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スーパー四間飛車 | [総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き2〜8枚 内容:(質)B+(量)A レイアウト:B- 解説:A 読みやすさ:B- 有段向き |
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【著 者】 小林健二 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:1993年8月 | ISBN:4-89563-583-X | |||
定価:1,456円 | 310ページ/19cm |
【本の内容】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
四間飛車vs居飛穴・左美濃の解説書。 1980年代から流行を始めた居飛車穴熊は、10年間で四間飛車をほぼ駆逐していた。大山康晴・森安秀光らはその剛腕でなんとか戦ってはいたが、振飛車全体の劣勢は明らかで、多くの振飛車党が居飛車に鞍替えをしていった。また、適度な堅さとバランスを併せ持つ左美濃も四間飛車党を苦しめていた。 その中で、居飛車党だった小林が振飛車党に転じた。そして、角筋を生かした攻めや、玉頭からの攻めを次々と開発し、四間飛車の命脈を保った。その思想を持った四間飛車が、本書の「スーパー四間飛車」である。 現代では、「スーパー四間飛車」に直接該当する戦型はプロではほとんど指されていない。しかし、その思想は「藤井システム」につながり、または角交換系の振飛車につながっていった。現代への振飛車をつないだのは小林だといっても過言ではない。ジョジョでいえば花京院(ry 本書の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
第1部は、対居飛車穴熊編。スーパー四間飛車の基本となる「▲5六銀型」をはじめ、5つの戦型を解説していく。 対居飛穴の1つ目は、「5六銀型基本形」。居飛穴側が端歩を受けない形で、▲四間側は銀冠に構え、1筋の位を取り、▲5六銀と腰掛ける。居飛穴攻略の心得の一つである、「対穴熊戦で大切なことは、相手に一方的に攻めさせないことである。(中略)穴熊の端を少しさわっておくだけで攻め合いの形を作れるので、間接的に穴熊のきつい攻めを緩和することができる」(p48)という考え方に沿ったもの。角筋を生かし、いつでも▲4五歩の開戦と、1筋の端攻めができるように仕込んでおく。 |
対居飛穴の2つ目は、居飛穴側が端歩を受けてきた場合。1手遅れる上に端に争点ができてしまうが、漫然と組んでいると振飛車が手詰まりになる。 スーパー四間飛車では、△1四歩型居飛穴には、先手は銀冠を急ぐ。一手の遅れをついて、片銀冠〜▲6九飛〜▲4九飛が狙いの構想で地下鉄飛車を狙う。4筋に攻撃陣が集中するので、相当の迫力のある攻めになる。 |
対居飛穴の3つ目は、端角戦法。居飛車の飛先の歩は、通常は▲7七角と受けるものだが、本作戦では▲9七角とする。 ▲9七角は5三〜4二〜3一をにらんでいて、そのラインには相手の金銀がいることが多いため、単純な9筋攻めはされない(△9五歩▲同歩△同香には、角を切って▲9五香で二枚替えの筋がある)。これに左桂の二段跳ねや、▲4八飛からの4筋攻め、1筋の端攻めを複合的に絡めると破壊力が高い。 なお、松尾流穴熊は本書出版時点(1993年)にはすでに出現していた。ただし、最初から狙っているわけではなさそうだ。 |
対居飛穴の4つ目は、早桂作戦。 美濃囲いの右桂を早く跳ね、角の睨みと桂跳ねの含みで後手玉の囲いを制約する。▲3九玉-▲3七桂と▲4八玉-▲1七桂の2パターンある。なお、のちの世に登場する藤井システムは、この早桂作戦の発展形(どうせ右辺が戦場になるなら最初から居玉にする)といえる。 |
対居飛穴の5つ目は、浮き飛車型。▲7八銀型から、相手が居飛穴を明示したら、早めに角道を開けて角交換を挑戦する(なので、「角交換挑戦型」と書かれている本もある)。 居飛車が角交換しても拒否しても、振飛車は浮き飛車から石田流に構えることができる。広い意味での立石流といってよいだろう。未完成の穴熊に対して、振飛車は低い構えから軽く動くことができる。 なお、プロでは角交換拒否の方が多いとのこと。また、この当時は、居飛車が角交換から△3三角と打ち直す筋は出てきていない。 |
第2部は、対左美濃編。3つの戦型が解説されている。対居飛穴編と違い、振飛車から速攻する筋はない。 対左美濃の1つ目は、▲4五歩型。四枚左美濃に対しては、4筋の位を取るのが急所。左銀は▲5六銀とせず、▲5六歩と突く。角が働くようにしておく。 なお、本書の10か月前に出版された『羽生の頭脳 4 居飛車穴熊と左美濃』(羽生善治,日本将棋連盟,1992.10)にも、途中の手順は違うものの、ほぼ同じ形が記されている。見解は異なるようなので、見比べてみると面白い。 |
対左美濃の2つ目は、▲5六歩型(△4四歩型)。居飛車左美濃側が、4筋の位を取られるのを嫌って、先に△4四歩と突いてきた場合。 振飛車は▲5六歩と突いておき、△7四歩を待って▲5五歩と突く。△同歩は▲同角なので取れず、▲5六銀の好形を築くことができる。 |
対左美濃の3つ目は、左美濃+ナナメ棒銀。▲四間、△四間(通常型)、△四間(△7一玉+△3二銀型)の3つに分かれている。 ▲四間のときは、▲2六歩の一手が入る。なので、中終盤での玉頭攻めがやりやすい。 △四間(通常型)では、玉頭の歩が間に合わないので、別の工夫を行う。例えば、高美濃の△7四歩も突かずに△1二香としておく。飛で1二香を取られたときに、龍の位置が違っている。(▲四間のときは、9九で香を取られた) △四間(△7一玉+△3二銀型)では、△8二玉と△4三銀の代わりに、△8四歩と△7三桂を指して左美濃玉に圧力をかける。のちの『藤井システム』(藤井猛,1997)にも載っている形。個人的には、この指し方が実戦的に非常にきついので、△7一玉型には左美濃を指さないことにしている。本書では、角交換から端角作戦をミックスした型が紹介されている。 |
第3部は、終盤編。 小林も含めた、さまざまなプロの実戦から、居飛穴と左美濃を攻略した終盤戦を解説する。振飛車側はすべて美濃囲い(またはその派生形)。「スーパー四間飛車」とは直接関係ないものが多いが、堅い囲いの攻略パターンとして大いに参考になるだろう。 振飛車側の登場棋士は、杉本昌隆、櫛田陽一、小林健二、大内延介、中田功、藤井猛、森安正幸、大山康晴、大島映二。 扱っている考え方は、と金攻め、居飛穴の2三をこじ開ける、剥がして食い付く、角筋を生かす、左美濃を▲2五歩or▲3五歩で攻める、など。 なお、この第3部は1テーマで見開き完結のレイアウトで、ここから急に読みやすくなっている。また、第3部のみ「ですます調」を採用している。 第4部は実戦編で、小林の自戦記4局。残念ながら総譜が掲載されておらず、仕掛け直前から投了までの解説となる。なぜ途中までの棋譜が省略されているのかは謎。 戦型は、対四枚美濃が2局、対居飛穴の▲1七桂型超急戦が1局、対居飛穴で銀冠から▲6六銀とした将棋が1局となる。▲1七桂型の1号局はぜひ見ておきたい。 この第4部は1ページの上段に数手ごとの図面2枚、下段左隅に補助図面1枚があり、バランスの良い見やすいレイアウトになっている。 これまで書いたように、「スーパー四間飛車」は将棋史の金字塔の一つ。それを初めて定跡書に記した本書は、310pの大ボリュームで、当然S…と言いたいところだが。 個人的には結構不満点がある。 ・見た目よりもボリュームは少ない。 本書のページ数は310pとかなりのボリュームであるが、実際にはそこまで大容量ではない。レイアウト〔右図〕が、見開き最大8枚の図面を表示できるように上下を開けてあるので、何も書かれていない真っ白なスペースも多いためだ。1ページ当たりの文章量は、一般的な見開き4図面の定跡書と同等から3/4くらいになっている。定跡編の実質的なボリュームとしては、150〜180p分くらいかと思う(普通の222pの定跡書並み)。 ・レイアウトが読みづらい。 前述のように、大量の図面用スペースが確保されているものの、図面が欲しい局面では図面がなかったりする。スペース不足ではなく、なぜか空白なのだ。解説が数ページにわたっていることも多く、レイアウト的に豊富な図面スペースを生かせていない。 また、定跡編は1行当たりの字数が15字しかないため、目線を頻繁に動かす必要がある。普段、紙の新聞を読み慣れている人にはもしかしたら読みやすいのかもしれないが、将棋世界の付録でも1行20字が相場。 ・序盤の指し手がない。 本書の定跡編では、テーマ図が唐突に登場する。テーマ図までの指し手(棋譜)はどこにも書かれていない。巻末には織り込み型のチャート図が2枚付属しているが、そこにも初手からの指し手は書かれていない。また、実戦編も序盤の駒組みの数十手は省略されている。ある程度の定跡通であれば常識的な手順なのかもしれないが、前述のように大量の空白スペースがあるのに、わずかな棋譜が省略されていることには違和感を感じる。 というわけで、激辛で申し訳ないが、Bとしておく。 なお、本書で解説されている戦型は、「藤井システムはちょっと苦手」という方には一読の価値はあると思う。個人的には、▲4九飛と回る形と、端角戦法は、どこかで指してみたい戦型である。(2016Aug28) ※誤字・誤植等(第1刷で確認): p214基本図 ×▲3八金 ○▲3八銀 p217A図 ×△4四歩は不要 |
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