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マイナビ将棋BOOKS 全戦型対応 穴熊の戦い方 |
[総合評価] A 難易度:★★★ 〜★★★★ 図面:見開き4〜6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A (テーマ図に網掛け、各図面下にショートコメント) 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
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【著 者】 佐藤和俊 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2014年2月 | ISBN:978-4-8399-5016-3 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)私と穴熊@
奨励会 (2)私と穴熊A 棋士になってから (3)私と穴熊B
穴熊に散る (4)趣味について |
【レビュー】 |
穴熊戦に特化した戦術書。 かつて(約50年前〜約30年前)、穴熊は単なる囲いではなく、「穴熊戦法」といわれていた。これは、穴熊の特性を生かして戦うため、他の囲い(美濃囲いなど)とは似て非なる変化になるからである。 いつしか穴熊は、振り穴から居飛車穴熊へ、そして現在では「隙あらば穴熊」の名のもと、他の囲いからの組み替えも多く、全戦型に影響を及ぼしている。そのため、「穴熊戦法」という呼称は消滅した一方で、ほとんどの戦型においていつも穴熊を意識する必要があり、「穴熊は嫌いだから指さない」などとは言っていられない状況である。 これまで、「穴熊戦法」の本は何冊も出版されてきた。また、「相穴熊」に特化した本もあるし(『とっておきの相穴熊』(広瀬章人,遠藤正樹,MYCOM,2007)など)、「穴熊囲いの崩し方」や「Zを生かした攻め」などを解説した本もある。しかし、「穴熊の戦い方」自体を解説した本は少なかった。『秘伝 穴熊王』(美馬和夫,週刊将棋編,MYCOM,1995)くらいだろうか。この本も、基本的には対抗形に限定されている。 本書は、相居飛車戦を含む全戦型での穴熊での戦い方を、考え方をメインに解説した本である。 各章で学べる考え方を箇条書きにしてみた。なお、どの章においても「Zを生かした強攻」は必修課題である。 ◆第1章 振り飛車穴熊 振飛車穴熊は、穴熊戦の中では比較的安全に組める。ただし旧来の「四角穴熊」では作戦負け濃厚なので、どこかで駒組みに工夫が必要だ。その一つが広瀬流。また、相穴熊になる確率が高い。 ・経験値、感性がものをいう ・囲うだけではなく、急戦では相手の攻めに対応し、持久戦では争点を作っておく ・左銀の使い方が重要 ・序盤は居飛車の引き角に注意し、一手前に備えておく ・ときには穴熊側の桂を跳ねる手も考慮しておく ・Z(絶対詰まない形)のときは厳しく攻める ・相手の穴熊は王手のかかる形にする ○最新四間飛車穴熊の事情 ・△5四銀と先に指して、美濃囲いの含みを残す ・現在の駒組みの考え方 ・プロ最前線の工夫 ・今後の展望(著者の見解) ◆第2章 居飛車穴熊編 振飛車側から動く手が多く存在するため、細心の注意が必要。また、細い攻めをつなぐテクニックも必要だ。ただし、組めてしまえば心強い。現在の対抗形は、居飛車穴熊が中心にあるといっても過言ではない。 ・序盤は手の優先順位に注意する ・藤井システム、浮き飛車への対策 ・相手の手を見ながら慎重に指す ・振飛車が居飛穴を警戒した駒組みのときは妥協も必要だが、隙があれば居飛穴に組み替える ・振飛車が無理攻めしてきたら、恐れずに自然に対応する ・穴熊ならではの攻め方 −高美濃or銀冠の桂頭攻め −飛角歩だけで手を作る ・玉を引きずり出されないようにする ・大駒を切って相手の金を剥がす ・Zの作り方 (※本書の最重要項目の一つ。意外と他書では学べない) −惜しまず受ける −攻め方の持ち駒からナナメ駒をなくす −飛金Z −犠打で小駒を遠ざける −馬に頼る −千日手模様 ・相穴熊では大駒よりも金駒の価値が高い ◆特別講座 相穴熊、終盤の入り口の考え方 ※この特別講座より前の、第2章Op151から相穴熊の話は始まっているので、要チェック。 ・歩を突き捨てて先にと金を作る (桂香を拾うよりも優先度は高い) ・早めに相手玉が見えるようにする ・角をセットして切れるようにする ・相手のと金は簡単に造らせない ・玉頭攻めの発想も持っておく ◆第3章 相振り飛車編 相振飛車での穴熊は、多くの本で攻め潰されているが、当然有力な囲いである。ただし、対抗形に比べると「組んだ時には相手の攻撃準備完了」になっていることも多く、最初から狙っていくのはややリスキーだ。 ・相振りの囲いの比較 −穴熊、矢倉、美濃、金無双 ※一覧表あり ・端攻めには弱い ・穴熊に組みにくい形がある ← 必見! ・穴熊vs金無双のときの工夫 ・穴熊vs美濃 ・相振りの相穴熊 ・相振りで「穴熊の暴力」 ・相振りでも「隙あらば穴熊」 ◆第4章 相居飛車編 穴熊の「王手がかからない強み」は相居飛車戦にも波及。矢倉穴熊に組み替えての強攻は、矢倉定跡の一部にもなっている。近年は、角換わりでも穴熊への組み替えが頻繁に見られるようになった。かつては角の打ち込みが多くなるので組み替えにくいと見られていたのだが、時代は変わっていく。 ・矢倉穴熊は堅さより遠さ ・穴熊にしてはいけない形がある ← 必見! −相手の攻めの形ができているとき ・矢倉での穴熊 ・角換わりでの穴熊 ・居飛車でも「隙あらば穴熊」 どちらかの囲いが穴熊のときは、戦いの考え方自体が変化するということが、本書を読めばマスターできるだろう。考え方が分かった上で棋譜並べや鑑賞を行えば、これまでは分からなかった感覚もどんどん吸収していけるはず。穴熊嫌いな人も、相手の気持ちが分かっていれば、戦い方の参考になる。 また、本書ではレイアウトと構成の工夫がある。 ほとんどの図面には短いコメントが添えられており、これが本文の補足になっている。また、テーマ図は盤面に網掛けが施されているので、テーマ図であることがひと目で分かるし、戻って見直す時も図面を見つけやすい。 さらに、ほとんどのテーマタイトルには、[序盤]/[中盤]/[終盤]の区別と、[級位者]/[初段]/[三段]という対象棋力が添えられているので、自分のニーズに合うところだけを選別して読むことも可能だ。 これらの工夫によって、幅広いジャンルの局面と対象棋力を上手く一冊に収めることに成功している。例えばあなたが級位者であれば、[級位者]のところはじっくり読んで、[初段]のところはがんばって読んで、[三段]のところは棋力が上がってから読むために取っておく、といった使い方ができる。 どんな戦型でも穴熊の可能性がある現代将棋。本書は、有段者ならば必ず一度は読んでおくべき一冊である。(2014Jun05) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p18 ×「穴熊指すうえでは」 ○「穴熊を指すうえでは」 p148テーマタイトル ×「級位者・終盤」 ○「終盤・級位者」 ※他のテーマタイトルはすべて「序盤or中盤or終盤・[棋力]」の順になっている。 p221参考4図コメント ×「△8七銀が厳しい▲4六銀も…」 ○「△8七銀が厳しい。▲4六銀も…」 p231上段 ×「G図で▲6八金打…」 ○「参考2図で▲6八金打…」 |