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マイナビ将棋BOOKS アマの知らない マル秘定跡 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 村田顕弘 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年7月 | ISBN:978-4-8399-4779-8 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)無理やり石田流 (2)猛省に次ぐ猛省 (3)足跡を残したい |
【レビュー】 |
定跡最前線の解説書。 村田顕は、前作『最新戦法 マル秘定跡ファイル』(マイナビ,2012.02)で最新の将棋を分かりやすく解説した。本書は、村田顕の最前線モノの第2弾となる。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、▲石田流に対して△中飛車から左穴熊にする作戦。先後は違うが、似た作戦が『相振りレボリューション』(杉本昌隆,MYCOM,2010)の第5章に「東大流左穴熊中飛車」として載っている。 後手の方針は、先手の急戦に備えつつ、穴熊を目指して作戦勝ちを狙うこと。7筋方面は最小限の駒で対処する。ポイントは、適所で△8四飛と揺さぶって8筋の歩を突かせること。すぐに△5四飛と戻すので2手損なのだが、角交換後の打ち込み場所や捌きの争点を作るという意味がある。 第2章は、△ゴキゲン中飛車に対する▲5八金右超急戦。すでに10年以上も検討されているテーマだが、いまだ結論が出ていない。従来は△9九馬▲6六香以下の変化が奥深くまで検討されており、「先手が攻めきるのは大変」という感じでやや停滞気味だったが、▲6六香に替えて▲3三香の「都成流」が本章の研究テーマとなっている。ただし、この都成流▲3三香はプロ公式戦では出版時点で未登場である。 もう一つのテーマは、後手が5筋を突き捨てて角交換する前に△5七歩と叩く手。プロ公式戦では2012年10月16日の▲村田顕△菅井戦が初出であるが(村田はこの対局で都成流を試す予定だったが、先に変化されてしまったそうだ)、10年以上前から認識されていた。ただ、私もこの手を見た記憶があるので、所蔵本から探してみたが、載っている本は見つけられなかった。 (2013Aug23追記:名無しさんご指摘ありがとうございます) 『島ノート 振り飛車編』のp188で、[発展]として触れられていました。 島九段が△5七歩を初めて見たのは、2002年6月の東北六県将棋大会での▲加賀谷浩美(秋田)vs△田村純也(青森)戦。ただし、この将棋では角交換してから△5七歩だった。それで解説内で「△5七歩を打つなら角交換前の方がいい」と書かれている。 『島ノート』に載っているのは▲6八金寄まで。また、本書p51の▲7五角のところで、▲3三角なら後手が優勢になりそうだとも書かれている。 第3章は、△ダイレクト向飛車。4手目角交換のあと、通常は▲6五角を防ぐために△4二飛といったん停車して、玉を移動させてから△2二飛だが、1手得を目指して直接△2二飛とするので「ダイレクト向飛車」と呼ばれている。当然ながら、▲6五角の筋が常にあるので、それに対抗できるかどうかが大きなテーマとなる。 本章は3つに分かれている。 (1) △5三銀型のダイレクト向飛車が成立するかどうか (2) △2二飛のあとの▲6五角の成否 (3) ダイレクト向飛車を阻止することができるかどうか 第4章は、2手目△3二飛。後手番ながら升田式石田流を望める作戦として、有力である。最近では、2手目△3二飛戦法を阻止するために、初手▲2六歩と突く居飛車党が増えているくらいである。 テーマは3つで、4手目をどうするか。4手目(1)△6二玉と(2)△4二銀は従来からあるテーマだが、目新しいのが(3)△3四歩。昔の本なら、「▲7六歩△3四歩▲2六歩に△3二飛は、角交換から▲6五角でダメ」と、一刀両断されていた局面だ。それが、近年の角交換系振飛車の発展により、▲6五角への対抗策が編み出され、この局面が使える可能性が出てきているのである。 第4章は、△角道オープン四間飛車。△角交換四間飛車の基本形だが、最近は「4→3戦法」への派生や、角道オープンのまま振飛車穴熊に潜る手法まで出てきている。 第6章は、▲四間飛車。角道オープンの▲角交換四間飛車と、角道クローズの▲四間飛車穴熊に分かれる。 第7章は、一手損角換わり。角交換のタイミングはいろいろあるが、本章では最近主流のは4手目角交換に絞っている。先手の対策は早繰り銀が多い。 第1節は、▲早繰り銀で▲3四歩△同銀と歩を取り込んでから▲3六歩と控えて打つ形。対して後手は△3二玉型が工夫の一手。手順は多少違うが、2012年10月の竜王戦第2局▲渡辺△丸山でも登場した形だ。 この形の検討を進めた結果、▲4六銀に替えて▲2六銀とする形が出てきた。△1四歩と受けさせるのが狙いとなる。なお、▲2七銀〜▲2六銀と出る「棒銀」とは似て非なる形である。 また、本章の最後では、一手損角換わりとは直接関係がないが、「初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩」の検討が行われている。かつて『イメージと読みの将棋観』(鈴木宏彦,日本将棋連盟,2008)で、トップ棋士たちが否定的な見解を示していたが、2013年5月の名人戦第4局▲森内△羽生で出現し、しかも先手が快勝したことで、テーマに挙がっている。この局面に対する村田の見解は「ネガティブ」だ。 第8章は、横歩取り。一時は、新山ア流が猛威をふるって絶滅しかかっていたが、△5二玉型中原囲いが発見され、△8四飛の見直しも行われたことで研究範囲が大幅に広くなり、現在は比較的緩やかに進歩している。また、△8五飛-4一玉型も新対策が見い出され(p184参照)、復活した。 現在は、全般的に「先手が玉を堅くする」のが流行しており、本章のテーマとなっている。 アマにも使えそうな作戦からプロ最前線まで、非常に盛りだくさんの内容がギュッと詰め込まれている。また、前作と同様に、他の「定跡最前線」の本に比べてやや解説の難易度が下げられており、分かりやすい。期待に違わぬ出来である。 特に個人的には、2手目△3二飛戦法の4手目△3四歩が一番の注目株で、かつて捨てられていた手が救い上げられていることに感動しながら読んでしまった。 前作は誤植のために少し評価が下がったが、本書は評点を下げるほどのものはなかったので、Aとしたい。(2013Aug21) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p89 ×「第9図から▲2五歩…」 ○「第11図から▲2五歩…」 p99 ×?「第15図から先手の構想手順を…」 ○?「第18図から先手の構想手順を…」 |