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マイナビ将棋BOOKS 横歩取り最前線 いま、プロが注目する2つの手段 |
[総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 日浦市郎 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2016年10月 | ISBN:978-4-8399-6119-0 | |||
定価:1,663円 | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・基本図まで
・データで見る横歩取り |
【レビュー】 |
横歩取り△8四飛-△7二銀-△5二玉型について、プロ公式戦をベースに解説した本。 出版時の2016年10月現在、横歩取りでは△8四飛-△7二銀-△5二玉型が流行している。その理由の一つとしては、従来の△8五飛型や中原囲いでは成立しなかったような激しい変化が2つあり、その成否について注目されていることがあげられる。 |
激しい変化の一つは、「△2四飛ぶつけ」。主に第1章で扱っている。 〔右図〕の形から△2四飛と飛交換を挑む。△7二銀型のため、△8一桂にヒモが付いており、飛交換後に両取りがかかりにくい(△8四飛などが甘い)。これが従来になかった特徴で、△8五飛型ではそもそも〔右図〕ライクの形では飛をぶつけられないし、中原囲いでは桂が浮いているので飛交換はしづらい。 第1章では、△2四飛ぶつけの成否を16の実戦例(本文中に出てくるものを含めば26の実戦例)で検証していく。 なお、飛交換を先手が拒否するとどういう展開になるかは第1章のp104以降で、また右図以外の形(たとえば△2二銀型)で飛ぶつけを挑むとどうなるかは第2章冒頭の実戦例[18][19]で扱っている。どちらもプロの実戦例があるが、上手くいかないようだ。 |
もう一つの激しい変化は、「△8六歩の合わせ」。主に第2章で扱っている。 〔右図〕のように、後手は△1四歩〜△1五歩などで手待ちをし、▲3六歩を突かせてから、△8六歩と合わせていく。▲同歩△同飛となり、先手は7六歩を守るために▲3五歩。ここで△8八飛成!▲同銀△5五角打で、「1九香取り」と「△8八角成▲同金△同角成の二枚替え」の両狙いとなる。 △8六歩の合わせ自体は、△8五飛戦法の初期のころからある手だった。ただし、後手の陣形がかなり違うので、狙い筋も異なる。例えば、中原囲いでは上記の二枚替えの後に△8二飛などで馬桂両取りになるが、△7二銀型ならその筋は甘い。 第2章では、この「△8六歩〜△5五角打」を7手一組とし、その成否を12の実戦例(本文中に出てくるものを含めば16の実戦例)で検証する。 なお、▲3六歩を突かせるまでの待ち方は1筋の歩を突く以外にもあり、端歩の関係によって、同じ仕掛けでも微妙な違いが出てきて結論が変わることがある。また、先手の陣形は中住まい以外にもあるので、必ずしもこの戦型がマストというわけではない。 また、先手はこのような変化が嫌なら▲3六歩を突く以外の手もある。例えば▲7七角で、これなら△8六歩の合わせは無効で、飛の横利きを通したままで後手の超急戦を押さえることができる。これは第2章のp191以降で解説している。ただし、先手もいつかは右桂を活用する必要があり、その後の構想が大事になってくる。 第3章では、「その他の戦型」として、先手の陣形が少し違う場合の「△8六歩の合わせからの飛車切り超急戦」や、超急戦封じの▲3八銀型などを扱う。 |
本書の変化をチャート化してみた。チャート化することで、自分の探したい変化がどこに載っているかが少しは分かりやすくなったので、参考にしてください。 |
〔総評〕 質・量ともAなのに総合評価Bなのは、理由が2つある。 まず、全体的に「局面が探しにくい」というのが一つ目の理由。たとえば、各実戦例のタイトルは「35手目、▲8八飛成に△同金」という感じになっている。これは、将棋ソフトで棋譜並べをしている場合は、ひとつ前の棋譜から局面を戻りやすくなっているが、本書の戦型の場合、棋譜の符号が同じものが頻発するので、盤駒を使っている場合にはどの局面を表しているのかすぐには分からない。この辺りは、第4章の「次の一手」を潰して、代わりに分岐チャートを掲載しておけば解決できたと思われる。 もう一つの理由は、総譜が載っていないこと。実戦例によっては投了まで載っていることもあるが、大部分の将棋は最終盤は省略されている。我々アマにとっては、優勢な将棋でも最後に転倒することも多く、どのように収束したかは知りたいところだ。これも、第4章を(以下略) また、これは評価に影響していないが、本書はプロの最前線を実戦譜で解説しているので、賞味期限はあまり長くない。このレビューを書いている時点(出版から5か月後)でも、何らかの結論は出ているだろう。 ただし、結論が出たからといって、本書の内容が無駄になるわけではない。仮に「後手が無理筋」となったとしても、特にアマでは△4五角戦法のような奇襲的な位置付けで残り続けていくだろう。 逆に、「後手有望」で先手がこの形を避けるようになった時は、この戦型自体が消えるかもしれない。その時は「将棋戦法史としての一冊の資料」という位置付けになるだろう。 |