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■若手精鋭が現代将棋を斬る

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若手精鋭が現代将棋を斬る
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マイナビ将棋BOOKS
若手精鋭が現代将棋を斬る
[総合評価] B

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:B
解説:A
読みやすさ:B
上級〜有段向き

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【著 者】 戸辺誠 中村太地 村山慈明 永瀬拓矢
【出版社】 マイナビ
発行:2013年5月 ISBN:978-4-8399-4712-5
定価:1,575円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 現代将棋の急所編
第2章 それぞれのテーマ局面編
第3章 3棋士に聞きたい局面編

◆内容紹介
将来の大棋士たちが描く、現代将棋の最新地図完成!!

戸辺誠、中村太地、村山慈明、永瀬拓矢。この4人が一堂に会し、現代将棋のテーマ局面について、詳細に、過激に語った一冊です。
第1章「現代将棋の急所編」では、渡辺、羽生を初めとする現代将棋の最高峰の攻防について若手4棋士が語ります。
第2章「それぞれのテーマ局面編」では、ゴキゲン中飛車VS超速▲3七銀、石田流、角交換四間飛車など、最先端の定跡について、研究の突端部分を惜しみなく披露します。
第3章「3棋士に聞きたい局面編」では、4棋士が自らの実戦の中から疑問に思っている局面を提示し、他の3棋士が応えるという形式で対話します。

どのページをめくっても4棋士の個性があふれており、同じ局面についての意見でもここまで違うものかと感動を覚えます。読み物としても楽しめ、定跡書としても役立つ、これまでにない将棋書籍です。

ぜひ手にとって、新感覚の将棋論を堪能してください。


【レビュー】
若手棋士4人の読み・大局観を詳細に解説した本。

あるテーマ局面について4人の若手棋士がそれぞれ個別に考え、読みや大局観を披露する。基本的なコンセプトは、過去に出版された『イメ読み』と同じ。

 『イメージと読みの将棋観』(鈴木宏彦,日本将棋連盟,2008)
 『イメージと読みの将棋観(2)』(鈴木宏彦,日本将棋連盟発行,MYCOM販売,2010)

すなわち、本書は「『イメージと読みの将棋観』の若手棋士版」である。

『イメ読み』と異なっている点を列挙していくと、

 ・メンバーは若手棋士4人。(ただし、全員がトップ棋士に一発入れる実力あり)
 ・居飛車党2人、振飛車党2人とバラけている。(『イメ読み』では6人中5人は「基本的に居飛車党」だった)
 ・テーマ局面は、5年以内の実戦や定跡から。(『イメ読み』では大山-升田や天野宗歩など古い将棋もあった)


といったところである。



●4棋士の紹介
○戸辺誠(とべ・まこと)(27歳、プロ8年目) 〔表紙写真では右上〕
振飛車党。先手では石田流、後手ではゴキゲン中飛車の採用率が高い、典型的な「現代振飛車党」。10年くらい前は、渡辺・村山とともに「酷評三羽烏」と呼ばれていた。石田流系統の良書を数冊著している。
2009年度勝率2位、新人賞。出版時点でB級2組。
本書では、癒やし系担当。感覚的なコメントが多く見られる。

○中村太地(なかむら・たいち)(24歳、プロ8年目) 〔表紙写真では中央右〕
元振飛車党の居飛車党。激しい将棋が得意。『速攻!ゴキゲン中飛車破り』では、超速を精緻に解説した。
2011年度勝率1位(史上2位の高勝率)、2012年度棋聖戦挑戦。出版時点でC級1組。
本書では イケメン担当 もっともバランスの取れたコメントが多い。スタンダード。

○村山慈明(むらやま・やすあき)(29歳、プロ11年目) 〔表紙写真では右下〕
居飛車党。10年くらい前は、渡辺・戸辺とともに「酷評三羽烏」と呼ばれていた。「序盤は村山に聞け」と言われるほど定跡に精通しており、最前線系の良書を数冊著している。
2007年度新人王。出版時点でB級2組。
本書では、もっとも具体的な指し手をたくさん挙げてくる。研究肌。

○永瀬拓矢(ながせ・たくや)(20歳、プロ5年目) 〔表紙写真では左下〕
振飛車党。ノーマル三間飛車を得意とする。異色の感覚の持ち主で、受け・盤上の制圧・千日手などに特徴がある。その感覚の一端は『永瀬流 負けない将棋』に記されている。
2012年度新人王、加古川青流戦優勝、勝率1位。出版時点でC級2組。
本書では比較的言葉少なで、異感覚ぶりは少し出ているが抑え目。



●テーマ図
第1章・第2章は、編集者(誰かは不明)から与えられたテーマ図。背景と一般的な評価を説明したあと、4人の棋士がそれぞれ自分の読みや大局観、感想などを記していく。まとめあがった感想だけではなく、リアルタイム風に第一感から徐々に読みを修正していくような記述も見られる。4人の記述が出揃ったあと、4人分のまとめがある。

第3章は、4人のうちの一人が、他の3人の意見を聞いてみたいテーマ図を用意する。一人あたり3テーマ。勝負手、自慢の一手、気になる局面について、評価・形勢判断・読みなどを尋ねる。第3章はテーマごとのまとめはない。

第1章のテーマ1〜14は、2008年以降のタイトル戦や挑決などの重要対局から、終盤や中終盤の局面をピックアップしたもの。

面白くなってくるのは、第1章のテーマ15以降と第2章。いろいろな戦型の定跡最先端や、まだ序盤から間もない局面のボヤッとした感覚など、各棋士の意見の違いが際立ってくる。

第3章も含めて、序中盤がテーマのものを図面にしてみたので、気になる局面が一つでもあれば読んでみるとよい。定跡書とはかなり違う見解になっていたりもする。

第1章 テーマ15
△ゴキゲン中飛車▲超急戦の果て


次は▲6五香打or▲1三龍。

▲6五香打が詳しく載っているのは『ライバルに勝つ最新定跡』(村山慈明,2010.09)の第2章と、『ゴキゲン中飛車の急所』(村山慈明,2011.12)の3.24以降。バランスよく載っているのは『速攻!ゴキゲン中飛車破り』(中村太地,2011.09)。の第2章p180以降。

ここまで定跡化された将棋なのに、中村と村山が示した変化がまったく異なっているのは超意外。
第1章 テーマ16
矢倉▲4六銀-3七桂の基本図


次は△8五歩か△9五歩の二択。

△8五歩なら、先手は居飛穴に潜ってから猛攻する。

△9五歩は先手の居飛穴を牽制しているが、▲6五歩(宮田新手)△8五歩から91手組定跡に進みそう。
第1章 テーマ17
矢倉▲4六銀-3七桂vs△9五歩型 91手組定跡


テーマ16で△9五歩▲6五歩△8五歩からの91手組定跡。現代矢倉はここまで定跡化が進んでいる。
第1章 テーマ18
端歩位取り(△9五歩戦法)


▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩!▲2五歩△9五歩!と端の位を取る将棋。展開によってはダイレクト向飛車になる。

2007年の棋王戦で3局指され、2009年前後に流行。角交換四間飛車の台頭により、再び注目されている。
第2章 テーマ1
△ゴキゲン中飛車▲超速 銀対抗型


▲6八銀なら急戦、▲5八金右なら持久戦。どちらを選びたい?(アマなら高い確率で持久戦か?)

p113 永瀬「居飛車に作戦を選ばせれば、振り飛車が良くなったときに後悔してもらえる」というのは面白い考え方。
第2章 テーマ2
△ゴキゲン中飛車▲超速 銀対抗型相穴熊


銀対抗から相穴熊になる将棋。この戦型は「居飛車良し」「いや、振飛車も指せる」と評価が揺れ動いている。

見解が3-1で割れた。少数派は永瀬。
第2章 テーマ3
3手目▲7五歩、4手目は?


先手が「石田流を指しますよ」と宣言した図。4手目の選択肢は山のようにある。
・強気の△8四歩(〜△8五歩)
・穏健な△6二銀
・今と昔で意味の違う△5四歩
・「角道を止めなさい」と△4二玉
・「端を受ければ相振飛車にしますけどどうします?」の△1四歩
・意地っ張りの△3五歩
・手損時代の△8八角成
など。

4人とも複数の選択肢を挙げており、評価が定まっていなさそう。
第2章 テーマ4
▲石田流△4手目角交換 乱戦定跡


3手目▲7五歩に△8八角成から乱戦で進む将棋。2010年2月の棋王戦第1局▲久保△佐藤康で出現。

載っている定跡書は、『佐藤康光の石田流破り』(2010.04)の第4章、『最新版 勝てる石田流』(2011.01)の第4章や、『よくわかる石田流』(2012.01)の第5章p197以降など。

見解が3-1で割れた。少数派は村山。
第2章 テーマ5
▲石田流本組、単騎銀


石田流本組でよく現れる形。次は△2三銀か△2三玉の二択。戸辺は『戸辺流現代振り飛車手筋集』(2011.06)のp42以降で、先手が指せる旨を書いていたが…。

本書では見解が2-2の互角で割れた。
第2章 テーマ6
▲中飛車 銀交換型


▲中飛車で、角交換してから△6四銀と5筋歩交換を防ぐ形。のちに先手も▲6六銀と上がり、7五で銀交換が行われた後、角を打ち合った図。

この形が載っている最新の定跡書は『菅井ノート 先手編』(2013.01)の第5章-第2節p187以降。ただし、全く同じ形はさらっと流されている。級位者向けの『将棋の教科書 現代振り飛車』(2013.03)のp124では、▲6五銀が推奨されている。

p143 永瀬「有力な手は日によって変わる」って、マジですか…。
第2章 テーマ7
▲中飛車 角交換型


▲中飛車で、角交換してから△6四銀と5筋歩交換を防ぐ形の一つ。通常は▲7八金としてから▲6六銀だが(『菅井ノート 先手編』(2013.01)ではすべて先に▲7八金と締まっている)、▲7八金を省略して▲6六銀と上がれると思われていた。△8八角には▲7七角△同角成▲同桂△8六歩▲同歩△同飛▲7八金で大丈夫……?

2012年C級2組、▲永瀬△岡崎で登場。
第2章 テーマ8
△角交換四間飛車


藤井猛九段が進化させた角交換四間飛車、どうなの?
第2章 テーマ9
△角交換四間飛車▲2六歩型


△角交換四間飛車で、先手が2筋逆襲を警戒して▲2六歩で止めた場合、△2四歩と突いておく。この形からの攻め筋は、『角交換四間飛車 徹底ガイド』(2013.04)の第3章が参考になる。
第2章 テーマ10
△ゴキゲン中飛車vs▲超速、△3二金型-▲9六歩型


後手が△5六歩から飛を捌き、先手は角交換から▲5五歩とフタをする。後手は△7六飛と横歩を取るが、飛が狭い。図の△5四歩で飛が生還できるか?

菅井ノート 後手編』(2012.09)の第2章-第3節p158に載っている局面。菅井は「(ここで)▲5七金は当然の一着である」と言っているが…。
第2章 テーマ11
△ゴキゲン中飛車vs▲超速、△菅井流4四歩


菅井流〜△3二金から出る形。『菅井ノート 後手編』(2012.09)のp20では、図の1手前の△7二銀が「美濃囲いを完成させる一手で自然に見えたが実は緩手。(▲6八銀に替えて)▲4六歩が大きな一手」としており、図の局面は載っていない。

村山も菅井の見解と同じ▲4六歩を支持しており、図では「△5六歩と突けば勝負になる」が統一見解。
第2章 テーマ12
△ゴキゲン中飛車vs▲超速、△3二金型


2011年のA級、▲森内△久保で登場。図の△5一銀に替えて△4四飛が従来の定跡らしいが、その局面がズバリ載っている定跡書は発見できなかった。

第3章 永瀬図1
4手目△3二飛!


従来は全くダメとされていたはずの局面。角交換から▲6五角があるからだが、△7四角と合わせるのがダイレクト向飛車や2手目△3二飛などで出てくる筋。今なら大半の相手が▲6五角を打ってきそうなので、研究に誘導するチャンスである。
第3章 永瀬図3
△ゴキゲン中飛車▲超速 △3二銀型


△7二玉型-△3二銀型で、すばやく△5六歩から捌きに行った形。先手は馬を作る場所を確保している。

代表的な棋書は、『ゴキゲン中飛車の急所』(2011.12)の6.10や『速攻!ゴキゲン中飛車破り』(2011.09)の第1章p137など。


4棋士の見解が異なるところがやはり本書の一番面白いところで、後半はかなり面白く読めた。特に、自分の関心がある局面の見解を他の棋士に尋ねるというのは斬新。惜しむらくは、原稿を出し合ったあと、さらに全員が一堂に会した上で激論を交わしてくれると、もっと面白くなったんじゃないかと思う。(せっかく「酷評三羽烏」が二人もいるんだし…)

一方、前半(第1章テーマ14まで)は、対局者がタイトルホルダークラスばかりで、かつ5年以内の新しい将棋なので、4人ともだいたい結論などを覚えているor思い出してしまい、残念ながら各棋士の個性はあまり発揮されていない。また、「すごい」ばかり言っている印象があって、あまり面白くなかった。

前半はC、後半はA。間を取ってBとしておく。この企画でしゃべってほしい若手棋士は他にもいるので、次回作に期待したい。(2013Jun17)

※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p55 ×「▲3六飛なら△3五歩▲同歩…」 ○「▲3六飛なら△3五歩▲同飛…」



【関連書籍】

[ジャンル] 
大局観・形勢判断
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
戸辺誠 中村太地 村山慈明 永瀬拓矢
[発行年] 
2013年

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