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NHK将棋シリーズ 藤井猛の攻めの基本戦略 |
[総合評価] A 難易度:★☆ 〜★★☆ 図面:見開き6〜8枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:B 初心〜初級向き |
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【著 者】 藤井猛 | ||||
【出版社】 NHK出版 | ||||
発行:2014年1月 | ISBN:978-4-14-016220-0 | |||
定価:1,260円(5%税込) | 208ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
・【攻めのワンポイントレッスンn】「一間竜」で強くなる/「数の攻め」と「打ち込み」/と金を最大限に生かそう |
【レビュー】 |
攻めの考え方を初心者向けに解説した本。2012年7月〜9月に放送された『NHK将棋フォーカス』の「藤井猛の“初出し”攻め方フォーラム」を加筆・再構成して単行本化したもの。 初めて将棋を指す場合、駒の動き方と基本ルールを覚えたら実戦を指すわけだが、方針もなくただ何となく駒を動かしていることがよくある。特に「攻める」という概念が分からず、将棋を指す楽しさを感じられないままに、将棋から離れていく人は結構多い。 一方、攻めること自体は知っていても、急所やバランスが分からず、過剰なまでに攻め駒を一点集中させている人も見かける。これは、本などで学ばずに、縁台将棋のみで将棋を覚えた人に多い傾向だ。いわゆる「筋の悪い」指し方で、何らかの形で正しい指し方を学ばなければ、それ以上の上達はおぼつかない。 ところで、巷にはルールから教える「入門書」は溢れているが、「攻めの正しい考え方を初心者向けに指南する」という本は非常に少ない。棋書ミシュランでいえば、「難易度2前後の攻めの本」というのがほとんどなかったのだ。 入門書には、相掛かり棒銀や角換わり棒銀の定跡が「攻めのお手本」として解説されていることも多いが、初心者同士の戦いで相掛かりや角換わりの後手番を持つ相手がいるわけもなく、ハッキリ言って使い物にならない。定跡など知らない同士で戦うのだから、未知の局面での「攻めの考え方」がもっとも必要なのである。 本書は、そのような「初心者向けの攻めの急所と考え方」を詳しく解説した本である。 各章の内容を紹介していこう。 第1章は、駒得をすることと、駒を取って持ち駒にすることの価値を解説。主に入門者〜初心者向けで、難易度は★1.5〜2.0くらい。 駒得をすることは、自分の戦力upと同時に、相手の戦力downになるわけなので、これは分かりやすい考え方だ。初心者は駒の価値がつかめていないことも多い(飛車を過大評価する傾向がある)ので、本章で駒の価値を正しく把握して、得であれば飛車でも捨てられるようになれば、まずは第1関門クリアである。 入門者向けに、駒別での駒を取る練習があるが、すでに実戦で駒を取ったことのある方はここは流してもよい。章の終わりの方では、捨て駒で一時的に損してから両取りで駒得する考え方が書かれているので、これはしっかりと読んでおきたい。 多くの初心者がつまづくのが、「同等交換の損得」だ。歩交換のメリット、飛交換・角交換のメリット・デメリットが分かるようになれば、切った張ったのチャンバラ将棋は卒業。「同等交換で持ち駒にした場合、攻め側が得で、受け側が損」という考え方を吸収しよう。 第2章は、敵陣を突破することについて。主に初心者向けで、難易度は★1.5〜2.0くらい。 将棋の駒は、敵陣の三段目以内に侵入するとパワーアップするものが多い。特に、飛車を成って龍にすることは中盤の大きな指針である。 本章ではまず、「数の攻め」をしっかりマスターしよう。攻める側の駒の数が守る側よりも1枚多ければよい。この原則が分かっていれば、過剰投資をすることはなくなり、あなたの将棋は洗練されてレベルアップする。このとき、価値の低い駒から突撃し、一番価値の高い駒(たいていは飛車)が最後に飛び込むことを叩きこもう。 また、本章では、拠点(特に敵陣に近い四段目の歩)に駒を打ち込む「ガジガジ攻め」や、同じ升目を何度も攻める「おかわり攻め」も解説。基本的でありながら攻撃力は非常に大きく、急所を衝いている場合はそのまま決め手になることも多い。藤井先生も得意なので(笑)、ぜひあなたの必殺技にしてほしい。 そのほか、本章ではと金を作るための垂れ歩や、いろいろな棒銀、龍を作って活躍させること、攻め駒の連携(矢倉と角交換振り飛車の理想的攻撃形)などが解説されている。 第3章は、「(相手の)動けない駒」を見極めて攻めることについて。主に初級者向けで、難易度は★2.0〜2.5くらい。 「動けない駒」とは何だろうか。たとえば、角の利きに相手玉がいる場合、間に挟まっている駒は動けない(動くと玉を取られる)。飛や香のような、遠くまで利く駒でも同様である。このような場合、間の駒に「歩で取るぞ」と当たりをかけても、間の駒は逃げることはできない。 攻めの急所に目が行くようにするためには、非常に重要なテクニックであり、考え方であるが、これまでの初級者向けの本ではあまり触れられてこなかった。もちろん、部分的には解説されてきたが、考え方としてまとめられることがなかった。 上級者や有段者は、本章の考え方を無意識のうちに行っている。数多くの「次の一手問題」や定跡を学ぶことで培われていく能力だが、本章の考え方を知っておくことで、その境地にぐっと近づきやすくなることは間違いない。 本書のレイアウトは、「NHK将棋講座」を単行本用に再構成している。そのため、図面は見開き6〜8枚と多めで、矢印や網掛けを多用して見やすくなっているものの、見開き完結が崩れており、また図面が多いがために逆に図面を探すストレスが多少感じられる。 本書は、レイアウトと分量には多少の難があるものの、それを補って余りある「基本の考え方」が得られる。これこそ、「本を読んで学ぶことの価値」そのものだ。小学校の課外活動で将棋クラブを始めたくらいの人には、ぜひ習得していただきたい。 また、初心者に将棋を教えている人はさらに必読。本書には、将棋を好きになってもらうために必須である「攻める快感」を感じさせるための要素が詰まっている。 これで将棋を始めた後、面白くなって続ける人が増えるといいなぁ。ただ、タイトルや表紙からは、対象棋力や内容がよく分からないのが難点かも…。(2014Apr29) ※誤字・誤植等(第1刷で確認): p44 1図 ×「前ページの5図と似ている」 ○「前ページの1図と似ている」または「次ページの5図と似ている」 p188上段 ×「平凡に▲6一銀…」 ○「平凡に▲6一金…」 |