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マイナビ将棋BOOKS これからの角換わり腰掛け銀 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 有段向き |
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【著 者】 吉田正和 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2014年1月 | ISBN:978-4-8399-5015-6 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 240ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)一手損角換わりの現在・前編 (2)一手損角換わりの現在・後編 (3)奨励会のころ (4)フリークラスのころ、そして現在 |
【レビュー】 |
角換わり腰掛け銀の定跡書。 居飛車党にとって、角換わりはチャンスを迎えている戦型である。ここ20年くらい、角換わり腰掛け銀はプロの居飛車党同士の主要戦型の一つとして指されてきたものの、「研究によって勝負が決まる」とか、「先手が攻めてばかりで後手の楽しみがない」という受け止め方をされてきたと思う。それゆえアマでは人気がなく、人気がないので関連書籍が少ない…という、悪いスパイラルに陥っていた。 それが、2009年に「富岡流」が指され、同型腰掛け銀に「先手有利」の結論が出た。これで角換わり腰掛け銀は指されなくなる…と思いきや、実はそこから先に大海原が広がっていたのである。 本書は、「角換わりの仕掛けと最新形の駆け引きを、なるべく丁寧に解説したもの」(まえがき)である。 後手は同型腰掛け銀を避けるため、いろいろな工夫をするようになった。後手から先攻する、桂頭の傷を作らない、飛のコビンを空けない、穴熊に潜る、先手に理想形で仕掛けさせないために金や飛の位置を調整する……など。従来は消極的と思われていた形にも、積極的な意味が見い出されており、「工夫のし甲斐のある戦型」に生まれ変わったのである。 本書は、“角換わりの魅力”を伝えるべく、富岡流以降のさまざまな工夫を非常に詳しく解説している。内容が高度なので、どうしても符号が多くなってしまっているが、各節の冒頭には考え方がしっかり描かれているし、本ページのチャートも参考にしてほしい。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。なお、チャートはものすごく長くなっているので、覚悟してほしい(笑)。 |
序章〜第1章は、同型腰掛け銀の現状について。 まず、「富岡流」(2009)で先手有利の結論が出た。本書では比較的サラッと書かれているので、詳しい検討内容を知りたい場合は、『ライバルに勝つ最新定跡』(村山慈明,2010.09)第7章や『豊島将之の定跡研究』(豊島将之,2011.11)第5章を参照してほしい。 次に、同型腰掛け銀での先手の仕掛けに素直に応じない「渡辺新手△8一飛」(2010)が指された。▲7四歩と桂頭を叩かれたとき、次の▲7三歩成が飛に当たらないのが主張だが、▲深浦△郷田戦(2012)で決着がつき、これで同型の息の根が止まった。 最後に、第2回電王戦でツツカナとの間に愛が芽生えた(?)船江が指した「ツツカナ新手」(2013)。同型になる直前に△6五歩と突っかける。従来は、そのまま△7五歩から後手が無理気味の先攻を仕掛けるものだったが、ツツカナ新手は△6五歩▲同歩△3三銀と先手の仕掛けを待つ形に戻すのである。△6五歩と工作したことで、△7三桂の捌きがついていることが主張だ。富岡流を回避できる可能性があったが、吉田の見解ではこれも咎められるとのこと。 ただし、渡辺新手やツツカナ新手のような工夫の余地がまだ残っているのであれば、同型の復活も可能性ゼロではないようだ。 |
第2章は、△7四歩型。後手の右桂は跳ねない。桂頭の弱点がないので、第1章のような「42173」の攻め方はできない。 第1節の後手が△6六飛を取らせる形はタイトル戦などでも流行したが、2012年10月の▲丸山△渡辺(竜王戦1)が決定打となり、現在は急速に指されなくなった。 第2節以降は、先手が仕掛けの形を探るため、後手は仕掛けさせないため、複雑な手待ち合戦が始まる。まるで、ボクサーがパンチを出さずに、肩の動きや視線などで盛んにフェイントをかけているような状況だ。このあたりは、『長岡研究ノート 相居飛車編』(長岡裕也,2013.10)第6章第2節を先に読んでおくと理解しやすい。 |
第3章は、△7三歩型。△7四歩は右桂を捌くために必要な手だが、飛のコビンが空く。飛車のコビンを狙われることを防いでいるのが△7三歩型の直接の意味である。 また、先手の態度を見てから△7四歩型や△6五歩型にする含みがあるというのが間接的なメリット。従来は消極的な作戦と思われていたが、「玉を固める」や「二手損作戦」など新工夫が出ている。 |
第4章は、△6五歩型。▲4八飛からの仕掛けを封じている半面、△6五桂の仕掛けがないので、先手は▲6八金右から穴熊に固めやすい。ただし、△6四角〜△7四歩〜△7三桂まで完成すれば良形で、反撃力が強く、先手から仕掛けにくい。よって、この3手が指されるまでに先手がどう動くか。互いの理想形をつぶすために、巧妙なパス合戦が行われやすい戦型である。 |
第5章は、後手から▲3七桂の桂頭を攻める形。「先手から仕掛けられる前に攻撃陣を壊滅できれば、自陣が安全になり、かつ入玉も狙うことができる」のが基本思想。 後手がこの攻めを使えるのは対▲4八飛型限定ではあるが、それ以外はいろいろな形で使えるので、後手番を持って狙う価値がある。居飛車党で角換わりの後手番に自信が持てない人は、この形を鍛えておくとよいだろう。 |
第6章は、△4二飛作戦。後手が右金を一段金のまま駒組みを進め、△4二飛と回って「飛で4筋を支えて▲4五歩の仕掛けを牽制し、△6五歩から先行する」(p212)のが狙い。「角換わりは好きだけど先手から攻められるのは嫌だ」という人で、第5章のように自玉頭を攻めるのも嫌な人には有力。 |
第7章は、奇襲作戦。 第1節は、「桂と飛車だけで軽く突破する狙い」(p224)。先手が▲3八銀型で待機し、後手が同調せずに先に△5四銀と腰掛けたときに成立する。かなり局面が限定されているので、「こういうのもある」と覚えておくくらいだろう。防ぎ方も書かれている。 第2節は、いきなり▲4五銀とぶつける形。『阿久津主税の中盤感覚をみがこう』(阿久津主税,NHK出版,2010)で紹介された「アッくんスペシャル」のことである。「▲4五銀速攻」とあるが、実際は角銀を手持ちにして攻撃力をアップさせ、駒組み勝ちを狙うという、準急戦に近いもの。先手だけ一段金であれば、打ち込まれる隙がないのが主張だ。これも防ぎ方が書かれているが、初見では難しいし、防がれても通常型に戻るだけなので、先手番ではいつも狙ってみるのも面白い。 本書は、長〜〜いチャートからも分かる通り、読みこなすのはとても大変。東大将棋ブックスと同様に、辞書的に使うのがよいだろう。棋譜並べや鑑賞時に角換わり腰掛け銀が出てきたら、本ページのチャートを参考にして、該当箇所を探してみてほしい。観戦ガイドとして大いに役立つことだろう。 これまで角換わり腰掛け銀に拒否反応を示してきた方も、詳しい思想が分かってくれば、その奥深い魅力に魅入られるかもしれない。(2014Apr23) ※誤字・誤植等(第1版第1刷で確認): p176 ×「第19図以下の指し手@」 Aは見当たらない。 p184 ×「棋士なる自信が…」 ○「棋士になる自信が…」 p194 ×「△8三飛にも…」 ○「A△8三飛にも…」 ※2014May04追記: 著者による修正・補完等(名無しさん情報thx!) |