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東大将棋ブックス 矢倉道場 第四巻 新3七銀 |
[総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 所司和晴 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2002年3月 | ISBN:4-8399-0678-5 | |||
定価:1,260(5%税込) | 222ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
◆内容紹介(MYCOMホームページより、一部割愛) |
【レビュー】 |
矢倉の定跡書。▲3七銀戦法から派生する、角対抗型(脇システム)と▲6五歩早突き急戦を解説。 矢倉▲3七銀戦法の主流は、まず▲4六銀-3七桂戦法で、次に加藤流。その他で有力なのが、本書で解説される「脇システム」と「▲6五歩早突き急戦」である。 脇システムは、▲3七銀△6四角に▲4六角と合わせればよい。その後の形は先手が選択できる。受けに回る展開もあるが、駒組みが分かりやすく、途中で乱戦になりにくく、ちゃんと矢倉城に入城して玉が堅く、経験値が生きやすいという特徴があり、よく「アマには特にオススメ」とされている戦型である。 ▲6五歩早突きは、先手の飛を睨んでいる△6四角を追い払ってから手を作ろうというもの。1990年代に盛んに指された。最近(2013年1月現在)はあまり指されていないが、▲4六銀型で行き詰まれば、再び指され始める可能性がある。互いに城外の玉のまま戦うことになる。 この2作戦はあまり似ているところはないが、▲3七銀戦法から派生できるところが共通点。「新3七銀」という書名は微妙なところで、「3七銀戦法のその他の作戦」が妥当だろうか(ちょっと冗長だが…)。 本書の内容をチャートを添えて紹介していこう。 序章は、本書の概略。第1章・第2章は「脇システム」で、端歩の関係で章が分かれている。第3章・第4章は「▲6五歩早突き急戦」で、先手が5筋から攻めるか3筋から攻めるかで分かれている。 第1章・第2章は△6四角と▲4六角が対抗する形。この形全般を「脇システム」と呼ぶこともある。本書の編集後記によれば、1980年ごろにアマで流行し、その後プロでは脇謙二が好んで指していた。有力ではあるものの、間口が狭く、他の大変化(▲4六銀、加藤流など)の方に注目が集まっていたため、脇システムは非常にゆっくりと進化してきた。それが2013年1月に大一番(▲渡辺△羽生、棋王戦挑決2)で指されたのをキッカケに、急速に注目を集めている。 第1章第1節は、脇システムを回避する形。後手が同形を避け、右金の移動を保留して角の打ち込みに備える。後手が経験値勝負にしたくない場合はオススメ。本書の構成上、「端歩突き合い型」に入れられているが、突き合う形になるとは限らないので、本来なら別の章を立てるべき内容だ。 第1章第2節は、両端突き合いから角交換〜▲2六銀とする形。棒銀に出る前に先手から角交換するのがポイントで、狭義で「脇システム」といえばこの形だ。手損しても4七に空間を開けないのが最大の発見。端攻め自体は受からないので、後手は△6九角か△4九角の筋で反撃することになる。 第1章第3節は、角交換せずに▲2六銀とする形で、「脇システム」以前はこれだった。後手から角交換されると、4七に空間が開くため、△6九角or△4七角から△3六角成とされる筋があり、これを受けるために先手は先攻することができない。 第2章は両端突き越し型。「両端突き合い型」とどちらを選ぶかの権利は先手にある。両端突き合いだと、第1章のような棒銀端攻めはできないので、別の展開が必要。 第2章第1節は、角交換せずに▲3五歩から仕掛ける形。『単純明快 矢倉・脇システム』(脇謙二,週刊将棋編,MYCOM,1994)では「塚田流の仕掛け」といわれていた。角で飛を睨まれているのに大胆な順だが、△3六歩▲4六銀△4五歩には▲6五歩(角取り)の切り返しが利くので大丈夫だ。この変化は、『単純〜』の頃の定跡がほぼそのまま残っている。 第2章第2節は、角交換して▲4六銀とし、あえて先後を交代させる指し方。『単純〜』では端歩を突いていない形が解説されていたが、両端突き越しの形はおそらく初登場。端歩なしの場合と似た変化が多いが、端歩突き合い型では端攻めが入る余地があるので、先攻できる後手の方に分がある変化が多くなる。 第3章・第4章の「▲6五歩早突き」は、『矢倉3七銀分析【上】』(森内俊之,MYCOM,1999)で「急戦▲6五歩」と書かれていた形。飛をにらんでいる角を追い払う手で、▲3七銀戦法の定跡を知らない人ならむしろ真っ先に考えそうな手だ。角を追うことはできるが、▲6五歩が伸び過ぎ気味で、後手は反発を狙ってくる。対して先手は、反発される前に早めの急戦を狙っていく展開になりやすい。仕掛けどころは、5筋or3筋。 第3章は、先手が5筋から動く形。狙いは、右銀を▲4六銀〜▲5五銀と繰り出して、中央を制圧すること。 第3章第1節は、▲5五歩に対して、先手の言いなりにならずに△5三銀と中央を固めるか、先手の言い分を通して△同歩とするかを選択。節のタイトルが、「△5三銀・△5五同歩型」と紛らわしいが、この2手が同じ変化で指されることは多くないので、「△5三銀型と△5五同歩型」が適当だろう。 第3章第2節は、▲5五歩に対して△6四歩と争点を増やしていく形。 第4章は、先手が3筋歩交換をする形。歩交換を邪魔している角を追い払ったので、ひと目自然な手である。狙うのは▲3六銀型からの理想形。 第4章第1節は、△8五歩・△7三桂型。この2手はほぼワンセットなので、どちらを先に指しても同じ形に合流することがある。 第4章第2節は、△6四歩型。単純な3筋歩交換を許さず、後手も6筋で反発して主張していく。 第4章第3節は、△3五同歩型。先手の言い分を通す代わりに、▲6五歩の伸び過ぎを狙っていく。 このレビューを書いた時点(2013年1月)では、脇システムと▲6五歩早突きについて最も詳しい定跡書だといえる。特に脇システムについては、大流行の兆しがあるものの、参考書籍が非常に少ないのが現状なので、本書のチェックが必要だろう。 全体評価はAとBの境目あたり。内容的にはAなのだが、誤植がやや多い(下記参照)のと、章構成が紛らわしい(第1章第1節は章を分けたい、第3章第1節は節を分けたい)ところがあるので、Bとさせていただく。(2013Jan30) ※誤字・誤植等(第1刷で確認): 目次 ×「第一節 角対抗△3五歩開戦型」 ○「第一節 角対抗▲3五歩開戦型」 目次 ×「第二節 角交換△4六銀型」 ○「第二節 角交換▲4六銀型」 p31 ×「第6図で先手はは角香交換と…」 ○「第6図で先手は角香交換と…」 p56 ×「▲4六角〜▲4八飛と角を取りにいく。▲4六角を入れずに…」 ○「▲3七角〜▲4八飛と角を取りにいく。▲3七角を入れずに…」 p57棋譜最終手 ×「▲同角引」 ○「▲同角」 p89棋譜3行目 ×「▲8七銀」 ○「▲8七角」 p106 ×「(1)▲8六同銀は、…(2)▲8六同歩には…(3)▲8五同歩なら…(4)▲6六歩と打って…」 ○「(1)▲8六同銀は、…(2)▲8六同歩には…(1)▲8五同歩なら…(2)▲6六歩と打って…」 4つの手はこういう↓関係なので。 ├(1)▲8六同銀… └(2)▲8六同歩△8五歩 ├(1)▲8五同歩… └(2)▲6六歩… p139棋譜1行目 ×「△ 7七角成」 △の後ろに不要な半角スペースが入っている。 p139 ?「後手も尋常な手段で速度で対抗できない」 ○「後手も尋常な手段では速度で対抗できない」 p142 ×「(2)▲6六銀なら…、(1)▲4八銀…」 ○「(1)▲6六銀なら…、(2)▲4八銀…」 p167 ×「A▲3六銀はAと似ているが、」 ○「B▲3六銀はAと似ているが、」 p221 ×「リードする手が難しい」 ○「リードする手が難しい。」 ※句点が脱字している。 |