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マイナビ将棋BOOKS 1冊でわかる ノーマル振り飛車 基礎から流行形まで |
[総合評価] 有段者の戦法転向用なら A+ 難易度:★★ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級向きのようだが 実は「有段者の戦法転向」向き |
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【著 者】 宮本広志 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年9月 | ISBN:978-4-8399-7421-3 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)オンライン (2)テニス (3)有段者になるために |
【レビュー】 |
ノーマル振り飛車の戦術書。 角道を止める「ノーマル振り飛車」は、序盤は駒の交換が起こりにくく、比較的穏やかな展開になりやすい。初心者でも安定して駒組みを進めることができ、昔も今も人気の作戦の一つである。 一方、居飛車の対策は急戦から持久戦までさまざまで、対策すべき形は多い。近年になって新しい形も続々と現れており、それに対策する形で振り飛車側の構えも変わりつつある。 本書は、ノーマル振り飛車での急戦に対する受け方、振り飛車の基本的な考え方を示し、近年登場した居飛車の囲いの長所・短所も紹介しながら、最近流行している形の指しこなし方を学ぶ本になっている。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「ノーマル振り飛車の基本」。 ノーマル振り飛車では、振り飛車側が角道を止めて比較的穏やかな序盤戦になるので、互いに囲ってから戦いが始まるケースがほとんど。なので、よく使われている囲いの急所を先に解説して、次にノーマル振り飛車の一般的な指し方の考え方を解説していく。 (1)振り飛車美濃囲いの急所(難易度★2.0〜2.5) 美濃囲いの長所、よくある攻められ方、受け方の例を解説していく。(※本書では振り飛車穴熊については扱わない) ・囲いは5手(本美濃)で完成。 ・横からの攻めに強く、発展性(進展性)がある。 ・上からの攻め、端攻めには弱い。 −△5五角のライン+桂でのナナメからの攻め −一段飛車+△6六角のラインで△3九Xを狙う −端攻め+△2四桂は思った以上に速い。△1六桂と香を取った手が王手になる。 ⇒△2四桂を打たせないように、端を取り込ませて▲1八歩と謝るのも一考の余地あり。 ・高美濃に組み替えると、本美濃の弱点が一部補強される。ナナメのラインが緩和され、上部への逃げ道も広がる。 −組み替え中は薄くなる部分もある。(囲いのことだけをいえば)▲4六歩〜▲3六歩〜▲4七金の組み方を推奨。 −右桂を跳ねて攻撃に使うこともできる。半面、桂頭攻めに注意が必要。特に△6九角の筋には注意。 ・銀冠まで組み替えると、桂頭が厚く、端攻めにも強くなる。 −▲2七銀の瞬間は危ういので、組み替えられるかどうかの見極めが必要。 −下段飛車にも弱いので、▲3九香などの補強を考えておきたい。 (2)様々な居飛車の囲い(難易度★2.0〜2.5) 居飛車でよく使われている囲いの長所・短所、崩し方の例を解説していく。 ・舟囲いは完成まで4手。 −いろいろな形に組み替えていくことができる。 −角頭(2三)は弱い。 −玉頭(3筋)も急所。高美濃側から▲3五歩が速い攻め。 ・エルモ囲いは手数がかからず堅い。 −飛車打ちに強い。 −居飛車から端攻めをしやすい。囲いの桂も戦力になることがある。(※天守閣美濃などでは端攻めがしづらい) −2三は(舟囲いと同様に)弱点だが、逃げ道がある。 −2三と4三を同時に狙う(▲3四銀や▲3五桂)のは有効。 −玉頭攻めも有効だが、振り飛車が高美濃に組む前にエルモ囲い側から仕掛けてくることが多い。(逆にエルモ囲い側はあまりゆっくりしない方が良さそう) −ただし進展性に乏しく、持久戦には不向き。 ・トーチカ囲い(ミレニアム)は手数がかかるが、比較的安全に堅く組める。 −本書ではトーチカとミレニアムは区別されておらず、別称扱い。 −玉が低くて深い。 −囲いの桂を攻めに使うことができる。 −金銀4枚で囲えるが、攻めの細さに注意。 −桂頭(3四)は弱点だが、3筋を攻めると反撃が来やすい。金銀4枚で囲われていると桂頭を攻めても効果が薄いので、桂頭を攻めるなら右銀が囲いにくっつく前に攻めたい。 −と金攻めは効果的。(居飛穴よりも)5筋の垂れ歩が厳しいので、5筋の歩は切っておきたい。 ・穴熊囲い(居飛車穴熊)は玉が遠くて堅く、王手がかからない形(ゼット)を生かした寄せが狙える。 −穴に潜るときに、玉が角のラインに入りやすいので、振り飛車からの猛攻がある。 −居飛穴に端攻めは有効。ただし、本美濃や高美濃だと△1六桂の反撃が厳しいので、銀冠まで囲っておきたい。 ・銀冠穴熊は手数が相当かかるが、組む途中で戦いになっても堅い。 −端の弱点もない。 −銀頭は急所なので、2筋攻めは効果的。ただし反動には注意。 −2二金を狙うために、歩のテクニックで周りの金銀の形を乱そう。 なお、最近多い「天守閣美濃ではない左美濃」については本章では触れられていない。 (3)玉を寄せる仕組み(難易度★2.0〜2.5) 対抗形での寄せは、[玉を下段へ追い込む]と[玉を端へ追い込む]が2大パターン。 ・むやみに追い掛け回さず、逃げ道を塞ぎたい。 ・上から攻める方が効果的。桂香歩も使って攻めることができる。横からの攻めは高い駒しか使えない。 ・美濃囲いを高美濃に進化させるのは、堅くする意味ではなく、上からの攻めに強くなり、自分からも攻めることができるようにするため。 ・居飛穴やトーチカは、高美濃や銀冠(の上からの攻め)に対抗できる囲い。半面、玉が最初から下段にいるので、逃げ出すことが難しい。 (4)仕掛けへの対抗(難易度★2.0〜2.5) ノーマル振り飛車の基本的な考え方を解説する。本節では、四間飛車に対して、居飛車がシンプル舟囲いから5筋不突きでの急戦を仕掛けてきた場合の、振り飛車の捌き方を解説する。 −▲4六銀〜▲3五歩の仕掛け(角頭を攻める)と、▲4六歩〜▲4五歩の仕掛け(角交換をして飛先突破を狙う)を解説する。急戦の仕掛け筋としては、汎用性が高く、頻出。 −「居飛車が一応囲った上での急戦」としては、どちらもほぼ最速の仕掛け方。(級位者でよく見られる「居玉棒銀」は載っていないが、応用可能) −有段者ならもう少し準備を整えてから仕掛けることになる。なので、本書と同じ形はあまり定跡書には載っていない。 ⇒捌きのイメージはそう大きく変わらないので、まず感覚を掴もう。振り飛車党になるには、本節の考え方は必須中の必須。 ・居飛車の飛先を受ける△3三角(▲7七角)はノーマル振り飛車では必須。そのためにあらかじめ角道を止めている。 ・△3三角の角頭は弱点なので、△4三銀と守るのが手堅い。(※あえて守らない形もある) ・攻められそうな筋に飛を回る。居飛車の銀を3五に出させてはいけない。 ・角頭を攻めさせて、攻め込まれそうな瞬間に△4五歩と角道を開けて、角を捌く(交換できるようにする)のが振り飛車の呼吸。 ・自分の方が堅いときに大駒総交換できれば成功。 ・▲4五歩の角交換狙いには、△3二金と2筋を守っておくのが手堅い。 ・多少駒損しても(飛車側での銀桂交換くらい)、飛を捌く(駒の効率を良くする)のが大事。 |
第2章は、「向かい飛車」。(難易度★2.5〜4.0) 本書では、飛を振る位置を2筋から5筋まで順番に解説していく。 ・「向かい飛車」は2筋に飛を振る作戦で、居飛車が早めに▲2五歩を突いてこないと成立しないので、ノーマル振り飛車の中ではやや特殊な作戦ではある。 ・振り飛車側から仕掛けられるのが魅力的。 ⇒居飛車から先に攻められたくない、自分から攻めたい人にオススメの作戦。ただし、いつもできる訳でなく、序盤の居飛車の指し手にある程度制限される。 オーソドックスな振り飛車の捌きを学びたい人は、第3章(三間飛車)か第4章(四間飛車)を先に読むほうが良いかもしれない。 〔向かい飛車の狙い筋〕 ・2筋に備えているので、居飛車急戦には強い。 −居飛車急戦なら、左金は△5二金左と上がって玉を固めておく。 ・居飛車が持久戦狙いなら、△3二金と上がり、自分から△2四歩と飛先逆襲で仕掛けることができる。 −▲3七桂と2筋の応援をされた場合、桂頭攻めも狙いの一つとなる。 −△1四歩は向かい飛車では汎用性の高い手。△1三桂や△1三角などバリエーションが広がる。 ・居飛車が一直線に穴熊を目指すなら、△3二金と自陣のスキをなくして、居飛穴が完成する前に△2四歩と仕掛けていく。 ・2筋歩交換を角で行い、△3三角と引いて飛をぶつけ、△4五歩と開いて角をぶつけるなど、局面を激しくしていこう。 ・先に▲7八金と慎重に固めてくるなら、振り飛車も左金の態度を保留して駒組みを進め、▲9八香の瞬間か、待つ手がなくなったら△3二金〜△2四歩と攻める。 ・居飛車が角交換を避けて▲6六歩としているなら、2筋歩交換後は△4二角と深く引いて、△3三桂と活用できるようにする。 −ただし、事前に△1四歩と突いて、角筋を止めないように△1三桂と跳ねるのがより有力。先手から▲2四歩と突くことができない。 −1手の違いで、△1三桂と△1三角のどちらがいいかが変わってくるので、局面をよく見よう。 |
第3章は、「三間飛車」。(難易度★2.5〜4.0) ・「三間飛車」は3筋に飛を振る作戦で、相手の出方に左右されずに飛の位置を決められる。 ・四間飛車よりもバリエーションは多い。 ・最初から飛が3筋にいるので、角頭を攻めてくる急戦には強い。 ・対持久戦には、石田流に組み替えれば、角を自由に使いやすく、居飛車の右桂の捌きも封じることができる。この場合はあまり美濃囲いを高く発展させないほうが良い。 ・対舟囲いや対エルモ囲いには、仕掛けに対応しつつ、美濃囲いを発展させて上部から反撃できる形を目指したい。 〔三間飛車の狙い筋〕 ・5筋不突き居飛穴には、「トマホーク」が有効。 −かつて5筋不突き居飛穴は三間飛車の天敵だったが、トマホークによって止めることができた。 −5筋不突き居飛穴の余地があるときは、囲いを△6二玉で止め、△9四歩〜△9三桂の端桂と玉頭銀のコンビネーションを狙っていく。 −△8五桂と跳ねにくいときは、もう一枚の銀も繰り出そう。 ⇒このトマホークが嫌で、最近は5筋不突き穴熊は減っているが、トマホークを見せないと囲われてしまうので、序盤の手順には注意が必要。 ・▲5六歩を突いて居飛穴を狙ってくるなら、△5四銀で角頭の歩を狙いに行く。 −▲6六銀で防げば、居飛車は安全に穴熊に組むことができる。半面、銀が左側に行っているので、振り飛車は△3五歩から石田流に組む。こうしておけば、居飛車は右金を囲いにくっつけにくい。 −▲6六歩の場合は、飛の捌きのタイミングに注意が必要。銀がまだ5七にいるので、▲4六銀〜▲6八角で押さえ込まれないように注意。△5四銀を上がってからなら3筋の歩交換が可能。また、6筋の位は取られない様に。 −4筋を攻めてくる急戦には、△3二金で角交換OKにしておく。また、攻められた筋(4筋)に飛を回り、4筋でぶつかった歩は自分からは取らないようにする。▲4四歩△同銀▲4五歩には、△同銀と突進した方が飛を捌きやすい。 |
第4章は、「四間飛車」。 ・「四間飛車」は4筋に飛を振るので、攻撃的な形には組みにくく、持久戦にされやすい。半面、△4五歩で飛角が同時に働く形になるのが長所。 〔四間飛車の狙い筋〕 ・居飛車穴熊に組ませて戦うなら、「振り飛車ミレニアム」が最近増えている。 −玉が角筋に入りにくく、下段飛車の攻めにも強い。囲いの桂を攻めに使える。 ・居飛車のトーチカ(ミレニアム)に対しては、△5三金〜△6四金と左金を繰り出す指し方が有力。 −△5二飛〜△5五歩や、△7四歩〜△7五歩の桂頭攻めが狙い。 ・銀冠穴熊に対しては、地下鉄飛車から玉頭攻めが有力。 −振り飛車は高美濃に組まず、右雁木の形にして、△4一飛〜△8一飛と玉頭に狙いを定める。 −▲8八金と寄って角が引けなくなった瞬間に△8五歩と仕掛ける。 ・エルモ囲い急戦に対しては、△5三金型で仕掛けを封じて、ゆっくりした流れにしたい。 −△6四角とできる場合は、▲3五歩の仕掛けに△同歩と取ってしまい、▲同銀△4二角〜△6四角を狙うのが有力。 −高美濃を目指すと△6四角の筋がなくなるので、仕掛けを封じるために△5三金と上がると良い。 ・▲4六銀-3七桂-2六飛型は昭和からある形だが、最近見直されて増えている。 −攻めの形を作ってから、▲6六歩と角道を止めて持久戦にすることがある。 −振り飛車は△5三金でしっかりと攻めを守り、居飛車が穴熊を目指してくるなら片銀冠に組んで△6四金と繰り出し、△7五歩から歩交換する。 −交換して歩は端攻めに使おう。 |
第5章は、「中飛車」。 ・「中飛車」は5筋に飛を振る。金銀3枚の本美濃には組みづらいが、バランスで勝負する。 ・現代中飛車は角道を止めない「ゴキゲン中飛車」が多いが、本章では角道を止める「ノーマル中飛車」で居飛穴に対抗する。 (※本書の中では、本章のノーマル中飛車はあまり自信がなさそう) −△3二金型は急戦には強い。半面、△4一銀の割り打ちには要注意。 −ただし、△3二金型は持久戦になったときに玉を堅くすることができない。 〔中飛車の狙い筋〕 ・5筋の歩交換は常に狙っておく。 ・理想形に組むまでに時間がかかるので、自分から戦いを起こさない。 ・捌き合いにしない。 |
〔総評〕 第1章では、対抗形で現れる囲いの特徴や、級位者の対局で現れそうなシンプル急戦の解説をしているため、一見「級位者向けの本」に見える。実際、第1章は級位者にも理解しやすく、「振り飛車とは何ぞや」という入門にはちょうど良いレベルになっている。 これが第2章〜第5章の実際に各戦法を解説するところになると、グンとレベルが上がる。序盤から丁寧に解説されているので、途中までは級位者も十分ついていくことができると思うが、ページあたりの棋譜の進行量が結構多く、解説内容も有段者向けの本と同等のレベルまで難度が上がる。 扱っている戦型もあまりヌルいものはなく、「プロの流行形の基本的な変化」といった趣きになる。用語や形勢判断も「ちゃんと初段以上のレベルでマスターしている」ことが前提となる。 また、「便宜上先後逆」を用いた「振り飛車側を手前にする」といった配慮はなく、振り飛車は棋譜通りに後手側に配置されている。 というわけで、本書は「級位者向けの本」ではなさそう。級位者が読めないということはなく、盤に並べながらじっくり読み込めばやれるかもしれないが、相当な苦難を伴いそうだ。第2章の途中で挫折する可能性は相当高いと思う。 どちらかといえば、「すでに何らかの得意戦法で有段者になっている人で、ノーマル振り飛車党に転向したい人」向けの本だと思う。居飛車党や、角交換系の振り飛車を指している人や、奇襲や力戦を指している人で、「ノーマル振り飛車の捌きに憧れます。でも試しにやったらボコボコにされました。最低限何をマスターすればノーマル振り飛車党になれますか?」という要望にはバッチリ応えている本だと言えよう。本書を読んで、どの筋に飛を振るのが自分の棋風に合いそうかを決めて、その章の戦型を一通りマスターすれば、いっぱしのノーマル振り飛車党になれそうだ。 ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版Ver1.00で確認): p104下段 ×「他に指すて手もなく」 ○「他に指す手もなく」 p198上段 ×「▲6八金右に対して▲8五歩から攻めていく…」 ○「▲6八金右に対して△8五歩から攻めていく…」 |