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マイナビ将棋BOOKS 矢倉の基本 駒組みと考え方 |
[総合評価] A 難易度:★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 西尾明 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2017年8月 | ISBN:978-4-8399-6171-8 | |||
定価:1,771 円 | 288ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
・【コラム】 急戦矢倉 |
【レビュー】 |
矢倉戦法の基本定跡を解説した本。 矢倉戦法は、将棋の主流戦法の一つである。かつては「将棋の二大戦法は、矢倉戦法と振り飛車戦法」といわれた時期もあったり、「矢倉は将棋の純文学」「矢倉を指さねば居飛車党ではない」という言葉もあった。現在は戦法も細分化され、また矢倉の先手番がやや苦戦気味になったことで、矢倉戦自体の出現率が下がっているが、「矢倉を指したい」という人は今も昔もたくさんいる。 ところで、矢倉戦法にもいろいろある。中には、現在はあまり指されなくなっている形もあり、「見よう見まねで矢倉を指しているけど、知らない形に対応できない」とか、「いつも同じ形にやられてしまう」という人も多いと思う。 本書は、ややマイナーな形も含めて、矢倉の基本定跡を解説した本である。 基本的な構成は、[攻める側の成功例]→[受ける側の改良策]→[ほぼ互角の戦い]という順で解説される。攻めの狙い筋・受け側の考え方が非常に分かりやすくなっている。 また、重要箇所はゴシック体+網掛けで強調したり、大事なまとめは囲み枠で強調したり、図面に矢印でポイントを強調してあったりと、複雑な矢倉戦法をできるだけ分かりやすく解説しようという工夫が施されている。 各章の内容を、簡単なチャートを添えて紹介していこう。 |
序章は、「矢倉・序盤の考え方」。矢倉とは何ぞや、から、矢倉の基本的な考え方を解説する。 ・矢倉戦法とは、矢倉囲いを作って戦う戦法。 (※囲いの名前が戦法名になるのは矢倉戦法特有、とされているが、かつては「穴熊戦法」「居飛車穴熊戦法」と題した棋書もたくさん出版されている。また、「振り飛車とは“美濃囲い戦法”である」と解説がされた棋書もある(こちらは一般的ではない)。) ・ただし、対抗形や相振りで矢倉囲いを作っても矢倉戦法とは言わない。 ・カニ囲いと矢倉囲いの使い分け →急戦か、守備的か。守りにリソースをどれだけ割くか。 ・互いに矢倉囲いを作る「相矢倉」か、後手が速攻する「急戦矢倉」か。(※先手の急戦もあることはある。米長流、カニカニ銀系など) 第1章は、「急戦矢倉」。西尾はどちらかといえば急戦矢倉が得意な棋士である。 矢倉戦では、先手が5手目に角道を止める(▲7七銀or▲6六歩)一方で、後手の角道は通っているため、後手が矢倉囲いを作らずに急戦を仕掛けることが複数パターンある。 先手は、どの急戦に対して自信があるかによって、5手目の選択が変わってくる。1990年代から2015年くらいまでは5手目▲6六歩の方が圧倒的に多く見かけたが、2019年現在は、△左美濃急戦が優秀とされ、5手目▲6六歩は激減している。 なお本書では、その「△左美濃急戦」と「△5五歩交換型」(2008年の竜王戦でリバイバル)や、「カニカニ銀」系の▲二枚銀急戦は扱われていない。 第1節 棒銀 △居玉棒銀。8筋の歩を伸ばして▲7七銀と受けさせ、一直線に棒銀を繰り出して銀交換を狙う。銀の進出を防ぐ▲9六歩には端攻め。8六の守備を強化する▲7九角〜▲6八角が基本の受け方。 ⇒本節に限らず、攻めの考え方、受けの考え方をベースに解説されているので、非常に分かりやすい。 なお、△居玉棒銀には、本書で触れられていない攻め筋(△6四歩を絡めるなど)もあるので、さらに詳しい変化を見たい人は『矢倉急戦道場 棒銀&右四間』(2002)などを参照しよう。 |
第2節 △6二飛戦法 △6四歩〜△5三銀右〜△6二飛で攻め形は完了。先手陣に隙があれば、△8五桂〜△6五歩と仕掛けていく。「右四間飛車」とは区別されている。 先手の受けがなぜ失敗するのかがp65に記載されており、それを踏まえた対応が解説されている。 なお、『急戦でつぶせ ヤグラがなんだ』(1988)のp169には、△6二飛戦法の解説で「△7四歩突きを急がないのが急所」「6筋を切り、6一飛〜6四銀型に組んでから△7四歩と突くのが、正しい手順」とあり、本書の解説とは少し指し方が違っている。 |
第3節 右四間飛車 5手目▲6六歩のときに、△6四歩〜△5四銀(腰掛け銀)+△6二飛で、6筋から仕掛ける。居玉からの仕掛けと、変形カニ囲いからの仕掛けが多い。 先手の受け方は、▲6七金右型と▲6七銀型がある。対右四間が苦手な人は、本節を読んでしっかり理解し、好きな方を選ぼう。『矢倉急戦道場 棒銀&右四間』(2002)や『右四間で攻めつぶす本』(2006)なども参照したい。 なお、5手目▲7七銀のときは、6筋に争点がなくて右四間を使えない。後手で右四間を指す人は、5手目▲7七銀に対する戦法も一つは持っておこう。 |
第4節 矢倉中飛車 5手目▲7七銀のときに有効な後手の作戦。薄い5筋と、6筋〜8筋を絡めて攻める。 もともと、「△矢倉中飛車を相手にするよりは、他の急戦の方がマシ」という感じで5手目▲6六歩が多かったのだが、最近では、△左美濃急戦(本書には載っていない)を避けて、5手目▲7七銀も多いので、使うチャンスは結構増えている。 先手の立場としては、解説の中に「対急戦の基本的な構え」(対矢倉中飛車には限らない)が出てくるので、まずこれをしっかりと覚えよう。 |
第5節 米長流急戦矢倉 △8二飛のまま6五の地点を攻める。後手の左銀の位置によって3つに分類され、どのタイミングで仕掛けるかによって戦い方が変わる。 ・△4二銀型…飛角桂で軽く攻める。 ・△5三銀左型…やや攻めに重点を置く。先手にもう1手指させてから仕掛ける。 ・△4四銀型…左銀も参加して、かなり攻撃的。△5五歩〜△6五歩から攻める。 また、急戦矢倉に対する先手の定番の反撃「▲2四歩△同歩▲2三歩」に対して、△同金か△4四角かの判断基準が分かりやすく書かれている。さらに、△4四銀型での攻め筋の選び方の判断基準も分かりやすい。 ▲4六歩から同形矢倉へ進む展開は、第2章第4節「▲4七銀型」を参照。 |
第2章は、「相矢倉」。後手が急戦を選ばず、互いに矢倉囲いを組み合う戦いを紹介する。 ベースはすべて飛先不突き矢倉で、1980年代から2015年くらいまで主流だった形。(最近は後手急戦を牽制するために早めに2筋を伸ばす形の方が多い) 右側の攻撃陣をどう組むか、を主眼にしている。 第1節 ▲3七銀型 最も多く指された型で、さらにいくつかに分かれる。 ・▲3五歩交換…角で3筋の歩を交換して、▲3六銀-3七桂-4六角の理想形を目指す。この形は後手が作戦負けになるので、後手は▲3七銀に高確率で△6四角とけん制することになる。 ・▲4六銀-3七桂型…▲3七銀に△6四角とけん制されると3筋歩交換はできないので、▲4六銀-3七桂の攻撃形を目指す。(長い年月をかけて終盤まで研究された) p176には「駒損の攻めをする場合の判断基準」について、またp177には矢倉の定番「B面攻撃」について書かれている。 ・▲4六銀に△4五歩の反発…▲4六銀-3七桂を作らせないため、▲4六銀にすぐ△4五歩と反発する。本書のメインは、『羽生の頭脳 5 最強矢倉・後手急戦と3七銀戦法』(1993)にも載っている変化と大筋で同じもの(馬を作ってからがちょっと異なる)。近年見直された変化にも少し触れている。 ・加藤流…▲3七銀型で▲2六歩と▲1六歩を突く。△1四歩と受けてきたらスズメ刺し棒銀で攻める。1筋を詰めたら▲4六銀-3七桂を狙う。理想形を作られる前に、後手は積極的に攻勢をかける手もある。 第2節 脇システム ▲3七銀型で、△6四角に▲4六角とぶつければ脇システム。角交換から棒銀で端攻めが定番。▲4一角or▲6一角などの攻め筋・反撃筋も併せて覚えよう。 端歩の駈け引きについても解説あり。 第3節 森下システム ▲3七銀と上がらずに▲6八角と様子を見て、後手の動きに合わせて柔軟に対応する。▲4六銀-3七桂を目指すほかに、上部に厚い▲6六銀右の菱矢倉や▲4七銀型なども選べる。 なお、本書では言及がないが、後手のスズメ刺しが脅威でプロではあまり指されなくなっている。 第4節 ▲4七銀型 やや守備的な陣形。後手に棒銀の余地があるときは先攻される危険性がある。多くの場合、米長流急戦矢倉からの派生で生じる形で、先後同形になりやすい。 仕掛け筋としては、▲4五歩△同歩▲同桂か、▲4五歩△同歩▲3五歩か。 |
第5節 スズメ刺し 飛角桂香を端に集中させて攻める。先手は矢倉囲いの入城まで欲張ると、後手から棒銀で先行されてしまうので注意。後手としては、玉を入城せずに△2二銀と引いて守りを固めるか、△6四角で仕掛けを牽制するか。後手の対応が正確ならば、持久戦になる。 なお、本書では言及がないが、▲スズメ刺し<△棒銀<▲2九飛…という関係から、森下システムや▲3七銀戦法が主流になっていった経緯がある。 |
第6節 早囲い ▲7八金と上がらずに玉を入城させようとする戦い方。無事入城できれば、角の移動を1手省略できる。後手はそれを不満と見れば、△4二銀型の米長流急戦矢倉で仕掛けてくる。先手は急戦を防ぐなら、2筋を早めに突く。 数年前に流行した「藤井流矢倉」(片矢倉+脇システムのミックス)にも触れられている。 |
〔総評〕 本書では、ごく一部の最新戦法や奇襲系作戦を除き、矢倉戦で現れる主要戦型がほぼカバーされているといってよい。理想形や狙い筋、受け側の思想まで併せて書かれているので、本書の戦型を一通り覚えれば、これまで何となく矢倉を指していた人も、意思を持った矢倉戦を指せるようになっていくだろう。 ただし、本書で書かれているのはあくまでも基本事項なので、細かい部分や省かれた変化などは、もっと詳しく書かれた他書でいずれ補う必要はあるだろう。 また、「矢倉を指してみたいな」というレベルの人にはちょっとまだ難しいかもしれない。「ある程度実戦で矢倉を指してるんだけど、戦型や狙い筋がよく分からない」という人向け。(2019Jan27) |