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■森下卓の矢倉をマスター

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森下卓の矢倉をマスター
zoom
NHK将棋シリーズ
森下卓の矢倉をマスター
[総合評価] C

難易度:★★★

図面:見開き4枚
(第3章は見開き2枚)
内容:(質)B(量)B
レイアウト:B
解説:B
読みやすさ:B
中級〜上級向き

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【著 者】 森下卓
【出版社】 日本放送出版協会
発行:2009年5月 ISBN:978-4-14-016173-9
定価:1,050円(5%税込) 223ページ/19cm


【本の内容】
第1章 矢倉の基本と考え方 (1)矢倉の組み方を覚えよう
(2)スズメ刺しと棒銀を指そう
(3)駒の方向性を知ろう
(4)攻防の手筋を学ぼう
74p
第2章 現代矢倉の誕生 (1)飛先不突きの意味を知ろう
(2)森下システムを覚えよう
(3)進化した森下システムを指そう
(4)進化した森下システムを指そう
(5)最先端の矢倉を学ぼう
74p
第3章 自戦記 第1局 懐かしのデビュー戦
第2局 恐怖と絶望の一局
第3局 A級初戦を白星で飾る
第4局 夢の舞台へ
第5局 奇跡の初優勝
68p

◆内容紹介
現代矢倉に至る変遷をたどりながら、どう判断してなぜそう指したのか、という思考過程に焦点を当て、矢倉の考え方と戦い方を解説する。「NHK将棋の時間」で放送した講座のうち矢倉の部分に自戦記を追加して単行本化。


【レビュー】
矢倉戦法の解説書。NHK将棋講座「森下卓の相居飛車をマスター」(2008.10〜2009.03)から矢倉の部分を抜き出して単行本向けに再構成し、自戦記を追加したもの。定跡書というよりは、矢倉の指し方をプロの実戦例(主に森下の実戦)を題材にざっくりと解説していく感じ。

目次だけでは分かりづらいので、各章の内容を図面を交えながら紹介していこう。
旧二十四手組
第1章は「
旧二十四手組」の解説。

初手から
▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀 △6二銀 ▲2六歩 △4二銀 ▲4八銀 △3二金 ▲7八金 △4一玉 ▲6九玉 △5四歩 ▲5六歩 △5二金 ▲5八金 △3三銀▲3六歩 △7四歩 ▲7九角 △3一角 ▲6六歩 △4四歩
で左図。

7手目に▲2六歩と突くのが特徴。飛を働かせるという意味で、自然な一手ではある。30年ほど前までは盛んに戦われていた形で、以前は矢倉といえばこれだった。「25手目の最善手を発見した者が名人になる」(p26)という伝説があったそうだ。

25手目の有力手は▲6七金右(若手の島がよく指していた)・▲3七銀(加藤流)・▲1六歩(若手の森下が最善と思っていた手)。このうち▲6七金右と▲1六歩に絞って解説していく。第II節は「スズメ刺しと棒銀を指そう」になっているが、スズメ刺しと棒銀だけでなく▲3六銀型や▲4六銀・3七桂型の話も出てくる。

新二十四手組
第2章は「新二十四手組」の解説。

初手から
▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀 △6二銀 ▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲7八金 △3二金 ▲6九玉 △4一玉 ▲5八金 △5二金 ▲3六歩 △3三銀 ▲7九角 △3一角 ▲6六歩 △4四歩 ▲6七金右 △7四歩
で左図。

相居飛車なら当然と思われていた7手目▲2六歩を▲5六歩に代えたのが、大きなコロンブスの卵で、飛先不突き矢倉の登場となる。この「不急の手は後回しにし、より有効な手を指す」という思想は、この後全戦型に波及することとなる。

5手目は▲6六歩もあり、むしろ現在はそちらの方が多い。▲6六歩の場合は、途中の金銀を動かす順番も微妙に変わる(本書では解説なし)。森下は「好みの段階でしょう」(p94)と言っているが、後手の急戦(原始棒銀・右四間飛車・矢倉中飛車・郷田流(阿久津流)など)のうち、どれを警戒するかで5手目の選択は変わってくるし、先手からの急戦の選択肢(カニカニ銀、米長流など)の有無に影響するので、しっかり意思を持って指すべきだと思う(まぁ結局好みなのだが…)。

ここからは▲3七銀(3七銀戦法)と▲6八角(森下システム)が最有力。他に▲3五歩などもある。本書では(1)初期の森下システム (2)深浦新手によってスズメ刺しを克服した森下システム (3)▲4六銀・3七桂型 の3つを実戦例に沿って解説していく。


第3章は森下の実戦譜。NHK将棋講座にはなかったもの。デビュー戦、C2で苦しんだ一戦、A級初戦、日本シリーズ優勝時の2局の計5局。第3章だけは図面が見開き2枚で、文章の量は多め。ただし指し手の解説は少なめで、半分くらいは棋譜に関係のない話や、対局時の心情や奨励会時代の思い出話などが多い。また、妙に自虐的表現が多いが、森下の謙虚さ・律儀さを差し引くと、案外まだ自信があるということかも?


さて、この講座はよかったと聞いていたので、結構期待していたのだが…正直言って個人的には期待はずれだった。

○ 初手から手の意味を解説していくのは良い。
× ただし、脱線や雑談も多い。本来はコラムとして別枠にすべき内容が本文中に書かれている。
× 「恐縮です」「失礼しました」「申し訳ありません」…どんだけ律儀なんだ、と。また、「話が抽象論になってしまって申し訳ない」というのが何度も出てくるが、指し手の思想は大事なので、そこは謝るところじゃないと思う。

○ 一般的な定跡解説と違って、駒組みの手の意味や、実戦的な攻め合いの解説があるのは良い。
× 本手順の棋譜が分離されておらず、本文中に書かれていて、図面も探しにくい。
× スタート局面が前のページであることが多く、ページめくり(戻り)がストレス。

○? (病気で倒れたあと、河口七段に「君もひ弱だなぁ」と言われ)「ひ弱ではありません。それだけ真面目にやったのです」(p202)はアッパレ!


総括すると、「
現代矢倉の思想』(森下卓,河出書房新社,1999)の第1章「基本の32手と後手急戦」を読めば、分かりやすい上に本書の大部分をカバーできるのでは…」というのが正直な感想。

本書のターゲットは級位者から初段くらいまでだと思うが、本書を読んで矢倉を指せるようになるだろうか?講座では、駒を動かしながら口語で解説するのでまた違っていただろうが、単行本化するときは活字とページ割りに見合った構成にするべきだったと思う。級位者が矢倉を覚えるなら、『
初段に勝つ矢倉戦法』(森下卓,創元社,2003)と『最新矢倉戦法 徹底研究▲3七銀戦法』(高橋道雄,創元社,2007)の2冊の方をオススメしたい。(2009Jun01)

※初版の誤字:p112「若手の錬成道場として解放」→「〜開放」



【他の方のレビュー】(外部リンク)
トマト王国




【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] 
NHK将棋シリーズ
[著者] 
森下卓
[発行年] 
2009年

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