1・3・5手の超短手数詰将棋問題集。
「詰将棋には妙手が含まれている」「詰将棋は駒を取らないもの」──。一般的にはこのように考えられていると思う。もちろん、作品としての詰将棋、パズルとしての詰将棋であれば、駒を取ったりベタベタ駒を打ったりという俗手・凡手よりも、連続捨て駒や変則的な駒の使い方のほうが、意外性があって価値が高い。
しかし、実戦での「詰め力」においては、妙手・鬼手ばかりではなく、俗手・凡手もしっかり読めることが大事だ。初級者くらすでは「詰将棋をやったらかえって弱くなった」という声をよく聞く。もちろんこれは一時的なものなのだが、妙手ばかりに目が行くようになってしまうのが原因の一つである。そして、巷の詰将棋集のほとんどは妙手を追求したものなのだ。
本書は、妙手ばかりでなく、俗手・凡手も織り交ぜながら、総合的な詰め力の底上げを期待できる詰将棋問題集である。
本書の問題を作成するにあたって、編集担当からは「なるべく実戦で使えそうな問題を。妙手、奇手の類は必要ありません」と念押しされました。棋士の習性としては、問題に作品性を持たせたいというのが本音です。それに、作意の少ない凡作を公然と発表するには内心「どうかな…恥ずかしいな」という複雑な思いがあります。しかし編集担当は「その凡作こそが必要」というのです。確かに言われてみれば、実戦の詰みというのは駒を取ったり、ベタベタと打ったり…など、ありきたりな手順です。また成っても、成らなくても可だったり、遠くから打っても、近くから打っても同じだったりします。そういう曖昧さが実戦では往々にしてあります。
ですから、今回は意識的に実戦的な問題をたくさん作りました。
(本書まえがきより) |
問題は見開き2問で、ヒントは1行。ヒントを見ると問題の難度がかなり下がる。ヒントは問題図の左側にあるので、見たくない人は左手の親指で隠そう。
なお、本書ではかなり裏透けする紙が使われているが、解答の表裏を網掛けにしてあるので、裏透けは完璧に防止されている。ただし、解答図(詰め上がり図)は透けているので、なるべく意識しないようにしよう。
問題のレベルは、10段階でLv.1〜Lv.5くらい。金をベタベタ打つだけの問題や手なりで詰む問題もあれば、通常の詰将棋のように捨て駒連発の問題もある。邪魔駒消去や打歩詰め打開の問題もある。5手詰にはときどき駒取り問題も忍ばせてある。いわゆる「詰む将棋」を排除していないのである。
もちろん、あくまでも「詰将棋」なので、「玉方は最長手順で逃げる」「手数が同じなら駒が余らないように逃げる」というルールは残っている。また、まえがきには「(実戦では)成っても成らなくても可だったり…」とあるが、なるべく「どこから打っても可」は排してある。
1手問題は、「解く」というよりは「詰み形に慣れる」のを目的とする。しかるのち、3手問題と5手問題を反復するとよい。
この手の「易しめの超短手数(1・3・5手)を反復して解く」というコンセプトの本は、最近では『コツコツ解いて棋力アップ
詰将棋1手・3手・5手400題』(森信雄,実業之日本社,2008)〔原題:『森信雄の勝ちにいく!詰将棋ドリル』(森信雄,山海堂,2005)〕がある。どちらも比較的安価で提供されており、甲乙つけがたいが、とりあえず比較してみよう。
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本書 |
森信雄本 |
問題数 |
274問+3問 |
400問+2問
(オリジナル版は408問+3問) |
解説 |
80字程度+詰め上がり図 |
解説なし、解答手順のみ |
問題の並び |
1手→3手→5手 |
(1手・1手・3手・3手・5手)の5問で1グループ |
手数の割合 |
1手:80問(29%)
3手:84問(31%)
5手:110問(40%) |
1手:160問(40%)
3手:160問(40%)
5手:80問(20%) |
総括すると、解説があった方がいい人、5手詰に重点を置いて解きたい人は本書を。とにかく数を解きたい人は森信雄本を選ぶと良い。というか、両方やるのが一番いい(笑)
実戦での詰め力アップを目指す人にはオススメの一冊。(2010Aug01)
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