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■神戸発 珍戦法で行こう

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神戸発 珍戦法で行こう MYCOM将棋ブックス
神戸発 珍戦法で行こう
[総合評価] B

難易度:★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)B(量)A
レイアウト:A
解説:B
読みやすさ:A
中級〜有段向き

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【著 者】 島本亮
【出版社】 毎日コミュニケーションズ
発行:2006年9月 ISBN:4-8399-2157-1
定価:1,449円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 一発芸戦法 (1)きんとうん戦法
(2)タランチュラ戦法
(3)大かまきり戦法        
(4)幻想四間飛車戦法
(5)ザリガニ銀戦法
(6)ドラゴンスペシャル戦法
(7)かえるがピョン戦法
(8)待てば海路の日和あり
(9)対三間飛車急戦
(10)なんでもかんでも銀冠戦法
(11)秘剣 流星剣
(12)急戦石田返し
78p
第2章 天空の城戦法 (1)対美濃編
(2)対穴熊編
24p
第3章 駒落ち上手 (1)2枚落ち編
(2)飛車落ち編
18p
第4章 浮雲戦法 (1)四間飛車VS金開き戦法
(2)中飛車穴熊VS金開き戦法
(3)中飛車VS金開き戦法
(4)三間飛車VS金開き戦法
(5)対中飛車「山彦返し」
(6)対四間飛車
(7)対三間飛車
(8)対向かい飛車
(9)振り飛車・持久戦編
(10)振り飛車・急戦編
100p

【1ページ講座】9八香戦法/角落ち上手
【コラム】振り飛車をやめた/居飛車を始めた

◆内容紹介(MYCOMホームページより抜粋)
定跡化された戦法とはひと味違う、あまり知られておらず破壊力抜群な戦法を、神戸市在住の新鋭島本亮四段が楽しく解説していきます。 あなたもオモシロ戦法マスターで難敵撃破!ライバル一蹴!
※週刊将棋連載で好評を博した著者の連載講座を全面的に加筆修正し書籍化しました。


【レビュー】
奇襲戦法・ユニーク戦法の解説書。週刊将棋2005年9月14日号〜11月30日号に連採された「神戸発 珍戦法のススメ」を全面加筆修正したもの。

目次を見ても、どんな戦法か分からないものがほとんどだと思うので、図面を添えて紹介していこう。

第1章は、一発芸戦法。おそらく奇襲の類であり、正確に対策されれば通用しないと思われるが、一発勝負で正確に対応するのは難しそうな戦法の数々を紹介。

基本的に数pで成功例のみが書かれているので、可否の判断は自己責任で。著者も言っている通り、上手く育てれば有力な筋があるかもしれない。
第1章(1) きんとうん戦法

「きんとうん」とは、ドラゴンボールに登場するアレである。実際は西遊記が元ネタ。cf.Wikipedia−キン斗雲

横歩取り模様の序盤から、先手が飛先交換せずにいきなり▲7七金と立つ。さらに▲7五歩〜▲2六飛からヒネリ飛車風にする。著者もネット将棋で試しているようだ。第4章の浮雲戦法とかなり共通点がある。

歩の雲の上をピューッと走る飛車がきんとうん?

第1章(2) タランチュラ戦法

「タランチュラ」は、大きな毒グモのこと。cf.Wikipedia−タランチュラ

初手から▲7六歩△3四歩▲5六歩で、角交換から△5七角の打ち込みを誘う。△2四角成と馬を作らせておいて、▲7七角の自陣角や▲2八銀などの糸を張り巡らせていき、馬を目標にしながら歩を取ってしまう。

ただし、一般的にタランチュラは巣を作らないらしい。(笑)

第1章(3) 大かまきり戦法

▲四間飛車vs△右四間模様で、▲7五歩〜▲7七桂!〜▲6五歩と鬼殺しのように仕掛けていく。跳ねた桂がカマキリの鎌。

対右四間がイヤでイヤでたまらない四間飛車党の方は、試してみる価値あり。ただし、四間飛車っぽい展開にはなりません。

第1章(4) 幻想四間飛車戦法

奇襲戦の極意』(米長邦雄,昭文社,1988)などに載っていた角交換四間飛車を対居飛穴に応用したもの。角交換を拒否してきた場合、▲6七飛〜▲6八角〜▲4六角〜▲2八角と狙いを変える。

第1章(5) ザリガニ銀戦法

△四間飛車vs▲右四間飛車模様の序盤で、右銀を▲3六銀!と出る。左銀も▲5六銀まで出して、左図のようなカニカニ銀ならぬ「ザリガニ銀」が完成。玉が薄いのが難点だが、攻撃力は高い。

第1章(6) ドラゴンスペシャル戦法

3手目▲7八金で振飛車を誘う。序盤は対振飛車に不向きなカニ囲い…と思いきや、▲5九銀〜▲5八銀で異様な陣形が完成。飛にヒモがついた低い陣形なので、単純に▲2四歩から大駒交換を狙っていく。アヒル戦法ににた思想だが、相手が用心してきたら右銀を繰り出して戦える点が大きい。

どの辺がドラゴンなのかは不明。
第1章(7) かえるがピョン戦法

△三間飛車に対し、普通は▲2五歩△3三角の交換を入れて、すぐに石田流に組み替えられるのを阻止するもの。本戦法では▲2六歩のまま、相手の飛の鼻先を▲3六歩!(これが「かえる」?)△3五歩には、たいていの場合▲2五歩△3三角▲3五歩と反撃できる。▲2五歩に△3四飛でも▲3五歩△同飛▲2四歩の筋がある。

第1章(8) 待てば海路の日和あり

△四間飛車vs▲右四間で、先手は飛落ち下手のような形に構え、こっそり▲9八香と上げておく。あとはひたすら「待ち」。下段飛車から▲3九飛として、後手から△4五歩と仕掛けさせる。▲9八香は、△7七角成▲同桂のあと、地下鉄飛車用のトンネルを先掘りしておいた手。

ただ、本譜では後手が高美濃に組んでいるが、対右四間では高美濃を経由せずに銀冠に移行する組み方が知られている(『右四間飛車戦法』(先崎学,創元社,2007)など)。その場合、地下鉄飛車にしても効果は薄そう。

第1章(9) 対三間飛車急戦

普通の△三間飛車vs▲3七桂急戦から、▲6八銀〜▲7七角が先手の工夫。通常は先手から角交換するところを、後手から角交換させる形にする。

島本が研究会で試した作戦だそうだ。あとがきによれば、考案者は今井智士さんらしい。

この項は、やけに文体がチャラくなっている箇所がある。「△4三銀はどや?(中略)玉は堅いしまあまあじゃん☆」……こ、これは『公望流メリケン向飛車戦法』(横山公望,三一書房,1995)や『清水市代の囲いのエッセンス』(清水市代,MYCOM,1994)と並ぶ三大“奇書”か!?(※他のほとんどの文章はもう少しマジメです)

・1ページ講座 ▲9八香戦法

端角▲9七角+▲9八香型。後手が「角頭にスキあり」と思って△9五歩と仕掛けると、▲同歩△同香▲8六角△9八香成▲同飛…となる仕掛け。『5五の龍』に登場した「魔の一間飛車」と似た筋。
第1章(10) なんでもかんでも銀冠戦法

初手▲7八銀! 入門書には「やってはいけない手」と書かれている手だ。対して△3四歩なら一応作戦成功。四枚銀冠に固めて、チャンスを待つ。先手番なのに消極的ではあるが、相居飛車でも堅さで勝負したい人向け。

なお、2手目△8四歩なら▲7六歩で一局の将棋。

第1章(11) 急戦石田返し

早石田に対し、すぐに△8六歩と仕掛ける。▲同歩△同飛▲7四歩に△同歩▲2二角成△同銀▲9五角(王手飛車)が多くの本で定番の解説となっているが、実際はこんなに簡単に良くならない。

▲7四歩に△8七飛成でかなり難解(一応、先手良しの結論が出ている)。王手飛車定跡しか知らない石田党には有効。わたしも実戦でこの筋に対応できず負けたことがあります…。

第1章(12) 秘剣 流星剣

▲四間飛車vs△右四間の超急戦。▲7八銀で角が浮いた瞬間、後手が飛も回っていないのに、いきなり△6五歩と仕掛ける。

何が流星剣なのかは不明。ファイアーエムブレム?ロマサガ?


第2章は、天空の城戦法。四間飛車藤井システムに対して有効。居飛穴模様の序盤から、左銀も繰り出していき、居玉のまま▲6六角〜▲7七桂と空中要塞を築いて準備完了となる。

図の形から▲8八飛と転回し、8筋・9筋を強襲する。vs美濃、vs穴熊、vs金無双にもほぼ同じ構えで対応可能(vs金無双は「(2)対穴熊編」の後半で解説されている)。連載時は「核ミサイル戦法」だったが、名称変更。

なお、ネット上で見られる「きりスペシャル」も本戦法と似た思想を持つ。きりスペシャルは、▲6五銀と上段に構えて7筋を攻めていく点が異なる。後輩のM君にやられたことがあり(わたしが△四間飛車穴熊)、実戦では何とか凌ぎ切ったが、感想戦ではやはり潰れていた。きりスペシャルへの対策は、金無双にすれば安定しているようだが、その場合は本戦法との使い分けもできるかもしれない。


第3章は、駒落ちでの上手のマル秘作戦。通常の指導対局で使うのはオススメできないが、何度も対局して定跡型をほぼマスターされているとき、または手合割でどうしても勝ちたいときに使ってみよう。

第3章(1) 駒落ち上手 二枚落ち編

5筋不突きで銀多伝を牽制(※5筋に争点がないので銀多伝(中飛車+右玉)はやりづらい)。腰掛け銀で▲4八飛を強要し(▲4五歩を守るため)、二歩突っ切りもさせない。△1四歩〜△1二香として、角成り対策をしておく。△3一金は桂を守るとともに、場合によっては△3三銀〜△2二銀と馬を封じる意味がある。

項末には、飛をワザと成らせてフタをするハメ手も紹介。いずれも指導将棋向きではない。

第3章(2) 駒落ち上手 飛車落ち編

下手右四間に対し、上手は△5四銀と出てみる。図のような陣形で待つ(手待ちとして△8四歩〜△8三玉もある)。下手がうまく仕掛けられるかどうか。定跡外しには最適。

・1ページ講座 角落ち上手

上手に角がないのを逆用して、角交換四間飛車のような陣形に組む。効果の是非は著者にも不明。


第4章は、浮雲戦法。本書のメイン。角道を止める振飛車に対し、▲2六飛から▲3六飛を見せる(△3四歩を取る狙い)。この序盤の形は、手順が違うものの、『奇襲大全』(湯川博士,週刊将棋編,森けい二監修,MYCOM,1989)で「目くらまし一歩得作戦」と紹介されているが、ハメ手扱いだった。

本書では「一発芸の部類ながら、完全に1つの戦法として育っている」(p124)という力強いお言葉とともに、総合戦法としての扱いで、1つの章を割り当てられている。

「「浮雲戦法」の由来は、飛車先の歩が雲のように浮かんでいるというところから」(p182)らしい。

本書の作戦は、
(1)一歩得の変化(p185)を秘めつつ、
(2)金開き(中住まい)と、2筋・7筋両突きを使い分ける。両方使うこともある。

あとがきによれば、本戦法の協力者は瀧正裕さんらしい。

〔第1節〕 四間飛車vs金開き

飛を浮いた後、バランス重視の中住まいに構える。さらに▲7五歩と伸ばし、飛の転回を作っておく。狙いは玉頭攻め。

〔第2・3・4節〕

対穴熊、対銀冠も序盤は同じ。相手の陣形によって、左銀の活用や仕掛けを少し変えていく。

〔第5節〕 対中飛車「山彦返し」

▲中飛車に対し、「目くらまし」から歩を取り合うと、あら不思議。いつのまにか後手が中飛車で好位置に、先手の飛車が隠居するハメに…。

〔第6節〕

あっちもこっちも突いて、さらに後戻りできない桂まで跳ねて、八方破れにしか見えないが、十分手になっている。振飛車側が正確に受け切るのは難しい。
〔第9節〕

相手が居飛車のときはひねり飛車にする。飛先の歩が切れていないので損のようだが、一概には言えず、後手の盛り上がりを防いだり、△2四角を防いでいる効果もある。この戦法、以前の職団戦でやられたことがありましたが、浮雲だったんですね。
p207からは、普通の振飛車…と見せかけて居飛車…と見せかけて浮雲、という三段階の奇襲を紹介。

〔第10節〕

角換わりの出だしから、▲8八銀と上がらず、角を交換させて▲7七同桂と取る。そこから浮雲の布陣を作る。
後手番で使えば、一手損角換わりと見せた動きから奇襲できる。


各項末には1p・4図の「チェックポイント」があり、復習できるようになっている。

最近はあまり奇襲系の本が出ていない。というより、大流行のゴキゲン中飛車や石田流、角交換振飛車や一手損角換わりなどは、以前は奇襲扱いされていたので、どちらかといえば「奇襲系の本が出まくっている」とも言えるのだが…。

というわけで、本書は貴重な奇襲系の一冊。単なるハメ手だと思えば、やってる方もやられる方もあまり良い気分はしないが、ある程度の基礎知識があれば、あとは力の勝負ができる。基礎知識を得るため、一読しておいてほしい一冊だ。(2011May22)



【関連書籍】

[ジャンル] 
奇襲
[シリーズ] MYCOM将棋ブックス
[著者] 
島本亮
[発行年] 
2006年

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