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マイナビ将棋BOOKS 耀龍四間飛車 美濃囲いから王様を一路ずらしてみたらビックリするほど勝てる陣形ができた |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:B+ 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 大橋貴洸 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年4月 | ISBN:978-4-8399-7334-6 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・耀龍 エピソード
・【コラム】(1)緑の中で (2)おさかな組 (3)あの日の出会い (4)いま思うこと |
【レビュー】 |
「耀龍四間飛車」の戦術書。 「耀龍」は大橋の造語だそうで、「あらゆる駒を耀(かがや)かせ、龍の舞を披露し、勝利へ導く」の意味。大橋の前著『大橋貴洸の新研究 耀龍ひねり飛車』(2019.04)でも採用されている。 本書の「耀龍四間飛車」は、四間飛車の囲いを通常とは異なるものを採用することで、戦い方が大きく変わるというもの。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「耀龍四間飛車とは」。本作戦の序盤の駒組みを紹介する。 ・振り飛車の玉型は、通常は美濃囲いか穴熊(またはそれらの発展形)となるが、「耀龍四間飛車」では▲3八玉型(△7二玉型)で戦う。 ・相手の居飛穴は阻止せず、組ませて戦う。 ・▲3八玉型は、自分から端攻めしたときに反動が少ない。 ・地下鉄飛車に組みやすい。 ・自玉が敵角のラインに入りにくい。 ・柔軟な駒組みが可能。 ・玉の堅さ・遠さはないので、広さ・攻撃力を主張する。 |
第1章は、「後手耀龍四間飛車 対 穴熊」。対▲居飛穴の戦い方を解説する。 ・対▲居飛穴には、△5四銀と出て、▲6六歩を突かせる。 ・▲3六歩には△4五歩がセット。▲3八飛に△4四角を用意しておく。 ・▲6八角と引けないタイミングで△8五桂を決行する。 ・角筋が通ったら、△9七桂成から端攻めする。 ・▲7八金型〜松尾流穴熊には、端攻めしやすい。△7二玉型で端攻めの反動が小さいのが生きる。 ・先手が▲5九角から角転換の場合、▲3七角とされる前に△6四歩を突く。突けないと、将来の角筋の確保が難しく、作戦負けになる。 ・▲7九金型は、やや固めにくいものの、居飛穴に離れ駒がない。また、▲7八飛から一歩交換できる。 ・後手は、一歩交換の間隙を縫って、地下鉄飛車の態勢を整えよう。 ・地下鉄飛車は△9一飛型だけでなく、△8一飛型もある。どちらも△7二玉型との相性は良い。 ・第5章の実戦譜は、▲7九金型。 ・先手が四角い穴熊を目指すなら、堅いがバランスが悪い点を衝く。 |
第2章は、「後手耀龍四間飛車 対 左美濃」。▲7九玉型左美濃と天守閣美濃に大別され、それぞれ持久戦での派生形がある。 ・対左美濃では、四間飛車の左金は△3二銀型で待つ。 ・持久戦では地下鉄飛車が有力。 ・銀冠穴熊には、▲8八金の瞬間に動こう。 ・飛先突破されても、下段飛車の防御力のおかげで、△7二玉型は横からの攻めに意外と耐久性がある。 ・左美濃急戦には、△7二玉型のバランスの良さを生かそう。 ・急戦に対しては△3二金型にして、振り飛車側から角交換を挑める。 ・端玉銀冠には、将来△4二角で玉頭を狙うために、△6四歩は突かない。 ・△4一金の動かし方に注意。居飛車急戦の可能性があるときは、動きを保留して、△3二金を用意しておく。 ・四枚美濃には、組ませて戦えばよい。△6五歩と位を取る必要はなく、▲6六歩を突かせて△6五歩と仕掛ければよい。 |
第3章は、「後手耀龍四間飛車 対 急戦」。後手の△7二玉型が深くないのを見て、急戦を仕掛けてくることは当然考えられる。 ・対急戦には、当然ながら地下鉄飛車や端攻めはできない。 ・△3二金型でしっかり受け止めればOK。角交換は歓迎してよい。 ・エルモ囲い急戦にも、△3二金を用意しておく。 ・早い仕掛けがなければ、▲4六銀-3七桂型になりやすい。対応をしっかり覚えておこう。 |
第4章は、「先手耀龍四間飛車」。先手番での戦い方を解説する。 ・先手番では待ちの姿勢はできない。先手番を生かす駒組みと、居飛車の千日手狙いへの対策が二大テーマ。 ・先手番でも囲い方はほとんど同じ。▲3八玉型で▲4八金としていったん完成。 ・左辺の金銀の動かし方は、相手の出方によって決める。 ・本書の出版後の2020年5月7日に、▲佐藤和俊△羽生善治戦(竜王戦)で本書と同一局面が表れている。 |
【総評】 振り飛車が対居飛車戦で金無双で戦うなど、ほんの一昔前なら「アマ級位者か」と一蹴されていたし、流れでそうなったなら「振り飛車が大作戦負け」とか「(玉を深く囲いやすい)振り飛車の利点を放棄している」などと評されただろう。(特にp125あたりの「△6二銀-△6三金の金銀逆形でも大丈夫」というのは相当である) それが、高勝率のバリバリの若手棋士が「最初から目指す形」とし、さらに本書出版後にトップ棋士の実戦で同一局面が現れているのだから、時代は変わったものだ。今後大注目の考え方といえるだろう。 四間飛車の玉の位置を、敵角のラインから一路ずらすという発想は、本書の1ヶ月ほど前に出版された『将棋革命!振り飛車ミレニアム戦法』と似ており、部分的には似た変化もたくさん現れる。ただし、「振り飛車ミレニアム」は居飛車と同等以上の堅さを目指しているのに対し、「耀龍四間飛車」では高い攻撃力とバランスで戦うことを目指しているので、本質的には全く異なる戦法である。 個人的には、攻撃力の高さを望める「耀龍」の方が好きな戦法で、自由に我慢せずに指せている印象だった。ただし、玉の薄さはどうにもならないので、細心の注意は必要だ。 もしかしたら、対抗形の居飛車急戦を得意としていた人の方が向いている作戦かもしれないと思った。「定跡通」ではなく、「相手より薄い玉でも指しこなす」という意味で。なんか、四間飛車を指すのが苦手な私でも、この作戦なら真似はできるかもしれない、と思わせてくれた一冊。 (2020May30) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver.1.00で確認): p83下段 ×「▲8八金右と寄った…」 ○「▲8八金と寄った…」 p103下段 ×「先手陣が収集困難…」 ○「先手陣が収拾困難…」 p145下段 ×「▲同銀は△3三桂」 ○「▲同銀は△8八角成〜△3三桂」 p166下段 ×「すでに収集困難…」 ○「すでに収拾困難…」 ほか、「堅い」と「固める」の混同多数。 |