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Sports Graphic Number 1010 藤井聡太と将棋の天才。 |
[総合評価] A 難易度:★★ 図面:ほとんどなし 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:ほとんどなし 読みやすさ:A- 「観る将」向き |
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【著 者】 (ナンバー編集部) | ||||
【出版社】 文藝春秋 | ||||
発行:2020年9月 | ISBN:- | |||
定価:640円(10%税込) | 106ページ/27cm |
【本の内容】 |
・[最年少二冠の輝き] 藤井聡太「天翔ける18歳」(文=北野新太)=6p ・[最年少街道は続く] 記録で辿る異次元の歩み(文=後藤元気)=2p ・[東海の血脈] 板谷一門の偶然と必然(文=藤島大)=4p ・[トップ棋士縁側対談] 佐藤天彦×中村太地「藤井はピカソか、モーツァルトか」(文=伊藤靖子)=4p ・[永世名人の慧眼] 中原誠が語る18歳の羽生と藤井(文=片山良三)=3p ・[特別エッセイ] 22時の少年――羽生と藤井が交錯した夜(文=先崎学)=1p ・[プロフェッサー解説] 天才が切り拓いた矢倉新時代(文=勝又清和)=2p 〔勝負師たちの肖像〕 ・[新名人の決意] 渡辺明「敗北の夜を越えて」(文=大川慎太郎)=4p ・[失冠からの再出発] 木村一基「受け師は何度でも甦る」(文=北野新太)=2p ・[タイトル戦で振り返る] 王者たちの覇権20年史(文=小島渉)=2p ・[振り飛車への愛] 久保利明「変える勇気、変えぬ信念」(文=高川武将)=4p ・[竜王のターニングポイント] 豊島将之「仲間から遠く離れて」(文=諏訪景子)=4p ・[58歳の矜持] 谷川浩司「光速は終わらない」(文=片山良三)=4p ・[藤井キラーの肖像] 大橋貴洸「勝負スーツに込める志」(文=大川慎太郎)=4p ・[将棋界が揺れた1年] 羽生を止めろ 七冠ロード大逆転秘話(文=鈴木忠平)=5p ・[名著8選]読む将≠フススメ(文=後藤元気)=1p ・[偉大なる先人の足跡] 佐藤康光が語る「大名人、この一局」 大山康晴/升田幸三/中原誠/加藤一二三(文=伊藤靖子)=4p ・[最強女流の胸のうち] 里見香奈「腹立たしいけど、好きだから」(文=内田晶)=3p ・[好きなことで、生きていく 教えてアゲアゲさん! 将棋界のYouTuber事情(文=雨宮圭吾)=1p ・[陰の演出家] 棋士を支える呉服店(文=内田晶)=2p ・[一筆入魂] 将棋と書の深い関係(文=小島渉)=2p ・[ほとばしる将棋熱] 愛棋家アスリート、3手詰め!(文=いしかわごう/井山夏生/堀江ガンツ)=2p ・[疾走する晩成棋士] 佐藤和俊「不惑の青春」(文=北野新太)=4p ・[復活Vインタビュー] 照ノ富士「太く短く、全力で」(文=佐藤祥子)=3p ・[CL決勝で見えた戦術トレンド] バイエルン vs. PSG 「ノンストップ・フルパワー・フットボールの幕開け」(文=木崎伸也)=3p 〔REGULARS〕 ・[連載第11回]イチロー実録 2001-2019 ─51刷の取材ノートから(文=小西慶三)=2p ・[The CHAMPIONS(70)]河野公平「亀田興毅に引導を渡したタフ・ボーイ」(文=前田衷)=2p ・[新連載第2回]ラストマッチ──現役最終戦に秘めた思い 野村忠宏(文=鈴木忠平)=3p ・〔GO FOR TOKYO 2020〕 田中希実(陸上・中長距離)=1p ・〔BEYOND THE GAME〕 藤島大「内田篤人の引退に思う」 ・〔COLUMNS & ESSAY〕 池江璃花子/松岡修三/新版だけが知っている/小川勝 ・〔CULTURE BOX〕 新刊ドラフト会議/村田良太/スポーツまるごとHOWマッチ/試合にでる英単語 ・〔SCORE BOARD〕 Baseball/MLB/Bascketball/Olympic Road/J.Soccer/Tennis/Formula One/Kakutogi/Pro-Wrestling/Horse Racing ◆内容紹介 本誌初の将棋特集! 藤井聡太と将棋の天才。 Wonder Athletes on the Board |
【レビュー】 |
将棋を特集したアスリート雑誌。 雑誌『Sports Graphic Number』(以下、単に『Number』)といえば、各スポーツ界のトップレベルの選手たちを追い続けた、一流スポーツ誌である。隔週発売で、現時点(2020年9月)で40年の歴史がある。各号によって特集する競技は異なり、オリンピックやワールドカップなど特に注目度の高いイベントの場合は、その号の発行部数がグンと伸びることもある。 その『Number』が、今回初めての「将棋特集号」となった。これまでにもプロ棋士の記事が載ることは何度もあったものの、雑誌全体のメインが将棋になるのは初になる。「『Number』が将棋プロ棋士たちをアスリートとして認めた」として、大きな話題になった。 本書の内容を簡単に紹介していこう。(将棋以外の記事については割愛します) ・[最年少二冠の輝き] 藤井聡太「天翔ける18歳」(文=北野新太)=6p −藤井が棋聖を獲得した2020年7月16日のことと、三段リーグを突破した2016年9月のことと、デビュー14連勝の翌日の2017年5月のことと、王位を獲得した2020年8月20日のこと、など。 ・[最年少街道は続く] 記録で辿る異次元の歩み(文=後藤元気)=2p −藤井の数々の最年少記録について。 ・[東海の血脈] 板谷一門の偶然と必然(文=藤島大)=4p −藤井が属する「板谷一門」の系譜を、石田和雄九段(板谷四郎九段の弟子)、杉本昌隆八段(板谷進九段の弟子、藤井の師匠)に取材。「よく考える」、「(将棋については)先輩も後輩もない」、そして「(世代を超えて)藤井は板谷四郎を受け継いでいる」など。 ・[トップ棋士縁側対談] 佐藤天彦×中村太地「藤井はピカソか、モーツァルトか」(文=伊藤靖子)=4p −中村、佐藤から見た藤井将棋について。「天才とは(感性ではなく)論理的なものである」「圧倒的な計算力に基づいている」と二人のタイトル経験者が語っており、激しく同意。 ・[永世名人の慧眼] 中原誠が語る18歳の羽生と藤井(文=片山良三)=3p −年齢が一回り、二回り離れているときの「やりにくさ」について。大山vs中原、中原vs羽生、中原vs屋敷などが題材。 ・[特別エッセイ] 22時の少年――羽生と藤井が交錯した夜(文=先崎学)=1p −2017年3月26日に開催された、ニコニコ生放送での企画『電王戦×3月のライオン 「第零期 獅子王戦」』での顛末。当時中学生の藤井は、夜10時を過ぎると生放送イベントに出られなくなるが、盤上は千日手模様で……。 ・[プロフェッサー解説] 天才が切り拓いた矢倉新時代(文=勝又清和)=2p −矢倉の変遷について。本書ではこの記事だけ、図面や符号が出てくる。藤井が二冠を獲得した棋聖戦や王位戦で、矢倉が多く登場したことを受けて解説している。ラグビーやサッカーで例えているのがスポーツ誌らしさ。 〔勝負師たちの肖像〕 ・[新名人の決意] 渡辺明「敗北の夜を越えて」(文=大川慎太郎)=4p −棋聖戦第4局で渡辺が負けた当日、帰路の新幹線内での取材と、その後の渡辺が名人を獲得して4日後の取材から。渡辺が負けた場合のことを想定していたとは。 ・[失冠からの再出発] 木村一基「受け師は何度でも甦る」(文=北野新太)=2p −木村の王位失冠から4日後の単独インタビュー。弱気な面も、「不撓」の面も見せて、木村は前を向く。 ・[タイトル戦で振り返る] 王者たちの覇権20年史(文=小島渉)=2p −この20年間のタイトル変遷。写真入りの表で、とても分かりやすい。 ・[振り飛車への愛] 久保利明「変える勇気、変えぬ信念」(文=高川武将)=4p −振り飛車を指し続ける久保。彼もまた、コロナの自粛期間中に、自分の将棋を徹底的に見直し、棋風改革に取り組んでいた。それが今期(2020年度前半)の好成績につながっている。 −後半は、久保のメンタルの変遷。「ストイック」から「楽しむ」へ、「捌きのアーティスト」に「粘りのアーティスト」がプラス。そしてそれでも捨てなかった「振り飛車」。 −冒頭の久保の写真が、カッコよすぎるんですけど…!(・ω・*;) ・[竜王のターニングポイント] 豊島将之「仲間から遠く離れて」(文=諏訪景子)=4p −研究会やVSを盛んに行ってきた豊島が、研究パートナーをソフト一本に絞った理由とは。そして見えてきた、「ソフトオンリーの研究」の限界点とは。 ・[58歳の矜持] 谷川浩司「光速は終わらない」(文=片山良三)=4p −最年少名人が語る、棋士の「年齢論」。衰えを感じるのはいつか。トップレベルに達するのはいつか。 −後半は、AIの台頭で棋士の「芸術家」の部分が出しにくくなる中で、谷川がフリークラス宣言をせずに順位戦を指し続ける理由。やっぱり将棋が好き。 ・[藤井キラーの肖像] 大橋貴洸「勝負スーツに込める志」(文=大川慎太郎)=4p −大橋が目立つ色のスーツを愛用する理由と、「耀龍」に込められた意味。人間味あふれる若手棋士の、AI肯定「観」。 ・[将棋界が揺れた1年] 羽生を止めろ 七冠ロード大逆転秘話(文=鈴木忠平)=5p −藤井フィーバーから想起される、25年前の「羽生七冠フィーバー」。大優勢の局面で森下に生じた「心の空白」とは。あるはずの詰み筋が見えなかった森けい二を陥れた「魔」とは。 ・[名著8選]読む将≠フススメ(文=後藤元気)=1p −棋書を読むのが好きな人のためのオススメ本8冊を紹介。本書で唯一の棋書レビューページ。 −『王手!将棋戦国絵巻』、『将棋の渡辺くん』、『一葉の写真─若き勝負師の青春』、『将棋名人戦全集』、『将棋エッセイコレクション』、『戦う将棋指し』、『毎日コツコツ 飯島栄治の詰将棋トレーニング1手3手』、『親子で楽しむはじめての将棋』。 −すみません、弊サイトではまだ1冊だけしかレビューできてない…orz ・[偉大なる先人の足跡] 佐藤康光が語る「大名人、この一局」 大山康晴/升田幸三/中原誠/加藤一二三(文=伊藤靖子)=4p −昭和の大棋士を佐藤康光が語る。独特の勝負哲学の大山。形勢判断が難しい升田将棋。大局観がすごい中原。美的感覚が違う、信念の加藤。 ・[最強女流の胸のうち] 里見香奈「腹立たしいけど、好きだから」(文=内田晶)=3p −女流棋界の圧倒的王者・里見香奈に、並び立つ西山朋佳。そして変化する将棋観。里見も谷川と同じく「やっぱり将棋が好き」。 ・[好きなことで、生きていく 教えてアゲアゲさん! 将棋界のYouTuber事情(文=雨宮圭吾)=1p −将棋YouTuberのパイオニア・折田翔吾四段が、他のチャンネルも含めた現状を簡単に紹介。 ・[陰の演出家] 棋士を支える呉服店(文=内田晶)=2p −将棋ファンにとって、和服といえば「白瀧呉服店」。大舞台を戦う棋士に和服をオススメするだけでなく、管理もセレクトもこなしており、棋士向けならではのカスタマイズまでしているとは! −単なる商売ではなく、隅々まで行き届いたこだわりが、長年の信用と信頼を勝ち取っている訳ですね…φ(。_。 )m メモメモ ・[一筆入魂] 将棋と書の深い関係(文=小島渉)=2p −揮毫にスポットライト。大山の「王将」、佐藤天彦の「遊」、原田泰夫の「三手の読み」、藤井聡太の現在の書と今後の予想。 −写真は3枚だけ。文中に出てくる書は、全部写真を載せてほしかったな。 −揮毫を扱った棋書は『棋士と扇子』(2002)が思い浮かぶ。もう18年も経ってるから、現在活躍してる棋士のものはあまり載ってないけどね…。 ・[ほとばしる将棋熱] 愛棋家アスリート、3手詰め!(文=いしかわごう/井山夏生/堀江ガンツ)=2p −別の競技のアスリートから、将棋好きの声を3編。 −サッカーの中村航輔「『玲瓏』がカッコいい!」 −テニスの西岡良仁「将棋はテニスに役立つ!」 −プロレスの田口隆裕「『受け』は将棋もプロレスも共通!」 −ちなみに「3手詰め!」は「3人の声が載っている」という意味のようで、詰将棋は全然関係なし。本書で唯一タイトルがスベってる感じがする(笑) ・[疾走する晩成棋士] 佐藤和俊「不惑の青春」(文=北野新太)=4p −42歳で全盛期も迎えつつある佐藤和俊七段。晩成棋士として登場。彼にスポットを当てるとは、『Number』の慧眼が凄い! −100m11秒32! ピアノも弾ける! −竜王戦で1組決勝で敗れて、奥様の「な、なんてこった」がサイコーですね(笑) 〔総評〕 『Number』で将棋特集が行われると聞いて、Amazonで予約したのが発売2日前。発売日に発送されないので、なんでだと思ったら、すでに初版がなくなり、再々増刷で20万部突破とのこと。近年では最高レベルの発行部数だそうで、「それじゃぁ届かないのもやむなし。でも早く読みたい!」と、到着を待った。 届いてみて、驚いた。 てっきり、藤井聡太の二冠獲得に焦点を当てているのかと思いきや、藤井を取り巻くプロ棋士全体をアスリート集団と認め、多くの棋士たちの個別取材を行っていた。対象棋士は、「観る将棋ファン」(観る将)であれば誰でも知っているが、TVニュースやワイドショーにはあまり出てこない棋士たちが多い。 記者も、ふだんからちゃんと将棋を専門的に取材している人たちばかり。符号や図面はほぼ登場せず(勝又七段の矢倉解説だけは別)、将棋の内容そのものにはほとんど触れないものの、ミーハーな記事や、他から寄せ集めてきたような記事や、憶測で書かれたような記事は一つもなかった。 ボリュームもかなりのもの。将棋記事は計72ページだが、版型が大きくて、かつ、文章がギュッと詰まっているので、「将棋世界」に換算すれば150ページくらいの分量になる。(あえて言えば、「将棋世界」よりも少し文字が小さく、人によっては読むのが大変かもしれない) 個人的に特に印象に残ったのは、先崎九段の「第零期 獅子王戦」のコラムと、佐藤和俊七段の記事と、白瀧呉服店の話。あまり他では見られそうにない話だったのと、特別に「スピリット」を感じた記事だったので。 『Number』の姿勢には、歴史あるアスリート誌の「矜持」を感じる。この内容だったら、次回も必ず買います。 (2020Sep09) |