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マイコミ将棋BOOKS 遠山流中飛車持久戦ガイド |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 遠山雄亮 | ||||
【出版社】 毎日コミュニケーションズ | ||||
発行:2009年11月 | ISBN:978-4-8399-3377-7 | |||
定価:1,470円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)兄弟子を見習った先手中飛車
(2)弟弟子に学んだ後手中飛車 (3)遠山流△7二金その1
(4)遠山流△7二金その2 |
【レビュー】 |
中飛車の定跡書。▲中飛車と△中飛車の両方を収録。 角道を止めない中飛車の場合、序盤から急戦になる展開と、ゆっくりした持久戦になる展開がある。持久戦の方は通常本に書きにくいのだが、かなり局数がこなれてきたこともあり、ある程度展開が固まってきた。特に近年は、居飛車が穴熊に組む展開が増えている。「ゴキゲン中飛車に居飛穴は組みにくい」と言われていたはずなのに、なぜ?その疑問は、本書を読めば氷解する。 本書は、ゴキゲン中飛車の持久戦調の変化を公平な視点で解説した定跡書である。 各章の内容をチャートと図面付きで見ていこう。 第1章は▲中飛車で、5筋歩交換+角交換が両方実現する形。角交換OKの中飛車では、「角交換+5筋歩交換⇒中飛車の攻撃力up」が原則となり、さまざまな手段が有力になる。急所になる手は▲7一角、▲6五桂、▲8九飛など。本書の中ではやや急戦調の将棋となる。 なお、姉妹書の『遠山流中飛車急戦ガイド』(遠山雄亮,MYCOM,2010.07)でも同じような「5筋歩交換+角交換」を解説しているが、本書の方は居飛車から角交換してもらう形である。(※逆に『〜急戦ガイド』では中飛車から角交換して1手損しているが、それでも中飛車の攻めは成立するので、本書の方が中飛車側の条件が良いといえる) 第2章は、「5筋歩交換は甘受するが、角交換は拒否する」形。アマだとこのパターンが多いかもしれない。章の後半には、本書出版時点(2009.11)では他書に載っていない指し方が紹介されているので参考にしてほしい。 第3章は、▲中飛車・5筋位取り。居飛車から見ると、「5筋位取りを甘受する代わりに局面を落ち着かせ、5筋歩交換も角交換もさせない」というのが基本思想となる。先手は美濃囲いで戦うのもアリだが、袖飛車作戦がかなり有効。第4章の伏線にもなっているので、しっかり読んでおきたい。 第4章は、△ゴキゲン中飛車・5筋位取り。 第3章と先後逆の形になるが、先後の1手の違いで袖飛車が通用しなくなる。特に2009年くらいから流行した「豊島流」が優秀とされている。これは、居飛穴が▲8八銀のハッチを締めずに(▲8八角の余地を残す)▲5九銀と引くもの。これだけだと袖飛車側から押さえ込まれそうなのだが、豊島将之四段が見せた居飛車の反撃が上手かった。 これに対し、中飛車側も(1)4筋位取り、(2)相穴熊、(3)新構想、などの対策を見せている。居飛穴に囲われにくいはずのゴキゲン中飛車で、なぜ相穴熊が指されているかを知らなかった人は、本章を読めば明らかになるだろう。 第5章は遠山流△7二金。 ゴキゲン中飛車が登場した約10年前の初期のころからある対策として、居飛車から角交換して早い流れを拒否する「丸山ワクチン」がある。さらに角交換後に▲9六歩△9四歩の交換を入れて▲7八銀とするのが「新丸山ワクチン(佐藤康光流)」で、もし後手が△5五歩とすれば▲6五角と両成り狙いに打てる。このときに△8八角の反撃に対して▲9七香と逃げられるのが▲9六歩の効果。結果として、新丸山ワクチンは、中飛車の5筋交換をけん制しつつ、居飛車が堅く囲いやすいのである。 それに対し、遠山流△7二金はあくまでも5筋交換を狙おうとするもの。8三を守ったので、▲6五角はなく、△5五歩と伸ばせる。「角交換+5筋歩交換⇒中飛車の攻撃力up」は、角交換OKの中飛車の原則で、第1章で解説済みである。 遠山流△7二金は、一時期トップ棋士にも採用されて流行したが、出版時点(2009年11月)ではあまり指されていないようだ。△6二玉でも指せると見られており、銀冠に囲いにくい遠山流はやや敬遠されているようだが、△6二玉が行き詰った場合は再注目されるかもしれない。序盤に危ない橋を渡りたくなくて、金美濃が嫌いでない人には向いていると思う。 姉妹書『遠山流中飛車急戦ガイド』と同様に、示唆に富むフレーズがたくさん出てくるのが良いと思う。以下に、個人的にメモしておきたいものを抜粋しておくが、実際にはもっとたくさんのフレーズがある。 ・p8「角を交換すると中飛車側の攻撃力が大きく上がる」 ・p88「(中飛車側が)飛を他の筋へ使い、その後▲5八金左と組むのは常に好手順になる」 ・p95「(先手)中飛車側は△4五歩を桂で取るために3七桂の形を早めに作っておくのを覚えておきたい」 ・p114「(中飛車側が)袖飛車から攻め込む場合、3筋にこだわり過ぎずに▲6六飛(〜▲6五飛〜▲8五飛)の転換を含みに攻めるのが急所」 ・p119「(後手5筋位取り中飛車に対して)居飛車は▲4六歩〜▲4七銀型は作らない方がよい。これは先後共通だ。」 ・p136「(後手)中飛車が気をつける筋、そして(先手)居飛車が狙うべき筋は常に▲6五歩だ。」 ・p140「(中飛車の)△4二金には▲4六歩、この呼吸をぜひ覚えていただきたい」 ・p147「中飛車(穴熊)側としては▲2六角とされると7一の金をにらまれて具合が悪いので、△4四角のような手をぜひご記憶願いたい。」 ・p156「(遠山流△7二金型で)△5五歩→△6一玉→△5六歩は流れとして覚えておいて欲しい。」 ・p185「角交換型振り飛車の場合、「(角交換に)5筋を突くな」ではなく「(後手は)4筋を突くな」なのだ。」 本書の第1章〜第3章の内容は、ほぼ同時期に出版された『パワー中飛車で攻めつぶす本』(鈴木大介,浅川書房,2009.12)とかなり似通っている。もちろん、解説にはそれぞれの著者の特長が出ていて、どちらの解説も分かりやすいので、両方読んでも損はないだろう。むしろ、2つの視点で見ることによって、理解が深まりやすいと思う。なお、先後どちらでも中飛車を指したい人は、本書と姉妹書の『遠山流中飛車急戦ガイド』はマスト。(2010Dec29) |