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■単純明快 矢倉・脇システム

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単純明快 矢倉・脇システム [総合評価] B

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 脇謙二 【編】 週刊将棋
【出版社】 毎日コミュニケーションズ
発行:1994年11月 ISBN:4-89563-614-3
定価:1,165円 223ページ/19cm


【本の内容】
第1章 定跡編 ・矢倉脇システムの基本手順
第1節 角交換型
第2節 両端突き越し型
第3節 両端突き合い型
第4節 補足編・後手の棒銀
102p
第2章 実戦編 第1局 対宮田利男六段(1985.07.05,天王戦)
第2局 対羽生善治棋王(1992.06.12,天王戦)
第3局 対阿部隆六段(1993.03.05,王座戦)
第4局 対浦野真彦六段(1993.05.06,棋王戦)
第5局 対三浦弘行四段(1993.11.30,全日プロ)
第6局 対中田章道六段(1993.02.23,NHK杯予選)
第7局 対島朗七段(1993.10.30,早指し選手権戦)
第8局 対畠山鎮五段(1994.02.03,王将戦)
第9局 対長沼洋五段(1994.04.27,棋王戦)
第10局 対高橋道雄九段(1992.04.14,竜王戦)
121p

◆内容紹介
「矢倉は将棋の純文学」。でも分かりやすい矢倉を指したい人へ。脇システムは簡単です。
人の知らない戦法を指して楽に勝ちたい人、最近の矢倉定跡を煩しいと思う人、定跡通りの棋友をギャフンと言わせたい人、純文学を読んだことがない人などに矢倉・脇システムをお勧めします。


【レビュー】
脇システム矢倉・脇システムの定跡書。

脇システムは、脇謙二七段(出版当時)が連採して好成績を挙げた形。広義では、▲3七銀戦法の基本形から(1)角が向かい合う、(2)互いに飛先を伸ばし合う、(3)互いに玉を入城するといった形〔基本図〕になっているものを指す。狭義の脇システムは、〔基本図〕から両端を突き合って、▲6四角△同銀▲2六銀〔狭義の脇システム図〕のことをいう。

脇システムは、相矢倉戦で先手が望みさえすれば、非常に実現しやすい作戦だ。何しろ、▲3七銀戦法の基本図から、△6四角に▲4六角と対抗すれば、もうほとんど「脇システム確定」である。駒組みから仕掛けまでで難しいところはあまりなく、大局観よりも経験値と研究がものをいう。

一方で、脇システムの進化は非常にゆっくりとしてきた。同時代に、森下システムや加藤流、▲4六銀-3七桂といった「大海原」があり、みんなの目がそちらに向いていたからだと思われる。その「大海原たち」はどんどん進化を続けた結果、2013年初頭現在では、プロの矢倉は「91手組」と「銀損定跡」に集約されており、個性を出すチャンスが非常に限定されている。

そんな中、脇システムが挑決という大舞台で指された。2013年1月8日の▲渡辺vs△羽生(棋王戦挑決第2局)(棋王戦中継サイト)で脇システムが登場。73手目まで前例の▲脇△木村戦(2003.11.21,B級2組)(将棋の棋譜でーたべーす)と同じ進行をたどり、後手が飛車切りの新手を出したものの、先手の丁寧な応接の前に敗れた。

脇システムもかなり定跡が絞り込まれているが、トップ棋士が採用したことにより、新たな鉱脈の可能性が感じられ、プチ流行を予感させる。(※▲佐藤康△渡辺戦(2013.01.09,A級)、▲三浦△羽生戦(2013.01.11,A級)と立て続けに登場。場合によっては爆発的な流行もありそうだ)

ところで、脇システムが載っている棋書は非常に少ない。私が知る限りでは、以下の本に載っているくらいだ。(※ほんの少し触れているだけの棋書は省略)

2002-07 定跡外伝2,週刊将棋編,MYCOM (第7章の一部)
2002-03 矢倉道場 第四巻 新3七銀,所司和晴,MYCOM (第1章、第2章)
1999-04 矢倉3七銀分析【上】,森内俊之,MYCOM (第4章、両端突き合い型のみ)
1999-04 これが最前線だ!最新定跡完全ガイド,深浦康市,河出書房新社 (第2部・テーマ34で4p)
1994-11 単純明快 矢倉・脇システム,脇謙二,週刊将棋編,MYCOM 〔本書〕
1993-05 必勝!! 同型将棋破り,甲斐栄次,屋敷伸之監修,高橋書店 (Part12)
1989-03 矢倉ガイド,週刊将棋編,中村修協力,MYCOM (第2章で10p、両端突き越し型のみ)

このうち、しっかりとページ数を割いて解説されているのは、本書と『矢倉道場 第四巻 新3七銀』のみ。ということで、本書は「脇システムを基本から解説した、貴重な一冊」である。


本書の前半は定跡解説、後半は実戦解説になっている。「基本から」といっても、プロの実戦を意識した作りになっており、アマ級位者向けの「こうなれば必勝です」という感じにはなっていないので注意。

定跡編の第1節は、角交換型。端歩の突き合いがない状態で、先手から角を交換していく。純粋に一手損で、同型で後手に手番が渡るので奇異な感じがするが、意外と有力。実際に脇は、この形で何局も戦っている(実戦編1〜5)。ただし、攻めるか受けるかを決める権利は、手番を握った後手にある。

第2節は、互いに端を詰めた形。互いの玉が狭くなっており、第1節に比べると無理気味の攻めでも通る可能性がある。それを狙ったのが、本節の▲3五歩△同歩▲同角の塚田流の仕掛けだ。一見、△3六歩と銀頭を叩かれるとまずいようだが、返し技がある。

第3節は、互いに端を突き合った形。端に争点があるので、角交換から▲2六銀と棒銀に出る筋がある。脇システムは、狭い意味ではこの形のことを指す。激しい戦いになるが、少なくとも先手から攻めることができる。

第4節は、▲1四歩と端を打診したときに、後手が棒銀に出る形。ただし、端の争点がない状態なので攻撃力は小さく、角交換から▲6三角または▲4一角と打ち込まれると、銀を引いて受けに回る展開になる。攻めというよりは、むしろ先手の動きを催促する手のようだ。


下記に第1章のチャートを示しておく。なお、第2章の実戦譜がチャートのどこに該当するかも書き込んでみた。



定跡編と実戦編が混在している棋書は、ページ数を合わせるために実戦譜を載せている(ように見える)ものも多いが、本書では定跡編も実戦編もしっかりと書かれ、バランスもいい。お互いに相互補完のような感じになっており、定跡を学んでから実戦譜を並べる、そしてまた定跡編を読み直す、といった好サイクルができる。実戦譜を並べることで、定跡編の「先手良し」がどの程度なのかを感じられるのも良い。

前述のとおり、とにかく脇システムの本は少ない。「矢倉は好きだけど、膨大な定跡を覚えるのはイヤだ、玉の薄い急戦もしたくない」という人にはオススメの戦型なので、まずは本書を読んでみよう。(2013Jan23)


〔追記〕
本書の評価は、ABの境目で、悩んだ末にBとしました。

内容も良く、定跡編と実戦編のバランスも良かったのですが、定跡編が約100p強とやや少なめなのと、p79以下の重要変化でかなり古くなっている部分(「▲6四角成に△5三銀が本筋、△5三金は無理」とされているが、現在の定跡では「△5三銀は疑問手、△5三金が本筋」となっている)があることを考慮しました。(2013Jan25)

※誤植・誤字等:
特に見つかりませんでした。



【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] 
[著者] 
脇謙二 週刊将棋
[発行年] 
1994年

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