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マイナビ将棋BOOKS 自由自在!中飛車の新常識 |
[総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
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【著 者】 今泉健司 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年11月 | ISBN:978-4-8399-6768-0 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【巻末付録】今泉流実戦次の一手 |
【レビュー】 |
▲中飛車の戦術書。 今泉は、プロ編入の前から中飛車を得意としており、特に▲中飛車左穴熊の本をすでに2冊出版している。中飛車での相振り飛車を左穴熊でカバーしたことで、▲中飛車は総合戦法になった。 ただし、この数年間で▲中飛車への対策も進化し、かつて有力だった指し方が苦戦していることもある。今泉はその状況の中、▲中飛車を指し続け、新研究により苦しさを跳ね返そうとしている。その新対策をつづったのが本書となる。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は「本書の概要」。過去2冊を振り返り、本書での違いを紹介している。特に「中飛車左穴熊」での対策すべき後手の作戦や、その手法が中心となる。 ●1冊目 『最強アマ直伝!勝てる将棋、勝てる戦法』(2014.04) ・中飛車左穴熊vs石田流。 ・▲2六歩で△2四歩を突かせる(△2四飛を消す)手法 ・△3三銀〜△4四銀は浮き飛車の強敵 ・▲5八飛型で、△3六歩に▲3八銀の「菅井流」が有力 ●2冊目 『プロ合格の原動力!今泉の勝てる中飛車』(2015.12) ・△4四歩型(居角)も浮き飛車の強敵。立石流のような形から将来の角交換で、左穴熊のスキが多い。 ・今泉の研究手は、▲5八飛型での▲5七銀で、次に▲4六歩から4筋の位に反発していく。 ・△5一銀型が最強の敵。左銀を引いて使い、飛の横利きを通したままでダイヤモンド美濃を目指せる。 ●3冊目(本書) ・今泉の新研究は、「▲5六飛への回帰」。当然、新しい研究手がある。 ・△4四銀型には▲7五歩の仕掛け。(第1章第2節) ・△5一銀型には、穴熊にせず「左玉」にする。今年(2018年)に流行し始めた「▲7九金-6八銀型」(elmo囲い)。 ・他に、中飛車の相振り、▲中飛車vs△角道不突き作戦など。 |
第1章は「中飛車左穴熊 対
三間飛車」。 (1) 従来の左穴熊 △5一銀型からダイヤモンド美濃にして、△5四歩と動く作戦が難敵。△5一銀型には左穴熊が苦労している。 漫然と駒組みすると将来的に堅さ負けするので、左穴熊を簡単に済ませ、▲4六歩〜▲4七銀を急ぐのは有力。ただし、▲4六歩に△2四飛として▲3八銀を釘付けにされると、先手不満。 (2) 今泉の新研究 原点回帰の▲5六飛が有力と見る。 ・△5四歩の仕掛けが気になっていたが、左穴熊にはできなくとも低い陣形で十分戦えると判断するようになった。 ・△5一銀型にも、角交換の仕掛けは恐れない。陣形が低ければ大丈夫で、▲2二角の打ち込みを切り札に狙う。 ・△5一銀型で、後手が仕掛けを見送るなら、左穴熊に組める。「穴熊版・中原囲い」が有力。 ・△5二金型には、▲2六飛が常套手段。△2四歩と突かせて、将来の△2四飛を消す。 ・▲5六飛に強敵の△4四銀型には、「▲7五歩!〜▲5七銀」が眼目の仕掛け。穴熊を頼りに左辺で暴れ、途中で銀が入手できれば▲2三銀(飛角両取り)を狙う。 p59〜からは実戦ベース。 @△4四銀型〜▲4六歩△3六歩(p59〜) 以前の左穴熊では、「右辺は銀桂に任せて玉を固める」という指し方もよく見られたが、現在は「右辺に金銀を残してでも、後手の捌きや押さえ込みに対抗し、少しずつ金銀を使っていく」といった展開も必要。 A△3二飛型からの△3六歩(▲4六歩の前に)(p64〜) 強敵の一つだが、戦える。 B△居飛車模様(p73〜) △7四歩〜△7三銀と進出し、玉を左に囲ってくる作戦。7六歩を銀で狙ってくるが、あまりこだわる必要はなく、5五を確保することの方が重要。 |
第2章は「中飛車左玉 対 三間飛車」。 (1) 左玉 対 △3五歩型 三間側の飛浮きが早い場合、左穴熊に囲おうとすると、p73〜であったような「居玉で△7四歩〜△7三銀と角頭を狙ってくる作戦」がある。それでも一局だが、本章では「▲6六角からelmo囲い」の左玉作戦を推奨している。 (2) 左玉 対 △4四歩型 △4四歩型で、先手が9筋の位を取った場合。やはりelmo囲いの左玉は有力。先に▲6八銀と上がっていても組める。 p91〜以降は実戦ベース。 |
第3章は「相振り飛車 中飛車 対
三間飛車」。中飛車左穴熊も相振り飛車の一種だと思うが、本章では一般的な相振り飛車(互いに玉を右側へ囲う)を扱う。 (1) △4四銀型 ▲中飛車で、左穴熊や左玉にせず、通常の相振りにする作戦。一般論として、「相振りで中飛車は損」とされるが(それで中飛車左穴熊が出てきた訳だが)、本章の作戦は「狙いが分かりやすく、短時間の将棋に向いている」とのこと。 ポイントは、初手▲5六歩の中飛車から相振り模様になったとき、▲5五歩と突かずに▲6八銀と上がり、▲5七銀としてから▲7六歩と角道を開けること。8筋を伸ばしたら、角交換から▲8八飛とし、ナナメ棒銀ライクの攻めを狙う。後手が角道を止めてくるなら、やはり8筋を伸ばして、▲6六角〜▲8八飛〜▲7七桂と組み上げる。いずれにせよ、「中飛車は仮の姿」とする。 初手▲5六歩の▲中飛車ならではの相振りの戦い方といえるだろう。 (2) △3一銀型 後手が左銀を保留したまま駒組みを進めた場合。後手は将来の▲2二角成△同銀を想定している。 指し方のイメージは(1)と大差なし。角交換してあれば、後手の囲いにあまり関係なく(たとえば穴熊や金無双)、ナナメ棒銀から▲8三銀成と先に捨てる筋が成立して捌ける。 また、p125〜の「▲7六歩よりも先に▲9六歩」も有力。相振りになるなら9筋の突き合いは先手の得(将来の端攻めを得やすい)。端を受けない場合、引き角から左右の銀で△3五銀を苛めていくのが面白い構想。 |
第4章は「先手中飛車 対 角道不突き作戦」。 角道不突きは、3年前の『プロ合格の原動力!今泉の勝てる中飛車』(2015.12)ではまだホヤホヤの線戦法だったが、現在(2018年)は▲中飛車対策のメインとなっている。後手は角道を開けないまま、すばやく右銀を繰り出してくる。 (1) ▲5五歩型 5筋位取り中飛車の場合は、銀対抗が先手の有力策。いったん後手の攻めを止めて駒組みを目指す。後手の二枚銀が来たタイミングで5筋の歩を交換した局面がどうか。 二枚銀で来ずに△3一玉型左美濃も一局の将棋。アマだとこちらの方が多いかもしれない。p142の「銀損の攻め」は要チェックだ。 (2) ▲5八飛型 (1)に比べると穏やかで、今泉のオススメはこちら。5筋位取りを保留すれば、右銀が単騎で来ない(▲5五歩でないので目標にならず、受け止められる)。後手は角道不突きの△3一玉型左美濃で来るが、▲6六歩とあえて角道を止めてから、ややクラシカルな5筋位取り中飛車の戦いになる。 「角道を止めないのが中飛車のいいところ」という人には向かないかもしれないが、今泉は「昭和の振り飛車を勉強した自分にとっては▲6七銀型の方が良形に見えて安心する」とのことで、この辺は好みだろう。 |
第5章は「実戦編」。今泉の実戦3局の自戦解説となる。3局とも逆転勝ちを収めた。各局とも、最終ページにコメント文と、総譜の一括掲載がされている。 (1)「▲7九金型左玉を採用」、▲今泉健司△瀬川晶司、順位戦C級2組、2018.03.15 elmo囲いの中飛車左玉 (2)「無敵囲いからアヒルへ」、▲山崎隆之△今泉健司、王将戦、2018.03.05 講座編とは全く無関係の力戦。一応、四間飛車vs中飛車。序盤で飛交換となり、流れでアヒル風の陣形になった。「プロの実戦でこんな形にできるとは」とワクテカしたそうだ。 (※△3二玉と囲っているので、純粋なアヒル戦法とは異なる。また、アヒルは「打ち込みのない陣形で、大駒の交換を狙っていく」のが基本の狙いだが、本局では「大駒交換後に、打ち込みを防ぐためのアヒル型」となっている) (3)「藤井七段に逆転勝ち」、▲今泉健司△藤井聡太、NHK杯、2018.06.11 巻末付録は「今泉流実戦次の一手」。中飛車の本であるが、四間飛車など別の振り飛車も含まれる。 鋭い決め手というよりは、「空間やマス目を支配するような手」が多い。あまり普通の次の一手では見られないタイプの出題なので、新鮮な感じだった。実戦で意識すると、終盤力が少し上がりそうだ。 〔総評〕 ▲中飛車の課題に対して、新研究の視点から再評価したという本。特に、左穴熊にこだわらない指し回しや、右辺に金銀2枚を派遣したり、先に突き捨ててから銀を出るなどの指し方は、コンピュータ将棋の影響を受けて、局面をまっさらな目で眺め直したということだろうか。 以前は「固められなくて不満」だったものも、「固められなかったけど十分指せる」になってきたのは、この2年くらいの「大局観の地殻変動」を感じる。 全体的に、「すでに▲中飛車の基本を知っていて、実戦もこなしている人向けの、知識のバージョンアップ」という感じの本だと思うのと、今泉独特の「アマもプロも知っている粘り強い将棋」の感覚が人によって向き不向きがあると思うので、万人向きではないということでBとしたが、もちろん▲中飛車を指す人にとっては目を通すべき本である。(2018Dec09) |