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マイナビ将棋BOOKS 将棋革命!振り飛車ミレニアム戦法 |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 上級〜有段向き |
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【著 者】 村田顕弘 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年3月 | ISBN:978-4-8399-7287-5 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)とっておきの… (2)変則将棋からの妄想 |
【レビュー】 |
振り飛車でミレニアム囲いを採用した作戦の戦術書。 従来、振り飛車の囲いは「美濃囲い」か「穴熊囲い」(またはその発展形)だった。玉を囲わない藤井システムでも美濃囲いの骨格を作っている。それが近年になって、AI検討などでさまざまな陣形が試されるうちに、振り飛車がミレニアム囲い(△8一玉型)を採用する将棋が登場し、有力視されている。 本書は、振り飛車のミレニアム囲い作戦を本格的に解説した初めての戦術書となる。 「振り飛車ミレニアム戦法」と称しているが、本書での振り飛車はノーマル四間飛車に統一されている。また、AIを用いた検討も入っているが、AIは振り飛車の評価値が低めに出やすいのを考慮して、評価値-200〜+200程度は互角としている。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「振り飛車版ミレニアム囲い概要」。 ・公式戦で振り飛車側が初めてミレニアム囲いを採用したとされるのが、2018年4月27日の▲澤田真吾△都成竜馬戦。 ・居飛車持久戦への対抗策として有力視されている。 ・ただし、居飛車急戦に対しては、美濃囲いのほうが良い。 ・他に、第1章〜第5章の概要について説明がある。 |
第1章は、「VS左美濃囲い」。 ・持久戦でのミレニアム囲いを目指すため、△7二玉型で様子を見る。 ・▲7八銀と左美濃(▲7九玉型)で来たら、△7四歩〜△5四歩と突く。従来ではあまり見ない変則的な駒組みに注意。 ・居飛車急戦に対しては、囲いが間に合っていないので、強気の捌きはできないことが多い。 ・▲4六銀急戦には、さっさと角交換してしまい、△8二角のラインに期待しよう。 ・▲5五歩の揺さぶりには、△5三金で局面を収める。 ・▲3八飛には、△3二飛から局面を収める。 ・持久戦になれば、先手は銀冠穴熊、後手はミレニアム囲い。ひと昔前なら、まず「先手の作戦勝ち」と言われたものだが、現在の価値観ではおおむね互角だという。後手に攻めの主導権があることが評価されているようだ。 |
第2章は、「手広く構える▲3六歩型」。 ・本章では、先手が舟囲い基本形から、囲いをすぐに確定させずに▲3六歩と急戦を見せるのが基本局面。 ・後手はミレニアムを目指すので△7二玉型。 ・居飛車急戦なら美濃に囲い切って迎え撃つ。(本書では解説は省略) ・持久戦の場合、居飛車の囲いは、天守閣美濃・ミレニアム囲い・居飛穴が考えられる。 第2章第1節は、「VS天守閣美濃」。 ・天守閣美濃の天敵は、△7一玉型美濃囲いから玉頭を攻められること。 ・△7二玉型ならそのおそれが低いので、急戦を見せてからの天守閣美濃は有力な選択肢の一つ。(わたしも以前よくやっていました) ・天守閣美濃+▲4六銀急戦には、定跡通りの受け方では四間側の囲いが中途半端すぎて危険。逆にそれを生かして、△8一玉〜△8二飛で天守閣美濃の玉頭で戦うのが秘術。 ・四枚美濃には、振りミレ+△6五歩位取りが有力。 ・▲6六歩型には、△5四銀型で飛先を軽くしておく。 |
第2章第2節は、「相ミレニアム」。 ・居飛車ミレニアムも最近人気が再興しており、相ミレニアムも当然あり得る。 ・居飛車ミレニアムは、途中までは地下鉄飛車と駒組みが共通。▲地下鉄飛車には、△振りミレは美濃囲いや振り穴よりも耐性がある。 ・相ミレニアムなら、振りミレ側が△6五歩と位を取りやすく、△6四角の権利を主張したい。 |
第2章第3節は、「穴熊含み」。 ・先手が▲3六歩を突いているのにも関わらず、居飛穴の含みを残す作戦。(第3章の居飛穴は、ハッチを締めてから▲3六歩としている) ・後手が振りミレを目指す駒組みが、先手の急戦に対応できるかどうかを検証する。 ・後手は△6四歩なら大胆だが、先手の急戦は大丈夫か? ・▲3五歩、▲4六銀、▲3八飛、▲5五角の仕掛けがあるが、△8二玉〜△7二銀の美濃囲いが間に合えば振り飛車まずまず。ただし、▲3八飛や▲5五角は強敵で、△6四歩型は無理のようだ。 ・後手が△7四歩ならどうか?美濃囲いには組みづらくなるが、角の転換を狙える利点がある。振りミレを目指すなら、△7四歩の方が良さそうだ。 ・△3二銀型で振りミレを目指すなら、△6四歩・△7四歩の両方を突けるが、急戦への対応が難しい。 ・▲3六歩を見た時点で、振りミレを諦めるのもアリ。 |
第3章は、「VS居飛車穴熊」。 ・振りミレの場合、藤井システムを含みとしない(早々に玉を上がる)ので、作戦負けしないように序盤の駒組みには注意が必要。 ・5筋不突き居飛穴に注意。▲5六歩を見てから△4三銀と上がるように。 ・▲5七銀としない居飛穴にも要注意。玉頭銀で牽制して、▲6六歩を突かせよう。 ・自陣の△6四歩を突くかどうかは一考の余地あり。本章では突く方を本線としているが、突かずに囲いを進める方が堅い。 ・居飛車側から「▲3六歩〜▲2四歩〜▲6五歩」の仕掛けは常にある。どのタイミングで仕掛けられてもいいように、準備しておきたい。 ・振りミレの本来の目的(?)である「互いにしっかり組んだ状態での居飛穴戦」は、p111から。通常の四間vs居飛穴戦との形の違いに注意しよう。 |
第4章は、「端歩突き越し型振りミレ」。 ・後手が9筋の歩を打診した時に、先手が受けなかった場合、後手番ながら端を突き越すとどうなるか。△四間飛車藤井システムの場合も似たテーマがあり、後手番ではやや欲張り気味に見えるが、△振りミレではどうなのか? ・第3章よりも駒組みが遅れるので、「▲2四歩〜▲6五歩」の例の仕掛けに対策が必要。方針として、△3二銀型にするか、△5四銀+△6三歩型にするかに分かれる。 ・△3二銀型は急戦には強いが、組み上がり後の立ち遅れが心配。 ・△5四銀+△6三歩型は、本章では端の位が取れているので有望。6筋の歩がぶつからず、「▲2四歩〜▲6五歩」の仕掛けにも強い。 ・ただし、▲7八飛から桂頭を攻められそうなときは、振りミレを諦めて銀冠にシフトしよう。 |
第5章は、「先手振りミレ」。 ・先手番で振りミレを指すときは、持久戦に備えて1筋の位を取っておきたい。 ・ただし、1筋に手を掛けると、陣形整備は遅れる。居飛穴からの早めの仕掛けには注意が必要。対応を誤ると「1筋の貯金」くらいでは割に合わないこともある。 ・また、先手番では千日手狙いにはしたくなく、打開の責務を負う。振りミレの深さを生かして、多少無理気味でも攻めていこう。 |
【総評】 本書では、「振り飛車ミレニアム」(振りミレ)を採用した場合の駒組みの細心の注意点や思想、またさまざまな居飛車急戦についてはよく網羅されており、「振りミレ」が戦法としては成立していることが十分示されている。 また、各章の概要やまとめはコンパクトにまとまっており、作戦面でつまずいたときには、すぐに該当箇所を見直すことができる。 一方で、振りミレの「理想形」や「利点・欠点」、「特有の手筋」、「戦いの方針」、「居飛ミレとの違い」、「他の振り飛車への応用」などをまとめたページ・記述は特になかった。解説の中にいくつかは点在はしているものの、初めての振りミレ専門書なのだから、「復習次の一手」の代わりにそれらが欲しかったところ。あれば文句なしのAでした。 一応、解説からの抜粋と、わたしなりの解釈を加えて列挙しておく。 ・振りミレの完成後に△6二飛とくっつけ、6筋を攻めるのが理想の一つ。 ・振りミレでは、自玉が角筋でにらまれることはない。 ・居飛穴の完成を阻止することは難しい。 ・居飛穴からの仕掛けは常にある。厳密にはやや不利な変化もあるが、実戦的には互角と信じて戦う。 ・自玉側の桂を攻めに使えて、桂がいなくなっても堅さはあまり変わらない。 ・端攻め、玉頭攻めは振りミレ側だけの権利になりやすい。 ・「堅さ」より「深さ」を頼りに、やや乱暴な攻めも成立することがある。 振りミレは、「無双できる作戦」というよりは、「新しい考え方の作戦」だと思ってください。(2020May09) |
※ちなみにどうでもいいことですが、p61の▲6八金上型急戦〔右図〕は、わたしも20年くらい前の1999年に将棋倶楽部24で試していたことがあります。やっと時代がわたしに追い付いたのですね。(マテ) 当時まだわたしは2級くらいで、五段の人に「面白そうな作戦ですね」と言われたのが印象に残っています。一方で初段〜三段くらいの人には「何これ、あり得ない。」と欠点をいくつも挙げられ、定跡講釈を受けたこともあります(涙)。 当然、右4六銀急戦の定跡は知っていて、「囲いをいじれば中終盤で違いがあるのでは」「▲6八銀よりは優秀なのでは」と、意思を持って指していたのですけどねぇ。 村田六段は「練習将棋なんかでは筆者も経験しているが、居飛車振り飛車どちらを持ってもうまくいかない(苦笑)」と書いておられますが、わたしも勝つときは快勝、負けるときは惨敗(+講釈付き)でした。 本書の振りミレもそうですが、囲いを変えれば長所と短所も付きモノです。どれだけ、陣形にマッチした戦い方ができるか、ってことですかね。「振り飛車の囲いは美濃か穴熊でしょ」と仰る人にギャフンと言わせてやってください。 |
※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p72上段 ×「第31図から▲5五角…」 ○「第32図から▲5五角…」 p102下段 ×「後に123ページから解説…」 ○「後に128ページから解説…」 p190下段 ×「▲4七銀(参考図)で…」 ○「▲4七銀で…」 ※参考図はない。 |