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研究で勝つ!相横歩取りのすべて | [総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A- 有段向き |
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【著 者】 飯島栄治 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売 | ||||
発行:2015年9月 | ISBN:978-4-8399-5725-4 | |||
定価:1,663円 | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)飯野先生の名局 (2)羽生の頭脳 (3)定番 (4)実戦心理 |
【レビュー】 |
相横歩取りの定跡書。「将棋世界」に2011年12月から連載された「今日から指せる!横歩取り裏定跡の研究」を加筆・修正・再構成したもの。前著『横歩取り超急戦のすべて』(2014.03)に収録されなかった相横歩取りオンリーでまとめている。 相横歩取りは、古くからある戦型である。すでの江戸時代には相横歩取りの研究本が出ており、現代のプロ組織になってからも、昭和40年代(約50年前)には指されている。詰みまで研究されることも多い激しい戦型ながら、進歩は意外とゆっくりであり、現在までほぼ途切れることなく指されている。 相横歩取りの専門書は、これまでに出版されているのは以下の2冊。 2011-02 乱戦!相横歩取り,北島忠雄,MYCOM 2002-09 横歩取り道場 第ニ巻 相横歩取り,所司和晴,MYCOM また、『羽生の頭脳 9 激戦!横歩取り』(羽生善治,日本将棋連盟,1994)にも結構な量(100p)が解説されている。 このうち、気になるのは、4年半前に出版された北島本との違いである。簡単にまとまると、以下のようになる。 ・相横歩取りの歴史や全体像が見えやすい。 ・飯野流△2七角の変化が詳しい。滝新手▲3六歩に対する「飯島研究」もある。 ・青野流▲4六角の直線定跡については、大きな違いはなさそう。 ・▲7七歩型の見直し可能性について詳しい。 このように、同じ戦型を扱っているので当然重なる部分も多い一方で、違っているところも結構ある。「北島本を覆している」というわけではなく、「少し別の角度から相横歩取りに迫っている」という感じだろうか。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、超急戦の入り口。前半(p12〜p21)は、江戸時代から現代までの歴史的な新手を紹介していく。相横歩取りの全体像が分かるので、必ず読んでおきたい。 第1章の後半(p22〜p77)では、前半で紹介した歴史的新手の現状を解説していく。特に「飯野健二の△2七角」については、過去の相横歩取り本と比較しても相当に詳しく書かれていると思う。 飯野流△2七角は、先手が大駒総交換後に▲8三飛と打ってこなければ実現せず、「青野流▲4六角が最有力」とされている現状ではなかなか実戦で現れない。ただし、他章で出てくる変化の中で似たような筋が出てくることが多く、また後手が一方的に攻める展開になりやすいので、ぜひとも一通り読んでおいてほしいところだ。 第2章は、青野流▲4六角からの直線定跡を解説。『羽生の頭脳 9 激戦!横歩取り』でこの定跡を暗記したオールドファンも多いだろう。さらに、出版後に現れた「北浜新手」で「羽生の頭脳定跡」の結論が覆されたため、薀蓄を垂れたことのある方もおられるかと思う(笑)。 この定跡はさらに検討が進み、「北浜新手」に進む▲6六玉ではなく、▲8五玉の逃げ方が最善とされている。結論的には『乱戦!相横歩取り』と同じで、「先手勝ち」なので「後手は(直線定跡にせずに)変化が必要」となるが、本書の方がさらに奥の方まで書かれている部分があるので、気になる人はチェックしておこう。 第3章は、青野流▲4六角に対して、直線定跡を避けた手の解説。具体的には、(1)真田流△2七角 (2)飯野流△7三角 (3)屋敷流△6四角 の3通り。 このうち、真田流△2七角は2007年の手で、「先手が最善を尽くせば何とか受け切れる」(p135)、飯野流△7三角は2000年の手で「後手が一気に価値を狙った手」(p148)だが、結論は「先手が余している」(p143)となり、どちらもプロ的には「先手良し」の結論となっている。 また、屋敷流△6四歩は1991年の手で、『羽生の頭脳 9 激戦!横歩取り』にも載っていたので、よく知られているかと思う。狙いは、角を引きつけて浮かせること。すでに登場から20年以上が経過しているが、一番長く生き残っている。他の変化が潰れていく中、屋敷流は後手の最後の砦であるが、結局のところ(『羽生の頭脳 9』にも載っていた)「▲2八飛で先手優勢」が有力視されており、結論として「相横歩取りは先手良し」となっている。 ただし、真田流△2七角と飯野流△7三角は、比較的新しい手であり、後手が強く攻める展開を望めるので、アマが一発勝負の奇襲用に使ったり、ネット将棋の得意戦法とするのであれば、このどちらかを選ぶのが良いと思う。 第4章は、▲7七銀型の激烈変化以外の戦型。 昭和中期に検証された▲7七歩型は、「激しい攻め合いになると(中略)、先手陣の7筋が壁になっているマイナスが響く」(p185)という考え方自体は変わらないが、近年のコンピュータの発達により研究が進み、持久戦策が見直されてきている。▲2三角!(p188)という奇手もあり、試してみると面白いかも。 ▲7七桂型も同じく昭和中期だが、最近になって渡辺明が連採したことで話題になった。「先手が望めば穏やかな将棋にすることができる」(p197)とのことで、知識勝負の激しい変化を避けたい人は先手番でオススメ。後手が▲7七銀型と同じような対応をすると簡単に先手が良くなりやすいのも見逃せない。 ▲7七銀型の大駒総交換回避は、持久戦で一局の将棋。プロ的には「気合負け」で好まれないかも。確かに消極的な感じは否めないので、どうせ持久戦を望むなら▲7七歩や▲7七桂の方が面白そうだ。 本書では、主要変化の充実はもちろんのこと、これまでの相横歩本ではサラッと済ませてあるような変化も詳しく書かれている(そして読み応えがある)ので、すごく「相横歩取りを指してみようか」という気持ちになった。 タイトルには「研究で勝つ!」とある。もちろん「知っていたほうが勝つ」という側面があり、この場合は後手が誘導することになるだろう。 しかし、どちらかといえば先手番で、「自分にとって望ましい変化はどれか?」ということを考えておいて、「相横歩になったらこうする」と決めておくのが面白いかと思う。そのために本書を活用してほしい。(2015Oct15) |