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マイナビ将棋BOOKS 格言・用語で覚える 居飛車の基本手筋 |
[総合評価] A 難易度:★★★☆ 図面:見開き3枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 神崎健二 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2016年11月 | ISBN:978-4-8399-6041-4 | |||
定価:1,663円 | 240ページ/19cm |
【本の内容】 |
序章 相居飛車の考え方 第1章 矢倉の基本手筋 第2章 角換わりの基本手筋 第3章 横歩取りの基本手筋 第4章 相掛かりの基本手筋 第5章 その他の居飛車の基本手筋 第6章 実戦次の一手 ・【コラム】(1)泥沼流コントラクトブリッジ (2)整理と精神修養 (3)皮算用 (4)大山先生、コン君と中将棋を指しました (5)苦しいお家の事情 (6)中川慧梧最強アマ (7)最後の継ぎ歩 (あとがき)将棋指導員から学ぶ ◆内容紹介 本書は矢倉、角換わり、横歩取り、相掛かりといった相居飛車の戦いにおける手筋を解説したものです。実戦ですぐにでも使えそうな手筋が100以上も紹介されています。 さらに本書には三つの大きな特長があります。一つ目はタイトルにもなっている「格言・用語」で覚えるという点。ただ手筋を羅列しただけではなかなか頭に入ってきませんが「と金は金で金以上」「下段の香に力あり」「角筋には玉を囲うな」「飛車の横利き受けに強し」といった格言や「継ぎ歩」「垂れ歩」「合わせの歩」「焦点の歩」などの用語と一緒ならぐっと覚えやすくなります。 本書にはこういった格言や用語が散りばめられているため、将棋に対する考え方とともに数多くの手筋を覚えることができるのです。 また、加藤治郎著『将棋は歩から』(東京書店,初出1970)、加藤治郎・木村義徳・真部一男著『将棋戦法大事典』(大修館書店,1985)などの名著からの引用も随所にあり、本書を通して先人の知恵と努力、遺してきたものの偉大さにも触れることもできます。 二つ目の特長は、手筋を例題とともに解説する本でありながら、次の一手問題集としても読める、ということです。本書は右ページに例題、左ページに正解図、という構成になっており、右ページの解説文には正解手順が現れないように工夫して書かれています。 腕に自身のある方は左側を隠して、自分がどれだけ手筋を知っているか力試しをしていただければ幸いです。 最後の特長は、何と言っても「読んでいて面白い」ということです。 「その手は桑名の焼き蛤(はまぐり)」 「堅いなぁ、片倉小十郎やなぁ」 「角のにらみは、歩で“遮断法人”」 などなど、丁寧な解説の中に縁台将棋で飛び出すようなジョークが混在していて楽しく読み進められる内容となっています。 神崎健二八段が精魂込めて書いた、まさに居飛車基本手筋の決定版といえる一冊です。 |
【レビュー】 |
格言や用語などを交えながら、居飛車の手筋を解説した本。原題は『相居飛車の絶対手筋105』だったらしい(p150コラムより)。 将棋には、上手い駒の使い方や、上手い考え方などがあるが、これらは手筋や格言などで言語化されていると覚えやすく、マスターしやすい。また、ダジャレや軽口のような定番の表現を知っていると、将棋ファンとして奥深さが増す。棋力は盤上の指し手などで判断できるが、このような用語・言葉をどれだけ知っているかで、どれだけ将棋にどっぷり浸かっているかを判断することができたりする。 本書は、主に相居飛車戦で使われる有用な手筋を、手筋名・格言・名言・迷言・ダジャレ・軽口などを絡めながら解説していく本である。 まえがきには、以下のような記述がある。これでだいたい本書の内容が分かる。 「印象に残るネーミング、名言の数々は、棋界を取り巻く環境がどんなに変わろうとも、後世に伝わっていく」 「本書では、いろんな棋士の得意戦法やエピソード、縁台将棋のような雑談なども入れて、従来の手筋の本とは違った書き方をさせていただきました」 「左ページを隠していただいて右ページの図面を見て、次の一手を考えていただける構成」 本書の参考文献は、『将棋戦法大事典』(加藤治郎,木村義徳,真部一男,大修館書店,1985)や『将棋は歩から』(加藤治郎,東京書店,1970)を筆頭に、70年以上前のものからつい最近のものまで、20冊以上。名付けの名手・加藤治郎が付けた名称ももちろん紹介。 本書では、さまざまな用語や言葉が登場するが、その用語等の基本的な解説はあまりない。むしろ、「用語自体はどこかで聞いてたことがあって知っている」ことは前提になっており、「その用語等が実際にどのように使われるか」を解説していく。 なので、「手筋の名前や格言は、両手で数えるくらいしか知らない」、という人は、難易度★2〜★3の格言本や手筋本(歩の手筋本がオススメ)でまず学んでから、本書に取り組んでほしい。 ダジャレも同様で、ダジャレそのものの意味の解説はあまりない。 例えば、上記の内容紹介にある「角のにらみは、歩で“遮断法人”」というやつは、「歩で遮断する」と「社団法人」をミックスしたもの。これは、日本将棋連盟が2011年4月から「公益社団法人」になったことが関係していて、要は内輪ネタである(笑)。このくだりは本文中では特に触れられず、サラッと流れていく。 なお、現代の将棋ダジャレの多くは、豊川孝弘七段が多用して広まった。この手のダジャレは、一回だけ言うと周囲が凍り付いてしまったりするのだが、ずっと言っているとだんだん楽しくなってくるものである。自分では言わないという人も、将棋ファンなら知っておいて損はないだろう。 本書のレイアウトは、右図のような感じ。1テーマは見開き完結となっている。 重要な手筋は[太ゴシック]で強調。格言と手筋用語は[太ゴシック+網掛け]。狙い筋は[太ゴシック+網掛け+囲み]で強調されている。 図面は見開き3枚で、2016年のマイナビ将棋BOOKSに多かった型だが、やはり図面が足りない箇所がちょいちょいある。(p150コラムによれば、神崎から見てもレイアウトのバランスが悪いらしい) 文体は、[ですます調]、[である調]、[体言止め]が混在している。最初は[体言止め]が多いが、次第に[ですます調]になっていく。どうやら、書いているうちに[体言止め]が書きにくくなっていったようだ。 各章の内容を、取り上げられている手筋・格言・名言・戦法などを添えながら紹介していこう。(※すべてを掲載しているわけではありません) 序章は、「相居飛車の考え方」。 「考え方」と銘打っているが、内容は相居飛車の戦法の紹介と有名局に現れた手筋の紹介。本章では紹介のみで、手筋の解説はほとんどなし。取り上げられている将棋は、江戸時代の古い資料から現代の名局まで幅広い。「相居飛車の考え方」という章タイトルとは、内容がちょっと違うかも。 〔名言〕 「矢倉は将棋の純文学」(米長邦雄) 〔戦法・定跡〕 駅馬車定跡/風車/雁木/菊水矢倉 第1章は、「矢倉の基本手筋」。23テーマ。 本章で取り上げられている手筋は、「矢倉戦の」というより、「矢倉囲いの」という意味合いが強い。 〔手筋〕 タタキの歩/ダンスの歩/垂れ歩/歩頭桂 〔格言〕 「下段の香に力あり」/「香先の飛車鋭し」/「初王手、目の薬」/「玉の腹から銀を打て」/「と金は金と同じで金以上」/「金は斜めに誘え」/「大駒は近づけて受けよ」/「一歩千金」/「金底の歩 岩より堅し」/「飛車の横利き 受けに強し」 〔名言・迷言・ダジャレ・軽口〕 「この歩は取ることかなわぬ魚屋の猫」 「その手は桑名の焼き蛤」(「その手は食わない」と、名物「桑名の焼き蛤」を組み合わせた古典的ダジャレ) 「両取りヘップバーン」(将棋用語の「両取り」と、名女優の「オードリー・ヘップバーン」を組み合わせた近代的ダジャレ) 「歩ばかり山のホトトギス」(持ち駒が歩ばかりたくさんある) 〔戦法〕 灘流矢倉戦法/スズメ刺し 第2章は、「角換わりの基本手筋」。15テーマ。 第1章の矢倉編と異なり、ほとんどのテーマ図は全体図となっている。(例題30〜32を除く) 〔手筋〕 垂れ歩/控えの歩/足場の歩(神崎オリジナルの命名)/焦点の歩 〔格言〕 「飛車先交換 三つの得あり」/「玉は下段に落とせ」 〔戦法〕 対棒銀の受け方/木村定跡/棒銀の端攻めと受け方(例題36〜37は、角換わりの後手番で対棒銀に自信が持てない人は必見!) 第3章は、「横歩取りの基本手筋」。15テーマ。 〔格言〕 「両取り逃げるべからず」/「玉の早逃げ 八手の得」/「馬は自陣に引け」 〔戦法〕 △4五角戦法/△2三歩型/△3三角戦法/相横歩取り/中原囲い/横歩取りヒネリ飛車/△3八歩-△3三角の奇襲 第4章は、「相掛かりの基本手筋」。10テーマ。 〔手筋〕 継ぎ歩/垂れ歩/ふんどしの桂/焦点の歩/桂頭単打の歩 〔格言〕 「桂馬の高飛び 歩の餌食」(本章では何度も出てくる)/「龍は敵陣に」/「桂は不成に好手あり」 〔戦法〕 二枚落ち三歩突っ切りでの棒銀/ネコ式タテ歩取り/角田流ヒネリ飛車 第5章は、「その他の相居飛車の基本手筋」。10テーマ。 〔手筋〕 連打の歩 〔格言〕 「5五の位は天王山」/「大駒は近づけて受けよ」/「角筋には玉を囲うな」 〔戦法〕 風車/雁木/菊水矢倉 第6章は、「実戦次の一手」。神崎の実戦から30題を次の一手形式で出題。 ヒントと状況説明が100〜120字程度で、三択の中で最善のものを答える。正解手でも必ずしも明快に良くなるとは限らず、難解な場合もあるが、他2つは疑問手か悪手なので、答えに困ることはない。プロの実戦なので簡単ではないが、これまでの章をしっかり読んできた人なら解けるはず。 30題の中には、『聖の青春』の映画化などで再注目されている故・村山聖九段と、神崎の実戦局面が多数登場する。村山と神崎は同日昇段(四段になった日が同じ)で、同じ関西所属ということもあって対局が割と多く、さらに村山は神崎をやや苦手としていたらしい。なお、神崎側の好手ばかりではなく、村山側の好手も何題か出題されている。 居飛車党で、初段前後〜二段くらいの方にはオススメの一冊だ。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p46 ×「大原映二七段」「大原先生」 ○「大島映二七段」「大島先生」 p95 ×「△4二同金や△同玉には…」 ○「△4二同金には…」 △同玉とは取れない。 p98 ×「一手持つ意味・価値…」 ○「一手の持つ意味・価値…」 p238 ×「板谷進先生がこ健在の…」 ○「板谷進先生がご健在の…」 |