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■康光流現代矢倉V 急戦編

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康光流現代矢倉V 急戦編
zoom
Perfect Series
康光流現代矢倉V
急戦編
[総合評価] B

難易度:★★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 佐藤康光
【出版社】 日本将棋連盟
発行:1997年11月 ISBN:4-8197-0338-2
定価:1,200円 223ページ/19cm


【本の内容】
第1章 急戦矢倉編 ・急戦矢倉米長流=3局
・急戦矢倉中原流=3局
66p
第2章 矢倉中飛車編 ・矢倉中飛車=2局
・△6二飛戦法=3局
・郷田流5筋歩交換作戦=2局
・▲3七銀戦法−▲6五歩急戦型=3局
100p
第3章 原始棒銀編 ・△原始棒銀急戦型=2局
・△右玉戦法=2局
31p

・参考棋譜=20局(20p)

◆内容紹介
近年、矢倉の後手番は苦しい、というのが定説になりつつある。著者自身が高い勝率をあげた思い出の戦法「米長流」をはじめ、後手側が主導権を握ることのできる指し方を解説する。


【レビュー】
実戦解説をベースに急戦矢倉を解説した本。

「康光流現代矢倉」三部作のシリーズ最終巻は、急戦矢倉。“急戦”と書かれているが、持久戦調に進んだ将棋もあるし、右玉戦法は急戦とは言いがたい。本書は、「飛先不突き矢倉の本流である▲3七銀戦法と▲森下システム“以外”の矢倉戦」を扱った本であるといえよう。

大きく3章に分けられているが、本書の場合は章立てにあまり意味はない。第2章の矢倉中飛車編ではほとんど矢倉中飛車と関連性のない3戦型が収められているし、第3章の原始棒銀編にはなぜか右玉が収められている。

それぞれの戦型について、図面を使って説明していこう。
急戦矢倉米長流
第1章(1) 急戦矢倉米長流

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀
▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金
▲7八金△4一玉▲6九玉△7四歩▲6七金右△5二金
▲7七銀△8五歩▲7九角△6四歩▲2六歩△7三桂
▲2五歩△3三銀▲3六歩△6三銀〔左図〕

第1例と第2例はここから▲3五歩△同歩▲同角△4四銀で、第1例は▲6八角と自重、第2例は▲2四歩の荒業。また第3例は、先手が飛先を突かずに▲4六角-3八飛型で後手の出足をくじく指し方。

本書での米長流は発展的なので、典型的な狙い筋を知りたい人は『急戦でつぶせ ヤグラがなんだ』(田中寅彦,MYCOM,1988)や『消えた戦法の謎』(勝又清和,MYCOM,1995/2003)などで予習するとよい。


急戦矢倉中原流
第1章(2) 急戦矢倉中原流

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀
▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金
▲6六歩△4一玉▲6七金△7四歩▲7八金△6四歩
▲6九玉△6三銀▲2六歩△5五歩〔左図〕

中原流は、△6四歩までは米長流と同じ。そして△6三銀から△5五歩と仕掛けていく。5筋の歩を交換して、△5四銀と好位置に銀を進出させるのが狙い。「囲いが薄くなることには目をつぶりとにかく中央を手厚くして、その攻撃力の強さで攻めつぶす狙いだ。」(『消えた戦法の謎』第1章第5節より)

図から△同角▲2五歩△2二角▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2八飛△5四銀▲5七銀△5三銀となり、第1例は▲4六銀△4四銀の対抗、第2例は▲6八銀引と形を決めた。この後、後手は右金を△6三金まで上げ(玉が非常に薄い)、桂頭を保護して中央で分厚い攻撃を仕掛けていく。

ハッキリした基本図面というものがなく、指しこなすのも難しいためか、解説されている本は少ない。


矢倉中飛車
第2章(1) 矢倉中飛車

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀
▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲7八金△3二金
▲6九玉△4一玉▲5八金△7四歩▲6六歩△6四歩
▲2六歩△6三銀▲2五歩△5二飛〔左図〕

図から▲6七金右△5五歩▲同歩△同飛▲5六歩△5一飛が一例。5筋の歩を飛で交換し、次に△5四銀と好位置に進出していく。

矢倉中飛車は、5手目▲7七銀に対して有効。矢倉囲いは、中央を金一枚で守っているので、そこを攻めるのは理に適っている。半面、玉は薄く、玉飛接近形になりやすい弱点がある。


△6二飛戦法
第2章(2) △6二飛戦法

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀
▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金
▲7八金△4一玉▲6九玉△7四歩▲6七金右△5二金
▲7七銀△6四歩▲2六歩△5三銀右▲2五歩△6二飛〔左図〕

図が進行の一例。△5三銀右と上がり、△6二飛と6筋に狙いをつける。6筋の歩を飛で交換し、△6四銀と進出して△7三桂も跳ねれば攻撃態勢が完了。玉が比較的堅く、攻撃力もある。腰掛銀+右四間飛車と似ているが、△6二飛戦法は5筋・6筋・7筋を絡めた攻撃ができるのが大きな特徴。なお、5手目▲7七銀でも▲6六歩でも使える。


郷田流5筋歩交換作戦
第2章(3) 郷田流5筋歩交換作戦

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀
▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金
▲7八金△4一玉▲6九玉△7四歩▲6七金右△5三銀右
▲2六歩△8五歩▲7七銀△5五歩▲同 歩△同 角〔左図〕

5筋の歩を交換して△5四銀と好位置に進出する狙いは中原流と似ているが、「後手番ながら主導権を握り、玉をがっちり囲うことができる。」(p141)また持久戦調になることが多いため、勝又清和六段は将棋世界誌の講座(2009年11月号p66)で「△5三銀右〜△5五歩作戦」(「△5五歩急戦」ではない)と呼んでいる。

一時期この戦法が影を潜めた後、阿久津主税が得意としていたため「阿久津流」と呼ばれることもある。また、2008年の竜王戦七番勝負で渡辺明がこの戦型において続けて新手を出し、逆転防衛の原動力となったことから「渡辺流」と呼ばれることもある。
 ・p125で▲2五歩に△3三銀の新手が羽生vs渡辺戦(2008/12/17,竜王戦第7局)。
 ・p126で△3一玉と新手を出したのが羽生vs渡辺戦(2008/12/10,竜王戦第6局)

郷田流は一時期タイトル戦に続けて現れたことがあるが、載っている本は少ない。


▲3七銀戦法-▲6五歩急戦型
第2章(4) ▲3七銀戦法-▲6五歩急戦型

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀
▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金
▲7八金△4一玉▲6九玉△7四歩▲6七金右△5二金
▲7七銀△3三銀▲7九角△3一角▲3六歩△4四歩
▲3七銀△6四角▲6五歩〔左図〕

△6四角と先手の3筋歩交換を牽制した手に対し、「にらみを利かしている角を追い払い、手得を生かして作戦勝ちを目指す」(『矢倉道場 第四巻 新3七銀』(所司和晴,MYCOM,2002)まえがきより)のが狙い。

定跡は『矢倉道場 第四巻 新3七銀』、実戦例と研究は『矢倉3七銀分析【上】』(森内俊之,MYCOM,1999)が充実している。


原始棒銀急戦型
第3章(1) 原始棒銀急戦型

初手から
▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△8五歩
▲7七銀△7二銀▲5六歩△8三銀▲7八金△8四銀〔左図〕

5手目▲6六歩のときに使える後手の超急戦策。居玉で棒銀という、とても単純そうな仕掛けだが、破壊力は強い。定跡は『矢倉急戦道場 棒銀&右四間』(所司和晴,MYCOM,2002)が詳しい。



図面なし

第3章(2) 右玉戦法

矢倉模様の駒組みから、主に後手が先手の攻めをかわす意味であらかじめ玉を右にかわす戦法。(特に決まった形があるわけではないので図面は作成しませんでした)



これらの戦型を、佐藤康光の実戦に沿って解説していく。自戦記とはちょっと違っていて、情景や心象説明はほとんどなく、どちらにも肩入れすることはない。そのためか、本文中では序盤と最終盤の解説は省かれているし、対局者名も分からなくなっている。個人的には、先に巻末の参考棋譜を並べておいた方が理解しやすいと思う。

本書は、貴重な急戦矢倉の本ではあるが、プロ高段者の実戦解説なので、いきなり読んでも戦法のツボはよく分からない。別の本で基本的な狙い筋を学んだ後に、応用編として読むべき本だと思う。

わたしは▲6五歩急戦は『矢倉3七銀分析【上】』(森内俊之,MYCOM,1999)を、米長流、△6二飛戦法、矢倉中飛車は『急戦でつぶせ ヤグラがなんだ』(田中寅彦,MYCOM,1988)を先に読んでいたので、比較的スムーズに理解することができました。(逆に言うと、以前はよく分からなかったため、購入してから数年放置してしまっていたとも言えます…)(2010Feb28)

※本書では、佐藤が急戦側を持っているのは20局中8局。どちらを持っても戦っているようだが、戦型によっては偏っている(矢倉中飛車は2局とも中飛車側、△6二飛戦法は3局とも先手側、郷田流は2局とも後手側、▲6五歩急戦は3局とも先手側。また特筆すべき(?)は佐藤の勝率で、本書では11勝8敗1千日手。I(▲3七銀戦法)の14勝6敗、II(▲森下システム)の15勝3敗と比べると、「ずいぶん敗局も入れたなぁ…」と思う。もちろん、それで本書の価値が下がるというわけではない。



【他の方のレビュー】(外部リンク)
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khipu :: 微生物の祈り
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【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] 
パーフェクトシリーズ
[著者] 
佐藤康光
[発行年] 
1997年

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