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マイナビ将棋BOOKS 完全版 対振り飛車 左美濃戦法 |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:B+ 解説:A 読みやすさ:B+ 上級〜有段者向き |
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【著 者】 中座真 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年2月 | ISBN:978-4-8399-7537-1 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【コラム】 左美濃の横原 |
【レビュー】 |
対振り飛車の左美濃戦法の戦術書。 左美濃は、少なくとも1980年代前半の戦術書には見られており(最古は『升田流戦術の指南』(1979.12)か?)、従来からある作戦である。近年になってバランスの良い堅さが再評価され、また振り飛車側の戦術が多様化したことにより、左美濃作戦が非常に多く見られるようになってきた。左美濃は進展性があり、持久戦のときに囲いをどんどん発展させることができるのも特徴の一つである。 本書は、さまざまな振り飛車の作戦に対し、居飛車が左美濃で対抗する指し方を解説した本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「対向かい飛車」。 △向かい飛車に対して、先手が左美濃で対抗する指し方を解説。 (1)向かい飛車【ノーマル型】 角道を止める向かい飛車への対抗策を解説する。後手の型は大きく分けて3種類ある。 ・△3二銀型での向かい飛車からの仕掛け 先手が左美濃に囲う前に仕掛けが来るが、飛交換後に自陣飛車を設置して、飛車側を収めてから左美濃に組めば大丈夫。 ▲4六歩を絡ませるのが急所なので、しっかり覚えておこう。 ・△4三銀-△3二金型での向かい飛車からの仕掛け △3二金は急戦を狙っている。後手陣はスキがないが、先手陣(左美濃)は右辺にスキがある。大駒交換には注意。 飛交換を拒否した後は、▲3六歩と▲1六歩を忘れないように。 大駒交換をするときは、なるべく相手の形が崩れるように手筋を使おう。 ・△5二金左からの持久戦 持久戦のときは、左美濃から高美濃〜銀冠〜銀冠穴熊と囲いを発展させよう。 |
(2)向かい飛車【3三角戦法】 4手目に△3三角と上がる作戦。 後手が自分から角交換しない、角道を止めずに駒組みを進める、といった意味がある。 いろいろな戦型に派生するが、本節では後手がいったん△4二飛と振った後、△2二飛と向かい飛車にシフトする作戦を解説する。 ・角交換後、すぐに▲2五歩△2二飛を決めて▲6五角もある。以前は振り飛車良しと見られていたが、居飛車も十分指せると見解が変わっている。 ・角交換後、△3三桂の桂頭を目標にできれば居飛車良し。桂を上手く活用できれば振り飛車良し。 ・△2二飛の瞬間に▲7七角がオススメの手。 −△4四歩を突かせない。 −そして、▲3六歩〜▲3七銀〜▲4六銀と一目散に早繰り銀を繰り出す。 −いつでも3筋から仕掛けられる態勢にしてから、左美濃に囲っておく。 ・△7四歩〜△8二角の筋を狙われると、すぐに左美濃には組みにくい。 −右辺の対処を優先し、戦いながら隙を見て玉型を整備していく。 |
第2章は、「対三間飛車」。 (1)三間飛車【ノーマル型】 最近、左美濃が一番多く指されるようになった戦型。 −三間飛車側の「トマホーク」により、居飛穴に組みにくくなった。 ・振り飛車は石田流△3四飛の好形に組もうとする。 −居飛車はそれを阻止するべく、▲4六銀〜▲6八角の筋を常に見せる。 ・先に△5四銀と出てくる手には、いったん▲6六歩と受けて、△5一角の瞬間に▲6五歩と逆手に取る手もある。 −後手の石田流は許すが、玉側を厚い構えにすることができる。 |
(2)三間飛車【先手石田流】 ・3手目▲7五歩からの石田流に対し、△4二玉から角道を止めさせて穏やかな展開にする。 ・居飛車は飛先を突かず、△6四歩〜△6三銀で7筋を受け止め、△3一玉型左美濃に素早く組んでおく。 −左美濃に組んで自陣を安定させてから、飛先を突いておく。あまり早く突くと、▲7六飛〜▲7七桂or▲7七角で動かれてしまう。 −▲7六飛と浮かせて△7二飛と寄り、急戦を狙う。 ・後手が△3三角〜△2四歩〜△2二玉とじっくり持久戦にするのも一局。 −△2四歩は大事な手で、▲5六銀〜▲4五銀に対して△2三銀とできるようにしている。 −先手は▲7七角から決戦に出るか、石田流本組に組んでじっくり指すか。 −どちらも居飛車は対応を間違えると一気に潰されかねない。丁寧に対応したい。 |
第3章は、「対四間飛車」。 (1)四間飛車【ノーマル型】 ・先手の左美濃の組み方は、▲7八玉から組むパターンと、▲7八銀から組むパターンがある。 −かつては▲8七玉型の天守閣美濃もよく指された。第2節で解説する。 ・▲7八玉から組むパターンで、後手が△5四銀と上がってきたら、大駒の利きが通っているので、捌き合いの将棋になりやすい。 −2筋の突き捨てを入れず、すぐに▲6五歩と捌きを狙うのが一例。 ・後手が△4四銀と上がってきたら、振り飛車が押さえ込みを狙うような展開になることも多い。 −▲6五歩で位取りを目指すのが本書の推奨。 ・▲7八銀から組むパターンは、すばやく玉を囲え、一段玉がより安全な場合もある。また、先に銀冠を構築する指し方もできる。 −▲4六銀〜▲3五歩と仕掛けてから、▲8八玉と入城するのが面白い指し方。 |
(2)四間飛車【藤井システム】 ・▲8七玉型の天守閣美濃にすると、振り飛車は△7一玉型の「対天守閣美濃・藤井システム」の構えを採ってくる。 −居飛車が四枚美濃を目指しても、振り飛車から猛攻される。難解ではあるが、居飛車が苦しい変化が多い。 (『藤井システム』(1997)で詳しく解説されている) −すぐに▲9八玉型の米長玉にしておけば、藤井システムの発動はない。玉の囲い合いになる。囲い終わったら、▲2四歩〜▲4六歩と開戦する。 −また、▲5五角〜▲3七角と、玉頭戦で目標にされやすい角を転換しておくのも一案。 |
第4章は、「対中飛車」。 (1)【5筋位取り中飛車】 ▲中飛車vs△角道不突き型(保留型)左美濃を解説する。 (この作戦は『振り飛車最前線 対中飛車 角道不突き左美濃』(2018)で詳しく解説されている。) ・後手が角道を開けずに、△3一玉型左美濃に組む。 ・玉を囲った後、△3四歩を突くタイミングを計る。(場合によっては突かずに指す) ・先手が▲5六銀〜▲4六歩と形良く構えてきたとき、後手の選択肢は3つ。 −△7五歩から仕掛けるのは、ほぼ互角。先手が捌き切れるか、後手がまとめ切れるか。 −△4三金から中央を厚くするのは、いい勝負〜やや振り飛車持ちくらい。 −△3三角から右辺を薄くせずに玉の懐を広げるのは、振り飛車が先に4筋を攻めてくるが、△4二飛で局面を収めれば居飛車が指せる。 ・先手が▲3八銀〜▲3九玉と囲いを工夫する手もある。▲2八玉を後回しにして、その1手を攻めに回す。 −後手の△6四銀が間に合わず、▲6五銀と出ることができる。後手は押さえ込まれないように△6四銀とぶつけて銀交換になる。 −以下、▲高美濃△木村美濃の珍しい対抗になる。ほぼ互角ながら、居飛車の方が手が分かりやすいか。 ・後手があくまで角道を突かず、駒組みを進める作戦もある。 −△6四歩〜△6三銀で、5筋を銀で受けておくのは自然な手。振り飛車が6筋を狙うなら、△2四角のラインが利く。 −△7四歩〜△7三桂と早跳ねするのも面白い。▲5七銀を牽制し、好機の△6五桂や△6五歩を狙っていく。 ・端角△1三角は常に狙いたい。 |
(2)中飛車【振り飛車穴熊】 △ゴキゲン中飛車vs▲超速で、銀対抗から後手が振り飛車穴熊、先手が左美濃で対抗する作戦。 ・先手が▲6八玉型で▲3六歩〜▲3七銀と右銀の進出を急ぐのが「超速」。 ・後手も左銀の歩調を合わせ、▲4六銀vs△4四銀になるのが「銀対抗」。 −以前は、そこから相穴熊になることが多かった。最近は、居飛車が「二枚銀急戦」に出ることが多い。 −本書では、▲6六歩から先手が持久戦を目指す。 ・△5六歩と一歩交換してくるなら、飛を捕獲しに行くのもあるが、▲6七金で穏やかに指すのが本書の推奨。 −左美濃に囲っていれば、後手から攻められてもカウンターが利く。 ・銀対抗で中飛車側が一歩交換しない場合、二枚銀急戦や相穴熊もあるが、本節では△振り飛車穴熊vs▲左美濃を選択。 −左美濃は短手数で完成するので、構成に出やすい意味がある。 −▲8六角で後手の動きをけん制するのが面白い手。 −先に△6四歩で▲8六角を甘くされたら、8筋の歩を伸ばして銀冠に組めば、終盤への貯金ができそうだ。 |
(3)中飛車【ゴキゲン中飛車】 △ゴキゲン中飛車vs▲丸山ワクチンの戦いを解説する。 ・序盤で△5五歩と位を取られる前に先手から角交換し、▲9六歩△9四歩の交換を入れてから、▲7八銀と左美濃の骨格を作る。 ・角交換振り飛車系統の闘いになる。 ・▲4八銀〜▲4六歩は大事な手順。 −△5五歩に▲4七銀の受けを用意。 −また、▲4七銀型はキーとなる駒。▲3六銀(逆棒銀の対策)、▲5六銀、将来の▲6七銀引など、さまざまな活躍が期待できる。 −ただし、後手の飛が5筋に留まるときは、△5五歩と突かれるまで▲4八銀型で保留しておきたい。この方が左美濃が堅い。 ・後手陣に離れ駒ができたら、積極的に仕掛けを狙いたい。 ・▲3七桂〜▲4五桂の単騎跳ねも局面によっては成立する。 −先手陣が堅いことが条件。 |
〔総括〕 本書では、さまざまな振り飛車に対して左美濃で対抗する作戦が9つ示されている。組み方は単純とは限らず、中には戦いながら囲いを完成させたり、先に囲いの骨格だけ作って後からタイミングを見計らって入城したりと、なかなか一筋縄ではいかないものの、いつも見慣れた陣形で戦えるというのは心強い。居飛穴と違って、一方的に攻め込まれる展開にはならないのも強みの一つだ。 また、いつもは振り飛車側の立場で語られやすい戦型について、左美濃側の立場で見ているのも新鮮。 左美濃専門書としては、『中原流 最強左美濃』(1986)、『急戦左美濃戦法』(1988)、『左美濃伝説』(1991)など以来の一冊。もちろん、内容は現代的にアップデートされている。 多くの岐れはいい勝負で終わっているので、振り飛車党にも参考になる。居飛車党には、序盤の組み方を見直したり、仕掛けの参考にしたりできそうだ。 (2021Apr21) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認) 目次 「節」の後にスペースがない(9か所) p117下段 ×「▲3三同飛成とすれば」 ○「▲3三飛成とすれば」 p142上段 ×「第13図以下の指し手」 ○「第13図以下の指し手 B」 p173下段 ×「▲5八金左〜▲4七金(参考図)と、…」 ※該当する参考図がない。 p186上段 ×「第27図以下の指し手」 ○「第27図以下の指し手 A」 p196上段 ?「図から、△5六歩には▲5八歩と受けておく…」 ※該当する図がない。また、同じ内容を前ページでも触れている。 p214下段 ×「△5三同角以下、清算し…」 ○「△5三同銀以下、清算し…」 |