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単純明快 矢倉・脇システム | [総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 脇謙二 【編】 週刊将棋 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:1994年11月 | ISBN:4-89563-614-3 | |||
定価:1,165円 | 223ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
矢倉・脇システムの定跡書。 脇システムは、脇謙二七段(出版当時)が連採して好成績を挙げた形。広義では、▲3七銀戦法の基本形から(1)角が向かい合う、(2)互いに飛先を伸ばし合う、(3)互いに玉を入城するといった形〔基本図〕になっているものを指す。狭義の脇システムは、〔基本図〕から両端を突き合って、▲6四角△同銀▲2六銀〔狭義の脇システム図〕のことをいう。 脇システムは、相矢倉戦で先手が望みさえすれば、非常に実現しやすい作戦だ。何しろ、▲3七銀戦法の基本図から、△6四角に▲4六角と対抗すれば、もうほとんど「脇システム確定」である。駒組みから仕掛けまでで難しいところはあまりなく、大局観よりも経験値と研究がものをいう。 一方で、脇システムの進化は非常にゆっくりとしてきた。同時代に、森下システムや加藤流、▲4六銀-3七桂といった「大海原」があり、みんなの目がそちらに向いていたからだと思われる。その「大海原たち」はどんどん進化を続けた結果、2013年初頭現在では、プロの矢倉は「91手組」と「銀損定跡」に集約されており、個性を出すチャンスが非常に限定されている。 そんな中、脇システムが挑決という大舞台で指された。2013年1月8日の▲渡辺vs△羽生(棋王戦挑決第2局)(棋王戦中継サイト)で脇システムが登場。73手目まで前例の▲脇△木村戦(2003.11.21,B級2組)(将棋の棋譜でーたべーす)と同じ進行をたどり、後手が飛車切りの新手を出したものの、先手の丁寧な応接の前に敗れた。 脇システムもかなり定跡が絞り込まれているが、トップ棋士が採用したことにより、新たな鉱脈の可能性が感じられ、プチ流行を予感させる。(※▲佐藤康△渡辺戦(2013.01.09,A級)、▲三浦△羽生戦(2013.01.11,A級)と立て続けに登場。場合によっては爆発的な流行もありそうだ) ところで、脇システムが載っている棋書は非常に少ない。私が知る限りでは、以下の本に載っているくらいだ。(※ほんの少し触れているだけの棋書は省略) 2002-07 定跡外伝2,週刊将棋編,MYCOM (第7章の一部) 2002-03 矢倉道場 第四巻 新3七銀,所司和晴,MYCOM (第1章、第2章) 1999-04 矢倉3七銀分析【上】,森内俊之,MYCOM (第4章、両端突き合い型のみ) 1999-04 これが最前線だ!最新定跡完全ガイド,深浦康市,河出書房新社 (第2部・テーマ34で4p) 1994-11 単純明快 矢倉・脇システム,脇謙二,週刊将棋編,MYCOM 〔本書〕 1993-05 必勝!! 同型将棋破り,甲斐栄次,屋敷伸之監修,高橋書店 (Part12) 1989-03 矢倉ガイド,週刊将棋編,中村修協力,MYCOM (第2章で10p、両端突き越し型のみ) このうち、しっかりとページ数を割いて解説されているのは、本書と『矢倉道場 第四巻 新3七銀』のみ。ということで、本書は「脇システムを基本から解説した、貴重な一冊」である。 本書の前半は定跡解説、後半は実戦解説になっている。「基本から」といっても、プロの実戦を意識した作りになっており、アマ級位者向けの「こうなれば必勝です」という感じにはなっていないので注意。 定跡編の第1節は、角交換型。端歩の突き合いがない状態で、先手から角を交換していく。純粋に一手損で、同型で後手に手番が渡るので奇異な感じがするが、意外と有力。実際に脇は、この形で何局も戦っている(実戦編1〜5)。ただし、攻めるか受けるかを決める権利は、手番を握った後手にある。 第2節は、互いに端を詰めた形。互いの玉が狭くなっており、第1節に比べると無理気味の攻めでも通る可能性がある。それを狙ったのが、本節の▲3五歩△同歩▲同角の塚田流の仕掛けだ。一見、△3六歩と銀頭を叩かれるとまずいようだが、返し技がある。 第3節は、互いに端を突き合った形。端に争点があるので、角交換から▲2六銀と棒銀に出る筋がある。脇システムは、狭い意味ではこの形のことを指す。激しい戦いになるが、少なくとも先手から攻めることができる。 第4節は、▲1四歩と端を打診したときに、後手が棒銀に出る形。ただし、端の争点がない状態なので攻撃力は小さく、角交換から▲6三角または▲4一角と打ち込まれると、銀を引いて受けに回る展開になる。攻めというよりは、むしろ先手の動きを催促する手のようだ。 下記に第1章のチャートを示しておく。なお、第2章の実戦譜がチャートのどこに該当するかも書き込んでみた。 定跡編と実戦編が混在している棋書は、ページ数を合わせるために実戦譜を載せている(ように見える)ものも多いが、本書では定跡編も実戦編もしっかりと書かれ、バランスもいい。お互いに相互補完のような感じになっており、定跡を学んでから実戦譜を並べる、そしてまた定跡編を読み直す、といった好サイクルができる。実戦譜を並べることで、定跡編の「先手良し」がどの程度なのかを感じられるのも良い。 前述のとおり、とにかく脇システムの本は少ない。「矢倉は好きだけど、膨大な定跡を覚えるのはイヤだ、玉の薄い急戦もしたくない」という人にはオススメの戦型なので、まずは本書を読んでみよう。(2013Jan23) 〔追記〕 本書の評価は、AとBの境目で、悩んだ末にBとしました。 内容も良く、定跡編と実戦編のバランスも良かったのですが、定跡編が約100p強とやや少なめなのと、p79以下の重要変化でかなり古くなっている部分(「▲6四角成に△5三銀が本筋、△5三金は無理」とされているが、現在の定跡では「△5三銀は疑問手、△5三金が本筋」となっている)があることを考慮しました。(2013Jan25) ※誤植・誤字等: 特に見つかりませんでした。 |