zoom |
マイナビ将棋BOOKS 固めてドカン!対四間飛車 ミレニアム&トーチカ戦法 |
[総合評価] B 難易度:★★★☆ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)B+(量)B レイアウト:B+ 解説:A 読みやすさ:B+ 上級〜有段向き |
||
【著 者】 高橋道雄 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年9月 | ISBN:978-4-8399-7413-8 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
ミレニアム戦法・トーチカ戦法の戦術書。 1990年代後半、藤井システムの猛威にさらされ居飛穴に組みにくくなった時代。居飛車側は「なんとか美濃囲いよりも堅くて安全に組める方法はないか」と模索し、たどり着いた一つの答えが「8九玉型」だった。▲8九玉が振り飛車の角筋を逸れているため、ナナメや端からの猛攻を喰らいにくく、金銀を寄せれば相当に堅くて、急所も分かりづらい。 プロでは2000年に流行したため、「ミレニアム」という名が付いた。その後、居飛車からの仕掛けが難しくて千日手になりやすいことや、藤井システムに対しても居飛穴に比較的安全に組める手法が見つかって、ミレニアムは廃れていたが、AI時代に入って考え方が見直されたことや、新たな打開の方法が見つかって、若手棋士を中心に再流行し始めている。 本書は、広い意味での「ミレニアム」を、▲6七金型の「ミレニアム」と▲6六角型の「トーチカ」に分類し、それぞれの戦い方を解説した本である。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「ミレニアム・トーチカ囲いとは」。 ・ミレニアムは「城」。右銀を7九へ引き付ける。右金は6七へ上がり、上部を厚くする。 −登場当初はいろいろな名前で呼ばれていたが、2000年頃に流行したので「ミレニアム」(千年紀)というのが定着した。 ・トーチカは「要塞」。7九へ収めるのは右金。金銀を二段目までに集める低い構え。 〔囲いの名称〕 ・8九玉型で固めた囲いを総称して「ミレニアム」と呼ばれることが多いが、本書では区別している。(右図) −2001年の所司本『四間飛車道場 第一巻 ミレニアム』では、どちらも「ミレニアム」である。(「6七金型ミレニアム」、「6六角型ミレニアム」、「5五角型ミレニアム」と分類されている) −2003年の三浦本『鉄壁!トーチカ戦法』では、どちらも「トーチカ囲い」とされている。(「▲6七金型トーチカ」、「▲6六角型トーチカ」と分類されている) −最近流行しつつある「振り飛車ミレニアム」は、△8一玉型(+△8二銀+△7一金)をミレニアムと呼んでいるし、△7二玉型のままでも「振り飛車ミレニアム戦法」だったりする。(参考:2020年の村田本『将棋革命!振り飛車ミレニアム戦法』) −※(2020Sep26追記)本書の約2週間後に出版された、2020年9月の宮本本『1冊でわかる ノーマル振り飛車 基礎から流行形まで』では、▲6六角型を「トーチカ(ミレニアム)」としている。ただし右銀は▲5七銀から攻めに使っている。 −本書の「トーチカ」の形は、1999年時点で「西田スペシャル」と呼ばれていた記憶がある。その後、8九玉型にバリエーションが加わり、「かまくら」とか「蒲鉾(かまぼこ)囲い」とか「三浦囲い」とか、いろいろな呼称が提案されて、現在に至る。 〔囲いの特徴〕 ・本章では言及なし。 〔他章から抜粋〕 ・堅さだけなら、居飛穴より劣る。 −▲8九玉型は、あっけなく寄せられることもあるので、堅さの維持に注意。 ・その代わり、桂を攻め駒として使える。 ・▲5七角が左右をにらんでなかなかの好配置。 −トーチカだと角の左の利きも通っており、振り飛車は銀冠に組みにくい。(※△8四歩を▲同角と取られる) |
・本書では、△四間飛車側が藤井システム模様で早めに△9五歩と伸ばしてきたときを[基本図](右図)とする。(端を保留して、△6四歩や△4三銀が先になることもある。実戦編で触れる) −[基本図]から、第1章ではミレニアム、第2章ではトーチカの組み方と戦い方を解説する。 |
第1章は、「ミレニアム」。 ・まず、右銀を▲4八銀で保留して、▲7七角と上がる。(※居飛穴の場合は▲5七銀〜▲7七角が多い) ・続いて▲2五歩〜▲6八角として、△2二飛と受けさせる。 ・▲6六歩〜▲6七金〜▲7七桂と上部を固めながら、玉の引き場所を空ける。 ・後手の角筋を避けて▲8九玉と引き、▲7八金と金銀3枚の連結を良くする。 −玉が角筋を避けているので、藤井システムの猛攻はない。安全に組みやすい。 ・6筋を補強して▲5七角と上がる。 ・▲5九銀〜▲6八銀右と、右銀を下段から囲いに引き付ける。 ・囲いを発展させる前に、▲3六歩〜▲3七桂と活用しておく。△4五歩が浮くなら思い切って▲4五桂と跳ねておけば指せる。 ・端を強化するため、▲8八銀〜▲7九銀右と固めて、ミレニアムの完成。 −さらに▲8六歩と発展させるかどうかはミレニアムでは悩ましい。▲8七歩型には△8五桂打のつなぎ桂が有効で、▲8六歩型は△9四桂が効果的になることがある。 ・あとは大駒の交換を狙っていこう。 −後手の1筋の歩の形(△1三歩型か、△1四歩型か)に注意。中盤の対応に影響している。 −▲7七桂の桂頭は弱点ではあるが、ミレニアムでは△7六歩の瞬間がやや甘いので、逆襲もあり得る。後手にとってもリスクのある場所。 −9筋逆襲の▲9六歩も視野に入れておきたい。 −飛角桂で仕掛けられるように工夫しよう。 −堅さを生かし、ときには大駒を見捨てるのも可。 実戦編(1) ▲高橋道雄△真部一男,2001年9月3日 △四間飛車▲ミレニアム。 ▲8八銀を先に上がったのが、講座編とは異なる。菊水矢倉が先に完成し、玉の横腹が開いたまま駒組みが続いたが、その他の組み方はだいたい講座通り。仕掛け前に▲2九飛△1四歩の交換を入れたので、結果的には講座編で△1四歩が入った変化になった。 中盤では先手の飛交換要求に対し、△4五歩と拒否する展開。中盤は丁寧に細かく指す必要があるので、荒くならないように気を付けよう。自陣が薄くなる前に手を入れることも大事。 実戦編(2) ▲中村修△高橋道雄,2002年11月30日 ▲四間飛車△ミレニアム。 後手番でも組み方は講座どおり。本譜の先手は銀冠から穴熊に潜っている。完全に組ませてしまうと穴熊の方が堅くなるので、機を見て暴れていく。1筋の端の攻防は、穴熊よりもミレニアムの方が玉の位置が良く、利がある。香の三段ロケットが先後ともに現れたのが珍しい一局。 実戦編(3) ▲高橋道雄△藤井猛,2017年9月30日 △四間飛車▲ミレニアム。 講座編の△9五歩型ではなく、△9四歩型。▲6八角に講座編では△2二飛だったが、本譜は△6二玉。△2二飛と△9五歩を省略した作戦なので、先手のミレニアム完成より後手のダイヤモンド美濃完成の方が早い。後手に仕掛けられる前に▲2四歩△同歩▲2六飛とやっておく手が、善悪は微妙ながら実戦的なので、覚えておくとよい。 |
第2章は、「トーチカ」。 ・まず、右銀を▲4八銀で保留して、▲6六角と上がる。(※第1章「ミレニアム」では▲7七角と上がっていた) −この時点で居飛穴の可能性はほとんどなくなる。角頭を狙われたときに▲7七桂とセットとなるため、居飛穴には組めない。 ・▲7七桂と、角頭を保護する。 ・▲8八銀と上がり、玉頭と端を保護する。 ・▲6八金寄、▲7九金、▲8九玉と固める。手順はどれもある。(本書では▲7九金〜▲8九玉〜▲6八金寄としている) −囲いの前に▲3六歩〜▲3七桂を優先させるのもあり。 ・右銀を▲5九銀〜▲6八銀と囲いに引き付けて、トーチカの完成。 ・トーチカでは▲8六歩も突きたい。 −桂頭が薄いため、いつでも▲8七銀と上げて、桂頭をカバーする意味。(ミレニアムでは▲6七金が桂頭を保護していた) ・先手の角が好位置で、後手は銀冠に組めず、また△4五歩と角道を通す手も牽制しているので、高美濃の状態で動くことになる。 −薄い5筋に△5二飛と振り直すか、△3二飛と石田流を目指すケースが多い。 −▲6六角型は、後手の△4五歩〜△4四銀などの捌きを抑える効果もある。 ・先手は▲1六歩と▲3七桂を指せると理想的だが、間に合わないことも多い。 ・よって、▲8五桂と桂交換を挑む手を覚えよう。 −トーチカは桂がいなくてもあまり堅さが変わらないが、高美濃は桂がいなくなると弱体化する。 −自分だけ▲8六桂と打つスペースができる。 ・大駒の配置のバランスに注意。 −▲2八飛には▲5七角、▲3八飛には▲7七角と覚えよう。 ・△3五歩として、先手の右桂の活用を阻む指し方は、かつてはトーチカの作戦負けとされていた。(p133) −AI時代には見方が変わり、石田流本組が捌き始める前に玉頭戦を挑めば、先手も指せている。 ・あっさり△6四銀型を作らせるような駒組みは避けたい。 −対△三間飛車のときは△6四銀型を作られやすいので要注意。 実戦編(1) ▲高橋道雄△藤井猛,2000年11月20日 △四間飛車▲トーチカ。 ▲3六歩と急戦を見せて藤井システムの玉を移動させ、▲6六角からトーチカにスイッチ。ただし、2020年現在なら▲3六歩では▲9六歩or▲6六角を優先したいとのこと。早めに右桂を活用しようとするのは、囲いの充実と▲1六歩(幽霊角対策)など指したい手が多すぎて、両立が難しいようだ。 実戦編(2) ▲鈴木大介△近藤誠也,2020年2月5日 ▲四間飛車△トーチカ 1筋の歩を突き合った上で後手がトーチカを目指している。先手は▲3七桂と石田流の組み合わせが良くなく、△2五桂からの桂交換で飛が狭かった。この筋が見つかったことが、トーチカ復権の一つの要因かもしれない。 実戦編(3) ▲阿部光瑠△青嶋未来,2020年4月16日 △四間飛車▲トーチカ 序盤で、振り穴の可能性を見せる後手に対し、▲9六歩△9四歩で早い穴熊を牽制し、▲3六歩で急戦を見せた後、▲6六角からトーチカを目指す駒組み。互いに駒組みを牽制する手を出して、△振り穴▲トーチカに落ち着いた。現代の再流行では、以前のような「藤井システムvs8九玉型」だけでなく、こういった序盤の駆け引きも多いようだ。 |
〔総評〕 本書は、広義の「ミレニアム」を狭義のミレニアム(▲6七金型)とトーチカ(▲6六角型)に分類し、それぞれ本筋の講座編で分岐を3つずつと、実戦解説を3局ずつという攻勢になっている。 講座編では各戦型の考え方・指し回しとよくありそうな展開を学ぶ。実戦編では実戦ならではの工夫(振り飛車が△9五歩を保留など)や葛藤(いくつもの指したい手のうちどれを選ぶかなど)を解説する。特に実戦編は6局と多くないながらも、各局は変化もかなり突っ込んだ解説がしてある。 ミレニアムのような持久戦系の戦型では、あまり精密な分岐を作るよりも、こういった構成の方が使いやすいのかもしれない。ただ、本書では戦法自体の思想や考え方、囲いの長所や弱点、汎用性のある囲い崩しや受けの手筋などをまとめたページはないので、即効性には乏しい。また、AI時代に見直されたミレニアム(広義)が、どういったところが評価されているのか、どういう筋が見つかったのかが書かれたページは少なく、20年前と現在とでどのように指しこなし方が変わったのかはなかなか理解しづらい。(一応、文中にはときおり登場している) 全体を読み込めば必要なことはちゃんと書かれているので、自分で必要な部分を抜き出してまとめておくのがオススメ。どちらかといえば、何回か読み直して内容を吸収していくタイプの本だと思う。というわけで、一読限りだと評価C+、繰り返して読むと評価Bになるイメージです。 なお、本書は見開き全体で解説と図面を共有しているページが多いため、見開き2ページを同時に見られる(紙の)書籍や大型タブレットでは比較的読みやすくなっているが、1ページずつがデフォルトの機器では結構読みづらい。電子書籍で読む方は、利用する機器を確認してください。 (2020Sep16) ※誤字・誤植等(初版第1冊・電子版ver.1.00で確認): p22上段 ×「指し手おきたい」 ○「指しておきたい」 p65上段 ?「△3三歩の感触が軽快で筋のいい指し手を好む真部八段には…」 ⇒「軽快で」がどちらに繋がっているのか誤解しやすいので、読点を入れることを推奨。 ○「△3三歩の感触が、軽快で筋のいい指し手を好む真部八段には…」 p102下段 ×「どこかで△9六歩が端を攻められるのは必須」 ○「どこかで△9五歩と端を攻められるのは必須」 p108下段 ×「銀取り打ったものの」 ○「銀取りに打ったものの」 p137下段 ×「これを▲同角を取ると」 ○「これを▲同角と取ると」 |