zoom |
マイコミ将棋BOOKS 遠山流中飛車急戦ガイド |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
||
【著 者】 遠山雄亮 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2010年7月 | ISBN:978-4-8399-3641-9 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 |
序章 本書の概要=8p 第1章 先手中飛車・5筋&角交換編=34p 第2章 先手中飛車・角交換編=36p 第3章 先手中飛車・乱戦編=28p 第4章 ゴキゲン中飛車対▲4七銀型急戦=32p 第5章 ゴキゲン中飛車対▲3七銀型急戦=34p 第6章 ゴキゲン中飛車対▲5八金右超急戦=38p ・【コラム】(1)流行形 (2)ゴキゲン中飛車の隆盛 (3)超急戦の魅力 ・参考棋譜=6局 ◆内容紹介 本書は中飛車戦法の、急戦調に進む変化を解説した戦術書です。前半は先手中飛車で、5筋の歩と角を交換した場合、角だけを交換した場合、そして乱戦になる変化を取り上げています。後半は後手ゴキゲン中飛車で、居飛車の▲4七銀型急戦、▲3七銀型急戦、そして▲5八金右超急戦について詳しく解説してあります。各講座の最後には参考になる実戦譜を載せました。 前著『遠山流中飛車持久戦ガイド』と合わせて読んでいただければ万全です。中飛車戦法の楽しさを存分に味わってください。 |
【レビュー】 |
中飛車の定跡書。▲中飛車と△中飛車の両方を収録。 ゴキゲン中飛車の流行が始まって、すでに10年が経過した。ほぼ同じ時期に流行が始まった横歩取り△8五飛戦法は、次第に流行が収束して、現在ではスペシャリストが指している戦型になっているが、ゴキゲン中飛車の方は一向に衰える気配を見せない。 さて、ゴキゲン中飛車の本は、この10年で約10冊出版されているが、流行の割には少ない。また、公平な視点に立った本はさらに少ないと言っていいだろう。 本書は、ゴキゲン中飛車の急戦調の変化を公平な視点で解説した定跡書である。 扱っているのは、基本的に角交換OKの中飛車。後手番では「ゴキゲン中飛車」という名称に固定されているが、先手番では「新ゴキゲン中飛車」「ワンパク中飛車」「パワー中飛車」などさまざまな呼び方がある(微妙に違うらしいのだが…)。流行の初期の頃に指されていた変化からプロの最新形までを取り上げてある。また、「中飛車戦での原理・原則」「互角の場合は遠山の見解」なども解説されており、単なる実戦例の羅列ではないところが良い。 各章の構成は、基本的に以下のとおり。前著『遠山流中飛車持久戦ガイド』(2009.11)とは少し違っている。 (1)定跡解説 : ほとんどの場合は分岐は2本ずつに分かれていく。 (2)まとめ : 章末にまとめあり。 (3)実戦解説 : 遠山の実戦の中盤部分を解説。 前著『〜持久戦ガイド』では、自戦記にある程度のページが充てられていたが、本書での自戦解説は、各章末に定跡解説を補完する形で実戦の中盤を解説する形式になっている。定跡書としては、本書の形式の方が優れていると思う。 なお、実戦解説の総譜は巻末に簡単な解説付きで収められており、棋譜並べファンの期待も裏切らない。参考棋譜(4)は最終手がカッコいいのでぜひ並べてほしい。また、参考棋譜(3)は急戦中飛車の後手ハマリ形で、将棋マンガ『5五の龍』や『奇襲ヒラメ戦法』(米長邦雄,昭文社,1978)などにも載っている。成功した形からの勝ち方が参考になる。 各章の内容を紹介していこう。 まず第1章〜第3章は▲中飛車。前提となる知識は (1)「5筋の歩と角を交換できたら中飛車の作戦勝ち」 (2)「△7四歩が突いてあると居飛車の8筋歩交換が成立しやすい」 である。 第1章は5筋の歩交換と角交換が実現した場合。前提知識に沿えば、中飛車の作戦勝ちになる。すでにプロの実戦では出なくなっている形であるが、中飛車の狙い筋が端的に実現しているので、「基本の章」として役立つと思う。アマ三段くらいまでなら狙いが実現することも多そうだ。 第2章は、「角交換はするが、5筋の歩交換は拒否する形」。プロでも現在かなり多く指されている形だ。特に章の最後の方は最前線で互角である。 第3章は、第1章と第2章で取り上げなかった形のアラカルト。「乱戦編」となっているが、展開によっては持久戦になったり(『〜持久戦ガイド』の知識が役立つ)、「振飛車vs△右6四銀急戦」の形になったり、古典的な「(角道を止めた)中飛車vs△7二飛戦法」の形になったりする。△7二飛戦法は最近の本にはほとんど載っていないが、『羽生の頭脳(2) 振り飛車破り(将棋連盟文庫)』(羽生善治,MYCOM,2010.05)や『疾風 谷川将棋』(谷川浩司,日本将棋連盟,1983)などが役に立つ。 第4章〜第6章は△ゴキゲン中飛車。第6章の超急戦型も含め、10年前からかなり定跡化が進んでいるが、まだまだ消える気配はなし。 第4章は▲4七銀急戦。ポイントは(1)▲2五歩は突かない(▲2六歩で保留)、(2)▲4七銀〜▲3六銀〜▲4五銀で△3四歩を狙う、の2つ。対して後手は、歩を逃げる指し方と、一歩損を甘受する指し方がある。 第5章は▲3七銀急戦。居飛車が右銀を▲4八銀〜▲3七銀〜▲4六銀と繰り出していくが、右銀で攻めるというよりは、中央でニラミを利かせるのが主な役割。場合によっては左銀を▲7七銀〜▲6六銀と繰り出して△5五歩を取ってしまうのも視野に入れているし、後手が△5六歩▲同歩△同飛と歩交換に来れば△5五歩と飛車を閉じ込めてしまうのもある。 なお、第4章 最後の第6章は、▲5八金右の超急戦。▲4八銀なら居飛車は一時的に右側への逃げ道がなく、超急戦を仕掛けると不利になってしまうので穏やかな展開になるが、▲5八金右は「決戦辞さず」の意思表示。対して後手が2筋歩交換を甘受して穏やかに指すのもあるが、本章では大決戦策を解説していく。いきなり終盤戦になる戦型なのに、10年も結論が出ていない形だ。 前半では、以前(『鈴木流豪快中飛車の極意』(鈴木大介,MYCOM,2003)の頃)はかなり有力視されていた「▲7五角」がプロ公式戦で消滅した理由が解説してあり、この戦型を指す人は必見。決め手となった△1四角や△9五角は公式戦では指されていないので、熱心なプロ将棋ウォッチャーでも消滅の理由を初めて知ることがあるかも。 後半は、羽生vs佐藤のタイトル戦で指された「佐藤新手△5四歩」、将棋ソフトのGPS将棋が発見したという「GPS新手▲4四角」、▲8二銀と打ち込んでいく最新形など、盛りだくさんである。 自分が中飛車を指す場合、本書に載っているような変化を避けていくことも可能ではある。しかし、研究熱心な方は、プロ将棋観戦ガイドブックにもなるので、買いの一手だと思う。(2010Aug25) ※誤植・誤字(第1版で確認) p37 第23図に△8四歩がない p63 ×「第3図以下の指し手A」 ○「第3図以下の指し手B」 |