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マイナビ将棋BOOKS 四間飛車の逆襲 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
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【著 者】 石井健太郎 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2015年8月 | ISBN:978-4-8399-5685-1 | |||
定価:1,663円 | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)記録係 (2)将棋とサッカー (3)強くなる方法 (4)詰将棋創作の楽しみ |
【レビュー】 |
四間飛車vs居飛車穴熊の定跡書。 四間飛車はオールマイティな戦法であるが、最大の敵は居飛車穴熊である。1990年代に居飛穴が相当に勝ち、2000年代は藤井システムや鈴木システムが健闘したものの、松尾流穴熊の登場や、藤井システムを見せていても居飛穴に組めることが発見されると、プロ間では四間飛車は急速に衰退し、指す棋士が少なくなっていた。 棋書でいえば、以下の3冊でまとめることができる。 2005-06 四間飛車破り【居飛車穴熊編】,渡辺明,浅川書房 2010-05 中村亮介の本格四間飛車,中村亮介,MYCOM 2012-10 四間飛車激減の理由,阿部健治郎,マイナビ ところが、最近若手を中心に四間飛車が再興しつつある。その中の一人が石井四段。劇的な復活ブームにまでは至っていないが、新たな工夫により、「互角に戦える、経験値の差があれば主力としてやれる」という段階にまで来ている。 本書は、そういった新工夫を中心に、四間飛車vs居飛穴を解説した本である。 著者の石井は、ノーマル四間飛車で三段リーグを突破しており、「四間飛車の専門家」といえる。その石井流の戦い方では、居飛穴に対し、「銀冠で立体的に戦う」こと。矢倉も得意だという石井は、矢倉の「厚み」や「縦の攻め」の感覚を四間飛車戦に取り入れてきた。 銀冠に組んでのタテの戦い自体は昔からあるが、石井は香歩を入手することを早い段階で強く意識する。 また、少しでも有利な終盤戦を迎えるために、駒組みの段階で工夫を行う。 先手番では、藤井システムを見せて、居飛車の金を4三・3二に固定させてから、▲6六銀型を作る。 後手番では、△5四銀型か△3二銀型を採用し、ある程度守勢でカウンター狙いとする。なお、△4四銀型は後手の良さが出ないため、使わない。 では、実際にはどのような工夫が行われているのか。各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 序章は、四間飛車の基本として、上で述べたことの概要を解説。 第1章〜第3章は▲四間飛車、第4章・第5章は△四間飛車の解説となる。 第1章は、▲四間飛車に対する△8四角型。四間飛車対策としてポピュラーな作戦で、角の睨みを生かした攻撃性とともに、後手番らしい千日手狙いも可能になる。 先手は藤井システムを見せてから▲6六銀型を作り、▲2六歩と▲9六歩で形を崩さず待機する。ここで後手の作戦は4つに分かれる。 (1)△6二飛 (攻撃重視) (2)△4二銀 (守備的。松尾穴熊or銀冠穴熊を目指す。攻められたらカウンター、場合によっては千日手でもOK) (3)△4二金引 (一時的に玉が堅い。が、5三銀が浮きやすく、バランスが悪い。また△5三角と転換できない) (4)△3一金 (離れ駒をなくしつつ、△6二飛からの仕掛けと△4二金引からの持久戦を狙う。上部は薄くなる) 第2章は、▲四間飛車に対する△4二角型。居飛穴がこれ以上堅くなることはなく(松尾穴熊にできない)、仕掛けを狙っている。後手の仕掛け筋は、「△7三桂〜6筋歩交換〜△6二飛〜△6四歩」。 先手の作戦は以下の2つに分かれる。 (1)▲9六歩 (様子見) (2)▲5五歩 (5筋歩交換) 第3章は、▲四間飛車に対して、後手がすぐに松尾穴熊を目指す作戦。△4二銀〜△3一銀〜△4二角まで組まれると先手の作戦負けが確定する。後手の右桂が使いやすいのが、第1章(2)の△8四角型-△4二銀との大きな違いである。 先手は早めに動く必要があるので、▲3九玉型のままで動いていく。▲3九玉型は横から攻められる展開に弱いので、捌き方には注意が必要。また、受けに回るのも苦戦になりやすいので、攻めていく姿勢が大事だ。 第4章は、△四間飛車での△5四銀型。△9五歩型と△6四歩保留型に大きく分かれる。 (1)△9五歩型は、「端の位を取っている後手四間飛車は、銀冠に組めるかどうかが一つの勝負どころ」(p120)となる。 先手の定番・7筋歩交換には、歩を謝らずに、銀冠から△7四銀!が石井の新構想で、後手が指せるとの見解。 ▲4八角作戦は、松尾穴熊に組むための工夫。▲7八金〜▲5九角〜▲3八飛△4四角▲4八角〜▲6八銀〜▲2八飛〜▲5七角〜▲7九銀右という遠大な構想だ。これをどのように阻止するか?石井の回答は△1四歩。後の△1三角を用意ししている。 (2)△6四歩保留型は後手の工夫で、△6四歩とせずに△7四歩〜△7三桂とする。メリットは、▲6五歩開戦のときに当たりが弱いこととと、▲8六角からの一歩交換がないこと。デメリットは、9筋の位が取れるとは限らないことである。 第5章は、△3二銀型。先手の出方を見てから左銀を活用するという、駒組みの柔軟性が魅力である。△4一銀〜△5二銀でダイヤモンドみのに組むのもあるし、7筋歩交換に対して△4三銀型に構えれば、▲3五歩を受ける必要がない。 反面、とても複雑である。 本書の内容は、かなり細かいところも多く、プレイヤーの目が四間飛車から離れている現状ではなかなか本書と同一局面にはならないかもしれない。 しかし、長年四間飛車を指し続け、いつも課題局面で困っていた人にとっては、本書の工夫を試してみるのも良いだろう。 本書を機に、トップ棋士が四間飛車を採用するようになるといいなぁ。(2015Oct03) |