▲中飛車の次の一手問題集。レイアウトは「指しこな形式」。
現在プロで盛んに指されている中飛車は、ここ10年は△ゴキゲン中飛車であるが、▲中飛車もかなり指されている。もともと▲中飛車は有力な戦法であり、『中飛車を破れ・下巻』(石田和雄,木本書店,1982)などで解説されているようにさまざまな指し方がある。
ただし、以前はやや奇襲的なイメージがあり、本によっては「プロは指さない」などと言われていた。しかしこの10年で、角交換系の振飛車の技術が大きく発展したこともあり、「勝ちやすい戦法」として注目を集めるようになっている。
本書はそのような▲中飛車を、次の一手形式で解説していく本である。なお、タイトルに「パワー中飛車」と書かれているが、今のところ一般的に定着した戦法名ではない。鈴木大介が指せば「パワー中飛車」だし、阪口悟が指せば「ワンパク中飛車」だし、近藤正和が指せば「新ゴキゲン中飛車」である。(微妙に違いがあるかもしれないが、わたしにはその違いはよく分からない)
基本的な構成は、従来の「指しこな」シリーズと同じで、初手から数手ごとに次の一手を出題する。出題図のコメントと詳しい解説により、正しい感覚で正着を見つけられるように誘導していく。各問はレベル別に[基本][応用][参考][考え方]の4つに分けられており、少なくとも[基本][考え方]はマスターしたい。
本書を貫く考え方は、内容紹介や本書p2にも書いてあるとおり、以下の3つ。
1)自分から乱戦にしないし、相手からもできない。
2)激しい攻め合いと一方的な攻めがあったら、一方的な攻めを選ぶ。
3)囲いは金銀二枚の美濃囲い以上。
各章の内容を見ていこう。
第1章〜第4章は基本的に初手から▲5六歩△8四歩である。
第1章 駒組みの基本と3つの狙い筋
先手が作戦勝ちしやすい「後手から角交換してくれる場合」を題材に、中飛車での基本的な狙いを学ぶ。3つの狙いとは、(1)▲8五飛のぶっつけ、(2)8筋逆襲、(3)中央突破、である。なお、p21などで「先手だけが指し手を進めていける形」の紹介があるが、いわゆる「ずっと俺のターン」というやつである(そういう書き方はされていない)。
第2章 意外な筋と角のさばき
「後手から角交換してくれない場合」が題材。「意外な筋」とは、△7四歩に▲6五銀と出る筋。また、(1)▲5五歩△同歩▲同飛、(2)▲5五歩△同歩▲同角、の使い分けや、歩越し銀への対応策も学ぶ。
第3章 左美濃を攻めつぶす
後手から見れば、先手より堅く囲いたいわけだが、その一手段が左美濃。本戦法では先手が角道を開けたままなので、△2三玉の瞬間に▲2二角成として、堅く組ませない。また、△4四歩と角交換を防いでから左美濃を目指す場合は▲5五歩△同歩▲4五歩の仕掛けで攻める。
第4章 穴熊を攻めつぶす
▲中飛車といえども、やはり居飛車穴熊は難敵。本章では(1)穴熊に負ける展開、(2)居飛穴に組まれる直前に仕掛ける、をテーマに解説。 |
第5章〜第8章は基本的に初手から▲5六歩△3四歩である。アマではこちらのほうが出現率が高いかも。
第5章 角交換型へ
「角交換+5筋歩交換が同時に実現」する形。先手の作戦勝ちが見込める。本章では8筋逆襲作戦を解説。
第6章 後手、一歩交換を逆用
第6章と第7章はプロ的な戦い方。本章では、先手が5筋交換したときに、後手が簡単に歩を謝らない指し方がテーマ。(1)二枚銀冠の作り方、(2)左金(▲7八金)の取らせ方、を学べる。
第7章 後手、一歩交換を阻止
角交換と5筋歩交換が同時に実現すると先手作戦勝ちになりやすいので、後手が歩交換だけは阻止しようとする形。本章では先手は角交換後に穴熊にする。後手は(1)速攻、(2)相穴熊、(3)千日手狙い、の三択。
第8章 5筋位取り中飛車VS居飛車穴熊
5筋位取り中飛車に対して、後手が居飛車穴熊に組んできた場合。本章では、▲4六銀が急所(通常の5筋位取り中飛車では▲5六銀と形良く構えるのが一般的だった)で、さらに先手も穴熊にして、(1)袖飛車▲3八飛で攻める、(2)浮き飛車▲5六飛で揺さぶる、の2つを使い分ける。p208の「▲7六歩が間に合うタイミング」は必修。 |
本書で▲中飛車(vs△居飛車)の基本と感覚はマスターできる。次のステップに進む場合、より本格的な▲中飛車を学びたい人は『遠山流中飛車急戦ガイド』(遠山雄亮,MYCOM,2010.07)を、相振飛車で対抗されたときの指し方を知りたい人は『相振り中飛車で攻めつぶす本』(鈴木大介,浅川書房,2010.06)を読むとよいだろう。(2010Oct07)
※誤字・誤植等(初版で確認)
p19 ×「▲8九飛△6八角成▲5九飛…」
○「▲8九飛△7八角成▲5九飛…」
p157 ×「より強い囲いを作る方向で考えたどうでしょう。」
○「より強い囲いを作る方向で考えたらどうでしょう。」
※本書のパワー中飛車と同じオープニングで派生する「升田流向飛車」(右図)について
本書では第1章p35〜 に升田流向飛車が(一時は注目されながら)プロ間で指されなくなった理由が書かれている。しかし本書の後に出版された『高崎一生の最強向かい飛車』(高崎一生,MYCOM,2010.03)、本書のp37第9図で▲9六歩の工夫がされている場合について解説されている。また、『高崎〜』での結論は「(向飛車からの)急戦は(正確に対応されれば)やや無理筋だが、囲い合って持久戦でも先手も十分戦える」となっている。つまり、▲中飛車と▲向飛車の両刀遣いならば、後手のほとんどの手に自在に対応できそうだ。
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