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マイナビ将棋BOOKS 振り飛車最前線 対中飛車 角道不突き左美濃 |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 上級〜有段向き |
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【著 者】 都成竜馬 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年2月 | ISBN:978-4-8399-6526-6 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【巻末】まとめチャート=3p |
【レビュー】 |
▲中飛車vs△角道不突き左美濃作戦の戦術書。 ▲中飛車は先手番の有力な戦法で、後手にはいろいろな対策があるが、2017年頃から角道を開けずに△3一玉型左美濃に組む指し方が注目されるようになってきた。さらに、単に玉を従来より堅くするだけでなく、△1三角から端角で攻撃形を作る指し方が、奇襲扱いではなく、立派な戦術として認識されるようになってきた。 著者の都成はむしろ中飛車党であり、本書の実戦編でも5局中4局が都成の▲中飛車なのだが、本書はどちら側に肩入れするでもなく、中立的な立場でこの戦型を解説していく。 なお、この戦法はまだ新しく、人によって狙いの捉え方も様々であり、必ずしも同一局面になるとは限らないので、全体的な狙い筋を中心に読んでいくとよい。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「本書の概要」。 ・角道を開けず、中飛車の▲5四歩から角をぶつける捌きを封じる。 ・先手は▲6六銀型の銀対抗が手堅いが、△3一玉型左美濃+△1三角で攻撃布陣を敷く。 ・先手は5筋(▲5五歩)保留が有力(第2章)。穴熊との組み合わせもある(第3章)。 ・後手は△6二銀のまま、端角(△1三角)と右桂(△7三桂)でコンビネーションを狙う。 ※後手は右銀を超速のように△7三銀〜△6四銀と出ていく指し方もあるし、△3一玉型左美濃が完成したら端角にこだわらず角道を開ける指し方もある。 |
第1章は、「▲5五歩型」。 中飛車で5筋位取りができるならやってみたくなるが、それは本作戦の待ち受けるところ。 ・「超速▲3七銀」を後手番で応用する。角道を開けずに△4二玉のまま△7三銀と上がる。 ・仕掛けができそうなら、△3一玉型美濃囲いではなく、△4二銀型の舟囲いでもよい。 (※2019年2月現在の視点なら、elmo囲いとのミックスもありそうだ) ・▲6六銀型には急戦はできないので、△3一玉型左美濃にする。 ・先手が穴熊なら、△1三角の端角が有力。角のニラミで、先手は左金を囲いに引き付けることができない。 ・先手が美濃囲いなら、端角にはこだわらず、△4四歩から高美濃を目指す。 |
第2章は、「▲5五歩保留−美濃囲い」。 ・先手は▲5五歩を保留することで、急戦で角頭を攻められたときに▲5五角と出られるようにする。(たとえば△6四銀型で急戦をしてくるなら▲6六歩とし、△7五歩▲同歩△同銀に▲6五歩で、▲5五角と飛のコビンを狙って出られる) ・▲6六銀型ならどちらも急戦は難しく、一局の将棋。 ・ただし▲6六歩型には、△6四銀-△7三桂の駒組みでは後手大変。よって△6二銀のまま△3二銀〜△3一玉と囲いを急ぎ、△1三角+△7三桂で攻め形を急ぐ。 ・端角にするかどうかは、△1三角のラインに先手の左銀が入っているか(1筋を攻められたときに角を切れるか)で判断しよう。▲6六歩型なら、次に▲6七銀と端角のラインから外れるので、端角は諦めよう。 ・持久戦にする場合は、△7三桂も急がない。 |
第3章は、「▲5五歩保留−穴熊」。 ▲5五歩保留は第2章と同じで、先手が1筋を受けずに穴熊にする。 ・先手が穴熊でも、後手は△3一玉型左美濃+△1三角+△7三桂を基本線としていく。 ・美濃囲いのときよりも、先手は1筋逆襲は難しい。△1三角のラインの切る駒がなくても端角は有望だ。 |
第4章は、「実戦編」。 冒頭に書いたように、都成は中飛車党であり、5局中4局は都成の▲中飛車。最初の3局は敗局を載せているのは珍しいが、本編とは展開が違うものの、後手の作戦の捉え方が変化した将棋を重視して掲載したようだ。 第1局 ▲都成竜馬△千田翔太、2016.11.08、王座戦 ・角道不突きではないが、△4二玉型で△7三銀と上がった将棋。その後、△3一玉型左美濃に囲った。〔右図〕 ・本編には載っていない将棋。 ・本局から、この囲い方が有力視されるようになった。 |
第2局 ▲都成竜馬△藤井聡太、2017.06.10、叡王戦 ・先手が▲5五歩を保留したので、△3四歩▲5五歩△4四歩から△3一玉型左美濃にした将棋。 ・居飛車の右辺は、やや古風な△6四歩-△6三銀型。〔右図〕 ・本編には載っていない将棋。 ・△3一玉が深い位置のため、舟囲いなら成立する振り飛車の攻めが無効になることがある。逆に、△3一玉型のために成立する変化もある。(▲8六角のラインに入るなど) ・本局から、「冴えない形」とされていた△6四歩型が再評価されるようになった。 |
第3局 ▲都成竜馬△藤井聡太、2017.07.11、加古川青流戦 ・先手が▲5五歩保留、後手は角道不突きの序盤から舟囲いにした将棋。〔右図〕 ・本編には載っていない将棋。 |
第4局 ▲伊藤博文△都成竜馬、2017.07.26、棋聖戦 ・都成が居飛車側を持っている。 ・先手が▲5五歩保留で、後手は角道不突き左美濃+△7三桂+△1三角。 ・第2章p71の変化になる。本局のみ、定跡編からの変化で、実戦譜からの変化も詳しく研究されている。(※チャートに記入しました) ・先手は△1三角に反応してすぐ1筋を攻めたが〔右図〕、小駒を蓄えた後手がペースをつかんだ。 ・▲美濃囲いに対しても△1三角が有効との手ごたえをつかんだ一局。 |
第5局 ▲都成竜馬△藤森哲也、2017.08.01、順位戦C級2組 ・後手の角道不突き左美濃、先手の穴熊。 ・ただし後手は△3一玉型左美濃の完成後、すぐに角道を開けた。〔右図〕 ・途中の手順は異なるが、p119に合流。 |
〔総評〕 本書の作戦は、わたしが戦法名から思い描いたものとは、いい意味で違っていた。 対振り飛車の作戦は一般的に、左辺は玉を固めるエリア、右辺は攻撃陣エリアとなるが、本作戦では△1三角と△7三桂のコンビネーションから、5七の地点を狙いつつ、角を移動させて飛先突破を目指すのが斬新だった。 ▲6六歩で△1三角を予防されたときも、ゆっくりした駒組みで堅く囲える利点があって、優秀な作戦だと思った。 半面、わずかな違いで成否も変わるし、後手が圧倒できる作戦という訳でもないので、指しこなすには本書を何度も読んで感覚をつかみ、実戦経験を積み重ねることになりそうだ。そもそも、あとがきによれば「▲中飛車の優秀性を再認識」とあり、著者自身の認識も「有力作戦だが、▲中飛車もやれる」という感じである。 本書は全体のボリュームがやや少なめに感じられるので、経験値を溜めるにはやや手間がかかるかもしれないが、▲中飛車の対策に苦労している人は一度試してみる価値はあるだろう。 なお、全体的な構成として、ページ冒頭に掲げられた指し手の解説ではなく、変化部分の解説をしている箇所が多くて、ときどき読みづらさを感じた。 (例えば、p67で「第32図以下の変化@ ▲5五歩」となっているのに、そのp67では▲5五歩ではなく▲1五歩の変化がずっと書かれている。これなら、「第32図以下の変化@ ▲1五歩…」「…変化A ▲5五歩…」としてくれた方が理解しやすい) ⇒この読みづらさはチャートをたどれば多少緩和されると思うので、活用してください。 (2019Feb17) |