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マイナビ将棋BOOKS 長岡研究ノート 振り飛車編 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 長岡裕也 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年7月 | ISBN:978-4-8399-4786-6 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)ニコニコ生放送 (2)研究会 (3)記録係 (4)師弟 |
【レビュー】 |
定跡最前線の解説書。 表紙のオビで羽生善治が「長岡五段は頼れる研究パートナーです」と書いている通り、長岡は羽生の「VS」(1対1の練習将棋)パートナーとして知られる。順位戦ではあまりふるわないものの、竜王戦では4組に昇級している。 もともとは振飛車党で、『新鋭振り飛車実戦集』(戸辺誠,遠山雄亮,長岡裕也,高ア一生,MYCOM,2008)にも名を連ねているが、現在は居飛車党である。つまり、振飛車側が「こう指したい」とか「こうされたら嫌だ」という気持ち・感覚まで理解しているのである。 本書は、振飛車に対して長岡が現時点で最有力と考えている作戦を解説したプロ最前線の定跡書である。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、△ゴキゲン中飛車vs▲超速の銀対抗型。相穴熊へ一直線という展開もあるが、本章では先手は二枚銀で中央制圧を目指す。5五の勢力バランスを崩れたときに▲5五銀左と行くのが狙い筋となる。 第1節は△7二銀型。美濃囲いに組んで自然な手だが、中央を厚くしようと△6三銀型を目指すと一瞬だけ離れ駒ができてしまうのが難点。離れ駒ができた瞬間は、先手から有力な仕掛けがいくつもある。 第2節は△7二金型。浮き駒ができず、中央に手厚くなるので、振飛車には珍しいがこちらの方が実戦例が多くなっている。▲3七桂〜▲2九飛〜▲9六歩と形を整えてから▲4五桂と跳ねる仕掛けを狙うが、その瞬間に△2二角!(△3三角から)が手筋。▲4五桂は角当たりにならないので、2筋の歩交換をすることになるが、飛の引き場所を間違えると形成を損なう。 第3節は△振り穴vs▲二枚銀。先手は第2節と同様の仕掛け方が有効。 第2章は、△矢倉流中飛車。矢倉規広六段が得意としてる戦法で、囲いの矢倉とは無関係。角道を止めた中飛車から△6四銀と構えて▲6六銀と備えさせ、薄くなった4筋を狙って△4二飛〜△4五歩と動く。アマにも比較的分かりやすい戦法だ。ただし、場合によっては千日手狙いになるので、プロ的には後手番専用である。 第1節は、△4五歩に▲4八飛と受けたとき、△2二飛と揺さぶる形。▲2八飛と戻るようだと、△4二飛▲4八飛△2二飛…で千日手になってしまうので、先手は打開する必要がある。長岡の結論は、「うまく対応すれば先手が指せる」だ。 第2節は、△4五歩▲4八飛に相穴熊を目指す形。△2二飛の揺さぶりが上手くいかないなら、考えられる展開で、実戦例も多い。 第3節は、先手が離れ駒を作らない慎重な駒組みの場合。後手は、△4五歩のタイミングを模索することになる。 第3章は、△角交換四間飛車。アマでも猛威を振るっているが、長岡は対策できると考えている。 まず、強気に「▲2五歩-4七銀型」を目指す。▲2六歩型は穏やかだが、狙いが分かりづらい将棋になる。後手の大きな狙いの一つである「逆棒銀」は常に意識しておきたいが、▲3六歩と突けば2筋はほぼ受かるものの、キズになりやすい。後手は▲3六歩と突かせて持久戦にするのが真の狙いなので、先手は「▲3六歩を突かずに▲4七銀型」を目指す戦いになる。 居飛車側の思想がハッキリしているので、△角交換四間飛車の対策をしたい人は、本章を読み込むのがオススメ。特にp115の▲5八金右以下の主要変化は、本書と同月に発行された『アマの知らない マル秘定跡』(村田顕弘,マイナビ,2013.07)よりも詳しいので要チェックだ。 第4章は、△ノーマル三間飛車vs▲居飛車穴熊。△三間飛車に対して先手が急戦を挑むのは有力ながら、なかなか勝ちづらいため、最近では「対△三間には居飛穴」が定着している。ただし、藤井システムのような急戦がないとはいえ、ただ居飛穴に組むだけでは仕掛けどころを失う可能性も高いので、繊細な序盤が求められている。 まず、先手は「5筋不突き」で居飛穴を目指す。5筋を突くと、争点にされて早く動かれたり、△6五銀で7六歩と5六歩を狙われると受けにくくなる。 後手は石田流本組への組み替えや、矢倉流中飛車への合流を目指す型などがある。先手は、対石田流本組では一目散に囲うと仕掛けにくくなるので、先に仕掛けるポイントを作ってから囲う必要がある。それ以外なら、一直線に囲って相手の動きに対応していく。 第5章は、3手目▲7五歩の石田流対策。以前は、後手が8筋を伸ばしてくる形や、石田流本組を組ませて戦うのが主流だったが、最近は石田流そのものを拒否する4手目△8八角成や、相振飛車を見せる4手目△1四歩が流行している。 第1節は、4手目△8八角成に▲同飛の形。△4五角▲7六角△4二玉と角を打ち合った後、2七の地点を守るには▲3八銀と▲3八金がある。▲3八銀は、無事に美濃に組めれば良いが、ハイリスク。▲3八金は比較的穏やかだが、玉の堅さに差が出やすい。「▲8八同飛型は後手が指せる」が長岡の結論だ。 第2節は、4手目△8八角成に▲同銀の形。こちらの方が穏やかで主流だ。長岡は後手が指せるとみており、総合的には「4手目△8八角成は有力」と結論付けられる。とすれば、3手目▲7五歩自体が無理だということになるが、どうだろうか。今後の研究が待たれる。 第3節は、4手目△1四歩。▲1六歩と受けると、相振飛車にされて先手は自信がない。よって、端は受けられないし、▲6六歩と角道を止めるのも相振飛車にして後手が攻めやすくなるので好まれていない。先手の選択は▲7八飛と突っ張り、後手に(1)△1五歩▲4八玉からの乱戦、(2)△8八角成▲同銀△3二銀からの持久戦、のどちらかを選ばせる。ここは判断の割れるところで、長岡自身も「本書を書くまでは△8八角成派だったが、改めて考えてみて△1五歩が有力ではないかと感じている」(p221)と語っている。 今回取り上げられた5戦型は、プロ最前線であるものの、アマもよく指す将棋だと思う。特に最近は、振飛車視点の本が多いため、本書のように居飛車の思想や理想形を示した上で、ツボを突いた深い研究を披露してくれる棋書は貴重な存在だ。 直近の最前線モノとしては、同月に発行された『アマの知らない マル秘定跡』(村田顕弘,マイナビ,2013.07)もあるが、ほとんど戦型はかぶっておらず(△角交換四間飛車の一部くらい)、本書の方がアマがよく使ってくる戦型が多いと思う。 最近の振飛車に苦戦している居飛車党の方には、必読の一冊である。(2013Aug26) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p39 ×「第4図以下の指し手@」 ○「第4図以下の指し手」 分岐は見当たらない。 |