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■これで万全!奇襲破り事典

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これで万全!奇襲破り事典
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マイナビ将棋BOOKS
これで万全!奇襲破り事典
[総合評価] B

難易度:★★★
〜★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
中級〜有段向き

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【著 者】 本間博
【出版社】 マイナビ出版
発行:2017年1月 ISBN:978-4-8399-6091-9
定価:1,663円 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 「鬼殺し」 鬼も驚く桂馬の二段跳ね
第2章 「新鬼殺し」 賢い鬼は玉の早逃げ
第3章 「急戦石田流」 アクロバティックな受けは要らない
第4章 「先手番早石田」 久保新手を打ち破る
第5章 「パックマン戦法」 堂々とパクついて勝つ
第6章 「筋違い角」 対策はより取り見取り
第7章 「嬉野流」 最初の2手見て侮るなかれ
第8章 「超急戦棒銀」 銀と歩だけで矢倉を壊す
第9章 「後手番角頭歩」 プロで流行の兆し
第10章 「端角中飛車」 飛車と角で中央突破
第11章 おさらい問題(18問)

・【コラム】(1)将棋界今昔「記録係」1 (2)将棋界今昔「記録係」2 (3)将棋界今昔「データベース」 (4)「聖の青春」

◆内容紹介
将棋をやっていれば誰でも、奇襲を見事に喰らい、なす術もないまま敗れたことがあるでしょう。実力を出し切って負けたのならまだしも、「対策を知らないから負けた」では悔しすぎます。

筋違い角、急戦石田流、鬼殺し、パックマン戦法、嬉野流・・・。

奇襲は確かに最善の指し方ではないのかもしれませんが、そう簡単に勝てないようになっているのも事実。特に優秀な奇襲には2重3重のワナが張り巡らされているのが普通で、プロ公式戦で採用されることも少なくありません。

ではどうすれば奇襲を破れるのか??

本書では、「奇襲に備えるには、まず足元を固めること」だと教えています。つまり、まずは奇襲の狙い筋、成功例を熟知することから始めるのです。

書籍中では全ての奇襲について「奇襲成功図」までの手順を紹介しています。そのうえで、対策の方向は3つに分かれます。

(1)相手の狙いを外す
(2)がっちり受け止める
(3)ハメ手の裏をかく

(1)はそもそも奇襲の局面にさせないという方法です。これも有力ですが、少し逃げ腰でしょうか。(2)は奇襲を真っ向から受け止め、最善手で返すということ。これこそ奇襲破り、と言いたいところですが、最強の応手は(3)でしょう。奇襲の狙いを看破したうえで、それを逆手に取って勝つ。これほど痛快な勝ち方はありません。

本書には奇襲の裏も表もすべて記載されていますから、奇襲破りはもちろん、奇襲を使うこともできてしまいます。いち早く本書を手にとって、奇襲の世界を完全に自分の物にしてください。


【レビュー】
奇襲戦法のアラカルト本。

奇襲を扱った本はいくつもあるが、普通は「奇襲の成功例」を解説して、「奇襲を指してみたくなる」ことを目的にしたものがほとんどである。

逆に、奇襲をやられて困った経験は、誰しもあるだろう。せっかく四間飛車の定跡を覚えたのに、いきなり3手目角交換orz、とか、中飛車から中央を一点集中されて、どうにもこうにも受けられないとか。「プロが使わない戦法なら無理筋だ」と思っていても、それをちゃんと受けられない自分が悔しくてたまらないのである。

かといって、その対策はどこを見ればいいのか…。安心してください。本書にはちゃんと載ってます。

本書では、奇襲の狙いや成功例を示したあと、その対策を複数示していく。戦法によっては、奇襲を封じるだけでなく、あえてハマり筋に飛び込んだように見せて切り返す、というような、まさに「奇襲使いをギャフンと言わせる」という、爽快な作りになっている。

扱う戦型は、奇襲オブ奇襲の「鬼殺し」や「パックマン」から、アマで出現率の高い「急戦石田流」や「3手目角交換の筋違い角」、ユニーク戦法といえる「嬉野流」、トッププロでもかつて流行した「矢倉の△一直線棒銀」、プロの一部でつい最近流行の「後手番角頭歩」など、バラエティ豊か。有段者ならよく知っている対策ももちろん出てくるが、初めて見るようなものもある(少なくとも単行本では)。


各章の内容を、簡単なチャートと図面を添えながら紹介しておこう。


第1章 鬼殺し

3手目▲7七桂!の「奇襲 of 奇襲」。有名な分だけ対策もよく知られていて、△6二金を知っているかどうか。ただし、△6二金の形は通常の実戦でめったに出ない手(少なくとも私は実戦で鬼殺しに出会ったことがなく、△6二金を指したことがない)なので、超早指し将棋だとパニックになるかもしれない。そういう人は、本章には載っていないが、下図で△6四歩でも良いだろう。
第2章 新鬼殺し

新鬼殺し戦法』(米長邦雄,山海堂,1974/1993)で解説された戦法。2手目△3四歩に▲7五歩なら普通の石田流だが、2手目△8四歩でも▲7五歩としてしまうところが、奇襲らしさが際立つ。下図の構えは見慣れず、思わずカッとなってしまう人も多いだろう。

本戦法は、完全に打ち破れるところまでいかず、「こうすれば十分戦える」的な、あっさりとした対策のみになっている。
第3章 急戦石田流

通常の石田流ではなく、新鬼殺し(第2章)からの変化を解説していく。先手から角交換した場合、▲7七角の一手がムダ手になるので、実は△急戦早石田の変化に合流する。

早石田は先後で微妙な違いがあるので要注意。本章では、石田側が居玉であることを咎める展開がある。
第4章 先手番早石田

2000年代前半に復活してから、現代振飛車党のプロも普通に使っている石田流。なので、決定的に打ち破る方法は今のところない。

本章では、急戦石田流を抑えるために有効な4手目△4二玉or△5四歩の紹介と、久保新手▲7五飛(2009)の対策がどうなったか(なぜプロでは消えた戦法なのか)を解説している。
第5章 パックマン戦法

2手目に△4四歩!? タダ取りできるが、もちろん「毒入り饅頭」。挑発に乗らずに普通に指すか、ノータイムで取るか。どちらもあるが、「考えた末に取らない」のが一番悔しいというもの。

本章では、一部でよく知られる「▲7七飛!で受け切り」の“基本定跡”だけでなく、もっと分かりやすく良くなる指し方を紹介。また、ノータイムで▲8六歩!?は、自分も奇襲党なら必修だ(笑)
第6章 筋違い角

おそらく、定跡党がもっともイヤな気持ちになってしまうのがこの戦法かもしれない。「一歩得よりも、角を手放した損の方が大きい」などと一般に言われているものの、明確な咎め方が分からず、1筋2筋攻めや8筋攻めに屈した経験のある方も多いだろう。ちなみにわたしは「5筋4筋の歩を伸ばすのが急務」と教わったものの、実戦ではなかなか上手くいかなかった。

本章では、△8四角!の対策が目新しいかと思う。少なくともわたしは初見。(2018Sep30追記:『武市流力戦筋違い角の極意』(2003)にも同様の筋が載ってました。調査不足でごめんなさい)実際の形勢はともかく、「筋違い角ペース」を覆すことができるのは間違いないので、筋違い角に悩んでいる人は必見。

他に、「無理矢理振飛車」や「相筋違い角」の指針もあり、多くの人の役に立ちそうだ。
第7章 嬉野流

奇襲研究所 嬉野流編』(天野貴元,マイナビ,2015.05)で広く知られるようになった「嬉野流」。最初の2手が▲6八銀!?〜▲7九角!??なので、狙いを知らなければ、初見どころか何度見ても意味不明だろう。

狙いの一つは、鳥刺しの形を初手から狙っていくこと。途中の▲8八歩と低く謝るのは、あとで▲5六歩を突きやすくするため。

本章の対策は、作戦勝ちを狙うような、ちょっとプロ的な感覚だ。アマの短時間将棋では何が起こるか分からないが、少なくとも相手の狙い目を事前に吟味してあれば、対局中に方針がぶれることもないはず。
第8章 超急戦棒銀

矢倉模様の序盤で、後手が居玉のまま一直線に棒銀に来る。いかにもアマチュアっぽいが、1990年代にプロのA級レベルで何局も指されている。5手目▲6六歩でも▲7七銀でもお構いなしに使えるのも大きく、むしろ得意戦法にしたいくらいだ。

プロレベルでは、後手の無理筋が結論になっているが、本章の対策も分かりやすいとはいえ、なかなか高難度だ。この戦型を極めたい人は、本章だけでは足りないので、『矢倉急戦道場 棒銀&右四間』(所司和晴,MYCOM,2002)で勉強しよう。
第9章 後手番角頭歩

プロの一部で2016年から流行りはじめているらしい。そういえば、「将棋世界」に載っていたような。

後手番なので1手遅いようだが、それを生かした反撃策がある。角交換振飛車が一般的になったことで見直しが進んだとも言えそうだ。

まだまだ研究課題がありそうなので、この戦法でひと稼ぎしたい人は要チェック。
第10章 端角中飛車

これも苦手な人が多いだろう。中飛車と端角で5三を一点集中で狙ってくるので、つい防戦一方になってしまいがちだ。

本章での対策は、すばやく△4二玉〜△3二玉と囲うこと。そうすれば中央に金銀を集めやすいし、戦場からも遠ざかっているので、悠々と角頭を狙えるわけである。囲いが遅れると、無理攻めでも通ってしまうことがあるので要注意。


【総評】
変化の突っ込みが浅いところもあり、「後手の勝率が良い」位では納得できないこともある。ただ、奇襲攻略のヒントを求めている人には十分手がかりになるだろう。

内容が「広く浅く」なのでBとしているが、奇襲対策はキモさえ知っていれば役に立つことも多く、級位者から高段者まで、読んでおいて損のない一冊だ。


あとは、「横歩取り△4五角破り」とか、「右四間破り」が欲しいかな…



【関連書籍】

[ジャンル] 
奇襲・超急戦
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
本間博
[発行年] 
2017年

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