)がなくなっていますね。 第3章 「手筋」ってそもそも何? 〜初段になるためのテクニック集〜 「手筋」は確かに意味の分かりづらい将棋用語で、定義もハッキリしていない。わたしは「上手い駒の使い方で、汎用性がある(いろいろな局面で使える)もの」と認識している。 本書では「小さな投資で確実なリターンが見込めるテクニック」と定義して、級位者用の手筋を厳選して紹介する。 垂れ歩/継ぎ歩/連打の歩/桂のふんどし/香の田楽刺し/継ぎ桂/角と桂のコンビ/銀の割り打ち/腹銀/桂先の銀/銀バサミ ⇒駒の手筋を扱った棋書はこれまでにも結構出ているし、多少古くても役に立つので、本章で興味を持ったら、何冊か入手してみてください。手筋を意識すれば、必ず上達します。 第4章 意識したい「良い形」と「どこから終盤?」 〜級位者の実戦譜より〜 級位者同士の実戦譜をプロが解説。 ・良い形を意識すること ・部分的に受け流して、より玉に近いところで戦う ・安い駒で高い駒を狙う ・できれば崩れた囲いを再生させる ・「自分なりの詰将棋」を作る ⇒第2章の「意識して詰めろを掛ける」を言い換えた表現。これもとても良いですね。 ・どこからが終盤か、自分なりの指標を持つ ⇒これも棋力に合わせた設定が大事。 第5章 差がないときは攻め急がない 〜級位者の「次の一手」〜 級位者の実戦で、プロ(高野)ならどう指すか、を解説。全部で5局面。 本章で取り上げた局面は、必ず正解があるような「次の一手」ではなく、「有望手はあるが、自重でOK」というようなものもあり、真の意味で実戦的で役立ちそうに思えた。「こんないい手がある」よりもよほどいいと思う。このテーマだけで一冊出せるんじゃないだろうか。 高野が答えていく中で、「級位者は攻め急ぎが多そうだ」ということも判明。(わたしも10秒将棋だとこんな感じになってる…反省。) 第6章 「強くなった気がする」から始める棋譜並べ 棋譜並べのススメ。級位者は「楽しむ」のを目的に並べるべし。級位者にオススメの3棋譜を掲載。 第7章 なぜ「先手よし?」 〜プロに訊いてみたかったこと〜 ここまでの章で触れられなかった質問アラカルト。 ・馬と飛の交換はどちらが得? ・級位者と有段者の違いは? ・10秒将棋よりも10分切れ負けの方を推奨 ・子どもの早指し ・ソフトの利用法 ・定跡学習の意義 ・初段になってからの勉強法 ・二枚落ち定跡を推奨 ・3手の読みは大事 ・奇襲への心構え ・棋書の形勢判断について ⇒正しい形勢判断をマスターすることは、ステップアップ間違いなし。保証します。有段者向けの本を読むためにも、実戦の判断基準のためにもマストアイテムでしょう。しかし、形勢判断を扱った本はこれまでに数えるほどしか出ておらず、新刊書店の棚ではなかなか見つけられないので、古本を探しましょう。 〔総評〕 本書は、「初段まであと一歩(数歩?)の人が、初段まで到達するための本」である。 自分が実際にその立場だったとき、特に棋力アップを実感できた方法は、以下の通りだった。これらがちゃんとできるようになったとき、将棋倶楽部24で初段になっていたかと思う。 ・詰将棋を解く(いまでも苦手ですが…1手・3手から始め、『5手詰ハンドブック』クラスはなんとか解けるようにする) ・駒の手筋を覚える(『歩の玉手箱』に感動した) ・囲い崩しの手筋を覚える(『佐藤康光の寄せの急所 囲いの急所』が効いた) ・正しい形勢判断(『これにて良し? 四間飛車VS急戦定跡再点検』が効いた) ・必至問題を解く(特に『寄せの手筋168』を周回した) ・棋譜並べ(特に「将棋年鑑」で数をこなした) 本書には、これらのことがほぼそっくりそのまま(そしてさらに分かりやすい形で)載っており、「初段になるための方法」として個人的にも太鼓判を押せる内容である。 ページ数は一般的な棋書よりも少なめで、サラッと読めていくが、内容的には過不足なく、満足できる。 ただし、あくまでも「初段手前」の人が、引っ掛かっている部分を解消できるという本なので、対象棋力がハッキリと絞られており、入門者〜初級者クラスの人が読むのはちょっと違うのかな、と思います。有段者〜高段者が級位者に指導する参考として読むのはアリかも。自分に合っていそうかどうか、よく確認してください。(2019Jan06) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p52 2行目の先頭 「さくら」がゴシック体になっていない。 |