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マイナビ将棋BOOKS 対振り革命 中飛車左穴熊 |
[総合評価] S 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 杉本昌隆 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2014年6月 | ISBN:978-4-8399-5193-1 | |||
定価:1,987円(8%税込) | 288ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)有利・優勢・勝勢 (2)七段免状 (3)コンピュータの▲3八銀 |
【レビュー】 |
中飛車左穴熊の戦術書。 中飛車左穴熊は、『相振りレボリューション』(2010)で杉本が「東大流左穴熊」として簡単に紹介したあと、『最強アマ直伝!勝てる将棋、勝てる戦法』(今泉健司,2014.04)で章1つが割かれたが、ほぼ一冊丸ごとで解説されるのは本書が初めて。 もともと、▲中飛車が非常に有力な戦法でありながら、相振飛車にされると結局他の筋に振り直すことになるので、特に振飛車党が相手のときは少し損と言われていた。それが、この中飛車左穴熊によって、相振飛車対策ができたことから、▲中飛車は「全方向に対応した戦法」に昇華したのである。 また、中飛車左穴熊は「「勝ちにこだわる(勝ちやすい)戦法」でありながら、同時に「勝ち負けを度外視して面白い戦法」」(p286、あとがき)である。確かに、わたしも将棋部のM君を相手に「対中飛車左穴熊」側を持って何度も戦ってみたが、わたしの方が格上でありながら何度も苦杯を舐めることになった。従来にない感覚の陣形に、急所が絞り込めず、攻めようとするとバッサーと捌かれるのである。 そこで、本書を読むことで、どちら側を持つにしても、中飛車左穴熊の考え方が分かるようになるだろう。 各章の内容を、チャートを添えながら、エッセンス(というかメモ)を紹介していこう。 |
第1章 「左穴熊の基本と考え方」 〔抜粋〕 ・中飛車で相振りにされたときに、玉を居飛穴に囲う。 ・▲6六銀型穴熊に組める。 ・▲2六飛△2四歩と2筋を突かせる。手損でもOK。 →ただし、(第2章で解説されるように)△2四歩と突きたくないので、早めに△1四歩-△1三角を作る作戦がある。この場合、▲2六飛には△2四角と受ける。 ・右の金銀の一方を動かさず、▲3八銀or金を残しておいて、2筋・3筋をケアする。 ・5五歩は囲いが完成するまで触らない。 ・(強敵の)△4四銀型には、浮き飛車保留としたい。(浮き飛車にするなら△4四歩を見てから) →菅井流の「浮き飛車保留+右銀保留(▲3八銀を用意)」もある。 ・▲石田流対策にも使える。 |
第2章 ▲左穴熊vs△三間 第2章第1節 △ノーマル型 ・△4四歩型(△4四銀がない)には浮き飛車に構える。左穴熊の基本形。 ・穴熊を完成させたら、大駒総交換を狙う。 ・p44〜 [左穴熊ワンポイント集] ・角交換を迫る ・右銀で7五の歩を交換する ・△6八角成には何で取るか?利点と欠点を理解する。 ・早い△4六歩にはどうするか?→右辺は受け流す感覚で。 ・△7九角成には注意。金を剥がされる。 第2章第2節 △4四銀型 左穴熊に対して、かなり強敵とされる形。本節では、▲4七銀型で対抗できそう。 第2章第3節 相穴熊型 ・p84 [単騎の桂跳ねについて] 第2章第4節 後手特殊型(山ア流) ・三間飛車側が玉を囲わずに、右銀をすばやく繰り出して押さえ込もうとする。「対ゴキゲン中飛車の超速」に似たイメージ。 ・左穴熊も、居飛穴の歴史と同様に、堅い▲6六銀型から安定感の▲4七銀型に移行していくと、杉本は予想している。 |
第3章 ▲左穴熊vs△向飛車 第3章第1節 △ノーマル型 ・左穴熊と相振りの両方を見ながら駒組みする。 ・[菅井流2手損作戦] あえて△2五歩型にさせることで、多方面の揺さぶりから2筋逆襲を狙える。 第3章第2節 △高美濃型 ・第1節の▲7五銀を警戒して、△6四歩・△7四歩を早く突いてくる。 第3章第3節 相穴熊型 ・△2四角-△3三桂型を作らせない。 第3章第4節 △居飛車型 ・先手の左穴熊に対し、後手が右側に飛を戻して、玉頭を直接狙ってくる作戦。藤井システムやスーパー四間飛車に近い発想。 |
第4章 ▲三間飛車vs△左穴熊 第4章第1節 3手目▲7五歩vs左穴熊 ・4手目△5四歩で牽制すると、▲6六歩と角道を止めることになる。 →▲三間飛車の方が後手番よりも1手早いが、▲6六歩を指すので、有力な▲6六銀型には組めない。 →早めの△5四飛が可能になる。 →∴むしろ逆に、左穴熊は後手番の方が気楽に指しやすい。 第4章第2節 ▲8六角型 ・第2章で強敵だった形。 ・△8四飛として▲8六角にさせるのは、損か得か? 第4章第3節 相穴熊型 ・早い▲6六歩がどう影響してくるか? 第4章第4節 先手居飛車型 ・第3章第4節と同様、右銀を▲4六銀として押さえ込みにかかる。 →後手番と違い、3手目▲7五歩がやや負担になるので、持久戦傾向に。 |
第5章 その他の戦型 本章は、主に『杉本流相振りのセンス』(2013.11)の補足。(第4節以外は)左穴熊と関係なし。 第5章第1節 先手三間飛車対策 4手目△1四歩 ・角交換して左美濃が有力。 第5章第2節 先手角道オープン四間飛車対策 4手目△1四歩 ・△1五歩と位を取れた場合、先手は位の圧を避けるため、穴熊にする。 第5章第3節 △4三銀型対策の先手中飛車 ・後手がすぐに向飛車にしないケース。左銀を上がって対策するので、左穴熊にはならない。 第5章第4節 徹底研究・5筋の攻防 ・Q&A形式で、左穴熊の5筋の攻めや受けを検討。 ・8四飛の使い方 ・△5四飛と戻るタイミング ・その他の急所 |
【総評】 中飛車左穴熊の基本からよくある展開まで、ほぼ全てを網羅した一冊。至る所に左穴熊のエッセンスが紹介されているので、自分の指さない形でも隅々まで目を通しておきたい。 ▲中飛車党にはマストアイテムであり、中飛車には相振飛車で対抗してきた人も避けることはできない。また、振飛車党にも必須。「中飛車には必ず居飛車で対抗する」という人だけは、興味があれば読めばよい。 今後も中飛車左穴熊を扱う本は出版されるだろうが、本書がベースになることは間違いないので、必ず読んでおくべきだろう。(2019Mar03) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p10下段 ×「利点の一つは。」 ○「利点の一つは、」 p63 ×「第2図以下の指し手A」 ○「第1図以下の指し手A」 p63 ×「再掲第2図…」 ○「再掲第1図…」 p131下段 ×「…に2四角は…」 ○「…に△2四角は…」 p194下段 ×「△5六飛のところで」 ○「△5六歩のところで」 p206下段 「持久戦なら…」の「持」だけ太ゴシックになっていない p210下段 ×「急戦から遠さがる…」 ○「急戦から遠ざかる…」 p265 ×「ここは自身が…」 ○「ここは自信が…」 |