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■先崎学&中村太地 この名局を見よ! 21世紀編

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先崎学&中村太地 この名局を見よ! 21世紀編
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マイナビ将棋BOOKS
先崎学&中村太地 この名局を見よ! 21世紀編
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き6枚
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:B+
上級〜有段向き

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【著 者】 先崎学 中村太地
【出版社】 マイナビ出版
発行:2018年11月 ISBN:978-4-8399-6770-3
定価:1,663円(8%税込) 216ページ/19cm

 

 

【本の内容】
第1局 最後の師弟戦 先崎学八段VS米長邦雄永世棋聖
第2局 康光流の一手損角換わり 佐藤康光九段VS羽生善治四冠
第3局 学生服の挑戦 中村太地四段VS谷川浩司九段
第4局 端のねじり合い 金井恒太五段VS崎一生六段
第5局 最後の名人戦 森内俊之名人VS羽生善治三冠
第6局 藤井猛の先見性について 松尾歩七段VS藤井猛九段
第7局 プロの「時間攻め」とは何か 森内俊之竜王VS糸谷哲郎七段
第8局 コーヤン流三間飛車の極意 中田功七段VS 及川拓馬六段
第9局 電王戦の衝撃 PONANZA―山崎隆之叡王
第10局 美濃の景色を変える 加藤桃子女王VS室谷由紀女流二段
第11局 柔軟に玉形を考える 佐藤天彦名人VS渡辺明竜王
第12局 藤井聡太とコンピュータの大局観 藤井聡太四段VS羽生善治三冠
第13局 穴熊の速度計算 青嶋未来五段VS佐藤天彦名人
第14局 コンピュータ将棋の決勝戦 elmo対Ponanza Chainer

◆内容紹介
本書は先崎学九段と中村太地王座の兄弟弟子コンビが将棋史に残る名局を当時のエピソードともに振り返る「先崎学&中村太地 この名局を見よ!」の21世紀編です。

知られざるエピソードが明かされる米長邦雄永世棋聖VS先崎学八段の最後の師弟戦から始まり、谷川浩司、羽生善治、森内俊之、佐藤康光といった平成の将棋を代表するスター棋士の名局、さらには藤井聡太七段、コンピュータ将棋elmo対Ponanza Chainerまでバラエティに富んだ14局を取り上げます。

同時代の将棋を二人がどう語るのか?将棋の内容の素晴らしさとともに、ここでしか読めない数々のエピソードにも注目、まさに将棋ファン必読の一冊です。


【レビュー】
21世紀の名局の棋譜を、先崎学と中村太地の二人があーだこーだと検討する実戦集。


〔構成〕
・各局の冒頭にテーマ図があり、次の一手問題のようになっている。
・その次に、メインの本文で、雑談を交えながら棋譜の流れを追っていき、テーマ図に至る。
・各局の最後に棋譜(総譜)が掲載されている。
⇒個人的には、テーマ図をひと睨みしてから、棋譜を並べておいてから本文を読むのを推奨。(本文を先に読むと、ところどころで局面が少し飛ぶので、把握しづらい箇所がある)


各局の内容を、短評を添えながら紹介していこう。


第1局 「最後の師弟戦」 ▲先崎学△米長邦雄、竜王戦2組、2003.03.31
・▲矢倉模様から、△陽動振り飛車へ。
・米長が引退表明した後の、最後の師弟戦。先崎は和服着用だったため、米長も自宅から和服を取り寄せた。
・後手の無理仕掛けに、先手が的確に反撃。
・自玉の頓死筋をしっかりしっかり確認してから必至を掛けた。
・最後は、先崎の内弟子生活についてトーク。


第2局 「康光流の一手損角換わり」 ▲羽生善治△佐藤康光、棋聖戦第5局、2005.07.26
・△一手損角換わり▲棒銀
・佐藤康光が「真理追求派」から「好みやモチベ重視」に変わったことについて、先崎は「いや、康光はもともといい加減だった」と主張。
・玉が薄い方が玉頭で強気に戦った将棋。玉頭に持駒の銀を投資せず、攻めに使った。
・最後は再び康光論。「柔軟」「大局観がユニーク」「即興的」など。


第3局 「学生服の挑戦」 ▲中村太地△谷川浩司、朝日オープン、2006.11.22
・相振り飛車
・中村は当時高校3年生だった。
・中村と先崎は10年来の研究会仲間。
・馬を作らせる代わりに、先手の飛をいじめる後手の構想が上手い。先手の飛はまさに右往左往だった。
・攻めたり受けたり、谷川の円熟さが光る。
・谷川の会心局。(逆に中村の「残念局」でもある)
・中村が振り飛車党から居飛車党になったのは、藤井システムなどもともと「縦の将棋」が好きだったから。


第4局 「端のねじり合い」 ▲金井恒太△ア一生、順位戦C1、2014.01.08
・△角交換四間飛車
・先手の9筋位取り穴熊に、後手が銀冠から逆棒銀で逆襲。
・端と玉頭の攻防が見応えあり。一方、「逆サイドの駒をどう活用するか&遊ばせるか」が、隠れた重要テーマだった。


第5局 「最後の名人戦」 ▲森内俊之△羽生善治、名人戦第1局、2014.04.08〜09
・相掛かり
・▲引き飛車棒銀vs△9筋位取り
・序盤でいきなり飛角交換の手将棋になり、自陣飛車2枚vs自陣角2枚の対抗でねじり合った。
・こんなに激しく、延々とやり合っても、ずっとバランスが取れているってスゴすぎる…!!


第6局 「藤井猛の先見性について」 ▲松尾歩△藤井猛、順位戦B1、2014.07.17
・△角道オープン四間飛車模様から、先手の囲い方を見て居飛車にチェンジ。
・2017年〜2018年に流行した「桂ポン跳ね」の仕掛けを、この時期(2014年夏)に行ったことを中村は高く評価。
・雑談は「藤井システムの衝撃」について。


第7局 「プロの「時間攻め」とは何か」 ▲糸谷哲郎△森内俊之、竜王戦第5局、2014.12.03〜04
・角換わり相腰掛銀
・△4二金右に▲6八金右で、穴熊を含みに仕掛けを狙う。
・プロの時間攻めは、「相手に考える時間を与えない」のではなく、「相手を焦らせること」とのこと。
・糸谷がしつこく受けて、絶妙のタイミングで反撃を見せた。


第8局 「コーヤン流三間飛車の極意」 ▲中田功△及川拓馬、順位戦C2、2015.03.06
・▲三間飛車△一直線穴熊
・コーヤン流の丁寧な指し回しが素晴らしい。
・「コーヤン流は中田功がやればできるけど、普通の人がやるとぼろぼろになる」(先崎)
・「居飛車(居飛穴)の玉はだいたい6三で詰む」
⇒お、おう…。これは先崎も中村もすぐには理解できない話。この大局観があるから▲8三歩成(居飛穴玉からすごく遠い)を決断したとのこと。
・難しいが、コーヤン流が端攻めだけではないということはよく分かった。


第9局 「電王戦の衝撃」 ▲PONANZA△山崎隆之、電王戦第1局、2016.04.09
・横歩取り模様から、互いに飛先を交換したタイミングで▲5八玉!
・以前からあった形ではあるが、本局で急に注目が高まった。
・この後、序盤で当然のように通り過ぎていたところの再評価が活発化。詳細は『コンピュータは将棋をどう変えたか?』(2018.10)などを参照するとよい。
・人間なら読みを打ち切るところを、コンピュータは先入観なしでその先を読み進めていく。


第10局 「美濃の景色を変える」 ▲室谷由紀△加藤桃子、マイナビ女子オープン第1局、2016.04.12
・▲升田流向かい飛車
・銀交換後の▲6六銀が、折角の持駒の銀を自陣に打つようで違和感があるものの、後の綺麗な捌きを生んだ。
・後手の勝負手の端攻めにも、先手はうまく対応。
・決めに行く室谷、ギリギリで凌ぐ加藤の攻防がアツい。


第11局 「柔軟に玉形を考える」 ▲佐藤天彦△渡辺明、王将戦、2016.09.09
・△阪田流向かい飛車
・後手が木村美濃に組み替えるかと思いきや、風車ライクの駒組みにチェンジ。
・駒落ちの二枚落ちや飛車落ちの上手のような玉型になっていく。
⇒上手をいっぱいやると、△6三玉型がこなれてくる(≒上手く扱えるようになる、いい形に思えるようになる)。
・「バランス重視」が「堅い玉」に勝つ一例。


第12局 「藤井聡太とコンピュータの大局観」 ▲藤井聡太△羽生善治、炎の七番勝負第7局、2017.04.23
・角換わり▲4五桂跳ね
・桂ポン跳ねから、角桂と金の交換で先手の駒損。
・「何回見ても無理攻めに見える」(中村)ところから、絶妙の金打ちで空間を制圧した。
・「現代は駒の損得以上のものを身につけなきゃいけない」(p176)
・「コンピュータ世代や藤井君から、新しい大局観が出ている」(p176)


第13局 「穴熊の速度計算」 ▲青嶋未来△佐藤天彦、王座戦、2017.04.26
・▲中飛車 相穴熊
・相穴熊の剥がし合いで、金取りを放置して、タダ捨ての銀で迫る。


第14局 「コンピュータ将棋の決勝戦」 ▲elmo△Ponanza Chainer、コンピュータ将棋選手権、2017.05.05
・角換わり
・後手の猛攻を先手が綱渡りで耐え凌ぐ。
⇒第5局の森内vs羽生が似たイメージだが、本局はさらに際どい。人間なら「ひと目負け」がずっと続く感じ。
・テーマ図では双方が「自分の方が良い」という評価値。



〔総評〕
本書は「名局を見よ!」と冠している。以前なら「名局」といえば、「どちらが勝つか分からないねじり合いの名局」とか「すごい切れ味の攻め」というような「悪手の少ない完成度の高い将棋」というイメージだったが、本書での「名局」は、「プロが感心・感動した将棋」という意味合いが強いように思う。

さらに、全14局を通して観てみると、「21世紀編」といいつつ、大半の将棋はここ3〜4年で指されたものだった。つまり、「プロが感心する」≒「これまでのプロの直感や大局観から少しズレる形で、良い筋が成立している」というものは、大局観の激変が進行中のここ数年に集中していると言えるのだろう。

また、本書の最後の「検討を終えて」に、「資料を見ながら二人で検討してみると、一人で並べるよりも面白かった」(p212)とあり、本書はこれに尽きる。

実戦解説が14局は、総数としては多くない。自戦記集の場合は、14局だとたいてい迷いつつもBにしているが(『注釈 康光戦記』が特に迷った例。当時はB+は設定していなかったので)、今回は編集者(?)がファシリテートしながら上手く2棋士の話を引き出していた点がすごく良かったので、Aとした。(似た例は『村山聖名局譜』)

本書を読むと、将棋に対する考え方が少し変わる、かもしれませんよ。


※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p87下段 ×?「先手は大駒と玉が強くて」 ○「先手は大駒と玉が近くて



【関連書籍】

[ジャンル] 
棋譜解説
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
先崎学 中村太地
[発行年] 
2018年

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