zoom |
マイナビ将棋BOOKS 奇襲の王様 筋違い角のすべて |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
||
【著 者】 武市三郎 美馬和夫 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年9月 | ISBN:978-4-8399-6696-6 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)前書き的コラム (2)香落ち戦での筋違い角 (3)筋違い角戦法のハメ手順 (4〜9)筋違い角談義1〜6 |
【レビュー】 |
筋違い角戦法の戦術書。 筋違い角は、大きく分けて2つあるが、本書で扱うのは「3手目角交換から▲4五角と打つ筋違い角」(もう一つは「純正角換わりからの筋違い角」)。そこからもいろいろな派生作戦がある。誰でも一度はやられたことがあるだろう。ただ、単純な奇襲作戦ではなく、アマ強豪や一部のプロ(武市だけだが)も愛用する、立派な「ユニーク戦法」である。 その武市が著した『武市流力戦筋違い角の極意』(2003)から15年、アマ強豪・美馬と、プロの使い手・武市が共同で記した筋違い角の本が本書である。アマ・プロ双方からの視点で書かれ、前著では盛り込めなかった手法や手順もある。全体の執筆は基本的に美馬が担当したと思われる。 書かれている作戦は大きく分けて3つ。 ・武市流…▲6七角と引く。囲いは美濃か金美濃。 ・美馬流…▲7八角と引く。囲いは穴熊。 ・古来の奇襲的手順 各章の内容を、図面と簡単なチャートを添えながら紹介していこう。 |
プロローグは、「筋違い角戦法の歴史」と、本書の概要について。 (1)筋違い角戦法の歴史 ・角換わりの筋違い角は手損なし。1947年3月10日▲木村義雄△塚田正夫(名人戦)で初登場した。数年間プロで流行し、筋違い角棒銀や筋違い角向飛車などが生まれた。純正角換わりなので、ある程度は互いの同意がないと成立しない。 ⇒本書では角換わり筋違い角は扱わない。なお、1970年代くらいまでの本にはときどき登場する。 ・3手目角交換は手損だが、使える機会は多く、振飛車党に飛車を振らせないなどの利点(?)がある。 ・武市だけがプロの使い手で、武市が引退してからはプロの実戦はほぼ消滅状態。 ・アマでは古今問わずよく使われる。美馬も振り穴党だったので、よく筋違い角を打たれたが、逆に使ってみたところ、筋違い角四間穴熊との相性が良かった。 (2)本書の概要 筋違い角は基本的に手将棋であり、指し方の方針・考え方・狙い筋をメインに解説していく。 |
第1章は「振り飛車編」。筋違い角+四間飛車の作戦について、基本的な考え方を中心に解説していく。 ・オープニングで▲2二角成に△同飛の変化がある。(p24) (1)高美濃 対 △5五歩・5四銀型 筋違い角戦法の理想的な展開を解説。 ・後手に歩を渡さないようにする。 ・角の収納場所のために▲6六歩と突く。 ・筋違い角は四間飛車との相性が良い。 ・できるだけ角筋を確保する。 ・できれば銀冠を急ぐ。(終盤への貯金) ・左辺を攻めさせて、反動(入手した駒、陣形の崩れなど)を利用して玉頭戦にする。 ・〔左下図〕が目標形、〔右下図〕が理想形。 |
(2)対△5五歩・5四銀・4五歩型 先手の理想形を許さないように、後手が4筋・5筋の位取りで角道を遮断してくる作戦。わたしも最初に読んだ入門書(『将棋の初歩から初段まで』)で筋違い対策をこのように教わった。 ・囲いの進展性がなくなるので、左辺で手を作る。▲7五歩として▲7六角の覗き、7筋を突き捨てて▲7二歩の垂れ歩、向飛車への転回を狙う、▲8六銀から動く、など。〔右図〕はその一例。 ・どこかにできる争点に向かって駒の配置を変えていく。 |
(3)対△5三歩・5四銀型 5筋の歩を突くのを省略して△5四銀と腰掛け、すばやい4筋位取りで角道の遮断を早く実現する作戦。 ・この場合は、金美濃+▲7八角+四間飛車を推奨。金美濃を採用するのは、自陣の4筋をすばやく厚くできるようにしておくため。 ・やはり左辺で動けるようにしておく。〔右図〕はその一例。 |
第2章は「相筋違い角編」。“お前が打つならおれも打つ”で、アマでは結構見かける形。手将棋感がさらに強くなるが、もちろん基本的な考え方というものはある。また、3手目角交換により△2二銀型になっているため、互いに筋違い角を打ち合っても陣形は違うものになる。 (1)歩を取る型 後手がいったん△5二金右として、▲6三角成を受けた後、▲3四角に△6五角と打ち返してくる。〔左下図〕 ・自陣は歩のない方に飛を振り(歩のある方に玉を囲い)、相手には歩のない方に囲わせたい。 ・この場合は▲向飛車が良い〔右下図〕。囲いは金美濃を推奨。 ・角を成らせる(▲2三角成)のハメ手に注意。馬が死んでしまう。 |
(2)歩を取らない型 いきなり△8五角と打ち返してくる形〔左下図〕。6三の地点を守りつつ、歩を取り返そうとしている。プロの実戦例もある。先手が歩を守ると、互いに歩を取らないことになる。 ・前著『武市流力戦筋違い角の極意』では、以下▲7八飛だった。 ・第6章(武市流実戦編)の第9局(窪田戦)では、△8五角から互いに歩を取り合っている。 ・本書では、▲7五歩〜▲8八飛を推奨。囲いは金美濃を推奨。〔右下図〕 |
第3章は「居飛車編」。筋違い角の奇襲の成功例として多くの棋書で見かけるが、毎回使うのは危険。後手の攻め足が遅く、玉を2筋方面に囲ってくるときのみ有効となる。本書ではメインコンテンツではない。 ・1筋-2筋攻め(飛切りで銀香との二枚替えの筋) ・3筋の歩を伸ばす攻め(3筋の歩を押し上げてから銀を出る) ・鎖鎌銀からの棒銀攻め |
第4章は「その他」として、4つの戦型を解説。他書でサラッと「○○も有力」などと書かれたりして、腕自慢の人が使ってきそうな戦型。“その他”とはいえ、筋違い角にとっては手ごわい作戦ばかりなので、第1章・第2章をマスターしたら、こちらもちゃんと読み込んでおこう。 (1)後手無理やり振り飛車型 筋違い角▲4五角に、△6二飛▲3四角△4二飛と受ける作戦〔右図〕。初出はおそらく『超急戦!!殺しのテクニック』(横田稔,塚田泰明監修,高橋書店,1988)で、前著『武市流力戦筋違い角の極意』(2003)や『これで万全!奇襲破り事典』(本間博,マイナビ出版,2017)などにも掲載あり。 どうしても飛を振りたい人が使ってくるので、意外と出現率は高そうだ。 ・後手が美濃囲いなら、▲8八飛+▲5六角で玉頭攻め。 ・後手が金無双(△8二銀)なら、▲7七銀と備えてから居飛車でOK。△8二銀の壁形を咎める。 (2)後手6筋位取り型 △6筋位取りで▲6六歩(角の収納場所を作る)を封じてくる作戦。レアだが強敵。本書で書かれたことで採用が増えるかも? ・△6四歩にすぐ▲6六歩とはできない。 ・▲5六角〜▲7七銀〜▲6八飛〜▲5八金で、6筋に反発する作戦を推奨。 |
(3)飛車角交換型 筋違い角▲3四角をすばやく追い払った後、▲6六歩を狙って△8四角〔右図〕と打ってくる作戦。前著『武市流力戦筋違い角の極意』や『これで万全!奇襲破り事典』などに掲載あり。 ・〔右図〕から▲6八飛△9五角と準王手飛車がかかるため、飛角交換になる。 ・隙のない陣形を作れば戦える。 ・第7章(美馬流実戦編)の第7局も参考にしよう。 |
(4)△2二飛転換型 △5三歩-5四銀-4五歩型(第1章第3節)から△2二飛と転換する作戦。 ・居玉のまま△4四銀〔右図〕と来たら△2二飛転換が濃厚。居玉のまま、次に△4三金〜△3二飛となる。 ・▲7八角から金美濃が本書の推奨。第1章第3節と同じ。 ・慌てて玉を囲わずに、間合いを計ろう。 ・▲鈴木大介△羽生善治(2000.02.23)が有名局。 ・第6章(武市流実戦編)の第8局、第7章(美馬流実戦編)の第6局も参考に。 |
第5章は「筋違い角後手バージョン」。 ▲7六歩△3四歩▲2六歩のオープニングなら、後手でも筋違い角は採用できる。 ・持久戦なら特に問題なし。 ・2筋歩交換は防げないが、2一桂に角のヒモが付いているのを利用して、2筋を守り切れる。 ・すぐに▲2五歩を伸ばしてくるなら△2二飛と受ける。アマは高確率で▲7七角を打ってくる〔右図〕そうだが、丁寧に指せば大丈夫なので、本書でしっかり対策しておこう。 ※ちなみに、私の実戦数局では持久戦ばかりでした。 |
第6章は「武市流実戦編」。武市のプロ実戦譜を、武市と美馬の対談形式で解説していく。 美馬の予想手に武市がコメントしていく形がベースで、美馬の「アマなら○○」もかなり参考になる。アマが引っ掛かりやすい筋、外連味(ケレン味)、短時間ならではの指し方、など。 各局には総譜が付いていて、武市執筆による解説もかなりガッツリある。先に総譜を並べてから、対談解説を読んだ方が理解しやすいと思う。 ・第1局 武市vs神谷、1989年10月5日、△5五歩-5四銀-4五歩型 ・第2局 武市vs剱持、1993年11月16日、△5五歩-5四銀vs▲高美濃 ・第3局 武市vs中田功、1994年9月29日、△5五歩-5四銀-4五歩型 ・第4局 武市vs日浦、1995年5月31日、△5四歩+一直線穴熊 ・第5局 武市vs坪内、1995年6月20日、△5三歩-5四銀型(+△4五歩) ・第6局 武市vs櫛田、1997年6月23日、△5五歩-5四銀型 ・第7局 武市vs小倉、1998年1月7日、△3四銀-4五歩型 ・第8局 武市vs大内、1998年4月10日、△5五歩-5四銀型〜△2二飛転換 ・第9局 武市vs窪田、2000年2月15日、△8五角〜歩を取り合う型 ・第10局 武市vs矢倉、2001年6月13日 △5三歩-5四銀型(+△4五歩) 第7章は「美馬流実戦編」。美馬の実戦譜を、前章と同様に武市と美馬の対談形式で解説していく。こちらは総譜はなく、見開き1局で主に中盤戦を扱う。 なお、美馬流は基本的に「▲7八角+振り穴」のミックスとなる。「▲7八角+美濃囲い」の形は、『新版 奇襲大全』(湯川博士執筆,週刊将棋編,森けい二監修,MYCOM,1999)では山岡太郎さんの開発であると書かれている。 ・第1局、第2局 △4三角型+穴熊 ・第3局、第4局 ▲7八角型+穴熊 ・第5局 ▲6七角型+穴熊 ・第6局 △2二飛転換型 ・第7局 飛角交換型 ・第8局 後手無理やり振り飛車型 ・第9局 △3二角型+穴熊 ▲8八飛転換型 第8章は「武市の筋違い角必至&詰将棋」。 武市は現在(2018年)「将棋世界」誌で懸賞必至問題を出題しており、また必至問題集も著している。本章の必至と詰将棋は、「筋違い角戦法」とは全く無関係である(筋違い角戦法で生じやすい終盤問題、などではない)が、全問「筋違い角を打つ」問題となっている。 ・すべての角が筋違い角という訳ではない。 ・最終手が角打ちとは限らない。 ・難易度は★3.0〜4.0くらい。最後の詰将棋2問はちょっと難しめ。 ⇒必至問題は全問正解できました。(^^)v 詰将棋も、最後2問以外は(わたしレベルでも)何とか解けたので、そんなに難問ではないです。 コラムは本書ではかなり多く、9ページもあるが、すべて筋違い角に関する内容。よって、コラムも本編の一部と思ってよい。 ・『将棊はめて千態』(土居市太郎,大野万歳館,1915?)と『将棋はめ手集』(梶一郎,大阪屋號書店,1952)のハメ手 ・筋違い角向飛車逆棒銀の注意点 ・[筋違い角談義] −武市流筋違い角の誕生秘話 −降級点回避の一局(※武市は順位戦の連続22年も降級点回避している) −徳島ライン(※武市と美馬は徳島県出身) −序盤の変化(⇒超重要。第4章・第2節に似た変化。考え方を知っていれば大丈夫) −筋違い角のメリット −筋違い角の使い手(『将棋絶滅危惧種/筋違い角戦法』(三國栄)という本が紹介されている。公式ページ) 【総評】 私は2008年に書いた『武市流力戦筋違い角の極意』(2003)のレビューのとき、「あまりこの戦法を採用する気にならなかった」と書いている。 ところが、本書を読んでいて次第に「あれ?この戦法は理にかなった結構いい戦法なのでは…?」と思うようになってきた。 一歩得して、玉は堅く、取った筋の歩を伸ばして比較的ゆっくりした戦いにして(≒横歩取り戦で一歩得した先手が目指すべき姿)、相手が動いてきたところをカウンターにする。相手は堅く囲いづらく、歩も入手しにくいので、「堅い、攻めてる、切れない」にはなりにくい。研究にまみれていないころの振飛車のようにも思えた。 いい戦法だと思えるようになったのは、本書でさまざまな筋違い角のパターンを紹介しただけでなく、プロ・アマ双方の視点で解説したところや、武市の勝局を多く・細かく解説したり、美馬による「アマがハマりやすい筋」などの紹介を散りばめたりして、「すべて」の名にふさわしい内容にしたのが奏功したのだと思う。(※本書には載らなかった筋違い角の作戦もまだいくつもあるため、完全な「すべて」とまでは言えませんが、少なくとも「角を左に引いて右辺に利かせ、振飛車にするタイプの筋違い角戦法」については網羅していると思います) 本を読んで考え方や感覚を理解してから、実際に将棋部の合宿で試してみたところ、思った以上に好成績でした。特に角が8九桂にヒモを付けているのと、▲2三角成と捨てる筋を居飛車がウッカリしやすく、実際にその筋が実現した後の感覚もつかみにくいようでした(こっちは本を読んだので感覚が分かっている)。 AかBかの境目くらいで迷っていましたが、実戦で指してみて「これは本書を何度も読むわ!」と思ったので、Aとなりました。(2018Sep30) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p105 ×「第2章第3節に類似した進行…」 ○「第1章第3節に類似した進行…」 p106 ×「第2章第3節と同じ進行…」 ○「第1章第3節と同じ進行…」 |