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■將棋はめ手集

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將棋はめ手集
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将棋ポケット文庫
將棋はめ手集
[総合評価] C

難易度:★★★
〜★★★☆

図面:見開き2枚
内容:(質)B(量)B
レイアウト:A
解説:B
読みやすさ:B
中級〜上級向き

(1952年版)
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≪1957年版≫

(1958年版)
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≪1959年版≫

【著 者】 梶一郎
【出版社】 大阪屋號書店
発行:1952年5月 ISBN:
定価:80円 198ページ/14cm


【本の内容】
第一章 はめ手の初歩 (イ)三間飛車の急戦
(ロ)奇襲鬼殺し
9p
第二章 平手篇 (一)両居飛車、相櫓の奇襲
(二)両居飛車、棒銀の活躍
(三)両居飛車、突如棒銀に変化
(四)両居飛車、相懸り戰
(五)両居飛車、序盤の駈け引き
(六)珍戰法、袖飛車の奇襲
(七)引き角と盛り上り戰法
(八)筋違い角のはめて
(九)中飛車、急戦の凌ぎ
(十)衝突銀の捌き
(十一)棒銀退治
(十二)四間飛車対引角戰法
(十三)引き角の威力
(十四)中飛車撃退
(十五)軽い中飛車の捌き
(十六)進む向飛車
120p
第三章 駒落篇 (一)香落、両端の急戰
(二)香落、三間飛車の急戰
(三)香落、三間飛車の左翼攻撃
(四)角落、矢倉組の変化
(五)飛車落、上手4三金止の早仕掛
(六)飛車落、金開きの戰法
(七)飛香落、桂跳びの早仕掛
(八)飛香落、定跡型のはめ手
(九)飛香落、角打の奇手
(十)二枚落、5五の歩突き
(十一)二枚落ち、銀多傳
69p


【レビュー】
奇襲戦法の解説本。

タイトルには「はめ手」とある。「はめ手」をわたしなりに解釈すると、「うまく相手がハマってくれれば大きな戦果を挙げることができるが、正しい対応をされると不利になるような手」といえる。ただし、それがあまりにもひどいものであれば「勝手読み」であるし、高度なものであれば、序盤なら「奇襲」、中終盤なら「罠」または「勝負手」という言い方になる。また、「本筋ではない」くらいだと「変化」という言い方もできる。

本書で解説されるものは、ほとんどが「奇襲」か「変化」といえるような、比較的高度な作戦である。

このレビューから60年以上前、戦後間もない時期に書かれた本なので、例えば5筋を突いた相掛かりなどは現代ではまず現れることがなくて使えない。ただし、手筋が参考になるものもある。その一方で、「これは現代将棋か?」と思うような作戦もあり、新しい発見(というか再発見)もみられる。

各戦法を簡単に紹介していこう。


第一章 (イ)三間飛車の急戦

△急戦早石田のハマリ型。先手があわてて2筋を交換すると、王手飛車や両取りの筋がある。先手の正しい(当時としては)指し方も解説あり。


第一章 (ロ)奇襲鬼殺し

▲鬼殺しの基本変化。▲7七桂の時に△6四歩でダメ、とある。


第二章 (一)両居飛車、相櫓の奇襲

相矢倉での棒銀(端攻め)。ハメ手というより、矢倉ではこの筋を常に警戒しておかなければならない。組み上げてからの速攻だけでなく、落ち着いた攻撃順も書かれている。


第二章 (二)両居飛車、棒銀の活躍

角換わり▲棒銀。端攻め成功例と、銀交換成功の例。当時はまだ、△5四角がなかったようだ。


第二章 (三)両居飛車、突如棒銀に変化

相掛かりで、▲腰掛銀模様から棒銀へ変化する。鎖鎌銀に似た指し方。腰掛銀で合意しかかっているところでやられると、相手はかなり戸惑うかもしれない。


第二章 (四)両居飛車、相懸り戰

相掛かりでの、△早繰り銀対策。双方が5筋の歩を突き合っており、いわゆる「旧相掛かり」。角交換の可能性が常にあるので、現代で現れることはない。


第二章 (五)両居飛車、序盤の駈け引き

横歩取り模様で、▲7八金と締めずに飛先交換した場合の乱戦。先手が好んで飛び込む変化ではない、というのが定説だが、一度はやってみるのも良いかも。


第二章 (六)珍戰法、袖飛車の奇襲

△奇襲袖飛車。振飛車の出だしで、先手が無警戒で舟囲いにしたら、玉頭を急襲する。〔右図〕
こうなってからでは手が付けられないので、玉を囲うときは慎重に。基本的には、相手玉と足並みをそろえるべし。


第二章 (七)引き角と盛り上り戰法

前項の袖飛車で、▲6八銀〜▲7七銀〜▲7九角と引き角にしてきた場合。そのまま袖飛車にしても悪くないと思うが、2筋を突破されると容易ではない。

本項では、袖飛車に固執せずに盛り上がる作戦。△3二金と締めて、〔右図〕のように銀を縦に並べて盛り上がる。

相手に引き角から角交換させ、手にした角を△7三角と据えて先手飛車のコビンを狙う。相手にも▲3七角と打たせた上で角交換を拒否し、先手角の頭を狙っていくという、かなり高等な作戦である。


第二章 (八)筋違い角のはめて

3手目角交換からの筋違い角。本項では、8筋を伸ばさせて逆襲を狙う型を解説。


第二章 (九)中飛車、急戦の凌ぎ

わざと△中飛車に中央突破させる作戦。後手は角道も開けずに△6二銀〜△3二金〜△5四歩と、現代の目で見ればむしろ後手の奇襲のようだが、当時はよくある作戦だったようだ。

〔右図〕から、先手はわざと右銀の進出を遅らせ、中央を突破させる。さらに銀を取らせて角交換を実現し、隙間の空いたところに▲8二角と打とうという思惑。ただし、狙いを看破されると、誘いの隙が本当の隙になりかねない。


第二章 (十)衝突銀の捌き

前項の形から▲5七銀で相居飛車になった場合に、後手の銀交換挑戦を避けて、先手の右銀が4五→5四→6五とクルクル動いて攪乱する。

現代でこの形になることはまずない。


第二章 (十一)棒銀退治

△四間飛車に対する▲速攻棒銀の撃退法。


第二章 (十二)四間飛車対引角戰法

引き角からの飛先交換に対抗する手筋。▲2四歩△同歩▲同角に△2二飛〜△4四角とかわすという、振飛車の基本手筋。振飛車党は、常にこの筋が成立するかどうかを考慮して指すべし。


第二章 (十三)引き角の威力

前項の応用例。居飛車の立場で、振飛車の銀を取れる位置(5五など)に誘ってから飛先交換する手筋。本項の場合は、二枚飛車を渡すが、銀得で右桂も捌けるので居飛車優勢。


第二章 (十四)中飛車撃退

原始中飛車の受け方。


第二章 (十五)軽い中飛車の捌き

中飛車で角交換してからの、2筋逆襲。細かい違いはあるものの、現代の角道オープン中飛車と基本的な考え方は同じである!60年前にはすでに指されていたんだ…

〔右図〕から、▲6六銀に△4四銀!と2筋を開け放して、▲2四歩△同歩▲同飛に△3三桂から飛先を逆襲する。現代なら、後手の囲いは片美濃、5筋を交換してから飛を引く、などの工夫があるが、基本的な手筋はほとんど同じ。

なお本項では、△3二金と上がらずに△5一金左から「ヒラメ戦法」の捌き方も解説がある。(「ヒラメ戦法」とは命名されていない)


第二章 (十六)進む向飛車

▲7八銀型の急戦向飛車。現代でもアマでこの戦法を得意にしている人がいる。大駒交換さえしてしまえば指しやすい。


第三章 (一)香落、両端の急戰

下手が1筋・9筋の歩を伸ばし、両端を突き捨ててから飛交換。

〔右図〕から
▲1四歩△同歩▲9五歩△同歩▲1四飛△同飛▲同香△1三歩

すると、▲9二歩△同歩▲9一飛と打ち込めるという仕組み。上手は、9筋を受けないなど何らかの工夫が必要だ。


第三章 (二)香落、三間飛車の急戰

相三間飛車から、下手のみ歩を切って、〔右図〕から▲2六飛と跳ぶ。以下△3三飛▲1四歩△同歩▲1三歩△同桂▲1四香で下手ペース。

上手は〔右図〕の直前で工夫が必要だ。平手の相振飛車と同様に△2四歩と先受けしておくか、△3四飛と浮いておくくらいだろうか。


第三章 (三)香落、三間飛車の左翼攻撃

下手の囲いは、▲3八金型のカニ囲い風味。〔右図〕からの攻撃は、もちろん▲8四歩△同歩▲8三歩△同銀▲8四銀△同銀▲8三歩…と、相振り理想の仕掛け。

下手の囲い、上手の美濃囲いと併せて、非常に現代的だ。「相振りなら囲いは金無双」が常識だった時代には、この構えは奇襲に見えるのだろう。〔右図〕の上手は出遅れているので、9筋を受けない、△7一玉で待機、早めに角交換を挑むなど、工夫すべき点がある。


第三章 (四)角落、矢倉組の変化

下手が4筋も含めたすべての位を保つという、やや旧式の作戦(▲4六銀or▲4六角型の方が現代的で積極的)。安易に▲3七桂と跳ねると、上手方から強引に右辺で桂交換され、手持ちの桂を△7四桂と据える筋を含みにした攻撃が来る。


第三章 (五)飛車落、上手4三金止の早仕掛

飛車落▲右四間定跡で、△3三桂のところを△4三金右と変化球を投げてみると、上手・下手ともにハマる変化がある。


第三章 (六)飛車落、金開きの戰法

いわゆる「おみき指し」。△3五歩と3筋位取りで下手を迷わせる。下手が誘いの隙に乗らなければ大丈夫だが、〔右図〕のように「飛先交換をどうぞ」とされたら、行ってしまうよねぇ。

〔右図〕で歩を切ると、△2三金!から飛を圧迫され、上手の角歩の持駒も利用して飛をいじめまくられる。


第三章 (七)飛香落、桂跳びの早仕掛

いわゆる「飛香落ち▲1七桂定跡」。▲3八銀ではなく、〔右図〕の▲4八銀が下手の工夫。後で△4五桂と跳ねられてきたときに、桂成の先手にならない。

ハメ手というより、下手の有力策である。(右四間定跡よりは本筋ではない、というだけのこと)


第三章 (八)飛香落、定跡型のはめ手

△7五歩交換型〔右図〕で、下手に攻めさせて、逆に王手角取りにハメる狙い。

〔右図〕からチャンスとばかりに▲4五歩と仕掛けると、△3五歩!?▲4四歩△同銀▲4五銀△5五歩▲4四銀△同角▲同飛△同金▲5三角?△8四銀!!▲4四角成△7四飛という手順で王手角がかかる。手順中、△3五歩は上手の手待ち、△同角は飛切りの誘い、▲5三角で金銀両取りが決まって下手勝勢かと思いきや、△8四銀が指されてビックリの奇手となる。▲4四角成と取らなければ王手角にはならないが、いまさらどうにもならない。

この作戦は、下手に「うまくいった」と思わせて、実は上手の術中に嵌まっているという、真の意味の「ハメ手」と言っていいだろう。

なお、定跡に詳しい方なら、〔右図〕に違和感を感じるだろう。そう、飛香落ち必須の▲1二歩がないのだ。▲1二歩を垂らしておけば、手順中で▲1一歩成△同角▲1二銀の筋が狙えるので、飛を切る必要がない。飛香落ち▲右四間定跡の最も難しいところであるが、裏定跡として知っておくのも良いだろう。


第三章 (九)飛香落、角打の奇手

飛香落ち▲右四間定跡の△8四歩型。仕掛け後に角交換して△7四角を用意している。

これは現代の定跡書(例えば、少々古いが『飛香落ち必勝法』(佐藤庄平、北辰堂))にも載っている。奇襲やハメ手というよりは、上手の変化球だ。飛香落ちの場合、上手は下手のマスター度を見極めるために、(1)△7四歩型 (2)△8四歩型 (3)△7五歩交換型 の順でやってくることが多い。つまり、この上手の変化(2)は、飛香落ちを▲右四間で卒業するためには避けて通れない道である。


第三章 (十)二枚落、5五の歩突き

二枚落ちで、下手が4筋位取りの定跡形(二歩突っ切りor銀多伝)を目指すとき、〔右図〕のように下手の角道に△5五歩とタダ取りできる歩を突き出して、取るor取らないの二択を迫る指し方。二枚落ち指導の卒業間近で使われることが多い。

▲同角と取ると、△5四銀から△4五銀と4筋の位の歩を取られて、定跡から外れる。ただし、先手不利というわけではない。

取るか取らないかは、棋士によって見解が分かれる。乱戦・力将棋を好むなら取ってもいいだろう。近年は、取らずにあえて5五の位を取らせ、二枚銀を進出させて奪還する指し方が好まれているように思う。


第三章 (十一)二枚落ち、銀多傳

二枚落ち▲銀多伝で、上手は金で7筋・8筋を攻めてくる。△7六金で一歩取られるのは仕方なく(※ただし、花村元司は歩を取らせない指し方を推奨している)、△8六歩▲同歩△8七歩に備えて、▲9八香と角の逃げ道を作っておくのが定跡の教える手である。

ただし、〔右図〕では上手は二歩を持っている。これは、序盤であえて△4二銀と上がり(通常の定跡では△2二銀)、▲3四歩を誘って△○○▲3三歩成△同銀▲3四歩△2二銀と攻めさせて得た歩である。この場合、上手から△8六歩▲同歩△8五歩!の継ぎ歩が来るのである。

▲同歩△8六歩で歩成が受からず、どうするか…?それは本書で確認してほしい。

これも裏定跡の一つである。中田章道先生はよく使ってくる(笑)




一つ二つでも、気になる戦法があれば読んでみるとよい。現代では忘れ去られたような変化がかえって新鮮だ。

個人的には、平手の戦法ではあまり使えそうなものがなかったが(というより、現代将棋ではそもそもその形まで持っていけそうにない)、駒落ちではためになったものがいくつかあった。

内容自体はあまり濃くないのでCとしておくが、読んでみる価値は十分あると思う。(2014Nov12)

※誤字・誤植等(1952年初版で確認):
p6棋譜 ×「▲8五歩」 ○「△8五歩」
p36 ×「次は△2四歩で」 ○「次は▲2四歩で」
p50棋譜 ×「▲2六 」 ○「▲2六歩」
p62 ×「▲4四銀右」 ○「▲6六銀右」
p100 ×「飛の捌ききに」 ○「飛の捌きに」
p103 ×「田楽刺しを いつゝ」 ○「田楽刺しを躱しつゝ」
p139 ×「▲2七飛成」 ○「▲2三飛成」
p178 ×「▲1二歩成の攻め」 ○「▲1一歩成の攻め」



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