zoom |
マイナビ将棋BOOKS 大橋貴洸の新研究 耀龍ひねり飛車 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
||
【著 者】 大橋貴洸 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年4月 | ISBN:978-4-8399-6948-6 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||
・【コラム】(1)強くなれます! (2)大丈夫だよ (3)AIとコーヒー (4)なぜ対局で青スーツを着るのか? |
【レビュー】 |
新型のひねり飛車の戦術書。 ひねり飛車は、相掛かりから派生する戦型で、飛先で一歩を交換した後に、左辺で石田流を作って戦う作戦である。 かつては「先手番の必勝戦法かもしれない」と言われた時期もあったが、後手もカタ囲いで堅く囲うなどの有力な対策が現れ、プロで初期からひねり飛車を目指す作戦はあまり見られなくなっていた。その原因としては、一歩持つ利点の半面、玉頭に穴の開いた美濃囲いの薄さや、持久戦での左金の活用などがネックとなったと思われる。 ただし、ひねり飛車自体は現在でも有力な作戦で、横歩取りなどでもときどき見られるし、石田流の形が好形であることも間違いないだろう。 本書は、従来のひねり飛車の欠点を改良した、新しいひねり飛車である「耀龍ひねり飛車」を解説した本である。 従来のひねり飛車に工夫して、安定な玉型で速攻を仕掛けられるように改良。また、相手の動きに合わせて陣形を構築することも可能で、持久戦でも作戦負けしにくい。本編では、ときおり通常のひねり飛車の変化も解説し、違いを比較しながら、「耀龍ひねり飛車」を解説していく。 「耀龍」は「ようりゅう」と読み、大橋の造語。「あらゆる駒を耀(かがや)かせ、龍の舞を披露し勝利へ導く」という意味だそうだ。その名の通り、今までネックとなっていた駒を自由に解放し、また相手の動きに合わせて非常に柔軟に自陣の形を変えていく作戦となっている。(名付ける人によっては「カメレオンひねり飛車」とか「タコタコひねり飛車」とかありそうだ) また、レイアウトや構成は大橋のこだわり入り。本文・図面ともにフォントはゴシック体で、その中でも見やすい書体を選んでいるようだ。さらに重要フレーズには網掛けが施されていたり、本文の解説量に合わせて柔軟に図面の配置をずらしたりしている。(これらの工夫は、いつものマイナビ将棋BOOKSを見慣れていると最初は違和感があるが、見慣れてくるとこちらの方が見やすいように思う。電子書籍で小さな画面で見る場合は、間違いなくこちらの方が見やすいだろう) 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「耀龍ひねり飛車とは」。 ・相掛かり模様で、5手目に▲9六歩。(▲7八金ではない) (※後手が5手目▲9六歩を咎めるのは難しく、6手目は△3二金になる) ・▲7八金を省略して(!)▲2四歩から飛先交換し、▲2六飛と引く。 (※▲7八金はできるだけ上がらない!) ・△3四歩にはすかさず▲3六歩とタテ歩取りに出る。 (※△3四歩と突いてこない展開は第5章で。アマではこちらの方が多いかも?) ⇒基本図以降、後手は四択になるが、どれも先手がペースを握れそう。 |
第1章は、「押さえ込みを狙う△3三金型」。 タテ歩取りでの△3三金は昔からある形で、一時的な悪形ではあるが、先手のタテ歩取りをしっかり受け止めて押さえ込みを狙う。(近年はコンピュータの影響で、△3三金がそれほど悪形とは思われなくなってきている) 先手は▲7八銀で低く隙の少ない陣形からひねり飛車を目指す。ひねり飛車を阻止する△7四歩には、すぐに▲7五歩で先手ペース。 玉の移動よりも攻撃形の構築が優先される。▲8六歩から飛ぶつけが成立すれば先手ペースなので、常に狙っていこう。ただし、互いの玉型によって成否が異なる。1手指した方が良いとは限らないので、いつも陣形の違いを意識したい。 |
第2章は、「筋良く受ける△8四飛型」。 タテ歩取りを△8四飛で受けるのは形が良く、角筋も通したままにできる利点がある。半面、浮き飛車の狙われやすさが弱点となる。 先手は▲6八銀-▲7九金-▲3八銀で、飛の打ち込みに強い陣形でチャンスを窺おう。 |
第3章は、「手得を生かし堅く囲う△4一玉型」。 後手が△3四歩を守らず、手得を優先する指し方。先手は▲3四飛〜▲3六飛で、1歩得の代わりに陣形整備が2手遅れるので、歩得vs手得の対抗になる。 また、第4章の△5二玉型と比べ、△4一玉型は玉が深く、堅く囲いやすい。 後手の駒の偏りを咎め、▲8六飛とぶつけていこう。大駒を持ち合う展開では、持ち歩の多さが生き、3四歩をかすめた甲斐がある。 |
第4章は、「バランス重視の△5二玉型」。 第3章の△4一玉型と同じく、歩損を甘受する。バランス重視の陣形が後手の主張となる。 後手は歩損の影響が小さい乱戦を目指すので、今度は空中戦の様相を呈していくる。 |
第5章は、「角道を開けず▲3六飛をけん制△7二銀型」。 △3四歩と突くと、常にタテ歩取りを狙われるので、△7二銀と様子を見てくる場合。(※アマだとこちらの方が多そう。他に△4一玉や△5二玉もあるかもしれないが、やや形を決めすぎている感もある) 先手は、▲7六歩から従来型のひねり飛車にするか、▲7八銀から耀龍ひねり飛車を目指すか。 |
【総評】 本書の「耀龍ひねり飛車」は、先手番で相掛かりになればほぼ100%実現できるため、先手番の得意戦法とするのも面白そう。 相手の対応によって先手の駒組みも変える必要はあるので、特に序盤の要所の手と狙い筋を理解した上で、飛ぶつけや大駒交換などが成立するかどうかを毎回読むことになるが、それが故に将棋の醍醐味を味わえそうだ。これまでのひねり飛車では見慣れない形になることもあるし、持久戦での組み替えはセンスが問われるので、本書の変化を盤駒でしっかり並べておくことを推奨したい。 根強いファンがいるひねり飛車に、まだ新しい鉱脈があることを示した功績は大きい。相掛かりが(歩交換のタイミングをずらしたことで)流行していることもあり、本書をきっかけに、さらに新しい工夫が出てきそうな気がする。(2019May05) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p136 このページだけ明朝体になっている。変更し忘れた? |
※2019May07追記: 本書の「耀龍ひねり飛車」は、かつての「青野流ひねり飛車」に非常によく似ています。(マイナー将棋ブログさん、ご指摘thx!) 参考文献: 1983-01 横歩取り・ひねり飛車戦法,谷川浩司,筑摩書房 p104〜p109 1989-11 プロの新手28,青野照市,日本将棋連盟 p168〜p173 1994-12 ひねり飛車の基礎知識,所司和晴,MYCOM 第3章(6) なお、Wikipedia - ひねり飛車 にも記載があります。 ●谷川本の青野流ひねり飛車 谷川本に書いてあるのは、以下の順。 初手より ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲9六歩△3二金 ▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛△6二銀 ▲3八銀△3四歩▲3六飛△3三金▲7八銀△6四歩 ▲7六歩…〔下図〕 5手目▲9六歩から、▲7八銀型のひねり飛車を目指すところは同じ。左金の活用がスムーズという狙いも同じで、谷川本p108では「(左金の活用の)2手の差は、プロであれば、そのままこれを作戦勝ちに結び付けることができる」とまで書かれている。 後手の△3四歩保留で、谷川本の青野流では▲3八銀として、△3四歩を待って▲3六飛△3三金のタテ歩取りから▲7八銀型ひねり飛車に持っていった。 ●青野本の青野流ひねり飛車 これに対し、本家(?)の青野本では、以下の順になっている。 ▲青野照市七段 △瀬戸博晴四段,新人王戦,日付不明 初手より ▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲9六歩△3二金 ▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛△1四歩 ▲7八銀△6二銀▲3八銀△3四歩▲3六飛△3三金 ▲7六歩…〔下図〕 文章から見る限り、こちらが一号局の手順のようだ。5手目▲9六歩から同様に進み、後手が△1四歩で様子を見ると、先手は▲7八銀〜▲3八銀の順で、△3四歩を待って▲3六飛△3三金のタテ歩取りから▲7八銀型ひねり飛車にした。 狙いの概要は、やはり「左金の活用がスムーズ」と、「飛車交換に強い」となっている。 なお、青野は「一局だけでやめてしまった」(p173)そうだが、「この後プロの公式戦でも、だいぶ指す人がいたようだ。しかし後手側の対策も進み、たとえば序盤早くに△9四歩と突くと、本譜の▲9七角〜▲7七桂の時に、すぐ△9五歩と反撃する手などがあり、プロ間ではなかなか簡単に成功せず、ということからか、指す人はいなくなった」(同)とのことだ。 ●本書の耀龍ひねり飛車 本書の第5章では、△3四歩保留に対して、右辺の態度を決めずにいきなり▲7八銀としており、青野の一号局と同じである。 ただし、積極的に早めの戦いを目指すところや、▲3八銀をなるべく決めず、変幻自在の陣形を想定しているところは、青野流から進化していると思う。 「序盤早めの△9四歩」への対応は、p47〜p54のところだろうか。これで対策ができているなら、1980年代の課題が解決したことになり、再び流行する可能性も十分あるだろう。 2000年代前半に石田流が再発明(?)されて流行したのと似た感じになるかも?(それなら「耀龍ひねり飛車」ではなく、「大橋式青野流ひねり飛車」と呼ぶべきか?) |