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マイナビ将棋BOOKS 菅井ノート 先手編 |
[総合評価] S 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)S レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 菅井竜也 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年1月 | ISBN:978-4-8399-4575-6 | |||
定価:1,890円(5%税込) | 288ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)対局前の過ごし方
(2)「竜棋会」 (3)地元の大名人 (4)井上一門 |
【レビュー】 |
▲石田流と▲中飛車を解説した戦術書。 菅井は関西の有望若手棋士で、本書出版時点で弱冠20歳である。石田流・ゴキゲン中飛車など「角道を止めない振り飛車」を得意とする、現代振り飛車の申し子でもある。斬新な発想も多く、いろいろな戦型で「菅井流」と呼ばれる形がある。 前作『菅井ノート 後手編』(2012.09)では、△ゴキゲン中飛車・菅井流を中心に、大量の研究を披露していた。 そして本作は、先手番の角交換系振飛車について、最新状況と、菅井のオススメの手順を記した本である。先手番の角交換系振飛車とは、「▲石田流」(正確には▲7六歩△3四歩▲7五歩の出だし全般)と「▲中飛車」(▲7六歩△8四歩▲5六歩の出だし)のことを指す。 各章の内容を、チャートを添えて紹介していこう。 第1章〜第4章は▲石田流。 第1章は、石田流急戦。というか、▲石田流に対し、△8四歩〜△8五歩と伸ばしてくる作戦全体を扱う。 第1節は、▲7四歩と仕掛ける形。以前は△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△6五角▲5六角!の鈴木流がよく指されていたが、本節では▲7四歩△同歩に(1)久保新手▲4八玉と(2)稲葉新手▲5八玉を扱う。どちらも4七を玉で守っているので、「次に▲7四飛と行くぞ」(△6五角が無効)と言っているわけである。 久保新手▲4八玉の方は、△4五角を喰らいそうだが、ちゃんと対策がある。これまでの本では、一番詳しいと思う。 なお、▲7四歩に△6二銀は当初あまり関心を持たれていなかった対応だが、最近見直されている。菅井の見解では「△6二銀の見直しにより、▲7四歩と仕掛けにくい」とのことで、▲7四歩急戦は今後縮小傾向になりそうだ。 第2節は、いわゆる升田式石田流。角交換にはなるが、急戦ではなくジックリ型である。数年前に流行った「▲7七銀から▲8六歩」に対して対策が進んできており、なんと40年前の升田の一手が見直される展開になっている。他には「菅井がやってみたい作戦」が披露されている。 第3節は、すぐに▲7六飛と浮く形。最近まで無筋とされていた手で、「菅井流」とも呼ばれるが、江戸時代の棋譜にも登場する。菅井の緒戦では角交換から△4五角となり、結果は先手が敗れたが、その後の研究で「△4五角は先手良し」の結論が導き出されている。現在は、角交換してから陣形を整える手が検討されている。 なお、もし後手から角交換できないとなれば、後手が△8四歩〜△8五歩と伸ばしても石田流本組を阻止できないことになるため、将棋の戦法全体の勢力図が大きく塗り変わる可能性さえある。 第2章は、石田流の持久戦。 先手は角道を止めることはできれば、石田流本組(▲7六飛+7七桂+9七角)を目指すのが常道であるが、後手の対策が進歩してきて、なかなか上手くいかなくなっている。 そこで▲7七角から▲6五歩ポンを目指す指し方が出ている。▲7七角型は、(1)仕掛けの態勢がすぐできる、(2)▲5九角から右辺への転換がスムーズ、などの利点があるが、2011年登場の「豊島流△5四歩〜△8四飛」が大きな壁として立ちはだかっている。出版時点(2013年1月)では「やや後手持ち」の雰囲気になっているが、菅井は「先手も十分やれる」という自らの研究を披露している。 第3章は、▲石田流vs4手目△8八角成。さまざまな新・早石田や升田式石田流、さらに石田流本組が猛威を振るうにつれて、石田流そのものを阻止する「4手目△8八角成」も多く指されるようになっている。 △8八角成には▲同飛と▲同銀がある。 ▲同飛は、力戦のような変化がすでに長手順で定跡化されているが、研究量が要求されることと、▲1八飛と感触が悪いこともあって、減少傾向とのこと。 ▲同銀に対して△5四歩と突くのが最新形。△4五角を防いで▲6八飛とすれば、△2二飛として角交換の相振飛車にできるのが△4二玉型と違うところ。 先手は作戦負けを防ぐため、▲7七銀!としたのが第2節。△6五角(両成り)の対策はもちろんある。 この角交換作戦は、アマではかなり多いと思うので、どちらを持つ人にとっても必読の章だ。 第4章は、▲石田流vs4手目△1四歩。△1四歩は比較的新しい手で、最新の石田流対策として研究対象になっている。以前は「4手目としては無意味」というような扱いだったかと思う。 もちろん、現代の△1四歩には意味があって、先手が1筋を受ければ相振飛車にしたときに端攻めしやすい(先手は▲7五歩と突いている以上、居飛車では戦いにくい)という利点がある。 先手が1筋を受けずに▲7八飛とした場合は、後手は1筋を詰めるのではなく、角交換から△3二銀と構える。この「△1四歩〜角交換〜△3二銀」が優秀で、先手は対抗策を模索している状態だ。もちろん、菅井はさらに奥まで研究を披露していて、先手がやれそうな道筋を示している。 第5章〜第7章は▲中飛車。角交換OKの振飛車として、「2手目△3四歩なら▲石田流、△8四歩なら▲中飛車」という振飛車党が多い。 第5章は、▲中飛車vs△6四銀。▲中飛車は、「角交換と5筋歩交換が両方実現すれば、先手の作戦勝ち」とされているので、本章の後手は「角交換して△6四銀と上がり、5筋歩交換の方を防ぐ」という作戦を採る。 一時期は、第1節の「△2二玉からカタ囲いにする“堅さ重視”の作戦」が主流だったが、5筋が手薄になる。そのため、やや古風にも感じられる「△3二玉型で△4四歩とし、中央を厚くする作戦」が見直されており、盛んに指されている。 本章でも菅井は未出の研究を惜しみなく披露している。p190の変化は本書出版直後の実戦で指され、対局者が本書をすでに読んで研究していたことが週刊将棋の記事で話題になっていた。 第6章は、▲中飛車vs△5四歩型の持久戦。後手は角道を止めて角交換を避け、5筋の歩交換を許す代わりに、銀冠等の堅い玉型で対抗しようとする。 本章での先手のメインの対策は、美濃囲いを決めずに▲1六歩と突く「菅井流」。△1四歩と突き返せば、居飛穴にはしにくい。後手が態度を保留すれば、先手は1筋位取り穴熊に組み、主に4筋攻めを狙っていく。 本章の後半では、従来型の▲美濃囲いでの戦い方も解説。後手は居飛穴に組むことはできる。先手は、堅さで劣る分の代償を駒組みの好形などで補償していく。 第7章は、▲中飛車vs△一直線穴熊。△ゴキゲン中飛車でも先後逆でこの戦型になるが、中飛車側が5筋位取りになる点が違う。 基本は、先手が3筋から袖飛車で攻めることになるが、先手の方が薄いため、苦労が絶えない。 そこで菅井は、早めに▲5四歩と仕掛けてしまうのを提案。「従来は△4四歩と止められて損とされてきた」(p250)が、「居飛車のディフェンスラインを上ずらせる」(p255)ことができるので、堅さが互角以上で戦える。 第8章は、石田流志向(3手目▲7五歩)に対する相振飛車。昔からある「相石田流」と、最近有力視されている「△5四歩〜向飛車」がある。ある程度の定跡化が進んだとはいえ、なかなか研究どおりの局面にならないこともあってか、本章だけは菅井の実戦譜が添えられている。 『後手編』の扱っている戦型が、やや行き詰まり感が出始めた△ゴキゲン中飛車vs▲超速なのに対して、本書の内容は、アマでも大流行中の▲石田流と▲中飛車であり、ある程度の成熟は見られるものの、まだまだいろいろな作戦が派生しそうである。その分、本書の方が賞味期限は長そうだ。 他書を圧倒するボリュームと品質は前作と同様。ページ数だけでなく、文章量も多めで内容も濃ゆいので、読破するには非常に骨が折れるが、読み終わったときの満足感はハンパない。 先手番で▲石田流や▲中飛車を指す人はもちろんのこと、後手番ではこれらの作戦を完全に回避することは困難なので(2手目△3二飛なら可能か?)、ほぼすべての指し将棋ファンが必携だといえる一冊である。(2013Apr17) ※p60の参考図は、△7八飛打で後手が耐えているように思いますが、どうなんでしょう? ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p186棋譜 ×「第25図以下の指し手A △5二金右▲7五銀…」 ○「第25図以下の指し手A ▲7五銀…」 ※△5二金右が指された局面が第25図のため。 |