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マイナビ将棋BOOKS 藤森式 青野流 絶対退かない横歩取り |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 藤森哲也 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年2月 | ISBN:978-4-8399-6873-1 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)ふじもり将棋教室 (2)海老澤さんへ |
【レビュー】 |
横歩取り▲青野流の戦術書。 青野流は、横歩取りで▲3四飛に△3三角と上がった時、▲5八玉〜▲3六歩と、飛を引かずに右桂の活用を目指す戦法。2002年に青野照市九段が初めて指したが、当時は△8五飛戦法全盛期で、あまり注目はされなかった。2012年頃から再注目され始め、2018年の升田幸三賞を受賞。そして2018年には、プロの横歩取りといえば青野流というくらいまで流行している。あまりにも先手の勝率が良いため、横歩取り自体が減少気味で、プロの相居飛車の主流は角換わりに移行している。 横歩取りは、一般的に先手の歩得の代償に後手が先攻することが多いが、青野流は先手が先攻しやすい。 ・「相手(後手)が形を決める前に発動できる」(まえがきより) ・「自分(先手)の好きなタイミングで攻めていける」(〃) ・「攻め筋はわかりやすく、勝つときは攻め放題で相手がサンドバック」(〃) ところで、青野流はこれまでいくつかの本で断片的に解説されてきたものの、一冊丸ごと青野流という本はなかった。 本書は、青野流の基本から、さらに攻撃に特化した「藤森式」の青野流まで、青野流のうち先手が攻める変化を中心に解説した本である。「藤森式」は、基本的に攻め重視で、引く手はなし。行ける時は行くスタンスである。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「青野流の基本的な狙い」。 ・横歩取りで△3三角としたとき、通常は▲3六飛から飛の形を整えるところで、▲3四飛型のまま▲5八玉と上がる。 ⇒居玉を避け、角の王手がかかりにくくしている。 ・▲3六歩〜▲3七桂で右桂を活用する。 ⇒後手が漫然と組めば、すぐ▲4五桂で角が動けず(▲3四飛で△3二金が抜かれる)、先手必勝になる。後手が青野流のことをあまり知らなければ、案外このパターンになるかも。 |
第1章は、「すぐに△7六飛」。 先手が▲3六飛と引かない(▲7六歩を守らない)ので、後手が「取れるなら取る」とすぐに横歩を取ってきた場合。これは角交換から先手良し。 〔青野流のコツをメモ〕 ・青野流では▲3八銀で自陣が引き締まることが多い。 ・チャンスがあれば常に桂を中央へジャンプする。 ・攻めor受けで迷ったら、敵玉めがけてもっとも厳しそうな攻めを繰り出そう。 ・左桂の活用も常に意識する。両桂が跳ねられたらまず成功。 |
第2章は、「△2二銀・8二飛型」。 後手がじっくり指そうとする。△8二飛は、△3二金にヒモを付ける意味。それでも、1手かけて飛を引いても▲8三歩のタタキが入るので、先手は手を作れる。(ただし、p46結果6図で後手持ちだと思うなら、後手番を持ってこの変化を選んでみるのもアリ) 〔青野流のコツをメモ〕 ・▲8七歩は基本的に打たない。 ・金銀を盛り上げる展開にはなりにくい。 ・先手の攻め駒は、飛角桂桂歩。 |
第3章は、「△4二玉、△4一玉型」。2節に分かれる。 △4二玉は、△3二金にヒモを付けつつ、5三のカバーする手。半面当たりが強く、二枚桂で5三の地点を狙うと王手になるのがデメリット。 △4一玉は、△3二金にヒモを付けて、中原囲いへの発展を狙う。上部の攻めから遠いのはメリットで、△4二銀型中原囲いになれば急戦はないので、後手番で青野流の急戦が苦手な人はこれを選ぶべきだろう。 〔青野流のコツをメモ〕 ・持久戦なら▲8七歩は打つ。 ・▲1一角成が実現するならほぼ成功。 |
第4章は、「△5二玉▲7七角型」。 後手は△3二金にヒモを付ける△4二玉型や△4一玉型ではなかなか大変なので、△5二玉型の中住まいで囲いを簡略化して、バランス重視で攻め合いを目指すのが主流になってきた。激しく乱戦になりやすい。 △5二玉▲3六歩に△7六飛と横歩を取ってくる。次の△8八角成を受けて、先手は▲7七角(本章)か▲7七桂(第5章)か。 本章の▲7七角は難しい変化が多く、手将棋模様の中盤に戻ることもある。ややプロ好みで、アマには不向きかもしれない。 〔青野流のコツをメモ〕 ・△5五角に▲2二歩の手筋は要マスター。 ・▲2三歩の垂れ歩で金を斜めに誘え。(変化によってはやらない方が得なことも分かってきた) |
第5章は、「△5二玉▲7七桂型」。 △5二玉型で後手が横歩を取ってきたとき、▲7七桂が「藤森式青野流」。一時的に角道が止まるが、すぐに左桂の活用が見込める。両桂の跳ね出しが先手の理想。 〔青野流のコツをメモ〕 ・5筋の歩を切って(▲5三桂成など)手番を後手に渡すと、△5六歩の反撃が速い。 ・後手の角をずらせば▲6五桂が実現する。 |
第6章は、「その他の対策」。△8五飛と△6二玉の2つを解説する。 △8五飛は、後手が横歩を取らず、あえて▲7七桂と跳ねさせる作戦。△8二飛と引くなら乱戦は難しく、先手はヒネリ飛車を目指す。△2五飛なら▲2八歩と受ける。▲7七桂とせずに、▲3六歩と突っ張るのもある。 △6二玉〜△8二歩はソフト調。低く謝ってキズを消している。ただし、それでも先手が仕掛けることはできる。 |
【寸評】 ・各ページのサブタイトルで、ときどき「がんがんいこうぜ」「あばれるくん」「右ひじ左ひじ」「月にかわっておしおき」など、ゲーム・お笑い・アニメなどが元ネタのワードが出てくる。棋士もわたしたちと同じような生活をしてるんだなぁ、と少しうれしく思います。(分からない人にはチンプンカンプンでしょうけど……) ・第3章〜第5章では、章末に参考棋譜がショートコメント付きで計10局(各1ページ)掲載されている。戦術書での参考棋譜の掲載形式としては◎。(個人的には、本文の内容を補完する棋譜はたくさん欲しいですが、自戦記はそんなに欲しくはないのです) 【総評】 これまで体系的に学ぶことが難しかった(「将棋世界」の特集講座などもあったが)青野流を一冊にまとめているのは◎。本書のテーマである「先手の攻め」は全体的に貫かれているし、それ以外の展開についても触れられているので、青野流独特に指し回しを身に付けることができるだろう。 青野流はまだまだ流行が収まる気配はないし、先手番なら後手が超急戦策を採らない限りはほぼ誘導できるので、研究も生きやすい戦型。本書で勉強して星を稼ごう。また、後手を持ちたい人にももちろんオススメで、本書を読んで、どの形なら自分の持ち味が出せるかを考えておこう。(2019Feb26) |