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マイナビ将棋BOOKS 新型雁木のすべて |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:B+ 読みやすさ:B+ 上級〜有段向き |
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【著 者】 稲葉陽 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年8月 | ISBN:978-4-8399-6710-9 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)酒の話 (2)合宿 (3)四枚落ちからの雁木 (4)二枚落ちからの雁木 |
【レビュー】 |
新型雁木の戦術書。 「雁木」自体は、江戸時代からあり、1990年代には『雁木伝説』(1991/2002)や『雁木でガンガン!!』(1999)などの書籍も出版されが、アマには一定層の人気があったものの、プロでは変化球扱いで主流になることはなかった。 しかし、2017年の半ばごろから、「新型雁木」がプロで急速に流行し始めた。コンピュータソフトによる雁木の評価値が高いことが発端とされる。その後、わずか1年で新手筋や新しい考え方が次々と現れ、2018年8月現在では空前の雁木ブームを迎えている。 本書は、現在発展途上の新型雁木について、さまざまな形を解説した本である。 各章の内容をチャートを交えながら紹介していこう。 序章は「雁木戦法とは」。 〔下図〕の左側が従来の雁木、右側が新型雁木の例。右銀の位置が違うだけだが、これが大きな違いとなる。 従来型雁木は、以下のような特徴を持つ。 ・▲3七桂型が△雁木の天敵。(▲4五桂跳ねが△5三銀に当たってくる) ・△角換わり拒否の雁木は千日手が精一杯。 ・ただし、藤井システムや急戦矢倉からの変化としては残っていた。 ・(※他書によれば)破壊力は高いとする本と、受け身であまり面白くないとする本があった。 これらの理由により、プロでは主流にならなかった雁木だが、△6三銀型雁木(新型)で復活を遂げた。 ただし、本章ではおおむね雁木を紹介するレベルにとどまっており、雁木(従来型・新型ともに)の利点・欠点などについてはあまり深く触れられていない。 ⇒なので、以下の第1章〜第3章をレビューする際に、雁木の特長に触れた内容があればピックアップしていきます。 |
第1章は、「角換わりからの雁木」と題しているが、実質的には「角換わり拒否からの雁木」。角換わり模様に進んだときに、後手が△4四歩と角道を止めて角交換を拒否し、以下雁木に進むときの展開を解説。本書のメインコンテンツとなる。 ・ツノ銀の新型雁木は、左右どちらにも囲える。(右玉も可能) ・△5三歩型は、先手の角筋(▲2六角など)をあまり恐れなくてよい。(※対雁木の攻め方の一つとして、引き角から3筋の歩を交換し、▲2六角と引くものがある) ・矢倉の▲7七銀は、△6五桂が当たる位置にいる。新型雁木は銀が相手の桂に当たらない。 ⇒雁木の方が右桂の活用が速そう。 ・新型雁木は5三に銀を置かないことで、引き角の活用がスムーズにできる。 ・雁木は角交換は歓迎。角の打ち込みに強い。矢倉は4九などに角の打ち込みのスキがある。 ・雁木は左桂も使いやすい。 ・雁木は△3三金と受ける形もある。(※早繰り銀に対し、△4二角〜△3三金!が雁木特有の一つの受けの形。稲葉も流行初期のころにはこの受け方を知らなかったことが実戦編に書かれていた。) ・桂当たりがなさそうなら、△5三銀型もあり。 ・腰掛け銀型は攻め味では優り、角交換に強く、桂が当たらない。 ・△4二玉型は、5三の地点をカバーする。 ・雁木は、相居飛車ならどのような出だしでも組める。互いの合意は不要。 ・早繰り銀+▲5六銀の二枚銀は、他の戦型ではほとんど見かけない珍しい形。バリエーションの一つとして知っておこう。 なお、第1章〜第3章の共通の特徴で、分岐のところで同じ変化が何手も続いていることがあり、どこで手が変わったのかが分かりにくいことがときどきある。一応、下記のチャートでは下線を引いて分かるようにしてみた。 |
第2章は「横歩取り拒否からの雁木」。先手が角道を止めて雁木を狙う。 本章では、先手が雁木をもつ。後手の採用戦法は早繰り銀のみ。先手の陣形は、左側の「左木村美濃」部分が完成しただけで戦いが始まるので、これを「雁木」や「新型雁木」と言っていいのかどうかは微妙だが、「広い意味ので新型雁木」ということにしましょう。 後手の早繰り銀に対する先手の対策は、以下の4つ。 ・金銀で受け止める (銀交換を許容して収める) ・角を活用する (引き角から角交換してしまう) ・右桂での攻め合いを見せる ・鎖鎌銀 (※「鎖鎌銀」は、▲4七銀〜▲3六銀の動き(相腰掛銀模様から逆方向に銀が出る)のことだと思っていたが、本書では▲2七銀〜▲3六銀のことをこのように呼んでいる) 本章では、どの対策を採用しても先手が互角以上になっている。角道を止める権利は、この形の場合先手にあるので、横歩取りを目指す人がいなくなるかも? |
第3章は「後手振り飛車模様からの雁木」。△四間飛車や△中飛車にもできそうな出だしから、なかなか態度を明らかにしない作戦。 先手の玉型は▲8八銀型と▲7八銀型がある。どちらも一長一短なので、特徴に応じた戦いをしよう。 ・▲8八銀型 ○角交換に強い △壁銀で飛の攻めに弱い ・▲7八銀型 ○左美濃の堅陣 △角のラインが気になる なお、出版時(2018年8月時点)でのプロでの出現割合は、おおむね半々とのこと。(実戦編に記載あり) |
第4章は「実戦編」。稲葉の自戦譜解説10局となる。第1章〜第3章の講座編では取り上げなかった形も扱う。 ・三手角は対矢倉では有効だが、対雁木では▲7七桂で受かる。 ・△6三銀型の雁木には▲4五歩が急所になることが多い。 ・雁木なら左桂の活用もある。 |
〔総評〕 新型雁木は、流行し始めが2017年の夏で、「将棋世界」の2017年11月号では戦法特集が組まれているが、単行本としてしっかり扱ったのは本書が初めて。それだけに、私は「雁木の新旧の違いや、長所・欠点・狙い筋・考え方などを主軸とした本」か、「登場の歴史から戦型の変遷を描いた本」といったものを期待していた。 本書は「新型雁木のすべて」とまでいえる内容ではなく、「新型雁木の現状」という感じだった。エッセンスはたくさん含まれているので十分役に立つ一冊だが、この一冊だけで急所を掴むのは難しいので、資料の一つとして読む感じになりそう。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p153棋譜 最後の▲4八金が余分。 p158下段 ×「△4五銀の両狙い」 ○「△4五飛の両狙い」 p193棋譜 ▲7二角成の前に△5一金が抜けている p209下段 ×「といのも、」 ○「というのも、」 |