2.6KB

<< 直前のページへ戻る
 

■佐藤康光の矢倉

< | No.0914 | >

トップページ > 棋書ミシュラン! > 佐藤康光の矢倉
佐藤康光の矢倉
zoom
SATO Yasumitsu's SHOGI
佐藤康光の矢倉
[総合評価] B

難易度:★★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
有段向き

この本をAmazonで見る

【著 者】 佐藤康光
【出版社】 日本将棋連盟/発行 毎日コミュニケーションズ/販売
発行:2011年3月 ISBN:978-4-8399-3842-0
定価:1,575円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 藤井流早囲い矢倉  講座編   58p
第2章 藤井流早囲い矢倉  実戦編 ・藤井流早囲い矢倉(1) 対中田宏樹八段戦
・藤井流早囲い矢倉(2) 対郷田真隆九段戦
・藤井流早囲い矢倉(3) 対木村一基八段戦
・藤井流早囲い矢倉(4) 対森内俊之九段戦
・藤井流早囲い矢倉(5) 対羽生善治名人戦
68p
第3章 最新の森下システム 講座編   50p
第4章 最新の森下システム 実戦編 ・最新の森下システム(1) 対井上慶太八段戦
・最新の森下システム(2) 対深浦康市王位戦
・最新の森下システム(3) 対三浦弘行八段戦
・最新の森下システム(4) 対行方尚史八段戦
50p

・参考棋譜9局

◆内容紹介
本書は佐藤康光の将棋シリーズ第4弾です。
前半は藤井猛九段が考案し、タイトル戦でも現れている「
藤井流早囲い矢倉」。脇システムと早囲いを組み合わせた指し方で、注目を浴びている戦型です。後半は「最新の森下システム」。森下卓九段が体系化して、攻防のバランスが良く大流行した戦法です。雀刺しの対策により一時下火になっていましたが、最近その優秀性が見直され、またプロの実戦で現れることが多くなっています。
本書ではこの二つの戦法を講座編と実戦編で解説しています。佐藤康光の緻密な研究と、力強い攻防の呼吸をつかみとってほしいと思います。


【レビュー】
矢倉の定跡書。「藤井流早囲い」と、「▲森下システムvs△スズメ刺し」の戦いを解説。

藤井流早囲いは、約15年前に「四間飛車藤井システム」を開発した藤井猛が提示した作戦で、登場からまもなくその優秀性が認められ、トップ棋士が盛んに採用している。

また、森下システムは約20年前に森下卓がシステム化した作戦で、先手ながら「後出し」ができるとして、数多くの実戦が指されたが、早く玉を囲うのが△スズメ刺しの的になってしまうため、一時期は廃れた。しかし、早めに中央から動く「深浦流」が登場し、復活。ただし、同時期に藤井システムや横歩取り△8五飛、ゴキゲン中飛車などが大流行し、矢倉も先手4六銀3七桂型がメインだったため、森下システムの進化は比較的ゆっくりと進行した。

本書は、矢倉の藤井流早囲いと森下システムの最新状況を解説した本である。

各章の内容をチャートを交えながら紹介していこう。

第1章(講座編)と第2章(実戦編)は藤井流早囲い。わたしが記憶している限りでは、単行本初登場となる。

従来の早囲いは米長流急戦矢倉などで攻められるとモロかった。藤井流早囲いは▲2六歩と▲3七銀を指すことで玉の移動のタイミングをずらし、△3一角や△4四歩を指させて「後手からの急戦策の幅を狭める」(p10)のが大きな特徴。

自らの作戦の幅もやや狭まってはいるが、「脇システム+片矢倉」のハイブリッドの相性も良く(長所:△6九角と打たれない、短所:8筋が弱い)、有力な作戦となっている。先手としては、自陣が片矢倉のときは後手から早繰り銀の攻めがあることに注意が必要だ。自陣が金矢倉のときにはほとんど成立しない攻め筋なので、慣れないうちはウッカリしやすい。

実戦編では、佐藤は5局とも先手を持って指しており、かなり有力視しているのが分かる。



第3章(講座編)と第4章(実戦編)は▲森下システムvs△スズメ刺し。森下システムの本格的な定跡書は『矢倉道場』シリーズ以来となる。

森下システムは、元々は淡路九段や青野九段が指していた形を、若手時代の森下が連採してシステム化したもの。「後手の形を見てから先手の攻撃形を決める」(p134)という特徴があり、1990年ごろは先手が高い勝率を上げた。しかし、当時下火になっていたスズメ刺しが後手の作戦として通用することが分かり、森下システムは絶滅したかに見えた。

しかし、さらに1997年2月に「深浦流」が登場(▲深浦vs△佐藤康光、王位戦)して、先手も△スズメ刺しに対抗できることが分かり、森下システムが復活した。「スズメ刺しに対していち早く銀を中央に繰り出」すのが「深浦流」である(『最新戦法の話』p55)。このあたりの経緯は、次の棋書を参考にしてほしい。

 1995-12 消えた戦法の謎,勝又清和,MYCOM (森下システムが消えた理由)
 1999-04 これが最前線だ!最新定跡完全ガイド,深浦康市,河出書房新社 (復活の道のりPart1)
 2003-05 消えた戦法の謎(MYCOM将棋文庫),勝又清和,MYCOM (消えた理由+復活についてフォロー)
 2006-08 最前線物語(2),深浦康市,浅川書房 (復活の道のりPart2)
 2007-04 最新戦法の話,勝又清和,浅川書房 (復活の概要が分かりやすい)

さて本章では、▲森下システムvs△スズメ刺しの最新状況を解説している。佐藤は深浦新手後もどちらかといえば後手持ちだったようだが、実戦編1局目のvs井上戦(2009.02)で後手で苦戦したのををきっかけに、先手で森下システムを再び指し始めることになった。

チャートでは『矢倉道場 第五巻 森下システム』(所司和晴,MYCOM,2003)から更新されている部分を青字にしているので比較してみてください。



チャートの通り、実戦編は講座編で解説を省略した部分を補完するような構成になっている。また、講座編の冒頭には概要解説が数pあるのは◎。

佐藤康光の将棋シリーズ」の既刊3冊には「指南書」に近いイメージのものもあったが、本書はかなり「定跡書」度が高く感じた。今後数年はトッププロの実戦でしばしば現れそうな局面が非常に多いので、観戦ガイドとして活用できるだろう。藤井流早囲いについては、週刊将棋に連載されていた金井五段の講座(2011年1月〜3月)よりも分かりやすいと思うので、オススメ。

今回はAに近いBということで。(2011Apr05)

※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p18 ×「金矢倉するのも」 ○「金矢倉にするのも」



【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] 
SATO Yasumitsu's SHOGI
[著者] 
佐藤康光
[発行年] 
2011年

< | >

トップページ > 棋書ミシュラン! > 佐藤康光の矢倉


Copyright(C) 1999-2024 【将棋 棋書ミシュラン!】 All Right Reserved