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将棋最強ブックス 先手番で勝つ戦法 |
[総合評価] C 難易度:★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 高橋道雄 | ||||
【出版社】 創元社 | ||||
発行:2013年4月 | ISBN:978-4-422-75140-5 | |||
定価:1,365円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
先手番の3戦法に関する解説書。級位者向け。 将棋は1手ずつ交互に指すゲームなので、基本的には先手が先攻することが多い。先手番で級位者にオススメの攻めの戦法というと、棒銀や右四間飛車が思い浮かぶが、これらの戦法はかなり攻めに重きが置かれる場合が多い。そういうのももちろんアリだが、ちゃんと駒組みしてから仕掛けたいという需要も多い。実際、有段者を目指すなら、玉の守りもしっかりした戦法を得意にした方がよいだろう。 本書は、攻めも守りもしっかりした本格的な戦法で、級位者にオススメのものを解説した本である。 解説されている戦法は3つ。各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、△四間飛車に対する▲5七銀左戦法。四間飛車側には、左銀や玉側の歩の位置などの違いでいろいろな待ち方があるが、一応それらすべてに対応している。▲7六歩△3四歩▲2六歩の出だしで始めたい居飛車党には、まず一通りはマスターしていただきたい戦法の一つだ。 △四間vs▲5七銀左戦法は、他にも良い本がたくさん出ている。詳しくは「四間飛車vs居飛車急戦の本」を参照のこと。 本章の良いところ、イマイチなところを箇条書きで挙げてみよう。 ◎ 指し手はほぼ正しい定跡。 ◎ ▲3五歩の仕掛けの成否については、どの形もしっかり検討されている。 ○ 玉側の歩の位置の違いで、終盤にどんな違いが出るかは少し書かれている。 △ 四間側の左銀や歩の位置によって正しい仕掛け方が変わるが、見極め方が触れられていない。 △ ▲3五歩〜▲4六銀と、▲4六銀〜▲3五歩の使い分け方は書かれていない。 △ 振飛車の待ち方の理由については書かれていない。 第2章は、▲石田流の本組で戦う形。序盤で無事に▲6六歩と角道を止められたら、浮き飛車から本組みに組んで、▲6五歩から総攻撃を狙う。棒金対策は、「▲7九銀保留〜▲8五桂ポン〜▲6五歩ポン」が分かりやすくオススメ。後手が「左美濃〜△9二飛の千日手狙い」の作戦で来たときも、▲8五桂ポンがオススメされている。 なお、2手目△8四歩には▲5六歩からの▲中飛車がオススメされているが、具体的な手順の解説はない。また、4手目△8四歩〜△8五歩については、本書での解説はなく、鈴木大介著の2冊が紹介されている(『決定版 石田流新定跡』(2005)、『最新版 勝てる石田流』(2011))。 第3章は、▲7六歩△3四歩▲2六歩から、後手が横歩取りを志向して△8四歩としてきたときに、▲6六歩として矢倉に向かう作戦。 相居飛車を確認してから角道を止めるので、相振飛車や相・飛先不突き矢倉の心配はない。あえて互いの飛先を突き切った相矢倉にして、端は突き越し合い、「脇システムの塚田流の仕掛け」と同じ形に持ち込む。 この作戦は、個人的には本書の中で一番面白いと思う。「必勝戦法」とか「破壊力抜群の勝ちやすい戦法」という訳ではないが、「得意戦法」とするなら非常にユニークだ。自分だけが経験を生かしやすい局面に持ち込めるし、仕掛けてからも単調ではない。 なお、この仕掛けについてもっと知りたい人は、次の2冊を読むべし。 2002-03 矢倉道場 第四巻 新3七銀,所司和晴,MYCOM (第2章第1節) 1994-11 単純明快 矢倉・脇システム,脇謙二,週刊将棋編,MYCOM (第1章第2節) 本書は級位者向けの本なので、変化の枝分かれが少ないという点は欠点ではあるが、1ページあたりの手数を少なくして細かく解説するという長所とトレードオフなので、そこについては加点も減点もしない。 それよりも、本書の「級位者に先手番での得意戦法を作る」というコンセプトの実現が、ちょっと微妙なところなのが気になる。 具体的には、作戦の出だしは第1章・第3章(▲7六歩△3四歩▲2六歩)と第2章(▲7六歩△3四歩▲7五歩)のどちらかしか選べず、両立できない作戦が一冊になっているというところだ。また、仮に▲7六歩△3四歩▲2六歩を選んだとしても、4手目△5四歩や△4二飛などの「角交換OK振飛車」への対応がないところも不満だ。 「級位者の得意戦法を作る」というコンセプトで言えば、中途半端に石田流を解説するよりも、角交換OK振飛車への対応を解説し、総合的に「▲7六歩△3四歩▲2六歩の出だしがオススメ」という道筋をつけてほしかったと思う。または、いっそのこと出だしにこだわらず、いろいろな有力作戦を浅く広く展示するのもアリだったろう。 近年、級位者〜低段者向けの佳書を連発している高橋道雄の本としては、ちょっと精彩を欠いたというか…、そもそも企画の立案段階で何か齟齬があったように思う。 各戦法を今まさにマスターしようとしている人にとってはそれなりに参考になると思うので、評価Cはちょっと辛目ではある。(2013Apr22) |