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マイナビ将棋BOOKS 角交換相振り飛車 徹底ガイド |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 杉本昌隆 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年9月 | ISBN:978-4-8399-7072-7 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 232ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】 (1)ペンクラブ大賞受賞 (2)好きな駒 (3)昇段と昇級 |
【レビュー】 |
序盤で角交換する相振り飛車の戦術書。 近年は、角交換型の振り飛車や、いつでも角交換ができる角道オープン型の振り飛車が増えてきている。したがって、相振り飛車も序盤で角交換になる戦型が増えてきた。 角交換型の相振り飛車は、以前は力戦と捉えられていたが、少しずつながら整備が進んでいる。また、相居飛車の角換わり腰掛銀が▲4八金-2九飛型が主流になった影響を受け、角交換型の相振り飛車でも▲6八金-8九飛型が好形と見る向きも増えつつある 本書は、今後さらに増加が見込まれる角交換型の相振り飛車について、角交換型ならではの駒組みや攻め筋を解説する本である。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「角交換相振り飛車とは?」。本書の内容の概要となる。 ・相三間(相石田流)は、先手やや良しが定説となっている。 (本書では相三間は割愛。 『杉本流相振りのセンス』(2013)、『相振り革命(3)』(2005)、『新相振り革命』(2000)などを参照) ⇒後手は相三間を避け、4手目△1四歩など工夫するようになった。 ⇒本書では、4手目△1四歩に対し、▲1六歩と受けるのを推奨する。 (※1筋の突き合いは、相振り飛車になれば後手のポイントとみる考えもある。 『振飛車最前線 石田流VS△1四歩型』(村田顕弘,マイナビ出版,2018.08)など。) ・3手目▲7五歩は、角交換相振りではあまり生きない。 例えば、角交換した場合は向かい飛車が好位置となるが、相向かい飛車で▲7五銀と出られないデメリットがある。 ⇒初手▲7八飛が増加している。 3手目は▲6八銀or▲4八玉で、どちらも一長一短。 本書ではやや▲6八銀を推している。 ・角道オープン四間飛車からの相振りは、 −10手目△8八角成▲同銀△2二飛は『杉本流相振りのセンス』(2013)で解説済みで、先手やや良し。 −10手目△5四歩を本書で解説する。(第4章第3節) ・角交換相振りでは、浮き飛車よりも、▲8九飛-6八金でバランスを取り、▲7七桂にヒモを付けるのが有力。 ・角交換相振りでは、▲向飛車+▲7五銀+▲5六角の攻め筋が互いに有力。 これを警戒するため、玉の囲い方は慎重に。 従来は悪形扱いだった「▲3八金-2八銀型」が優ることも多い。 |
第1章は、「初手▲7八飛」。(+3手目▲6八銀。3手目▲4八玉は第3章にて) (1) 対△8八角成・対居角型 ・初手▲7八飛は、▲7五歩を後から突けるメリットがある。(左銀の進む余地を残しておける) ・後手はスムーズに相振りにするため、△5四歩が必要。(▲6五角の防ぎ) ・△5四歩を逆用する変化がある。また、1筋の突き合いは先手に利することもある。 ・節のまとめとして「1七馬の使い方」「1八馬型もある」「初手▲7八飛の完全同型」があるが、「まとめ」というよりは「補足」に近い。 |
(2) 対△3三角型 ・後手が△3三角〜向かい飛車にする。自分からは角交換をしてこない。 ・ただし、この後手の作戦はややリスキーである。 ・「△8二飛振り直し作戦」は非常に面白い筋があるが、結論としては上手くいかない。 ・先手は早めに角交換して、△3三桂の形にさせておく。 ・角交換型では美濃囲いにはしづらい。 ・自分だけ銀を繰り出しやすい形にすれば指しやすい。8筋の飛+▲7五銀+▲5六角は角交換相振り飛車での主眼の狙いとなる。 ・銀対抗には、飛を深く引いて▲8九飛+▲6八金型で陣形のバランスを取ろう。 ・この戦型は、まだまだ進化中である。 |
第2章は、「3手目▲7五歩型相振り」。 ・石田流を目指すなら、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩となる。 ・3手目▲7五歩に対して、4手目△1四歩は後手の有力策。先手が1筋を受ければ相振り飛車(将来の端攻めがしやすい)、受けなければ1筋を詰めて居飛車にする作戦。 ・先手は▲6八飛として、いったん△4五角の筋を防ぐ。角交換後は、いずれ向かい飛車へ転回。 ・矢倉に組もうとするとパンチを喰らいやすい。金無双が無難。 |
第3章は、「新型角交換相振り」。 ・初手▲7八飛〜▲4八玉からの角交換相振り。 ・「向い飛車+▲7五銀+▲5六角」の筋(互いにある)の対策のため、「▲2八銀+▲3八金+▲4八玉型」が有効。通常の相振りでは愚形だが、角交換型では一考の余地あり。2筋突破を直接防げるわけではないが、突破時に王手にならないので、少し緩和できている。 ・△4三銀型に対しては、後手の飛先交換に乗じて銀冠に組もう。 |
第4章は、「角道オープン四間相振り」。初手より▲7六歩△3四歩▲6八飛の角道オープン四間飛車でも、角交換型相振りは増えている。 (1) 四間飛車 対 三間飛車 ・先手は角交換から▲6五角の権利がある。ただし、即有利という訳ではなく、力戦模様になる。 ・序盤で角を敵陣に打ち込んで、馬を作る展開もよくある。ただし、「相振りの場合は、効果的な馬の置き場所が難しく、持ち角に軍配が上がることも多い。」(p142) ここは各人で意見が割れそうなところだが、馬を過大評価しないように互いに注意したい。 |
(2) △3五歩型 ・後手が石田流使いなら、1筋を突き合って△3五歩は自然な一手。 ・先手は角交換後、向かい飛車に振り直す。「角交換相振りにおいて、向かい飛車は万能」(p149)というくらいで、初めから念頭に置いておこう。 ・後手も向かい飛車に振り直すのが有力。ただし、△3五歩型のため、△3五銀と出られないことに注意。 |
(3) 角頭歩突き角道オープン四間飛車 ・相振りを見越して後手が2筋を突いてくるとき、後手が飛を振る前に、先手が8筋の歩を突く作戦。「△向かい飛車封じ」の有力策。 ・後手が△2二飛と振るために角交換してくるなら、先手はスムーズに▲8八飛型にできる。 ・後手が角道を止めるのも、△5四歩とのバランスがイマイチ。 ・後手は居飛車で戦うことになりそう。その場合、△5四歩や△2五歩は不急で、駒組みに苦労しそう。 |
第5章は、「中飛車左穴熊風相振り」。 ・▲中飛車vs△三間飛車。 ・▲中飛車左穴熊(または▲中飛車左玉)になるのかな…という序盤から、▲5五歩と5筋の位を取らずに先手から角交換して、互いに筋違い角を打ち合う。 ・つまり、「中飛車左穴熊風」と銘打っているが、先手が中飛車左穴熊or左玉を積極的に放棄している。玉を左に囲う展開にはなりにくい。 ・どちらも角を成れなかったとき、生角の運用がカギとなってくる。 ・本章は杉本の実戦がベース。(後手が杉本) ・章全体では、「(本作戦は)先手の有力策」というニュアンス。 |
第6章は、「先手三間飛車石田流」。 ・石田流を目指す「3手目▲7五歩」に対して、4手目△5四歩とされた場合、先手は▲6六歩と止めるのが無難というのが定説。 ・それでも5手目▲7八飛は成立するのかどうか、また形勢の差はどれくらいになるのかを改めて検証する。結論としては、やや後手持ちながら微差。 ・1筋の交換が入っていても同様。 ・4手目△1四歩に▲7八飛も検証する。1筋を詰められると、居飛車持久戦が先手にとって厄介とされているが、試す価値はありそうだ。 ・角道を止めた相振り飛車は主導権が取りづらいとされる。どうしても角道を開けたまま戦いたい人は、単純に定説通りに角道を止めるのではなく、止めないリスクの大きさを自分なりに消化した上で、自分自身の方針を決めてほしい。 |
〔総評〕 角交換を前提とした相振り飛車を専門的に扱った棋書は初めて。特に、次の点は従来の相振り飛車とは大きく違う。 ・(角が持駒なので)「8筋の飛+▲7五銀+▲5六角」の攻め筋がある ・対抗として「▲2八銀+▲3八金」が有効。 ・▲8九飛+▲6八金型で陣形のバランスを取るのもあり。 …など これらをちゃんと理解しているかどうかは、角交換相振り飛車の正しい大局観に直結していく。相居飛車の角換わりとも似て非なる部分もあって、比較的新しい考え方となっているので、相振り飛車を指す人はぜひ本書を読んで自分のものとしておきたい。 個人的には、現在初手▲7八飛を愛用しているのですが、角交換型相振りで自分だけの秘密(笑)だと思っていたところがほぼ明かされていました。「やっぱ自分は間違ってなかったんだ!(`・ω・´)」と嬉しさを覚えるとともに、「みんなに手の内がバレてしまった…(´・ω・`)」という気持ちもあります。 実際、本書の出版後は、将棋ウォーズでの対戦相手の陣形が変化したように感じ、「あっ、(本書を)読んでるな!知ってるな!」という印象があります。 これ以上バレてほしくないのですが(笑)、みなさん出遅れませぬよう。(2019Oct12) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p117下段 ×「▲3四歩△4五銀▲4六歩」 ○「▲3四歩△4五桂▲4六歩」 p127下段 ×「あくまで△3四を」 ○「あくまで△3四銀を」 |