美濃囲いを攻略する問題を集めた本。『美濃崩し180』(金子タカシ,屋敷伸之監修,高橋書店,1993)を加筆修正したもの。
名著『美濃崩し180』のバージョンアップなので、S確定。以上。 …………ではレビューにならないので(笑)、もう少し詳しく見ていこう。
『美濃崩し180』は、いわゆる「金子三部作」の一つで(※1)、美濃囲い(銀冠や木村美濃も含む)を崩す手筋を一堂に集めたもの。美濃囲いを崩す問題を扱った終盤の本はいくつもあるのだが、美濃崩しに特化した本としてはほぼ唯一で、高い人気があった。おそらく、三部作の中ではもっとも品薄だったと思われる。
三部作の一つ『寄せの手筋186』では必至か詰めを狙う問題だったが、『美濃崩し180』ではとにかく「最も速い攻め」を問うものだった。つまり、優先順位は[詰み]>[必至]>[詰めろ・駒を剥がすetc.]となる。
わたしの場合、『佐藤康光の寄せの急所
囲いの急所』(佐藤康光,日本放送出版協会,1995)で美濃崩しの基本的なことを覚え、『光速の寄せ(1)
振り飛車破りの巻』である程度の知識を備え、そして『美濃崩し180』で多くの知識を仕入れた。この段階は、わたしの将棋人生の中でもぐんぐん棋力が上がるのが感じられた時期だったと思う。
そして、本書『美濃崩し200』である。これは、前作『美濃崩し180』をベースに、問題を1割強追加したバージョンアップ版となる。問題や解説の高品質さはもちろんそのまま。
なお、完全上位互換というわけではなく、前作Chapter4の「実戦テクニック」(監修の屋敷伸之(現九段)の実戦譜が題材)はカットされている。また、攻めの方向(タテ、ヨコ、ナナメ、端)を示すアイコンが変更されている。
|
タテ |
ヨコ |
ナナメ |
端 |
複合(例) |
『美濃崩し180』 |
|
|
|
|
|
『美濃崩し200』 |
|
|
|
|
|
本書と前作の問題対応表を作成してみたので、興味のある方はどうぞ。
●『美濃崩し200』 問題対応表(Excelファイル)
さて、本書の問題の場合、前述のように「最も速い攻め」を考えていくのだが、注意すべき点もいくつかある。本書の解説では面白いように美濃囲いが崩れていくのだが、受け方が「対応」したために、かえって攻めが速くなっている場合がある。(※2)
これはココセというわけではなく、囲い崩しの問題では次のようなことをいつも考えておく必要がある。
・受け方が全て手抜きをした場合、何手スキの攻めになっているのか?
・駒損を甘受された場合、かえって攻めにくくなることはないか?攻めが遅れることはないか?
・渡す駒は何か? 途中で攻め駒を素抜かれる心配はないか? ...etc
本書からいくつか問題を紹介してみよう。
|
●第1問
「一段飛車+▲6二X」の基本形。一段飛車が盤上にあり、ナナメ駒(角or銀)が持駒のとき、前に利く駒で△6一金の頭を叩き、△同金▲7一角(銀)を狙う。△6一金が移動すれば王手がかかりやすいという、美濃囲いの弱点を的確についた手筋である。
美濃崩しの中でも最も基本となる形であり、さまざまな手筋を用いてこの形に持ち込むこともあるし、▲7一角(銀)を含みにして端を攻めるなど、応用範囲も広い。
この手が入ると、美濃囲い側は粘りづらい形になる。また、▲6二銀と打ち込んだ状態がそのまま詰めろや二手スキになっていることが多い。これは第6章で検討されている。
基本ではあるが、この手筋を知らない人が自力で発見するのは難しく、教わらなければ指せない手だろう。逆にこの手筋を知っているなら、もう初級者ではない。 |
|
●第18問
左図から▲6二香△7一金(△同金は▲7一角)▲5三角!という手筋。次に▲7一龍△同金▲6一香成(両王手)が猛烈に厳しい。実戦ではなかなか実現しにくいが、この筋を含みに攻めることは結構多い。第114問のように複合的に決まると爽快。
ただし、▲6二香に△7一金と反応すると攻めが速くなっている場合があるので注意が必要だ。「手抜きの場合はどうか」も常に考えておきたい。 |
|
●第31問
左図から▲9五歩△同歩▲6二香△7一金▲9二歩△同香▲9一銀△同玉▲7一龍という手筋。同様の筋は何度も出てくるし、実戦でも使用頻度の高い手筋ではある。
ただし、この手筋を妄信してはいけない。場合によっては攻めにくくなる。確かに美濃囲いを崩しながら金を剥がしているのだが、後手玉を穴熊に潜らせた形になっているので、後続手段がなければ「わざわざZを作ってやった」ということになりかねない。この問題の場合、▲7一龍に△8二銀▲7二龍△7一銀打にさらに攻めを続けるなら▲7一同龍△同銀▲6一香成か?居飛車としては第32問の攻め方を選ぶ方が良いかもしれない。
第31問の形で使うというより、この手筋を応用した形で使いこなせれば、大きな戦力となるだろう。 |
「(穴熊を除いた)振飛車の囲い崩し」の本としては、間違いなく最高レベル。『寄せの手筋200』と併せて、何度も復習して頭に叩き込んでおきたい一冊。
※1 ^ 「金子三部作」の他の2冊は『寄せの手筋168』(金子タカシ,塚田泰明監修,高橋書店,1988)と『凌ぎの手筋186』(金子タカシ,塚田泰明監修,高橋書店,1990)。
※2
^ 姉妹書の『寄せの手筋200』の場合は「詰めor必至」を問うていたので、場合によって攻めが遅くなるという心配はなかった。
※誤植・誤字(初版で確認)
2015May10追記(パルテノンさんご指摘thx!)、第3刷(2013年10月1日)の情報追加(名無しさんthx!)
p32解答20 図の上の見出し ×「▲6二香成まで」 ○「▲6二成香まで」 〔第3刷で未修正〕
p40解答27 問題図と解答図で端歩の駒配置が違う(問題図では9筋の突き合いなし、解答図では9筋の突き合いあり) 〔第3刷では、問題・解答ともに▲9七歩・△9三歩になってる〕
p70解答図の駒配置 ×「▲6五角」 ○「▲5五角」 名無しさんご指摘thx! 〔第3刷で未修正〕
p96解答81 ×「▲5二龍があるので」 ○「▲5二飛成があるので」 〔第3刷で未修正〕
p115 印刷不良(カスレ)がある。(わたしの版だけかもしれない)
p122解答107 図の上の見出し ×「7一龍まで」 ○「7一飛成まで」 〔第3刷で未修正〕
p124解答110 図の上の見出し ×「7一龍まで」 ○「7一飛成まで」 〔第3刷で未修正〕
p126 △「▲5三桂に△5一金」 ○「▲5三桂に△5一金寄」 〔第3刷で修正済み〕
p182解答164 図の上の見出し ×「8一龍まで」 ○「8一飛まで」 〔第3刷で未修正〕
|