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■木村の矢倉 3七銀戦法基礎編

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木村の矢倉 3七銀戦法基礎編
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木村の矢倉
3七銀戦法基礎編
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 木村一基
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売
発行:2012年12月 ISBN:978-4-8399-4546-6
定価:1,575円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
【構成】鈴木宏彦
第1章 加藤流 (1)▲3七銀戦法の入口
(2)加藤流▲1六歩
(3)▲7五同歩に△4五歩の変化
(4)後手、端歩を入れて△5三銀
(5)新手法の▲1八香
(6)加藤流の工夫▲3八飛
74p
第2章 ▲3七銀戦法の入口その1 (1)▲4六銀にすぐ△4五歩 16p
第3章 ▲3七銀戦法の入口その2 (1)原点の攻め
(2)最強の反撃
24p
第4章 ▲3七銀戦法の入口その3 (1)▲5八飛戦法
(2)後手△9四歩の待機
(3)後手△8五歩の変化
(4)後手△9四歩の変化
44p
第5章 ▲3七銀戦法の入口その4 (1)▲2五歩戦法
(2)▲9六歩型
16p
第6章 ▲3七銀戦法の基本定跡 (1)穴熊の出現
(2)△6四角の待機策
34p

・【コラム】(1)連載について (2)矢倉の思い出 (3)受けの話 (4)趣味 (5)将棋上達の方法
・棋譜チャート=6p

◆内容紹介
「この3七銀戦法だけは古くからの定跡が随分生き残っている。汲めども尽きない味がそこにあるからだ」(本文より)

待望の「木村の矢倉」シリーズ第2弾!!今回は「3七銀戦法基礎編」と題して、現代矢倉を読み解く上での前提となる部分について詳細に解説しています。日ごろなんとなく矢倉を指している方にとっては、土台を固める上で必読の内容となっています。後手が4五歩と突く変化、▲5八飛戦法、▲2五歩戦法、穴熊の出現・・・。
矢倉の進化の軌跡を追いながら、最新形を理解するための基礎知識を学べる一冊です。
あなたがこれからも矢倉を指し、矢倉で勝ちたいと願うならば、本書の内容をマスターすることはその絶対条件となるでしょう。


【レビュー】
矢倉▲3七銀戦法の定跡書。「将棋世界」誌に連載された講座をまとめて、加筆修正したもの。

矢倉戦法は、超大雑把に分類すると以下のように↓なる。

  矢倉戦┬▲3七銀戦法┬(A)▲4六銀-3七桂
     |      ├(B)加藤流
     |      └その他(脇システムetc.)
     └(C)その他(急戦系、森下システム、藤井流早囲い etc.)


このうち、(C)は『木村の矢倉 急戦・森下システム』(2012.03)で解説された。また、(A)はとんでもなく奥のほうまで定跡化が進んでいる。△9五歩型での「91手組」や、△8五歩〜△4二銀型での「銀損定跡」が、2012年の最先端の例である。しかし、最先端を理解するには、矢倉戦の膨大な変化からなぜその変化が選ばれているのか、これまでの経緯はどうだったのかを知る必要がある。

本書は、▲3七銀戦法のうち、長く戦われている(B)の「加藤流」と、(A)の「▲4六銀-3七桂」について、▲4六銀と上がれることの発見から矢倉穴熊の出現までを、歴史を追う形で解説した本である。


各章の内容をチャートを添えながら見ていこう。

第1章は、△4三金型と加藤流。

矢倉▲3七銀戦法では、▲3七銀に対してほとんどの場合は△6四角と牽制に出るが、△4三金右と矢倉を完成させる手も考えられる。先手はすぐに▲3五歩と3筋歩交換を目指せば作戦勝ちが見込める。第1節にはこの△4三金型について書かれている。より詳しく知りたい方は、『羽生の頭脳 5 最強矢倉・後手急戦と3七銀戦法』(羽生善治,日本将棋連盟,1993)の第3章や、『矢倉3七銀分析【上】』(森内俊之,MYCOM,1999)の第2章なども見てみると良い。

第2節〜第6節が加藤流。▲4六銀戦法(第2章以降)で▲4六銀とするところで、▲1六歩と様子を見るのが加藤流で、「後手の態度を見てから作戦を決める」(p22)のが狙いである。△1四歩と受ければ棒銀で攻めるし、▲1五歩と端を詰めた上で▲4六銀-3七桂が実現すればほとんど終了形。そこで、後手は何らかの対策をとる必要がある。

後手の対策の一つは、△7三銀〜△7五歩と動いていく「反発」(第2節・第3節)。この変化には「有名な局面」があり、トップ棋士でも判断が揺れている。ちなみに本書では先手良しだ。

もう一つは、△9四歩〜△5三銀とする「固めてカウンター」(第4節〜第6節)。先手は(1)▲1七香、(2)▲1八香、(3)▲3八飛と対応を変えてゆく。現在の見解では、後手のカウンターが望めるため、先手の加藤流採用率が減っているそうだ。



第2章以降は、すべて「▲3七銀戦法の〜」という章タイトルになっているが、基本的に「▲4六銀-3七桂戦法」のことである。(※本サイトでは、▲3七銀型基本形から発展する戦型はすべて「▲3七銀戦法」(つまり、「▲3七銀戦法」⊃「▲4六銀-3七桂戦法」)だと考えているので、「▲4六銀-3七桂戦法」とは区別しています。)

▲4六銀-3七桂戦法は、次のような流れをたどっている。

 (1) ▲4六銀にすぐ△4五歩と反発し、▲4六銀-3七桂型を作らせないことを試みた。(第2章)
 (2) ▲4六銀-3七桂型を阻止できないことが分かった。
 (3) 先手は、▲4六銀-3七桂型からの最良の仕掛けのタイミングを探す。
  (a) すぐに▲2五桂は、後手が無策なら圧倒できるが、△4五歩と反発されると先手無理筋。(第3章)
  (b) ▲3八飛と前に▲5八飛と陽動して1手得を狙うのは、後手が最善を尽くせばわずかに後手良し。(第4章)
     5筋の歩交換で1歩入るのを逆用して、後手から3筋(桂頭)攻めがある。
  (c) ▲2五桂の筋でなく、▲2五歩△1三銀から薄い中央を狙う筋は、ハッキリしない戦いになる。(第5章第1節)
  (d) ▲9六歩と待機して後手の最善形が崩れるのを待つのは、後手から端を先攻される。(第5章第2節)
  (e) 居飛穴で待機する戦術が出現。(第6章)
  (f) 以降は、居飛穴を焦点とした戦いが継続中。(森内流、宮田新手など)


このうち、本書では(1)〜(3)-(e)の戦いを解説している。(※(3)-(f)は次巻で解説されると思われる)

各章・各節の内容は、目次では少し分かりにくいと思うので、表にしてみた。(……作ってはみたものの、あまり分かりやすくなっていないかもしれません。詳細はチャートでご確認ください。)

概要 流行 現在の結論
第2章 第1節 ▲4六銀にすぐ△4五歩と反発して銀を追い返すが、4筋が新たな争点になる   先手動きやすい
第3章 第1節 すぐ▲2五桂に後手が無策の場合、▲4六銀-3七桂の理想的な攻めが炸裂する 1990ごろ 先手良し
第2節 すぐ▲2五桂に△4五歩と反発されると、先手の攻めは無理筋   先手無理筋
第4章 第1節 ▲5八飛△6四銀▲3八飛として1手得を目指す。後手は▲5八飛に△4五歩と反発してみる 1991〜 先手良し
第2節 ▲5八飛△9四歩(待機)▲5五歩△同歩▲同銀△5二飛▲4六銀に△3五歩の反撃   先手良し
第3節 ▲5八飛△8五歩(待機)は… 1995〜 後手やれる
第4節 第2節と同様に▲5八飛△9四歩▲5五歩△同歩▲同銀△5二飛▲4六銀としたときに、第3節と同様に△5一飛と整える   これも後手やれる
第5章 第1節 ▲2五歩に△3三銀ならスズメ刺し。△1三銀なら薄くなった中央へ転戦   優劣不明
第2節 ▲4六銀-3七桂の基本攻撃形から▲9六歩と待機。後手は9筋から先に動く   穴熊の方が先手得
第6章 第1節 ▲4六銀-3七桂の基本攻撃形から▲9八香と穴熊を目指す   打開は簡単でない
第2節 先手が穴熊を目指すのに対し、△4二銀▲9九玉の交換を入れてから△6四角 2012年も
現代進行形
先手有望





本書のテーマは、『羽生の頭脳(3) 最強矢倉』(羽生善治,日本将棋連盟,1993初出,2010文庫化)や『現代矢倉の思想』『現代矢倉の闘い』(森下卓,河出書房新社,1999)などと重なっている部分も多く、変化のあった部分と不変の部分を比較してみると理解が深まる。

もちろん、本書は最新の見解も書かれている(2012年6月の稲葉新手など)ので、プロの矢倉を理解したい人には必読の一冊といえるだろう。

※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p110 ×「この守備体形を突破する…」 ○「この守備隊形を突破する…」
p136 第4章・第2節「他には△8五歩と突いて待つ手もあるが…(中略)…先手十分になる。」 → 次節(第3節)冒頭のp147でもほぼ同じ解説があるが、第3節全体では「△8五歩でも正しく対応すれば後手がやれる」ことが示されており、p136の「△8五歩なら先手十分」という記述は誤りになる。



【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] 
木村の矢倉
[著者] 
木村一基
[発行年] 
2012年

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