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■稲葉陽の熱闘順位戦

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稲葉陽の熱闘順位戦
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マイナビ将棋BOOKS
SUPER自戦記シリーズ
稲葉陽の熱闘順位戦
[総合評価] B

難易度:★★★★☆

図面:見開き4〜6枚
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

【著 者】 稲葉陽
【出版社】 マイナビ
発行:2013年9月 ISBN:978-4-8399-4858-0
定価:1,575円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1局 豊島将之六段戦 「超難解な終盤戦」
第2局 糸谷哲郎五段戦 「最終盤のドラマ」
第3局 佐々木慎六段戦 「昇級の一番」
第4局 真田圭一七段戦 「気を新たにしての1勝」
第5局 阿部健治郎五段戦 「大逆転の一局」
第6局 船江恒平五段戦 「兄弟弟子対決」
第7局 糸谷哲郎六段戦 「負けられない一戦」
第8局 浦野真彦八段戦 「角交換振り飛車と戦う」
第9局 中村太地六段戦 「昇級にあと1勝とする」
第10局 大平武洋五段戦 「2年越しの昇級を決める」
棋譜解説=5局
・【コラム】(1)西遊棋 (2)研究会 (3)加古川将棋センターの思い出 (4)趣味と気分転換

◆内容紹介
2期目は開幕前から昇級するつもりで臨んだ。途中からは1敗すると昇級できないんじゃないかとさえ思った。C1では数年に1人、9勝1敗で涙をのむ棋士がいる。後悔するような将棋は指さないと心に決めていた」(まえがきより)

1年を通して行われる棋戦、順位戦。持ち時間各6時間の対局は深夜に及ぶことも多い。そこで紡ぎ出された棋譜は、まさに棋士の血肉であり、人生であるといって過言ではないでしょう。

本書が第一弾となる「
SUPER自戦記シリーズ」とは

 (1)棋戦昇級者が昇級までの道のりを自ら振り返り、解説する
 (2)単なる自戦記にとどまらず、実戦を題材にした講座も随所に掲載する


勢いのある棋士が、自らの熱戦を解説し、講座を展開する―。これまでのものとは一線を画す、自戦記を超えた自戦記シリーズです。

第一弾はC級1組を2年で駆け抜けた新星、稲葉陽七段。豊島七段、糸谷六段、阿部健五段、船江五段、中村太六段など、同世代のライバルとのハイレベルな戦いを詳細に解説します。
しかもその実戦を題材とした、角換わり、矢倉、横歩取りなどの定跡講座、中盤の急所、終盤の解明など、棋力アップにつながる内容も幅広く掲載します。
実戦をベースにしているからこそ説得力があり、生きた講座となっています。

マイナビが自信を持ってお贈りする新シリーズ。ぜひ手にとって読んでみてください!


【レビュー】
稲葉陽七段の自戦記本。

稲葉七段は関西のホープで、「関西若手四天王」の一角でもある。19歳でプロ四段、21歳で棋聖戦挑決進出など早くから頭角を現しており、竜王戦も順調に3組まで昇級。本書の出版とほぼ同時期に銀河戦で優勝するなど、今後のタイトル獲得も期待される。基本的には居飛車党であるが、時折振飛車も指しこなす。第71期(2012年度)順位戦C級1組で昇級を果たした。

本書は、その稲葉七段が順位戦C級1組での2年がかりの奮闘を自戦記で振り返る本である。



本書は、マイナビ将棋BOOKの新シリーズ「SUPER自戦記シリーズ」の1冊目でもある。コンセプトとしては、上昇気流に乗っている昇級者が、その1〜2年間の戦いを自戦記で描くという、フレッシュさを前面に押し出したものとなる。

これまでの自戦記集は、タイトルホルダーやA級棋士、または引退棋士の集大成といった「大物」がほとんどだった。そこに風穴を開けたのが、2008年出版の「新鋭棋士実戦集シリーズ」である。

これらは期待の若手棋士3〜4人の自戦記をオムニバス形式で収めており、随所に若手ならではの定跡解説や中終盤の研究が散りばめられているという、比較的斬新なものだった。これまでに『新鋭振り飛車実戦集』『新鋭居飛車実戦集』『関西新鋭棋士実戦集』の3冊が出版されている。

ただし、オムニバス形式であったがゆえに、各棋士の伝えたいことや対象棋力がバラバラになりがちで、やや中途半端だった感がある。また、自戦記本文と研究との切り替わりが分かりづらいという編集上の問題もあり、当サイトでの評価は抑え目になっている。

そこで今回の「SUPER自戦記シリーズ」では、「新鋭棋士実戦集シリーズ」のコンセプトを受け継ぎつつ、収録棋士を1人に絞って統一感を持たせている。また、定跡解説や研究部を少し目立つようにしたり、自戦記部のサブタイトルに番号を入れて区別するなどの細かい工夫が施されるなど、改良されている。

レイアウトは近年の「マイナビ将棋BOOKS」型から、以前の「羽生の頭脳」型に回帰。こちらの方が、指し手と文章を多く詰め込めるようだ。

「マイナビ将棋BOOKS」型

「羽生の頭脳」型

見開き右上の図面は、その見開きの指し手の1手目の局面になっており、読みやすさがアップ。編集面で細かいところに気を配った形跡がみられる。



各局の内容を紹介していこう。本書では稲葉は基本的に居飛車を持っている。

====最初の3局はC級1組の1期目====

(1) vs豊島将之六段
 戦型:角換わり腰掛け銀
  [定跡講座]△4二金型の攻防(6p)

    ・郷田新手(2002)〜同型腰掛け銀の流行期〜現在の流行形〜穴熊を目指す型
  [終盤の解明]合駒の変化(4p)
    ・「難解な手順が続出し、自分でも楽しい検討作業となった」(p24)
    →人によっては(プロ棋士でも)、苦痛を感じるだろう。稲葉の「検討好き」な部分が顕著に表れている。
  [終盤の解明]詰むや詰まざるやの攻防(4p)
    ・分岐の量がハンパない。

 以下のフレーズにも、稲葉の「検討好き」がよく表れている。

    「自分が指した将棋をいろいろと考えるのは楽しい時間でもある」(p32)

 ホントに将棋が大好きなんですね。


(2) vs糸谷哲郎五段
 戦型:△一手損角換わり ▲棒銀
  [序盤の研究]作戦の岐路(2p)
  [終盤の解明]最終盤での事件(2p)

    ・ネット中継との相違点を、対局者ならではの視点で解説している。


(3) vs佐々木慎六段戦
C級1組の1年目で、自力昇級の一局に失敗。これが翌年のさらなる飛躍につながった。

 戦型:▲ゴキゲン中飛車(端歩で調整)△丸山ワクチン
  [中盤の急所]「指しやすい」から「優勢」にする難しさ(2p)
  [中盤の急所]玉の安全度の見極め (1p)



====ここからC級1組の2期目====

(4) vs真田圭一七段戦
本局からC級1組2年目。

 戦型:相矢倉▲4六銀-3七桂 △8五歩型
  [定跡講座]△3三桂の変化(3p)

    ・▲2五桂に△3三桂とする変化。本譜は▲2五桂に△4五歩を採用。
  [中盤の急所]藤原流▲4六銀(1p)
    ・▲2五桂に△4五歩のとき、▲同銀△2五銀▲同歩△5三桂▲4六銀が藤原流。
  [終盤の解明]渡してはいけない駒(1p)


(5) vs阿部健治郎五段戦
 戦型:横歩取り△8四飛-5二玉型
  [序盤の研究]現代将棋の恐ろしさ(1p)
  [中盤の急所]方針を一貫するなら▲6五金(1p)
  [終盤の解明]方針の一貫(2p)
  [終盤の解明]一手違いの終盤戦(2p)


形勢不利から逆転した一局。本局では、押さえ込むのか攻めるのか、方針を一貫させることの大事さと難しさに焦点が当てられている。


(6) vs船江恒平五段戦
 戦型:相矢倉▲4六銀-3七桂 △9五歩型
  [定跡講座]主流の▲3五歩(9p)

    ・矢倉91手組の歴史と現状、その後
    →91手組は『木村の矢倉 3七銀戦法最新編』(木村一基,日本将棋連盟発行,マイナビ販売,2013.06)で詳しく解説されている。その補完として、矢倉ファンは必読。
  [中盤の急所]矢倉は玉を下段に落とせ


(7) vs糸谷哲郎六段戦
 戦型:横歩取り△8四飛-5二玉型
  [中盤の急所]飛車の逃げ場は?(1p)
  [中盤の急所]染み付いている感覚(1p)

    ・「後で指せる手は含みとして残す」というプロ感覚が招いた、レアケースの失敗例。
  [終盤の解明]後手の勝負手(1p)
  [終盤の解明]認識のずれ(1p)

    ・稲葉が寄せを意識していたとき、糸谷はすでに相入玉の点数勝負を視野に入れていた。


(8) vs浦野真彦八段戦
 戦型:△ダイレクト向飛車
  [定跡講座]▲6五角の変化1(1p)

    ・△2二飛にすぐ▲6五角はどうか?
  [定跡講座]▲6五角の変化2(1p)
    ・△6二玉に▲6五角はどうか?
     これらの序盤定跡を詳しく知りたい人は『ダイレクト向かい飛車徹底ガイド』(大石直嗣,マイナビ,2013.06)の第2章・第3章を参照。
  [中盤の急所]考慮の中身(1p)
  [中盤の急所]指し手の流れに沿った攻め(1p)



(9) vs中村太地六段戦
 戦型:相矢倉▲3七銀加藤流
  [定跡講座]終盤戦も見据えた手待ち(3p)
  [終盤の解明]踏み込みのタイミング(1p)
  [終盤の解明]相手の言いなりにならない(2p)


順位戦ならではの「負けられない戦い」という感じが本局の随所に出てくる。


(10) vs大平武洋五段戦
 戦型:矢倉模様▲カニカニ銀
  [序盤の研究]ほろ苦い順位戦デビュー

    ・C級2組のデビュー戦で、児玉孝一七段(カニカニ銀の本家)に負けたときの形を紹介。
    →本局はその修正版。カニカニ銀対策に悩んでいる人はご一読を!
  [中盤の急所]主張点を作らせない



本文中にもいろいろなところに過去の実戦例が登場し、稲葉の「研究好き」「検討好き」なイメージがバシバシ伝わってくる。その一方で、中終盤の「勝負術」に長けた面も見られ、総合力は非常に高い。

自戦記は全10局、棋譜解説は4局と、量的にはそんなに多い訳ではないが、密度は濃い。「C級1組の2年分のドラマ」ということであれば、20局全部載せてほしかったけどね。

居飛車党なら十分「買い」の一手だろう。(2013Dec04)


※誤字・誤植等(第1版第1刷で確認):
p220棋譜2段目 「△4二角」の「角」だけフォントサイズが小さくなっている。数字のサイズに合わせてしまったと思われる。



【関連書籍】

[ジャンル] 
自戦記
[シリーズ] 
マイナビ将棋BOOKS SUPER自戦記シリーズ
[著者] 
稲葉陽
[発行年] 
2013年

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