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マイナビ将棋BOOKS コンピュータ発!現代将棋新定跡 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:B+ 解説:B 読みやすさ:B 有段以上向き |
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【著 者】 suimon | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年6月 | ISBN:978-4-8399-6588-4 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
2016〜2018年くらいに現れた、コンピュータ将棋の影響を受けた新戦法を解説した本。「コンピュータ将棋研究Blog」で取り上げられてきた居飛車戦術を大幅に加筆・修正してまとめたもの。 本書の戦術は、コンピュータ同士の対戦に現れたものを、プロ・アマ問わず人間が取り入れ、プロ・アマ・コンピュータがそれぞれに磨いてきたもので、近年の序盤戦術の変化の原動力となっている。実際、最近のプロ公式戦の相居飛車は、3年くらい将棋から離れていた人から見れば、「どうしてこうなった?!!」と思うくらい、従来までの形とは激しく異なってきている。 著者は、「コンピュータ将棋研究Blog」制作者のsuimon氏。奥付によれば、2014年10月からfloodgateの棋譜を調べ始め、2015年12月にブログを開設、コンピュータの斬新な作戦を紹介する記事が反響を呼んでいる、とのこと。コンピュータ将棋に詳しいということで、本書では、各結果図にはコンピュータの評価値が目安として添えられている。(使用ソフト、PCはp253〜p254に記載)。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「角換わり▲4五桂」。 角換わりでは、ここ2〜3年で駒組みが急速に変化したが、そのキッカケとなったのが、「▲4五桂ポンの仕掛け」が見直されたことになる。例えば、第1節で扱う〔右図〕は、『谷川の21世紀定跡(1) 角換わり編』(2000.11)のp61第24図と同じで、当時は無理筋とされていた。 この仕掛けが2013年にfloodgateで指され、2016年にはプロで指されるようになり、「成立する」ことが共通認識となったため、これに対応するために角換わりの駒組みも変わっていった。 本章では▲4五桂のいろいろな仕掛けを扱い、第2章では新しい駒組みを扱っていく。 |
第1節 △4二銀・△4一玉型 ▲4五桂跳ねの基本的な狙い筋。銀を移動させて2筋歩交換し、▲7一角と絡めていく。桂を取られても、歩得や駒の配置の良さを高く評価している。▲4一玉型には▲4五桂速攻が決まりやすい。 |
第2節 対居玉・▲4五桂 居玉は、場合によっては右玉を想定している。先手は▲4五桂に対する後手の左銀の動きによって、▲7一角or▲6六角を使い分けるか、持久戦にするか。 |
第3節 対居玉・▲4五桂 △4二玉型には、単騎▲4五桂は無理筋となる。結果的に、この△4二玉型を経由した駒組みが主流になってきている。 |
第4節 ▲4五桂のその他の形 ▲4五桂跳ねの仕掛けは、他にもいくつかある。本節では、以下の2つを扱う。 ・先手が居玉、▲3八銀-▲4八金-▲7八金型からの▲4五桂(ぽんぽこの仕掛け) ・先手が居玉、▲4八銀、両金は初期配置からの▲4五桂(最速の仕掛け、本書から半年後の『神速!角換わり▲2五歩型 必勝ガイド』(2018.12)で詳解) |
第2章は、「角換わり▲4八金」。 居飛車での▲4八金(+▲2九飛)型は、昭和初期の木村義雄(十四世名人)の頃からあるし、角交換系の振り飛車でもこの十数年よく見られた形であるが、従来は相居飛車での採用はあまりなかった。 2015年頃からコンピュータ将棋での採用が始まり、隙の少なさが認識されて、プロでも指されるようになった。2018年後半のプロ将棋では、毎日のように▲4八金vs△6二金の「新型同形角換わり」が指されている。(まだ書籍は少なく、本書の7ヶ月前の『角換わりの新常識 ▲4八金・2九飛型徹底ガイド』(2017.11)が最新か) 第1節 ▲5八金 対 △6二金・△8一飛型 △6二飛型が出始めたころに多く指されていた対抗形。当時はまだ、△6二金型は後手の作戦で、先手は従来の▲5八金型が多かった。先手からの強襲があるが、正確に対応すれば後手良しの結論で、現在(2019年初頭)ではこの形をプロ将棋で見かけることは少ない。 |
第2節 ▲4八金・△6二金(▲2六歩型) 後手で△6二金型が有力なら、先手でも…ということで、新型の先後同形ができていく。手詰まりを先手がどう打開していくか。 |
第3節 ▲4八金・△6二金(▲2五歩型) 後手雁木を封じる作戦で、2018年後半には非常に多く見かけた。▲4八金型は右四間の含みがないので、▲2六歩型にしておくメリットはあまりない、という意味もある。ただしこの場合、▲4五歩を早めに突いてしまうと打開しづらくなる。 |
第3章は、「雁木」。 バランス重視の時代になって、古くからある雁木が再注目されるようになった。特に△6三銀型の「新型雁木」(または「ツノ銀雁木」)が脚光を浴びている。流行は2017年からで、まだ歴史は浅く、体系化はあまり進んでいない。(本書から2ヶ月後の『新型雁木のすべて』(2018.08)が現時点で最新) 第1節 矢倉 対 雁木 後手が角換わり拒否から、飛先を△3三角と受けて雁木を目指す。△6三銀型のツノ銀雁木に組めるなら、2筋での角交換は歓迎。 |
第2節 ▲6八銀型 対 雁木 角換わり模様で、9手目▲6八銀から角換わり拒否の雁木になった場合。先手陣は矢倉にならず、カベ銀でないことを生かした速攻策か、相雁木か。 |
第3節 4手目△4四歩からの雁木 プロの雁木で多いのは角換わり拒否からだが、4手目△4四歩と角道を止めれば、振り飛車を見せながら、先手の指し方に関係なく後手は雁木を目指せる。ただし、先手の駒組みの自由度も高い。 |
第4節 先手雁木 後手番で有力なら先手番でも…で、先後問わず雁木を指す人も増えている。先手では千日手にならないようにしたい。 |
第4章は、「相掛かり△7四歩取らせ」。 相掛かりで△7四歩の「横歩」を取らせる代わりに、右銀をスムーズに繰り出すのが狙い。ponanzaが指し始め、2017年からプロでも見られるようになった。様々な「取らせ」のタイミングがあるためか、力戦調になりやすく、今後定跡化が進むかどうかも不透明。 本書から4ヶ月後の『コンピュータは将棋をどう変えたか?』(2018.10)では、△7四歩以外の「取らせる作戦」も紹介されている。本書では、将棋倶楽部24でのponanzaの実戦をベースとした進行を多く紹介。 第1節 △7三銀〜△6四銀型 2手目△3二金からの誘導が一案。飛先交換の価値が下がってきたため(飛先を交換させるのが一方的な損ではなく、一局の将棋と見られるようになったため)、プロでも見られるようになってきた。 |
第2節 実戦の△7四歩取らせ 2017.11.11の電王トーナメント▲nozomi△やねうら王の実戦譜。(なのでチャートは掲載しません) 〔総評〕 あとがきに「執筆中にプロ公式戦で同一局面が表れたことは一度や二度ではありません」とあるが、わたしも本書を読みながら、「あ、これ棋譜中継で見たことがある局面だ」というのは何回もあった。つまり、プロ最前線で戦われている形を数多く採り上げているといえる。 よって、本書は、ここ2〜3年で変わった序盤戦術を理解する一助になる。プロ将棋で同一局面が表れたら、本書を読み返せば、「ああ、ここで工夫したんだな」と理解しやすくなると思う。その役目は『コンピュータは将棋をどう変えたか?』でも良いが、背景や狙い筋は複数ソースを比べたほうが良いだろう。 なお、チャートからも分かる通り、1ページあたりの棋譜の進行量はかなり多めである一方、分岐はそこまで細かくはないので、これを定跡として暗記したり、変化を調べるのにはあまり向いていない。 また、強いソフトやプロ高段者が指す感覚の指し手が多いので、人によっては「ホントにこの進行で正しいの?」「ホントにこの形勢判断で合ってるの?」と思うかもしれない。その辺は、かなり高段者向けの記述になっていると思う。 「新戦法を覚えて、知らない相手を一ひねり」というような使い方は難しいので、注意してください。(2019Jan20) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p168下段 ×「▲4四飛△同歩▲4四角」 ○「▲4四飛△同歩▲同角」 |