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久保流 最強先手振り飛車 | [総合評価] C 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 久保利明 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売 | ||||
発行:2014年7月 | ISBN:978-4-8399-5247-1 | |||
定価:1,717円 | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
・【巻末付録】中飛車完全チャート=6p |
【レビュー】 |
▲振飛車の解説書。『将棋世界』の連載講座「最強久保振り飛車
さばきのエッセンス」を加筆修正し、再構成したもの。 少し前まで、「現代振飛車党」といえば、先手では石田流、後手ではゴキゲン中飛車を指す人のことだった。しかし、後手番ではゴキ中が超速に苦戦し、角道オープン四間飛車などが台頭している。一方で先手番では、石田流は現在でも強力だが、バラエティ豊かな対抗策が出てきたため、非常にカオスな状況となっている。 そこで、先手番のもう一つの有力策である▲中飛車がクローズアップされてきた。かつては、▲中飛車はその攻撃力が魅力で、こだわりの使い手がいる一方、相振りに弱い(というか得をしていない)とされ、久保を含む多くの振飛車党から「初手▲5六歩or▲5八飛は指しにくい」と考えられていて、「▲7六歩に△3四歩なら▲7五歩で石田流、△8四歩なら▲5六歩で中飛車」という指し方が主流だった。しかし近年、左穴熊が開発されたため、相振りでも指しにくくならなくなり、▲中飛車を積極採用する棋士が増えている。 本書は、先手中飛車を中心に、久保が考える▲振飛車の戦略について解説した本である。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、▲振飛車の考え方。後手番と違って、千日手を打開する必要がある(とされる)ため、駒組みには苦心が必要となる。一方、後手番より1手早いため、より攻撃的になれる。本章では、先述の「▲7六歩に△3四歩なら▲7五歩で石田流、△8四歩なら▲5六歩で中飛車」との考え方が述べられているが、これは講座の年代がやや古いため。本書の後ろに行くに従い、「初手▲5六歩も十分ありうる」という考え方に変わっていく。 解説の内容は、石田流の現状がメイン。特に、4手目△8四歩〜△8五歩に対して現れた数々の新手のその後や、升田式石田流の現状を整理している。 第2章は、▲中飛車の入り口。というタイトルが付けられているが、実際には序盤の雑多な内容を扱う。テーマは大きく分けて次の2つ。 ・2手目△8四歩でも▲石田流はできるか? → 久保も試していたことがあり、全くの無筋ではないが、△居飛穴に苦労したり、▲7五歩が伸び過ぎになる展開も多い。 ・▲中飛車に対して△超速はあるのか? →1手の違いが大差で成立しない。 第3章は、▲中飛車vs△5四歩型。後手が、5筋の位を取られたくない場合はこの指し方になる。なお、この順は▲石田流を避けることもできるが、代わりに▲升田流向飛車(第6章)の可能性が出てくる。 第1節は、久保流。対△5四歩型でオーソドックスに駒組みを進めたとき、美濃の▲3八銀を締まる前に▲1六歩と端を打診する。このタイミングでは後手は突き返しにくく、先手は端歩位取り穴熊の余地を残すことができる。なお、突き返してくれば美濃囲いで十分対抗可能。 第2節は、後手からの角交換後に△6四銀と上がり、5筋の歩交換を拒否する作戦。プロの実戦例も多く、第8章の参考棋譜の多くがこの作戦に対応している。本文ではさらっと書かれているだけだが、先手から▲6六歩と角道を止めて角交換を拒否する作戦もある。 第3節は、前田流。自然な▲6八銀ではなく、先手から角交換して▲8八銀と上がる。先に▲7七角と上がっているので手損なのだが、5筋の歩交換を確保できるのが第2節との大きな違い。後手は堅く組みにくくなる。 第4章は、▲中飛車の5筋位取り型。かつては「5筋の位を取らせては後手が指しにくい」ということで、第3章の位取り拒否作戦が主流だったが、現代ではあえて5筋の位を取らせる考え方がある。後手の狙いは一直線穴熊。 第5章は、相振飛車。メインは△三間vs▲向飛車。先手は安易に矢倉を目指すのは危険になったので、他の囲い方を模索することになる。また、初手▲5六歩からの中飛車は相振りにされるのがイヤ…という話になっているが、この内容が書かれた後に左穴熊が登場してきたため、第6章の話とはややズレがある。 第6章は、初手▲5六歩の検証。これまでは、「初手▲5六歩はあまり良くない」というスタンスで書かれてきたが、左穴熊の登場により、「初手▲5六歩は有力」に考えが変わってきたとのこと。そこで、改めて初手▲5六歩から始まる変化を検証している。 第1節は、升田流向飛車。後手が8筋を突き越してきたときの変化で、初手▲7六歩でも生じる。 第2節は、5筋位取りにできた場合に、7筋の位も取ってしまう「ダブル位取り」。7筋or8筋のいずれかで歩を持てるのが魅力。 第3節は、後手が角道を維持してきた場合のダブル位取り。 第4節は、中飛車左穴熊の紹介。 第7章は、次の一手問題。ほぼ本編の復習で、新要素や補完解説はない。 第8章は、参考棋譜19局。「自戦解説」というタイトルになっているが、解説はごくわずかしかない。ただし、本編のチャートに載らないような変わった展開もあるので、一度は並べてみてほしい。 本書は講座をまとめたものであるが、あまり内容に目新しさや深さを感じられなかった。第3章までは、他書を補完するような部分もあるが、4章以降は2〜3年遅れている感じがした。特に、中飛車左穴熊については、初手▲5六歩の考え方を変えた戦法であるにもかかわらず、ほとんど紹介のみにとどまり、今泉本(2014.04)や杉本本(2014.06)よりも後発(2014.07)なのに見るべきところはなかった。その影響で、一貫性が欠けている点も厳しい。 また、第7章の次の一手や巻末チャートは完全にページ埋めでしかないので、不要。チャートは章ごとに分けてしまっているので、自分の知りたい変化がどこにあるかを探すのも面倒。 棋譜19局はなかなか並べ甲斐があったので、BとCの間で相当に迷ったのだが、やはり本編の内容の薄さがつらい。見るべき点はあるので、一読はしていただきたいが、▲振飛車のオススメ本を訊かれたときに本書を候補に挙げることはなさそうだ。(2015Feb20) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p204右上 ×「先手中飛車VS△5四歩型」 ○「先手中飛車▲5五歩型」 |